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異世界転移は謎解きクエストの始まり ~せっかく主人公に抜擢されたのに、テンプレ通りにストーリーが進まない!~  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中


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30話 甘い妄想と現実逃避

この話はフィリス視点です。

(なんだか思っていたのと違う方向に話が行ってしまったな……)


 フィリスはため息をつきながら両手を枕に寝転がり、真っ暗な天井を見つめた。


(元いた世界に恋人がいるかどうかを聞いて、僕はどうするつもりだったんだろう)


 サイラにそういう相手がいないことを知って、少なからず安心してしまった自分の心が理解できない。


 聖女が召喚されるまで生き延びることができたとしたら、フィリスの王位継承権も復活。再びジェニールと王位を争うことになる。

 聖女とジェニールの結婚を阻止するということは、つまりフィリスが王太子となって聖女を妻にするということだ。


 聖女を不幸のうちに死なせないためにも、結婚するからには覚悟が必要だ。聖女がこの世界に来てよかったと思えるほどの愛を注いで大切にする。


(果たして今の僕にそんなことができるのだろうか)


 少なくとも他に好きな女性がいる自分には、その資格がないと思う。それくらいなら、ジェニールが聖女と結婚して王位を継げばいいとさえ思ってしまう。


(そうしたら僕はただサイラとの未来を考えるだけでよくなるのに――)




 サイラが来てから、この薄暗い閉じられた空間は、急に明るく居心地の良いものになった。


 それは呪いの症状が抑えられているからだけではない。


 好奇心旺盛な彼女は一日中でも色々なことを聞きたがり、笑ったり驚いたり顔をしかめたりと、忙しいくらいに表情がコロコロと変わる。


 その無邪気な明るい声を聞いていると、フィリスも心がおどって、つい笑みがこぼれてしまう。笑うたびに心が温かく、軽くなるようだった。


 それに、少々楽観的すぎるくらい前向きな彼女と話をしていると、何の根拠もなく『大丈夫かもしれない』と思わせてくれる。今までの自分では考えられないことだった。


 まだ数日一緒にいただけだというのに、フィリスはそんなサイラから目を離せなくなっていた。


 ふとした瞬間にあの華奢な身体を強く抱きしめたくなる。気を狂わせんばかりの甘い香りを心行くまで間近で吸い込み、やわらかそうな頬に触れて赤く色づく唇を味わいたい。

 それがダメだというのなら、せめてその指先に口付けを――。


 しかし、一度でもそれを許したら最後、サイラの肌を喰い破り、引き裂いて、その血肉を喰らいつくしてしまう。


 とても矛盾した思いを同時に抱えることになったが、どこか甘美で狂おしいものでもあった。


(呪いから解放された暁には、今抱える欲求を満たしても許されるだろうか)


 許してほしいと願うこの感情こそが、恋というものだった。


 それはフィリスが王位を継ごうと決めた時、同時に自分に戒めたはずの感情だった。




***




 現国王には王妃の他に側室が五人いるが、彼が王太子の頃から寵愛(ちょうあい)しているのは、フィリスの母親であるクレア妃、ただ一人だ。その他はすべて国のための政略結婚。

 愛のない結婚の中、一人くらい心から愛する女性を欲しいと思っても仕方がない。


 ただし、相手が愛されることだけに満足する女性だったのならば、の話だ。


 クレア妃はその美貌と色香で男を意のままに操ることに長けている上、権力を欲する野心家でもある。

 そんなクレア妃が政に介入しないわけがない。


 彼女を溺愛しすぎる国王は、『愛しい人が望むのなら』と我がままを許し、『彼女が正しい』と重鎮たちの苦言を聞き入れない。

 皆に『クレア妃の傀儡(かいらい)』とささやかれるほど、国王は自分こそがこの国の主たることを忘れていた。


 そんな国王を見れば、次第に人心は離れていき、当然次期国王に期待するようになる。


 フィリスとジェニールの間で王位争いが始まったのも、ジェニールの資質が問われる以前に現国王への不信任が発端だった。


 誰かを深く愛せることは悪いことではない。そんな相手にめぐり合えることは幸せなことだろう。

 しかし、国を治める者は民の幸福を第一に、自分を見失うほど女性に心を奪われてはならない。


 フィリスはそう思ったからこそ、逆に女性と深く関わるのが怖かった。


 どの道、十九歳になる年には聖女が召喚され、王位を継ぐのならば聖女を妻にすることになる。ならば、他の女性にうつつを抜かすより、少しでも国を良くするためにできることを優先すべきだと思っていた。


(王位継承権を失った今だからこそ、恋をしたのだろうか――いや、それはきっと違う)


 今までサイラほど惹かれる女性に出会ったことがなかっただけのことだ。恋という感情は自分の意思とは無関係にわき上がるものなのだと、今なら理解できる。


 おかげで、今さらながら恋をしたものの、『かわいい』のひと言すら上手に伝えることができない。

 どんな言葉で自分の想いを伝えたら、相手にも同じ気持ちを返してもらえるのかも――。


 なんだかバカバカしいことを考えていると、フィリスはふっと笑ってしまった。


 サイラは聖女が召喚されるまで生き延びられると信じているようだが、フィリスはそこまで現実を楽観視できていない。

 呪いが解けた後のことを考えてしまうのは、ただの現実逃避だ。


 それでも今はそんな甘い妄想に浸っていたいと思ってしまう。


(恋をしたおかげで一時的にでも現実を忘れられるのなら、それでかまわないではないか)


 サイラと過ごす一日一日が愛おしい。いつか終わりが来るとわかっているからこそ、こんな日が一日も長く続いてほしいと願うのだ。

意味深なフィリスの言葉の理由は次話で!

ジェニール視線で語ってもらいます。

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