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3. キラキラ王子は笑い上戸でした

 


「今日は突然呼び出して申し訳なかった」

「い、いえ……」


 三日後、逃げる事も出来ず、登城した私とお父様を出迎えたのはキラキラしいオーラを放つアーネスト殿下、まさかの本人で、私はそのキラキラオーラに目が潰れるかと思ってしまった。


(ゔっ……! なんて眩しさ……今日は眼鏡があるから視界がクリア過ぎて色々と辛いわ)


 王宮の眩しさは眼鏡が直った今の私にとって刺激が強すぎる。

 ついでに王子もキラキラしているので刺激はより倍増。

 これは眼鏡がなくてボンヤリしていた方が目には優しかったかも……


 なんてどうでもいい感想を抱いた。


「クリスティーナ・トリントン伯爵令嬢」

「は、はい!」

「眼鏡は直ったんだね」

「は、い?」


 思わず声が裏返ってしまった。

 直った?

 そりゃ、直りましたけど? だって眼鏡がある無しは私の死活問題ですもの。

 私だって屋敷の物を破壊して回りたくは無いわ。何よりお父様が怒るし。


 ……それよりも。

 アーネスト殿下はどうして私の眼鏡が壊れていた事を知っているのかしら??

 私は内心で首を傾げる。


「…………?」


 《──おい! クリスティーナ! お前から変なオーラが出てるぞ!》


 何を言ってるのこの王子様……って目でアーネスト殿下の事を見てしまったせいか、横にいるお父様に小声で叱られた。

 私の放つ妙なオーラを感じ取ったらしい。さすがお父様だわ。


(……って。いけないわね。いくら眼鏡のせいで表情が分かりにくいとは言っても、笑顔は大事!)


 私は慌てて笑顔を作って殿下を見る。

 殿下の視線はずっと私に向いていたので、ばっちりと見つめ合う形となった。

 と言っても、この分厚い眼鏡のせいで殿下に私の目は見えていないでしょうけども。


(まともに顔を拝見したのは初めてな気がするけれど、さすが王子様。キラキラなだけでなくカッコいい)


 金髪碧眼のアーネスト殿下はどこからどう見ても私の理想の“王子様”だった。


「…………」

「…………」


 しばし、私と殿下は無言で見つめ合った。

 そんな沈黙を破ったのは……


 ブハッ!


「ごめ……無理だ……いや、本当に我慢出来ない、無理! あはははは」

「!?!?!?」


 殿下が突然吹き出したと思ったら豪快に笑い出した。


「いや、ごめん……でも、この間も思ったけど、トリントン嬢……いや、クリスティーナ嬢……君、面白すぎるよ……今もそんな頑張って笑顔作らなくてもいい、のに……!」

「は、ぁ……?」


 この間とは何でしょう?

 それに今、無理やりを笑顔作ったってバレている? 何で?

 私は小首を傾げる。


「……あれ? その反応。もしかして本当に分かってない?」


 アーネスト殿下がいまだにヒーヒーお腹を抱えて笑いながらそんな事を言う。

 ちょっと、ちょっと殿下! 笑い過ぎて涙目になってましてよ?

 私の中の理想の“王子様”が音を立てて崩れて行く……


「ははは、三日前の舞踏会で一人料理当てゲームとやらをしていた君は、僕をすげなく追い払ったじゃないか」

「へ?」

「なっ!?」


 私とお父様の驚きの声が重なる。

 そんな私達の様子を気にする事なく、殿下はキラキラの爽やかな笑顔を私に向けて言った。


「いや、あんなにも適当なあしらい方をされたのは生まれて初めてだった」

「……!!」


 待って待って待って!?

 殿下はなぜか嬉しそうな顔でそんな事を言っているけれど、こっちは全く笑えないわ。

 冷たい汗が私の背中を流れる。


(ま、まさか、あの時の男性がアーネスト殿下だったというの!?)


「えっと、つ、つまりあの日、私に声をかけて下さった方が……殿下だった……という事でしょうか?」

「そうだよ。 一人で楽しそうに妙なゲームに熱中してるから、話しかけた僕の事も分かっていないんだろうなぁとは思っていたけどやっぱりそうだったみたいだね」

「!!」


 殿下は愉快そうに言ったけれど、笑えません! 全然笑えませんよ!?


「ク、クリスティーナ……お前って奴は……あぁ、やっぱりやらかして呼ばれていた……」


 お父様は私の横で真っ青になってワナワナと震えだし、そう口にした。

 あぁ、やっぱりお父様は確実にこの三日で老けたわねぇ……

 そして今この一瞬でさらに老いた気がするわ。ごめんなさいね、お父様。

 と、私は内心で謝っておく。


「我が家は終わりだ……」

「!」


 お父様はすでに放心状態。これは……魂が旅に出ているのでは?

 お願いだから早急に帰って来て! と、懸命に心の中でお願いした。


「まさか全く見向きもされないとは思っていなかったから本当に驚いたよ」

「!!」


 そこへ更なる殿下の追い討ちをかける言葉!

 あぁぁ、もう無理!

これはお叱りの呼び出しだったのね……早急に謝らないと……!!


「「も、申し訳ございませんでしたぁぁぁ」」


 応接間には私と(我に返った)お父様の謝罪の声が綺麗に重なって響き渡った。



 ◇◇◇



「いやいや。今日はね? 処罰を与えようと思って呼んだわけじゃないんだよ」

「え?」


 私達の謝罪の後、殿下が困ったような声をあげた。

 処罰を与えるつもりはない……ですって?


「で、では何の為に……私をお呼びになった、のでしょうか??」

「会いたかったから」

「「?」」


 殿下のその発言に私とお父様は同時に首を傾げた。


「すごい、親子そっくり!」


 殿下はまたも吹き出した。

 どうでも良いけれど、この王子様……さっきから笑い過ぎでは??


「……コホンッ、だから、もう一度、君に会いたかったからだよ、クリスティーナ嬢」

「えぇぇ!? こ、こんな私のような地味な眼鏡っ子令嬢にですか!?」


  ブハッ


 勢いあまって思わず返してしまった私の言葉に殿下がまた吹き出した。


「地味な眼鏡っ子令嬢って……あはははは! 自分で言うんだ!?」

「ほ、本当の事ですから」

「どこに自信を持ってるのさ。本当に変わった子だな」

「? 変わってなどいませんが?」

「いやいや……本当に……ははっ」


 私が何を言っても殿下は笑ってばかり。

 殿下はどこまでもどこまでも楽しそうだった。


「それで、えっと、あー……さっきも言ったけれど、本当に今日は処罰を与えるつもりで呼んだわけじゃないんだよ」

「で、では本当に何故ですか?」


 殿下は散々笑い転げていたけれど、笑いが尽きたのか、ようやく本題に入る事にしたらしい。


(お叱りでないと言うのなら一体何の話があるというの??)


 私とお父様も背筋を正して真剣な顔で殿下と向き合って静かに彼を見つめる。


「クリスティーナ・トリントン伯爵令嬢」

「はい」


 殿下は何故かその場から立ち上がると私の元へやって来て、そのまま目の前に跪いた。

 その様子に呆気に取られた。


「……? あの、殿下……??」


 ……何をしているのかしら??

 そんな事を思ったのも束の間、殿下は先程までの笑い転げていた顔はどこへやらの真剣な表情で私を見つめながら言った。


「どうか私、アーネスト・ルスフェルンの妃となってもらえないだろうか?」

「!?」


(き、妃──!?)


 ──婚約者だったロビン様に逃げられ、その後に婚約打診をした男性達にも秒で断られた私……

 確かに、誰か良い人を探していたわ。

 こんな地味な眼鏡令嬢でも良いと言ってくれる人を。

 だけど、こんな展開、誰が予想出来て?

 無理よ、予想出来るわけないじゃない。


 ──何がどうしてこんな事になってしまったの!?


 殿下のその言葉に私は驚いてその場に固まり、

 お父様は、「ひぃっ!?」と小さな悲鳴をあげて泡を吹いて倒れてしまう。


 その日の王宮は、トリントン伯爵が死にかけたとちょっとした騒ぎになった。


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