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16話 メイド同士の内緒話(後)

この話までティア視点です。

 ティアの母親はアリーシア王女の兄――フィリス第一王子が生まれた時から、そのメイドとして働いていた。


 その母親と一緒に王宮で生活していたティアは、フィリス王子に妹のアリーシア王女と同じようにかわいがってもらっていた。

 ティアが十歳の時に母親が病で早世してしまった時も、フィリス王子が身元保証人になってくれたおかげで、学校に通い続けることができた。


 ところが、卒業間近の去年の秋、魔物討伐に行ったフィリス王子が負傷。『魔物の呪い』にかかって、生涯幽閉の身となってしまった。


 フィリス王子は賢く、心身ともに健康。名君と(ほま)れ高い前国王によく似ていると言われていた。国や民のことをいつも考え、大事にするやさしい人だった。

 側室腹とはいえ、フィリス王子を次期国王にと望む人が多かっただけに、その悲報を皆(いた)んだ。


 ティアももちろんその一人だった。


 ティアはもともと学校を卒業したらフィリス王子付きのメイドとして働くことになっていたのだ。その日を心待ちにしていたのに、その事件によって未来の主人を失い、同時に職も失ってしまった。


 当時、王宮内でメイドを募集していたのは唯一ジェニール王子だけだった。ティアはとりあえずそこで働きながら、アリーシア王女のメイドに空きが出るのを待つことにしたのだが――


 ジェニール王子はティアが王位争いで敵対していたフィリス王子に仕える予定だったことを知ると、それからは何かにつけてティアに罰を与えるようになった。


 何度もムチ打たれるうちにジェニール王子の前に立つだけでその痛みを思い出し、手や身体が震えるようになってしまった。余計に粗相(そそう)も増えるので役立たずの烙印(らくいん)が押される。

 そうでなくても、主人に気に入られていない使用人は、同僚たちからもつらく当たられるのが現実だ。


 働き始めて半年ほどたつが、とにかく地獄のような毎日で、ただただ自分の不運を呪っていた。


 それがここに来て、自分にもようやく運がめぐってきたのだ。




***




「ティア、このことはジェニール様には内緒よ? 大丈夫?」


 ノーラが改めて念を押してきた。


「ジェニール様がまだご存じなければ、の話ですけれど……」


「知っていても、あの子に利用価値があることまでは気づいていないはずよ。わかっていたら、今頃とっくに陛下に奏上している頃でしょう? この時期、自分の手柄になるようなことを黙っているとは思えないわ」


「そうですね。サイラを放って、毎日恋人のところに通っているくらいですから」


「でしょう? だから、あの子にも理解してもらって、ジェニール様には黙っておいてもらわなくてはいけないわ。できる?」


「やってみます」と、ティアは大きくうなずいた。


「まあ、普通に話ができる子みたいだから、上手に持っていけばジェニール様のところにいるよりいいって、すぐに納得してくれるでしょう。お願いね」


「わかりました」


 その夜、ティアは久しぶりに幸福な気分でベッドに入った。

 いつもはズキズキと痛む手のせいでなかなか寝付けなかったが、今夜はうれしさに興奮して目が冴えてしまっていた。




 翌朝、ティアは朝食を運んでいった時に、早速サイラに聞いてみた。


「一つ聞いてもいいかしら?」


「なに?」と、パンを食べながらサイラは顔を上げる。


「昨夜、どんな動物とでも仲良くなれる才能があるって言っていたけれど、魔物とも仲良くなれるの?」


「は? 魔物って、退治するものでしょ? 違うの?」


 サイラは驚いたような顔でティアを見つめてくる。


 期待が大きかった分、落胆も激しく、ティアは変な笑みを浮かべていた。


「……いいえ、間違っていないわ。魔物は退治しなくてはいけないものよ」


 普通の動物と仲良くなれるだけでは『才能』とは言わない。

 よって、アリーシア王女にサイラが必要とされることはなく、ティアもまたアリーシア王女付きの使用人になることはないと決まった。


(私の幸せな夢はたった一晩で終わったんだわ……)


 今夜にでもノーラに報告しなくてはと思いながら、ティアは力の抜けた足でヨロヨロとサイラの部屋を後にした。

次話、この情報からサイラが再び妄想をふくらませます!

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