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追放された悪役令嬢だと勘違いされてます

作者: いゐい







 フン、暫く見ない間に随分とみすぼらしい姿になったな。髪色まで変えて平民に上手く溶け込んでいるつもりだろうが、俺の目は誤魔化せないぞ。なに?「貴方は誰ですか?」だと?ハッ、見え透いた嘘を。清廉潔白な顔をして相変わらず性根が腐った女だな。全く、こんな女を側妃にしないといけないとは父上も酷い事を…………まあいい。さあ、俺と一緒に来て貰おうか。こ、こら!暴れるな!大人しくしろ!!……ウグッ!?




 …………昨日はよくもやってくれたな。お前が公爵令嬢じゃなかったら牢屋送りにしていた所だが、まあいい。俺は寛大だからな。特別に許して……うわっ!? な、なぜ水を掛ける!?あっ!ま、待て!逃げるな!!




 はぁ……はぁ……や、やっと追い付いた。全く、貴族令嬢の癖に一日中森の中を逃げ回るなんてどんな体力をしているんだ。え?「人攫いさん体力ありますね」だと? だ、誰が人攫いだ!俺は誇り高きヴィレッジ王家の血を継ぐレオンハルト・フォン・アルカナイト…………って、いない!?




 「どうしてここが分かったの?」……という顔をしているな。フン、お前の隠れ家などそこら辺を歩いている平民に少し金を渡すだけですぐに分かった。いくら服装や髪色を変えてもその無駄に整った顔は目立つという事だ。……何故、頬を赤らめている?……口説かれたのは初めて、……く、口説いてない!




 だから違うと言っているだろう。求婚じゃない。俺はお前を側妃にしに来たんだ。……なに?側妃が分からない?はぁ……そんな事も分からないのか。いいか、側妃とは正妃とは別に娶る女の事で……つまり愛人? ま、まあ……言い方は悪いが正妻じゃないからそうなるな。 うわっ!?なんで水を掛けるんだ!?




 …………おい、俺だ。開けてくれ。……全く、なんで王太子である俺がこんな間男みたいな真似を…………まあいい。明日、街の宿屋に来てくれ。お前に会わせたい奴がいる。……いいか?絶対来るんだぞ?分かったな?




 「そこの怖い目をした人は誰ですか」? ……はぁ……いくら仲が悪いとはいえ自分の弟を犯罪者みたいに言うな。わざわざ王都から来てくれたというのにお前がそんな態度だから…………なんだ?姉様と二人っきりで話したい?ああ、構わないぞ。積もる話もあるだろうから部屋でゆっくり話すといい。




 はぁ……はぁ……!大きな物音がしたから来てみれば……いくら仲が悪いとはいえ自分の姉を襲うなど畜生にも劣る下劣な行いだぞ!なに?姉様じゃないから良い? ……一体何を言っているんだ。言い訳をするならもっと上手い言い訳をしろ。




 ……二週間振りだな。ああ、あいつなら謹慎中だ。本当は修道院送りにしたかったが、色々あって謹慎させることになった。…………ああ、気にするな。最近色々あってよく眠れていないだけだ。




 こんな夜更けに何の用だ。まさか夜這いに来たんじゃ……なんだ。違うのか。不眠に効くハーブが入ったサシェを渡しに来た、か。……ふむ、効くかどうか分からないが一応貰っておいてやろう。




 どこに出掛けるつもりだ。……え?俺とピクニックに行きたい、だと? あ、ああ。いや。問題はない。問題はないが……その手に持っているカゴの中身を確認させてくれ。




 成長したじゃないか。昔、お前が作ってきた菓子は酷すぎて食べられたものじゃなかったが、これならいつでも食べてやってもいいぞ。 ……しかし、ここは良い場所だな。俺達以外誰もいなくて空気が澄んでいて景色が綺麗で……、……ああ。王都で摩耗した心が癒そうだ。




 だから止めろって言ったんだ。あんな高い所にある木の実なんか取れる筈ないだろう。幸い、骨は折れていないみたいだが、自力で歩いて帰れそうにないな。 ……はぁ。仕方無い。ほら、俺の肩に手を置け。




 足の調子はどうだ? ……そうか、まだ痛むのか。全く、慣れない事をするからだ。これに懲りたらもう二度とあんな真似はするんじゃないぞ。ほら。お前が大好きだった苺の蜂蜜漬けを王都から取り寄せてやったからこれを食べて、早く、その…………い、いや。何でもない。




 見舞いに来てやったぞ……って、何をしているんだ!?足を怪我しているのにそんな重い物を持つんじゃない!!……全く、こんな雑事は使用人にやらせておけばいいのに…………なに?使用人を雇うお金がない? ……そ、そうか……。


 


 おい、その男は誰だ。……隣街に住んでいる親戚のお兄さん? ……フ、フン。つまり、その男がお前の愛人というわけか。違う?何が違うと言うんだ?手ずから林檎を食べさせて貰って随分嬉しそうじゃないか。婚約破棄してから数ヶ月しか経っていないのにもう愛人を作るとは……、…………ち、違う!!嫉妬なんかしていない!




 どうやらあの男はいないようだな。ほら、林檎を寄越せ。王太子である俺が直々に皮を剥いてやろう。…………。……ん、ああ。王都には暫く戻らない。どうせ戻っても色々言われるだけだしな、……うわっ!?い、いきなり何をする!?や、止めろ!頭を撫でるな!!




 もう歩いていいのか? ……そうか。治るのが早いな。…………フ、フン。別に礼を言われるような事は何もしていない。むしろ俺の方が……、……いや。何でもない。




 服を買いに行くぞ!……違う。俺の服を買いに行くんじゃない。お前の服を買いに行くんだ。この間、木から落ちた時にスカートの裾が枝に引っ掛かって破れただろう。……ああ、そうだ。お前の事をよく見ているからな。気付いて当然だ。……って、なんで距離を取る!?




 本当にそれで良かったのか?絹のドレスとかミンクのコートじゃなくて……これがいい、か。変わっているなお前は。まあ、そういうところが好きなんだが……、……ハッ!?ち、違う!今の好きは好きでも愛玩動物を愛でるような好きだ!!「プロポーズですか?」じゃない!か、顔を赤らめるな!!




 どうしてお前がここにいるんだ。謹慎していた筈じゃ……なに?俺に話がある? ……フン、一体何を企んでいるか知らないが話だけは聞いてやろう。…………おい、俺が帰ってくるまで絶対に家から出るんじゃないぞ。




 ああ、ちゃんと話は済ませて来た。何を話していたか? ……フン。お前の名前を騙る女が隣国の王都にいるという下らない話を言ってきただけだ。お前はちゃんとここにいるというのに……馬鹿げた話だと思わないか?




 ……何だその荷物は。まさかこんな夜更けにピクニックにでも誘いに来たのか? ……え、本当に誘いに来たのか。




 こうして野原に寝そべりながら夜空を見上げるなんて少し前までは考えられなかったな。だが、悪くはない。こうして意味もなくただ夜空を眺めるのは。……思えば俺に足りなかったのはこういう事なのかも知れないな…………おい、人が真剣に話しているのに葡萄酒を飲むな。「レオンハルト様も飲みますか?」じゃない。




 起きたか。ほら、お前の朝食も頼んで置いたぞ。……ち、違う!酔ったお前を襲ったりなんかしていない!! え? 服が違う?ああ、寝苦しそうだったから着替えさせただけだ。 うわっ!?なんで枕をぶつけるんだ!?




 王宮の食事に比べたら大分質素だが、中々美味しいだろう?このキッシュなんか……ん、手紙か。なになに……『至急王都ニ帰ッテ来ラレタシ』……。ふむ。確かにそろそろ戻った方がいいな。フッ、心配するな。溜まっている公務を済ませたら直ぐ帰ってくる。




 一ヵ月振りだな。いや、いい。茶は飲まん。それよりも……公爵令嬢が帰ってきた。




 …………つまり、俺は勘違いしていたわけだ。ロベルタはずっと隣国にいたのに顔がよく似た女をずっとロベルタと思い込んでいた。……いや、違うな。本当は気付いていたんだ。お前がロベルタでない事を。でも、ずっと気付かない振りをしていた。気付いてしまえばお前に会う理由がなくなるからな。ハッ、未練がましい男だろう?きっとリリアナも俺のこういうところが嫌いだったんだろうな……でも、もう大丈夫だ。お前に会うのは今日で最後だから……な。




 はーははっ!「最後に思い出が作りたい」という甘言に騙されて馬車に乗るからこうなるんだ。どこに連れて行こうとしているか? フフフ、俺の城に決まっているだろう。暴れても無駄だ。その手錠は王国一の錠前師に作らせた逸品だからな。




 さあ、着いたぞ。……フッ、驚いて声も出ないか。まあ、そうだろうな。このアルカナイト城はかつてこの国を建国した王が築城した由緒ある城でこの城にある物は全て国宝級の価値を持っていてこの城を代々受け継ぐ者は…………あっ、待て!手錠を嵌めたまま歩くな!




 どうだ?俺の城は凄いだろう?フフッ、そうか。ずっと住みたいほど気に入ったか。それは良かった。これから一生暮らすことになる場所を気に入ってくれて…………い、いや。何も言ってないぞ。




 やっと支度が終わったか。待ちくたびれ……た…………な、なんて格好をしているんだ!?「レオンハルト様こういう趣味だったんですね……」じゃない!俺はこんな事を指示してなんか……!お、おい!従女長を呼べ!!




 全く勘違い甚だしい!お前を愛人だと思ってあんな服を着せるなんて……! え? 俺好みの服だと言われた?……い、いや、全然好みじゃないが…………なんだその目は。




 フフフ、喜んで貰えて何よりだ。まあ、王国一の料理人が作った食事が不味い訳ないんだがな。……おい、そろそろ例の物を持って来い……ん?……ああ、父上から頂いた三十年ものの葡萄酒を持って来るように言っただけだ。そうか、楽しみか。フフッ……俺も楽しみだ。




 ようやく薬が効いてきたようだな。何をするつもりか? ハッ、決まっているだろう。お前をこれから……痛ッ!? な、何故、いきなり頭突きをした!?「結婚前にこういう事をしてはいけません」って、確かにその通りだが……こういう時は空気を読んで大人しく身を委ねるものだろう!? クッ、この強情者め!優しくしようと思ったが、もう手加減しな……痛ッ!?




 いいか。昨晩はお前がどうしても嫌だと言うから止めてやったんだからな。……おい、なんだその顔は。言いたい事があるならハッキリ言え。……「何で私をここに連れて来たんですか?」だと? ……そ、それは…………お前を……あ、あ……い……愛玩動物のように愛でたいと思ったからだ!! な、なんだその目は!言いたい事があるならハッキリ言え!




 何度言えば分かる?お前はもうここから出られないんだ。食事を運んで来た侍女の隙を付いて逃げたり、引き結んだシーツを窓から垂らして逃げたり、衣装箪笥に隠れて使用人達が騒いでる内に逃げたりしてもここからは出られない。……おい、いま何か背中に隠しただろう。




 ……分かった。月一回の帰省は認めよう。ただし、あの男と会う事は許さない。何故? 何故って……あの男がお前に好意を持っているからだ。冗談などではない。お前を見るあの男の目は間違いなく恋慕の……「出来る限りここにいますよ」? ……出来る限り、か。出来る限りではなくずっと側にいて欲しいんだが……ああ、聞こえなかったならいい。




 どうした?今日は随分と大人しいじゃないか。フフフ、そんな恨めしそうな目で見るな。折角の美しい顔が台無しだぞ? フ、フフッ……いや、笑ってしまってすまない。高価なドレスと高価な宝飾品で着飾れば流石に無茶な真似はしまいとは考えたが、まさか深窓の令嬢のように大人しくなるとは思っていなくてな。フフフ、そうしていると本当に貴族令嬢みたいだ。




 なぁ、いい加減止めないか?俺に十回も負けて悔しいのは分かるが、そろそろに執務の時間が……後一回?後一回相手をしてくれたら止める? まあ、後一回だけなら構わないが……お前は見かけによらず負けず嫌いなんだな。




 ええい!離せ!俺はこれから王位継承の譲渡について条件を詰めに王城へ行かなければいけないんだ!チェス盤片手に「レオンハルト様行かないで下さい」と言われても全然嬉しくないぞ!それに懇願するならもっとか弱い乙女のように……あっ、上着を取るんじゃない!




 それじゃあ行ってくる。明後日までには戻ってくるが……くれぐれも逃げ出したりしないように。まあ、尤もこの部屋の鍵は俺が持っているから逃げられないとは思うが、な。




 ……目を覚ましたか。ああ、喋らなくていい。それよりも早くここから逃げるぞ。 …………フン、どうするもこうするも俺はここでお前と焼け死ぬつもりは無い。じゃあどうするのか、って……勿論ここから飛び降りて逃げるに決まっているだろう。俺が死ぬ? ハッ、死ぬかどうかは俺が決める。お前は黙って俺の体に掴まっていろ。飛び降りるぞ。




 なんだ、驚いた顔をして。俺が生きている? ハァ……まだ寝惚けているのか。この地を平定した建国王アルカナイト・ヴィレッジの血を受け継ぐ者があの高さから飛び降りて死ぬわけないだろう。……「あの高さから飛び降りて大丈夫なのは兄上だけです」? ………そ、そうなのか。




 看病してくれるのは嬉しい。嬉しいが……何故、使用人の格好をしているんだ?新調したドレスを何点かお前に送った筈だが……「レオンハルト様から貰ったドレスを汚したくなくて使用人の服を借りました」……か。 全く、俺の妃になるんだからそんな事を気にしなくてもいいのに……痛ッ!?お、おい!もう少し丁寧に消毒しろ!




 ……まさか俺が林檎の皮を剥かれる立場になるとはな。利き手を怪我して良かった……い、いや、何も言ってないぞ。それよりも早く林檎を食べさせてくれないか。いや、フォークを使わずそのまま俺の口に……、…………ロベルタ。いつからそこにいた。




 なんだ突然不機嫌になって帰って行ったぞ。 ん? 不機嫌そうには見えなかった? ああ、まあ……ロベルタは昔から感情を隠すのが上手いからな。おい、待て。勘違いするなよ。ロベルタとは幼少の頃から婚約者として交流を持っていたから何を考えてるのか目を見れば分かるだけで……「つまりレオンハルト様はあの人の事が好きなんですね?」って……なんでそうなるんだ!?あんな人を見下してくるような女なんか好きなわけないだろう!ま、待て!人の話を聞け!




 中庭には薔薇を植えて、広間には彫刻を……む、丁度良いところに来たな。ほら、見てみろ。アルカナイト城の再建の設計図だ。どうだ?中々悪くないだろう?……フフフ、そうか。お前もそう思うか。それで、ついでに礼拝堂も作ろうかと思うんだが……え?俺が優しい? …………。……フン、故意で城を燃やした訳でもないのに血で償わせるのは夢見が悪いと思っただけだ。別に優しくなんかない。 それでも優しい? 俺が……優しい……か。




 ……見れば分かるだろう。溜まっていた書類を片付けているんだ。ああ、王位継承権を譲渡すると言ってもまだ俺が王太子だからな。怪我をしていても公務はこなさなければならない。まあ、無事に王位継承権が譲渡出来ればお前と……、……なんだ騒々しい。今、大事な話をして……は?父上が倒れた?




 王宮医師曰く、父上はもう政治を行える体ではないらしい。どうやら前から体調が悪かったみたいでな…………ああ、そうだ。恐らく、王太子教育を受けている俺が王位を継ぐ様に宰相から進言されるだろうな。…………。……ああ、すまない。少し……少しだけ一人にしてくれないか。




 おい、いつまで寝てるんだ。今日は帰省する日だろう? そうでしたっけ……って、もう一ヶ月前に交わした約束を忘れているのか。はあ……全く、仕方無いやつだな。ほら、待っていてやるから早く帰る準備をしろ。 ? どうした?早く荷物を纏めないか。




 おかしい?何がおかしいんだ?ただお前を故郷に帰らせようとしているだけだろう。……それがおかしい? ……一体何を言っているんだ。俺はただ約束を守ろうと……、…………いや、もうこれ以上嘘を吐いても仕方無いな。……あまり手荒な真似はしたくなかったが……仕方無い。おい、ギルバート。ジュリアを拘束しろ。




 はぁ……はぁ……!嘘だろ……半日掛けても拘束する事が出来ないなんて……「殿下、やはりジュリア様を帰さない方がいいのでは……」だと? そ、それだけは出来ない。このまま一緒にいたらいずれ俺は…………え?話し合いがしたい?




 お前が他の男と一緒になるなんて嫌に決まっているだろう! だが……このまま俺と一緒にいたらお前が苦労するのも分かっている。 それでも構わない? お、お前は……!!その言葉がどれほど俺の決心を揺さぶるか分からないのか! 「なんでそんなに私の事が好きなのに離れようとするのか分かりません!」だと!? 俺はただお前の事を思って……いや、待て。今、聞き捨てならない言葉を聞いた気がするんだが?




 とうとうこの日を迎えてしまったか。 なに?服が似合っている? ……フ、フン。俺は建国王の直系なんだから即位礼装が似合わない筈がないだろう。 それよりも戴冠式が終わったらお前に話したい事がある。 だ、だから…………ここで大人しく待っているんだぞ!分かったな!?




 ……お前は馬鹿だ。俺を庇って毒を受けて………死ぬなんて馬鹿としか言い様がない。 そんな言い方は酷いだと? ………貴様は大切な人間が自分を庇って死んだら嬉しいと思うのか。……いや、別に謝らなくていい。ただ……俺が八つ当たりしない内に部屋から出て行ってくれ。




 お前を無理矢理連れて行こうとして鳩尾を肘で突かれたこともあったが、お前がいなくなった今、そんな些細な出来事も俺にとっては大切な思い出だ。 ……でも、俺はもっとお前と様々な思い出を作って行きたかった。もっと色んな所に行って、色んな話を……したかった。 だから……お前は…………死ぬべきじゃなかった……俺を庇うべきではなかったんだ…………うっ、うぅ……。




 こうして純白の花々に囲まれて眠っているお前を見ているとまるで本当に眠っているだけのように見えるな。……ああ、分かっている。もう二度とこの目が開く事などないくらい。だが……だからこそ……今ここで誓いを立てよう。この命が尽き果てるまでお前を愛し続け…………うわっ!?




 全く……起きていたのなら起きていたと言え。危うくお前を生き埋めにするところだったぞ。なに?起きたら俺が告白していて起きるタイミングが分からなかった? ………。……人のせいにするんじゃない。




 はーははっ!ジュリア喜べ!教会から婚姻の許可が下りたぞ! くっくく……全く無駄な抵抗を……たかが一貴族が王家に逆らえると思ったら大間違いだ。 さあ!これで俺達を阻むものは無くなった!早速結婚式の準備に取り掛かるぞ!




 ようやくひと段落ついたな。後は挙式の日を待つばかりだが……体調は大丈夫か? 最近、あまり食事を取っていないと聞いたが……え?ウェディングドレスが着られなくなったら嫌だから食事を控えている? そ、そうか。なんだ。マリッジブルーかと思って心配した…………いや、何も言ってないぞ。




 ふむ、やはり俺の目に狂いはなかったな。よく似合っているぞ。 うん? このウェディングドレスはどうしたのか? ……う、うむ。あまり言いたくはないのだが、実は一ヶ月以上前に秘密裏に作らせていたウェディングドレスでな……そ、その……完全に俺の趣味で作った……「つまりレオンハルト様の好みが詰まったドレスですか」? …………。……ああ。




 色々あったが、ようやく結婚式が終わったな。しかし、まさかアイツがあんな事を思っていたなんて……全然気付かなかったぞ。 「本当ですか?」……って、本人ですら最近まで気付いていなかった気持ちにどうやって気付けと言うんだ。 全く……俺が鈍感みたいに……まあ、いい。それよりもお前に言いたい事がある。聞いてくれるか?







「……お前のことが好きだ。これからもその……色々と迷惑を掛けるかも知れないが……どうか俺の側にいてくれないだろうか?」




 そう言ってレオンハルト様は白い頬を微かに赤らめて私の手を握る。


 確かにレオンハルト様のせいで色々大変な目に遭ったし、レオンハルト様のせいで散々な結婚式だったけど……それを迷惑だと思ったことは一度もなかった。


 だから、わざわざこんな分かりきった答えを聞いてくるレオンハルト様に、仕返し二割、悪戯心三割、愛情を半分込めて、返事代わりに自分の唇をレオンハルト様の唇に押し当てたのだった。




END




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