表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

短編集

婚約破棄事件から婚約者が饒舌になりました

「ルイーズ・クレイトン公爵令嬢、お前と婚約破棄をする!そして次の婚約者は今ここにいる、エアリア・ジャクリン伯爵令嬢だ!」


 ここは王族主催の社交パーティ。歓楽の声で溢れていたこの会場は、一転して彼の言葉で騒然となり、流れていた音楽も留まる。


 それは当然だ。仮にも貴族の頂点に立つ者(王族)が、非常識な行いをしているのである。しかもその男は残念ながら、この行為を無作法だとも考えていない。自分が正義だと頑なに信じ、道を突き進んでいる。


 こんな男が次期国王だと言うのだろうか。本当に笑ってしまうわ。


「発言しても宜しいでしょうか。婚約破棄とは?」


「ふん、白々しい。そう言うのであれば、お前の悪行をここで突きつけてやろう」


 そうしてこの国の第一王子であるラトヴィッジ殿下は私の悪行とやらを言い始めた。エアリアと呼ばれる彼女を背に隠しつつ。


 ちなみにルイーズは勿論私のことである。元々このパーティには参加する予定がなかったのだが、一週間前に参加することが決まったのだ。急遽の参加だったため、エスコートは従者であるアルスにお願いしている。アルスは私から見てもなかなかの美男で、濡れ羽色の黒髪……いえ、今は魔法で金髪に変えているんだったわ。瞳は空色。彼のお祖父様の顔貌を受け継いでいるらしく、顔が整っている。

 金髪のアルスも格好良いわ、と思いながら、未だに喋る殿下に視線を送る。鼻息荒く話し続けているが、私には関係のないことなので彼の言葉は聞き流すに限る。


「おい、お前!聞いているのか?!」


 ()()と言いながら指を突きつけるお前は、何様だ……あら、王子様だったわね。王族の品位も地に落ちたこと。


「ええ、聞こえておりますわ。エアリア様の持ち物が壊されたり、彼女が罵倒されたという話でしょう?」


「そうだ!エアリアは怖がっていたんだぞ?謝れ!」


 唾を飛ばさん勢いで罵倒する殿下に思わずため息をついてしまった。内心、なんでこんな面倒なことになっているのか、私が知りたい。

 私のため息を聞いてさらに暴言がヒートアップし始めたのだが、そもそも彼は根本的なところで勘違いをしている。

 

 パンっと大きな音を立てて扇を閉じれば、吃驚したのか殿下は口を閉じてくれた。やっと私のターンね。


 

「そもそもの話。殿下と婚約を結んだことはございませんわ」


 

 

 その言葉に周囲からどよめきが起こる。その理由もまぁ、わからなくはない。


 現在、ラトヴィッジ殿下には婚約者がいない。この国の成人は18歳、そしてあと数ヶ月で成人となる今の時期に王族で婚約者が決まっていないことは珍しいのだ。貴族ならよくある事なのだが……

 だから大多数の貴族はこう考えるだろう――実は暗黙の了解で婚約者は既に決まっていて、なんらかの理由で発表できないだけではないか――と。


 そこで名前を挙げられるのが、筆頭公爵家の娘であり、殿下と同い年である私。ちなみに私も正式な婚約者はまだいないため、私が内定しているのではないか……と噂されているのも知っていた。


 彼らは確かめる術がないのだ。だから一種のゴシップとして、ネタとして話している節もある。それは仕方がない。


 ……だが殿下、お前は駄目だ。


「殿下。この件、国王陛下に確認は取られましたの?」


 顔を真っ赤にしていた先程とは違い、彼の顔は真っ青だ。目線を合わせない点を鑑みて、独断専行に違いない。殿下の後ろでぷるぷる震えている女……アエリアだがエリアナだか知らないが、彼女も風向きが変わったことに気づいたのか、殿下を見て狼狽えている。


「だが、貴族たちも王宮の使用人たちも、俺の婚約者はお前だろう、と言っていた。それに、お前は頻繁に王宮に来ていただろう?!」


 ああ、それで勘違いしてしまったのねぇ……だからと言って、陛下に聞きただす事をしない理由にはならない。

 

「国王陛下に一言でも確認を取れば、私が婚約をお断りした事を教えて頂けたはずですわ」


「私との婚約を蹴っただと……?!」


 今度は青筋を立てている。くるくる顔色が変わって面白い事。ただねぇ、仮にも貴族の頂点に立つお方が、表情を顔に出して良いのかしら……?


「ええ。勿論、それ相応の理由がありますわ。ですが、申し訳ございません。まだその理由を()()()()()()言えませんの」


 だって、それを言うのは私であってはなりませんから。


「どう言う事だ……?」


 怪訝な表情でこちらを伺う殿下だが、ここまで言えば理解できる人間もいるだろう。チラリと一瞥すれば、目を見開いている方が数人。流石ですわ。殿下だって腐っても王族、考えれば答えに辿り着く可能性はあるはずなのに……頭の回転が遅いのでは?



 会場内は音楽も流れておらず、静まり返っている。聞こえるのは微かな息遣いだけ。そんな異様な空気の中に現れたのは――『大賢者様』と呼ばれる魔道師様だった。

 


 

「だ、大賢者様と国王陛下の入場ですっ……!!!」


 その声で静寂に包まれていた会場内が大きく沸いた。「大賢者様だって?!」「どうしてこの場に?!」……そう戸惑いの声が辺りに響き渡っている。

 だが、それも数秒のこと。大賢者様が歩き始める頃には物音ひとつしなくなり、この場にいる参加者全員が頭を下げた。勿論、殿下と後ろにいる女もだ。その良識はあったらしい……もし大賢者様に頭を下げていなければ、しばき倒すところだったわ。


 堂々と好々爺のような笑みを振り撒きつつ、大賢者様は私たちの側までやってくる。そして全員の前まで辿り着くと、用意されていた椅子に腰掛けた。後ろには、顔が強張っている国王陛下がおり、彼もいつものように玉座に座っているが、相当緊張しているようだ。


 それもその筈。


 大賢者様率いる『賢者の塔』と呼ばれる場所は、世界最高峰の魔術機関として知られている。国に所属することのない、独立した機関であるがために、一目置かれている。

 まぁ、一目置かれている理由は簡単だ。一人ひとりが兎に角強いのだ。一人で数千人程の兵士を倒せる程の魔力を持ち、それを乱発できる……つまり戦争が起きても、一捻りできるわけだ。ちなみに大賢者様はこの城を一発で更地にできる魔力を持っているし、それを使ってもまだ余りある程の魔力を持っているらしい。


 だが、それで戦争が起きても困る。だから賢者の塔に入ることのできる魔術師は、『権力欲のない』『魔力が多く』『魔術に傾倒している』人間のみ。そして俗世と縁を切ることが条件だ。

 それもあって、大賢者様はこの世界で1、2を争う権力者ではあるが、俗世と関わることがほぼ無いため雲の上の人のようなもの。顔を拝めるのは、人生で最大の幸福だと言われるほどなのだ。


「皆の者、顔を上げよ」


 威厳たっぷりのお声に目をキラキラと輝かせていると、丁度大賢者様が私を見て片目を瞑る。これぞ、小説にあったイケオジのウインクというやつなのだろう……そんなお茶目なところも素敵だ。

 それにこのウインクは以前決めた合図である。


「今宵、喜ばしい発表をこの国でできる事を光栄に思う。ルイーズ・クレイトン公爵令嬢、こちらへ」


「はい、()()()()


 再度沸き立つ会場。それはそうだろう。私が大賢者様の事をお義爺様と言ったのだから。

 私がお義爺様の隣に並び立つと、全員が驚きを含んだ瞳でこちらを見ている。


「この度、賢者の塔に新しい仲間が加わることとなった。それが彼女、ルイーズだ。18になり次第、彼女を賢者の塔に迎え入れることとなっている。ルイーズは治癒魔術と回復魔術のスペシャリストだ。より効率的な魔術の研究のために、尽くしてくれることになる」

 

 私はお義爺様のおっしゃる通り、病気を治す治癒魔術と傷を治す回復魔術が大得意。そしてなにより魔術が好きだ。


 我がクレイトン公爵家は跡取りの兄もおり、妹もいる。家の心配はしていない。確かに家族と離れるのは辛いことだが、別に今生の別れでも無い。現在の地位を捨てる必要はあるが、一年に数度家族と会うのは構わないとされている。細かい指定はあるが、それは置いておく。そう聞いて、私が首を縦に振らないわけがない。


 お義爺様はそこまで言うと、隣の私に向けて笑みを零してくれた。私も笑顔を返す。その様子を見ていた家族は、満面の笑顔でこちらを見ていた。私は幸せ者だ……


 だが幸せを感じながら、余韻に浸っている私に冷や水を浴びせる声が聞こえる。殿下だ。


「待ってください!ルイーズは私の婚約者ではないのですか?!……それに大賢者様を……お義爺様呼ばわりは無礼です!」


 あの、私の話聞いていましたか?……と言いたい。婚約はお断りしたと言っただろうに。そこをまた掘り返すのか。

 どこか頭を打ち付けたのだろうか、と思うくらい彼の考えは理解できない。


「そ、それにルイーズは嫉妬でここにいるエアリアを虐めたのです!そんな女が賢者の塔に相応しいわけが――ヒッ!」

 

 ――殿下の目の前に近衛兵の剣先が突きつけられる。それを指示したのは、彼の父である国王陛下だった。


「黙れラトヴィッジ……大賢者様、愚息が申し訳ございません」


「謝罪を受け取る、ウィルバー殿。……だが、彼はどのような教育を受けたのだ?王族としての心構えなど全く身についてないではないか。貴族の礼儀作法すら怪しく見えるのは気のせいか」


「仰る通りでございます。愚かだとは思っておりましたが、まさかここまでとは……私の監督責任です」


「彼の処分に関しては、儂は口を挟まん。任せたぞ」


「御意」


 この国なぞ、他に比べたら中堅もいいところ。お義爺様の話に口を挟むことができるのは、国王陛下だけだ。王族とは言え、王太子にすら選ばれていない殿下がお義爺様の話を割ってまで話しかける資格はない。

 それを知らないのか忘れているのか……殿下は本当に愚かだ。

 

「まあ、話を戻そう。もうひとつの報告だがな、ルイーズが賢者の塔に加わると同時に、彼女は入籍する。来い、アルス」


「畏まりました」


 そう言われて私の隣に歩いてくるアルスはまるで彫刻が歩いてくるかのよう。令息はあまりの美しさに目を見開き、令嬢は首を傾げてため息をついている。私はニヤケそうになる顔を引き締め、ニコッとアルスに笑いかけた。するとその笑みを見たアルスは私に笑いかけてくれたではないか……破壊力抜群だ。

 その笑みに中てられたのか、令嬢が何人か倒れてしまったようだ。うん、後で少しお説教せねば……


 その様子をニヤニヤと見ていたお義爺様だったが、アルスが私の隣に来ると、大賢者様らしい真剣な顔つきで話し出す。


「アルスは儂の孫なのだが、賢者の塔に所属している。そして数年前よりルイーズと婚約を結んでいた。公爵家が婚約を断っていたのは、それが理由だ」


 その言葉に驚きを隠せない人々は、「まさか?!」「だからか……」「それは仕方あるまい」と彼方此方でつぶやきが聞こえる。賢者の塔関連の発表は、大賢者様が発表されるという仕来りがあるからだ。――お義爺様曰く、「基本賢者の塔連中は世俗に出たがらない。面倒臭い仕事を押し付けられたんじゃろて」なんて言ってましたけどね。


 そして成人直前の発表にも理由がある。

 先代大賢者様の時代のことだ。ある国の伯爵令嬢が塔に内定を得ており、それを大々的に公表したことがある。すると、当時賢者の塔を快く思っていなかったその国の王族が、彼女を強引に王太子と婚約を結んだのだ。彼女と賢者との話し合いで一度は王太子との結婚を了承したが、婚約して数年後の卒業パーティで婚約破棄を宣言されたらしい。その事に憤怒した先代様は当時の王族に脅しを……いえ、丁寧にお話し合いをしたそうだ。その結果王太子は廃嫡、当時の国王は王弟に王位を譲った。この件があってから、成人になる直前に公表する事になったとのこと。勿論、例外もあるらしいが、基本はこの形なのだそう。


 私は話の通り、アルスとの婚約を以前から内々で結んでいたので、仕来りもあり正式な婚約者として発表できなかっただけなのだ。

 

「だからルイーズが儂のことをお義爺様と呼ぶのは問題なかろう?儂の孫の婚約者なのだからな」


 その言葉の大半は殿下に言っているのだろう。下にいる殿下はお義爺様の視線が怖かったのか、首が取れそうなほど振っている。

 

「そう考えると、ルイーズがお主の横にいる令嬢を虐める理由がないのだが……この件はウィルバー殿、頼むぞ」

 

「寛大なお言葉、ありがとうございます」


「流石に儂が出てしまうと、越権行為だからのう……それでは儂は失礼する。皆の者、この良き日を楽しんでくれ」


 そう言ってお義爺様は広間を出ていく。そして扉が閉じた瞬間、張り詰めていた緊張の糸が途切れたのだろう、穏やかな空気が周囲に漂っていた。――国王陛下と殿下、隣の女を除いて。


 

 殿下と女は近衛兵によって会場から追い出されていた。耳に聞こえてきた噂話によると、どこかの部屋に鍵をかけ閉じ込めているらしい。


 ダンスを一曲踊った後、私とアルスは庭園を訪れていた。あの発表から、周囲の視線が鬱陶しくなったためだ。二人きりの場所に行きたかったとも言う。


「アルス、お疲れ様でした」


「……ルイーズも散々だったな」


「ええ。本当にとばっちりですわ」


 もう気にしていない、そんな意味を込めて笑いながら答えるが、彼の顔は厳ついままだ。

 むしろいつも言葉数が少なく表情も変わらない彼の感情が顔に出ているのが珍しい。どうしたことかと顔を覗き込むと……


「ルイーズが婚約破棄を言われた時、俺はあの男に手を出しそうになった」


「えっ!?」


 滅多なことで表情を変えない私ですら、その言葉には衝撃を受ける。再度彼の顔を伺うと、その美しい空色の瞳に憤怒の光が見えた。


「それはそうだろう。俺の大切な婚約者が、勝手に知らない男の婚約者だと思われていた上に、その男がルイーズを呼び捨てにし冤罪まで吹っかけようとしたんだぞ?ルイーズが冷静に対処していたから俺は手を出さなかったが、もう少し爺様が遅ければ、完全に暴れていただろう」


 ……何か悪い物でも食べたのだろうか。いや、この会場に来てからは食事をしていない。普段では考えられないほど饒舌なアルスに口を挟むことができずにいる。


「……だが、同時に不安になった。俺は話も上手くなくて、暇さえあれば魔術研究ばかり。面白いことひとつも言えないつまらない男だ……ルイーズはそんな男と結婚していいのか?」

 

 彼の瞳が揺れている。怒り、悲しみ、不安……様々な感情が彼の胸中で渦巻いているのだろう。マリッジブルーというやつなのかもしれない。

 それを解消できるかは分からないけれど、私が言えるのはひとつだけだ。


 ――「私はそんな貴方が好きなのですよ」

 

 満面の笑みで告げれば、アルスは目を見開き……そして気づくと私はアルスの腕の中にいた。丁度彼の胸の位置に耳を当てている形で抱きしめられているため、彼の心臓音が聞こえる。彼の温もりも心地いい。


 まるで時が止まったようだった。ひとつひとつの動きが普段よりゆっくりに見える。そして彼の顔が近づいたところで……


「俺もルイーズの事を愛している」


 そう耳元で囁かれた私は顔を真っ赤にして、彼の胸に顔を埋めたのだった。


 

 

 

 その後の話をしよう。


 私は成人を迎えた後、賢者の塔へ向かった。勿論夫であるアルスとともに。夫のアルスは大賢者様(お義爺様)の孫であり、次期大賢者になるであろうと噂されている。実力は賢者の塔内でもお義爺様の次を争う程申し分ないので仕方がないと思うのだが、本人は「面倒な役を押し付けられそうだ」と毎日舌打ちしている。


 今日も毎日恒例の賢者の塔にある最上階の庭で、休憩をとっていたところだ。二人して研究馬鹿なので、寝食を忘れてしまうことも多く、それは良くないと二人で休憩時間を設ける事にしたのだ。

 

「そう言えば、爺様から謝罪の言葉がきているぞ?いつ許してやるんだ?」


 アルスの右手にはお義爺様から渡されたと思われる手紙がある。手紙を貰う際、大層落ち込んでいる様子だったと聞いて、そろそろ潮時かしら、とも考えていたのだ。


「ええ、もう許そうと思っていますの。流石に今後はあんな事されないでしょう?」

 

「ああ、今回のことで懲りたと思うぞ」


 実は社交パーティの後の王国の庭園で愛の言葉を囁き合っていたところを、お義爺様に見られていたのだ。その事に気づいた私がお義爺様のデリカシーのなさに怒り、そこから一度も口を聞いていない。

 

 まぁ、引っ越しでバタバタしていたこと、賢者の塔でも多忙を極めているお義爺様とはあまり会えないこともあるのだが……それだけではなく、アルスの両親もそれを聞いた賢者の塔の仲間たちもお義爺様の行動に私同様お怒りだったらしい。『いいのよ。お父さん(大賢者様)にはいい薬よ』と言って、この状態である事を許してもらっている。


「謝罪の件は、お願いするとして……あいつらについても書かれていた。聞くか?」


「ええ、お願い」


 あいつらとはそう、殿下とエアリア嬢についてだ。

 殿下は王位継承権を剥奪されて、今騎士団に放り込まれているらしい。私を陥れようとしたエアリア嬢は平民落ち、ジャクリン伯爵家はそれを咎められなかった罪で子爵家に降格。


「無難ですわね」


「……俺としてはもっと厳しい罰でもいい気がするが……」


「流石にそれ以上の刑だと、賢者の塔に忖度していると勘繰られますわ。当時私は公爵令嬢でしたから、良いのですよ。ただねぇ、まさか王族の一員であろう彼が、噂の真偽も確かめようとせず、状況証拠だけで断罪するとは……国の恥ですわね」


 国王陛下は殿下……いえ、今は元殿下ですが、彼との婚約を断られた際、薄々私が塔に行く事を察していたそうだ。だから私が塔へ行く前に、国王陛下は私に頭を下げて体調を崩していた王妃様の看病を頼んできたのだ。

 治癒魔術は一気にかけてしまうと身体に負担がかかってしまうので、何度もこまめに王妃様の部屋を訪れていたのだが……まさかそれを『婚約者に会うための登城』だと思われていたなんて、誰が思うか。


「だが、あれのお陰で俺は想いを言葉にする必要性に気づいた」


 そう。あの後彼が饒舌になったのは、想いは言葉にしなくてはいけない事に気づいたからだそうだ。断罪の内容は許されるものでは無かったが、元殿下にはっきりと物を言う私を見て、自分を省みていたらしい。流石に悪行を言い始めたあたりから、怒りは募っていたらしいが……

 

「ルイーズ、今日もまた……待っているからな。愛しているよ」


 考え事をしていた私の耳にそう囁き声が聞こえてくる。この言葉に私は真っ赤になり俯く――このお誘いはいつになっても慣れない。

 ふと視線を感じ前を向くと、隠れている人と目があった。その相手は――


「……お義爺様?」


 その言葉でアルスも視線をお義爺様の方へ向ける。そこには顔を蒼白にしたお義爺様が。


「……何も見てないぞ。何も聞いていないぞ。アルスに用事があってきただけだ!」


「お義爺様……」

 

 これはもう少しお仕置きが必要だろうか。そこはアルスの両親に相談してみよう。

 怒った孫に襟を掴まれ引き摺られていくお義爺様を見て、私は苦笑を漏らさずを得なかった。


 

読んで頂きありがとうございました。


 執筆訓練を兼ねて、思いついた短編です。

最初は毒舌令嬢を想定して書いていたのですが、そんなに毒舌っぽくない気が……


そしていつの間にか、出る予定の無かったお茶目なおじいちゃんが出てきてしまいました。

お爺ちゃん、覗き見はダメですよ。




現在長編も執筆中ですので、よければご覧ください!


『私、もう興味がありませんのーー虐げられた愛し子は隣国でお店を開く事にしました』

下にリンクを貼っておりますので、押して頂ければそのページに飛びます。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] …最後のはお爺さん悪くないですよね!? どうか寛大な処置を…(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ