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17話 やっとお呼びがかかった!

(うーん、ティアはなんであんなことを聞いてきたんだろう)


 ティアが出ていくのを見送りながら、彩良は首を傾げた。


 ティアの口ぶりからすると、この国には魔物と仲良くなれるという人間が存在するらしい。


 わざわざ確認してきたということは、かなり重宝される才能だと思われる。

 あまりに(まれ)な能力なので、一般的に魔物というものは退治するものになっていて、なかなか仲間にすることができないものなのかもしれない。


 つまり、それは『魔物使い(モンスター・テイマー)』――『猛獣使い』の上位クラスのジョブがこの異世界には存在するということ。


 初期設定で動物をテイムできる『猛獣使い』の称号が与えられ、その後、魔物も仲間にできる『魔物使い』に昇格できるとしたら――


(猛獣使いって、結局、どうでもいいジョブってことじゃないの!)


 ひと月半もあったのに猛獣使いとして動物の仲間を作るばかりで、その上位クラスのことなど考えてもみなかった。


(だってさぁ、魔物なんて出てこなかったしー。そもそもいるなんて思ってもみなかったしー)


 そこまで来て、彩良は「ぐあぁぁぁ!」と叫びながら頭を抱えた。


「これ、最初から間違ってたんだわ!」


 この犬扱いの監禁生活を強いられているのは、『猛獣使い』のまま王宮に連れてこられたせいだ。


 最初のイベント発生時――ジェニールに魔物使いとして出会っていたら、すぐにでも勇者パーティの一員として迎えられていたに違いない。

 あの地点ですでに間違ったルートに入っていたのだ。


(こんな扱い、絶対おかしいとは思ってたのよ……)


 もしも魔物使いに昇格することが最初のクエストだったとしたら、攻略しないまま先に王宮に来てしまったことになる。


(まさかと思うけど、このまま飼い犬生活が無限に続くゲームオーバーになってる、なんてことはないわよね?

 リセットして、最初からやり直し? いやいやいや、リセットボタンがない以上、ストーリーが進んでいくように軌道修正してくれるはずよ。だから、何らかの方法で魔物使いにもなれるはず――)


 ウルと出会って『猛獣使い』の称号を得たと仮定すれば、やはり『魔物使い』も最初の魔物に出会って初めてもらえるものなのだろう。


(てことは、なんとかしてもう一回森に行く必要があるわけで――)


 魔物討伐以外は立ち入り禁止になっているという森なので、ただ行きたいと言っても行けるところではない。

 それなら、ジェニールが魔物討伐に行く時に、無理やりにでも連れて行ってもらえばいいだけの話だ。


 一度森にさえ行けば、魔物と仲良くなれるところを見せられる。


『君のその能力はこれから魔王討伐に向かう時、大いに役立つことだろう。ぜひ仲間になってくれ』で、取りこぼしたクエストは攻略完了。


 以降は貴重な魔物使いである彩良を丁重に扱ってくれるようになる。うまくいけば、ジェニールも彩良の意見をきちんと聞くようになり、動物虐待の趣味も改めて、ハッピーエンドまでの道が開ける。


(よし、この路線で簡単にやり直しできるわ!)


 そう意気込んでみたものの、どう転んでもジェニールに会わなければ、何も始まらないのは変わらなかった。




 そんなジェニールから彩良に初めてお呼びがかかったのは、その日の午後だった。


 どうやらお目にかかる機会は少ないようなので、この一回でなんとか最初の課題はクリアしたい。


『プチクエスト: 次の魔物討伐に連れて行ってもらう約束をする』


(この場合、甘える感じで妹キャラ風がいいのかしらね。それとも、『素敵ですねー』とか『すごいですねー』を駆使(くし)して、憧れを前面に打ち出すアイドルの推し風?)


 どちらがいいのかは出たとこ勝負。


 いずれにせよ、ジェニールの機嫌を損ねるのは避けなければならない。そうでなくてもムチ打ちだけは勘弁(かんべん)だ。


 むんっと気合を入れて、彩良はティアに連れられてジェニールの部屋に向かった。


 鎖を付けられたままなので、すれ違う人たちの好奇な視線にさらされ、毎度のことながら恥ずかしい思いをさせられる。


(だって、これ、どう見ても犬の散歩でしょ!?)


 一方、ティアはというと、青い顔で何度も同じ言葉を繰り返していた。


「お願いよ。おとなしくしていてね。ジェニール様の前ではちゃんと私の言うことを聞いて。勝手なことをしないで」


「もう、そんなに心配しないでよー」


(あたしがケンカを売りに行くようにでも見えるのかしら)


 ティアがあまりに心配するので、彩良はそんなことを思ってしまった。




 ジェニールの部屋は廊下のきらびやかさをそのまま反映したような豪華絢爛(ごうかけんらん)極まりないものだった。


 高い掃き出し窓からは燦々(さんさん)と午後の光が差し込んで、広々とした部屋を明るく照らし出している。天井から下がる大きなシャンデリアも置かれている家具も輝いていて、カーテンやソファの生地まで光沢を放っていた。


(うわぁ、高級ホテルのスイートルームってこんな感じ? テレビでしか観たことないけど)


 ジェニールはそんな部屋の中央にあるソファに座り、優雅にティーカップを傾けていた。テーブルに乗っているクッキーのようなお菓子がおいしそうだ。


(なんだ、お茶菓子って存在するんじゃない。今度、ティアに食後のデザートをお願いしてみよう。ていうか、あたしの分のお茶は? 話をするなら座らせてくれないの?)


 てっきり彩良もソファに座って一緒にお茶をするのかと思ったが、部屋に入っても立たされたままなのだ。


 そんなことを思いながらチラッとティアを見たが、彼女は顔を強張らせたまま彩良をつなぐ鎖をギュッと握っていた。


「だいぶ身ぎれいになったようだな」


 ジェニールはカップを置いて、彩良を不躾(ぶしつけ)なくらい興味津々に眺め回した。


「おかげさまで、快適な生活をさせていただいています」


 彩良はニコッと愛想よくジェニールに返した。


「最初に会った時とはずいぶん態度が違うな。もっとわめいたりイヤがったりしているのかと思っていたが」


「こちらに来て半月以上もたちますから、生活にも慣れてきましたし、問題がなければムダに騒いだりしません」


 本当は胸倉をつかんで『人間を何だと思ってるの!?』と、怒鳴ってやりたいところだったが、ここはあくまで終始和やかに事を運んで、目標達成しなければならない。


 王子様が偉いのは万国共通。まずはきちんと敬意を払っているところを見せる。


(こういうやり取りはマンガでガッツリ習得済みよー)


「なんだ、つまらん」


 ジェニールは言葉通り、どこか白けた目で彩良を見てから再びカップを取り上げた。


(ええー……。ここは面白くしなくちゃいけないところだったの!?)


『つまらないからすぐに出て行け』と言われそうで、彩良は焦った。


(まだこっちの用事は終わってないのよ!)

次話に続きます!

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