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5. 甘すぎる殿下の無邪気? な攻撃

 

「やぁ、クリスティーナ。今日は来てくれて嬉しいよ」

「……や、約束ですから」

「そっか、ありがとう。あ、お茶どうぞ」

「いただきます…………こっ!」


 ニコニコと上機嫌のアーネスト殿下と向かい合いながら薦められたお茶を飲んだのだけど、私は王宮のお茶の美味しさに密かに感動していた。


(さ、さすがだわ……茶葉が……茶葉が違う……これだけでもここに来た甲斐がある!)


「こ? ……クリスティーナ? どうかした?」

「い、いえ! 何でもありませんわ!」


 私は笑って誤魔化した。



 アーネスト殿下からの申し出を受けて、いよいよお試し期間と称した婚約者候補としての生活が始まった。

 具体的に何をして過ごしたらいいのかと戸惑う私に、殿下は「まずはお互いの事を知らないといけないよね!」にこやかにそう言って私を頻繁に王宮に呼び出すようになった。

 

 ちなみに、呼び出しがかかる度にお父様は顔を真っ青にして私に言う。


「いいか! 何があっても眼鏡を手放すな! 何が何でも守り通せ!」


 とにかく請求書を送られる心配をしているみたい。

 相変わらず失礼なお父様だこと。

 命と眼鏡を天秤にかけて、まさか眼鏡を死守しろなんて言わないわよね……? と、私は毎回聞きたくてしょうがない気持ちにさせられている。


 そうしてお呼ばれしては王宮にお邪魔し、殿下との時間を過ごしているわけだけど……

 実はちょっと私は困っていた。


 それは……殿下の呼び出す回数が尋常じゃ無い、ということ!

 ほぼ毎日よ、毎日。どういう事よ、これ。

  あまりにも多すぎるので、まだ最初の頃、二、三回に一度は申し訳ないけれど仮病を使わせてもらったわ。

 すると、“お見舞い”と称した品々がアーネスト殿下から大量に送られて来まして……ね。

 そして、とうとう屋敷がお花で埋め尽くされそうになり、使用人に「これ以上は飾るところがありません……」と、泣きつかれた事から仮病作戦はやめる事にしたわ。


 それともう一つ。

 もしも私が仮病を使っている事がバレていて、嫌がらせの為にわざと贈り付けているのなら、中々の腹黒王子なのだけど、どうやらアーネスト殿下は本気の本気で心配していたらしく……私の罪悪感が凄い事になってしまったわ……

なので、最近は抵抗せずに素直に従う事に決めたわ。ちょっと王宮に通うのは面倒……いえ、大変だけれど。



 そんなこんなで美味しいお茶を堪能していたら、ニコニコ顔の殿下がそう言えば今日……と話を切り出した。


「クリスティーナ! 今日はね、王宮の料理人が君の為に新作のケーキを作……」

「し、し、新作のケーキですか!?」

「う、うん……」

 

 アーネスト殿下のその話に私は思いっ切り前のめりで食い付く。

 さすがの殿下も私のこの様子にちょっとびっくりした様子を見せた。


(しまった! はしたない所を見せてしまったわ!)


 でもでも、だって、王宮の料理人の新作よ?

 それも、私の為って言ったわよ!? こんな幸せな事って無いでしょう??


 分厚い眼鏡の奥で目をキラキラさせて興奮している私に、アーネスト殿下は甘い顔で微笑みを浮かべる。

ちょっと胸がドキッとした。


「クリスティーナにそんなに目をキラキラさせて喜んで貰えるなら料理人も喜ぶだろうね」

「っ!?」


 驚いたわ。何故、私の目がキラキラしていると分かったの?

 この分厚い眼鏡で私の目が見えているはずがないのに……


「でも良かった。実は今日のその新作のケーキ、僕も一緒に考えたんだ」

「え? アーネスト殿下、がですか?」

「そう。どんなケーキならクリスティーナがキラキラした顔を見せて喜んでくれるかな? と思ったんだ」

「!!」


 殿下はそう言って優しく微笑んだ。

 ──ずるい! なんてずるいのこの方は。そんな微笑みでそんな事を言うなんて!

 不覚にも胸がキュンとしてしまったじゃないの。


 私は恥ずかしくなって下を向く。


(だって今、顔を上げたら真っ赤になってるのがバレてしまう……!)


 そんな私を見ながら、アーネスト殿下はクスッと笑いながら言った。


「うん、こうしてキラキラした顔と照れて顔を真っ赤にしてるクリスティーナが見れたから良かったな」

「え!」


 私が顔を赤くしている事まで見抜かれているの!?

 そんな風に焦った私の気持ちまでも伝わったのか、殿下は再び笑い出した。


「あははは、やっぱりクリスティーナは可愛いね」

「~~!」


(顔が上げられない……!)


 新作ケーキの話に目を輝かせたり、殿下の言葉に翻弄されて顔を赤くしている私を見てアーネスト殿下は、笑いながらも甘く微笑んでそんな事を言ってくる。

 こ、この方、実は私を殺しにかかって来ているのでは?

 と、本気でそう思ってしまった。


「あ、噂をすればケーキが運ばれて来たよー……」

「!!」

 

 その言葉に私は俯いていた顔をパッと上げる。


「あはは! 反応が早すぎるよ、クリスティーナ」


 そんな私の反応の素早さに殿下はますます可笑しそうに肩を揺らす。


「だ、だって……楽しみだったんですもの……」

「はは、そんなに期待してくれて嬉しいなぁ」


 殿下は言葉通りとても嬉しそうで楽しそうだった。



 ◇◇◇



「これは、乾燥させた果物を混ぜ込んでいるのですね?」

「そう。クリスティーナは果物も好きみたいだから、気に入るかなと思ってお願いしたんだ」


 運ばれて来た新作のケーキを見ながら私が分析を始めると殿下が解説をしてくれる。


「……私が果物も好きだと何処で知ったのですか?」

「あー……ほら、舞、踏会……の日のゲーム、だよ」


 殿下があの日を思い出したのか所々、吹き出しながら言った。

 相変わらずの笑い上戸ね。


「あの日のクリスティーナは料理を堪能した後もかなり長い時間、果物の前にいたからね」

「!」


 あぁ、バッチリ見られていたのね。


「……料理も面白かったのですが、果物も何の果物なのかを当てるのが楽しかったんです……」

「だろうね、とても楽しそうだった。さて、このケーキの味はどうかな? はい、口開けて」

「……で、殿下!?」


 何故かアーネスト殿下は、私の前に切り分けたケーキの一口分を差し出した。

 こ、これは、いわゆる“あーん”っていうやつではないの?

 主に恋人同士がイチャイチャする時に用いる……という!


「私、自分で食べられますっ!」

「うん、分かってるよ、それでも僕が食べさせたいんだ、ほら、あーん……」

「~~~っっ!」


 ここまでされたら、断れないじゃないの!

 交流を深めるってここまでする必要があるの!? こ、こ、恋人でも無いのに?


(……だ、誰も見ていないわよね??)


 私はキョロキョロと辺りを見回す。

 とりあえず、視界に入って来たのは殿下の護衛と給仕してくれた使用人……だけ。


(大丈夫! 彼らは見て見ぬふりをするはず!)


「は、はい……では」


 私がおそるおそる口を開けると、殿下はちょっと驚いたのか目を少し見開いた後、嬉しそうな表情を浮かべてケーキを私の口の中へと運んだ。


(は、恥ずかしい…………………けど!)

 

「美味しい! 美味しいです!! とっても幸せ……!」


 ……私はチョロかった。いえ、この美味しさには誰だって勝てないわよ。


「ははは、そんなに喜んでもらって良かった。僕も嬉しい。もう一口どう?」

「っ! いえ! あ、後は自分で食べます!!」


 私がプイっと顔を背けると殿下は「そう? 残念」と苦笑した。


「でも、良かった。その可愛い笑顔が見れて僕は嬉しいよ」

「!」


(まただわ……)


 本当に、本当に……殿下は何で私の表情が分かるの?

 実は私が分かりやすいの!?


 私、最近、気付いてしまった。

 殿下とは私の心を読んでいるかのように接してくれるから会話が弾むのだと。

 眼鏡をかけてからの私は表情が伝わりづらい事もあり、正直あまり人との会話が弾まないことが多い。

 ロビン様ともそうだった。だから彼は病んでいった……

 家族はギリギリ理解してくれているけれど、それでも完全に理解するのは難しいとハッキリ言われている。


 ──なのに殿下は一切そんな事を感じさせない。

 この方にとっては眼鏡があっても無くても本当に関係ないみたい。

 だから、一緒にいて楽しい……


(せっかく眼鏡があっても無くても気にしない人が現れたと思ったのに)


 アーネスト殿下が“王子様”でなければ、私はこの展開をもっと素直に喜べたかもしれない。

 そんな失礼な事を考えてしまう。



「クリスティーナ? どうかした?」

「い、いえ……」

 

 アーネスト殿下がこんな風にすごく優しい瞳で私を見るから……

 いつもよりお腹がいっぱいで幸せな気持ちになったのは、ケーキが新作だったからってだけではない気がして戸惑ってしまった。


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