時を超えて
皆様こんばんは、こちらの作品はPixiv上でひっそりと連載していたオリジナル小説の二つ目になります。一応もう片方の異世界奴隷商人とは同時並行で進めていきたいと考えております。ひとまずは今のところ完成しているところまで連日上げていきたいと思います。それではよろしくお願いいたします。
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私、裕介はけたたましくなる目覚まし時計の音で目を覚ました。会社の朝礼に間に合うようにセットされていたため、この騒音の元凶は二度寝を許さない。ゆっくりと体を起こしスーツに袖を通す。務め初めてからもうすぐ7年目になるがそれほど愛着のあるわけでもない会社に向かうために、私はこのボロボロのアパートに一度別れを告げ、駅に向かった。Fラン大学を出てから地方の中小企業に勤め、独身のままいよいよ三十代に突入しようとしている。しかし全く楽しみがないわけではない。一応アイドルの追っかけという趣味はあるし、それに加えて今は暇つぶし感覚に応募した、タイムマシンのβテストの当選結果が今日分かることになっている。そのために今日一日を乗り切らないといけない。そのために私は今日も満員電車に揺られた。
勤め先の唯一褒められる点はきちんと定時に帰してくれることだ。おかげで当選発表時刻には私は自宅のパソコンの前に座ることが出来た。事前にメールで送られてきたURLをクリックし抽選サイトを開く、振り分けられたIDとパスワードを入力しエンターキーを叩く、しばらくの読み込みの末、画面いっぱいに当選結果が表示された。結果は見事当選。まさか本当に受かるとは夢にも思っていなかった。しかしこれは同時にチャンスでもあった。私はぐっと拳を握り占めた
。
当選から数時間後にβテストの詳細についてのメールが届いた。だが詳細といっても日時と集合場所、そして基礎疾患についての確認表くらいしか載っておらず肝心のテスト内容については一切書いていなかった。それでも限られた情報を頼りに私は会場にたどり着いた。本人確認を済ませると実験用の衣類を渡され更衣室まで誘導された。そこには私の他に数人ほど人がいたが彼らと何かを話すことはなかった。
着替え終わるといよいよタイムマシンの前まで案内される。てっきり昔のアニメで見たような乗り物のような物かと思っていたが、どちらかというと一人用のポッドといった見た目のイメージとよく合う。
「皆さま本日はお越しいただき誠にありがとうございます。これよりこちらの装置、タイムマシンについて説明を行います」
白衣をまとったまさに研究者という男が出てきた僕らの前でマイクを取った。
「まずは一番気がかりであろう体調面に関しましては人によって程度は違いますが、副作用が生じます。しかし我々が観測している限りでは軽い頭痛が大半なので、命にかかわるような重大な健康被害は出ないと思います。そして念のために言っておきますが、これはあくまで過去に行けるだけの代物ですので、向こうで皆さんが何をしたところで皆さんの未来は変わりません」
「どうしてそんなことが分かるんだよ」
「一応実験終わったのちしばらくは皆さまの生活のチェックさせていただきましたが、特にそれまでと何も変わっていないことが確認されています」
「ほかに質問はありませんか」
参加者のだれもが口を閉ざしたのを確認すると、白衣の男は話を続けた。
「あと、これは皆さんもご存知かと思いますが、向こう側にはその時間に生きる皆様自身がいます。もしかすると接触する機会があるとは思います。しかしその接触は四回までにしてください。」
「それは、四回以上接触すると何か不都合なことがあるんですか?」
「我々にとってはありません。しかし皆様にとっては不都合なことはあります」
「それは一体」
「簡単に言えば皆様の人格が崩壊します」
あまりに突然のしかも何のためらいのない宣告、私も生唾を飲み込んだ。それもそうだろう先ほど副作用は軽い頭痛程度という説明があったばかりなのに、それと矛盾している。人格崩壊それは明らかに社会生活が出来なくなるほどの重症だ。
「これはあくまで推測なのですが、向こう側で自分自身と多くの時間を共にしたせいで記憶の行き違いなどが起こり、そしてそれまでの人格形成とは又違ったプロセスで再度人格形成が行われます。その結果二つの人格が混ざり合った第三の人格が出来上がってしまう。これが今現在で私たちが立てている仮説です。なので皆様におかれましてはくれぐれもルールを守ったうえでテストにご協力いただけると助かります」
誰も反論できるはずがなかった。それは目の前の科学者たちの真剣な顔つきが彼らの言っている突拍子もない話が紛れもない事実であると物語っていた。
「以上で説明は終わります。これから順番に機械に案内いたしますので、もうしばらくその場でお待ちください」
一人また一人と係の者に連れられてポッドの中へと入れられていく。どうやら時間移動が始まると深い眠りつくらしく、ポッドに入れられたしばらくすると皆目を瞑り指一つ動かさなくなった。てっきりもっとドキドキの大冒険みたいな感覚かと思っていたが、そう明るい気分で臨めるようなことはないことは先ほどの説明から明らかだ。
「裕介さん、こちらへどうぞ」
とうとう私の順番が来て、係の人に先導されるまま私専用のポットの前に立たされる。SF映画見た通り効果音を当てポットの蓋が開く。僕はポットの中に入り横になる。居心地としてはカプセルホテルの一室とあまり差はない。だがもちろんテレビも冷蔵庫もない。
「それでは、行ってらっしゃいませ」
ポットの蓋がゆっくりと閉まる。それと同時に中にガスが充満していく、それを自然と吸い込んだ私の意識静かに失われていった。