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異世界転移は謎解きクエストの始まり ~せっかく主人公に抜擢されたのに、テンプレ通りにストーリーが進まない!~  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中


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44話 こんなオチなんて!

「召喚の方法って聞いてなかったんですけど、まさか聖女を一人召喚するのに生贄(いけにえ)が必要なんですか……?」


 彩良は改めてアリーシアに聞いてみた。


「いや、普通ならば召喚士の血一滴程度で済む。しかし、時期外れの召喚にはそれでは足りなかったらしい」


 彩良は先ほどまでの怒りもすっ飛んで、背筋がゾッとするような寒気に襲われた。


(あたしのせいで誰かが死ぬことになってたなんて……)


「その人はそこまでして、フィリスを救いたかったんですか?」


「本人がいない今、確かなことはわからないが、召喚を強く希望したのは私たちの母、クレア妃だったと思う」


「息子を救うために?」


「正確には息子を王位につけるために、と言った方がいいか」


 アリーシアは苦い笑みを浮かべていた。


「王位争いの話はフィリスから聞いてましたけど……。この国って、お妃様に頼まれたら命まで捧げるのが当たり前なんですか?」


「そのようなことはない。ただ、母は魔性ともいえる魅力を持つ人でね――」


「魅了の魔力を持ってる人なんですね! その魔力で自分に恋させたり、人を操っちゃったりするんじゃないですか!?」


 彩良は興奮に目をきらめかせたが、アリーシアは困ったように笑った。


「いや、母に魔力などないよ。生まれつきの美貌と色香、それに性格から来るものだ。あまり褒められた人間ではない」


「……あ、いや、まあ、確かにそのせいで亡くなった人がいたとなれば、ねぇ……」


 彩良は気まずくなって、しょぼんと頭を落とした。


「もっとも、私も兄を救いたかったので今回のことでは母を責められない。だから、聖女がどこか別の場所に召喚されたのなら、なんとしても見つけ出したかった。

 この二か月以上、遠征と称して全国を探し歩いていたんだが、まさかジェニールが先に見つけているとは思ってもみなかった」


「あいつにとってあたしは珍獣でしかなかったんで、あっさり殺されそうになりましたけどー」と、彩良は口を尖らせた。


「ジェニールが知らなかったのも無理はない。王宮では召喚が失敗したと思われているんだ」


「まあ、時期外れですし、聖女も現れなかったんですからねぇ……。でも、どうしてアリーシア様は聖女がどこかにいるって知っていたんですか?」


「アリーシアでいい」と言った後、彼女は束の間深刻な顔で沈黙した。


「……ええと、聞いちゃいけない話なんですかね?」


 彩良が恐る恐る声をかけると、アリーシアは「いや」とかぶりを振った。


「君には知る権利があるだろう。ただ、ここだけの話にしてほしい」


 そんな秘密めいた言われ方をされたら、彩良の好奇心は余計にくすぐられてしまう。


「もちろんです。それで?」と、思わず身を乗り出してしまった。


「召喚の儀を行った時、母がその場に立ち会っていたんだ。そこで召喚用の魔法陣が光るのを見たと」


「それ、見たかったー!!」と、彩良は歓喜の声を上げそうになったが、はたと現実に気づいた。


「召喚術士の人、血を流して亡くなったんですよね? お母さんは目の前でそれを見ていたってことですか……?」


 アリーシアは暗い顔でうなずいた。


「母が殺したと疑われないように、その場にはいなかったことになっているが――」


「実際は……?」


「母は召喚術士が勝手にやったことだと言っていた。しかし、大聖堂の召喚の間は密室で、実際に何が起こったのかは誰も知りようがない。私にも本当のところはわからないんだ」


(な、なんかキナ臭い話にしか思えないんだけど……?)


 召喚魔法が血の一滴で済むはずのところ、命を落とすレベルで血を捧げたとなると、普通に考えて自発的に召喚術士がやったとは思えない。

 状況的にはその場にいたクレア妃が強行――つまり、殺したと考えた方が自然だ。


 アリーシアが話したがらないのも無理はない。証拠がない上、相手は自分の母親。

 罪を糾弾(きゅうだん)したくてもしづらい気持ちは、彩良にもわかるような気がした。


「話を戻すと」と、アリーシアがそんな重い空気を払うように再び穏やかな表情で彩良を見つめてきた。


「もしもジェニールが先に君の正体に気づいていたら、兄が死ぬまで聖女の存在は隠されていたことだろう。昨夜、私が君を保護できたのは本当に幸運だった」


「ジェニールって、確かにそういう奴でした……」と、彩良は遠い目をしてしまう。


「おかげで、世界中で待っていた聖女が予定より早く現れてくれた。これで救われる人はたくさんいるだろう。遅くなって大変申し訳なかったが、この国は今からでも君を聖女として丁重に迎えたい」


「あたしが聖女……て、あの聖女!?」


 彩良はそこまで来て、フィリスから聞いていた話を思い出した。


「あの聖女とは?」と、アリーシアが怪訝そうな顔をする。


「だって聖女って、毎日のように血を抜かれるだけでしょ!?

 いやあぁぁぁ! あたし、魔法とか使ってカッコよく世界を救う方がよかったのに! なんでそこで献血要員なの!? もっとすごーい異世界生活を期待してたのに、ひどいオチだわ!」


 彩良が泣きたい気分でわめいている間、アリーシアはなんだか笑い出しそうな困り顔をしていた。

ともあれ、聖女とわかったところで、次話に続きます!

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