夢
最後に友達という存在がいたのはいつだったか、俺の記憶が正しければ、確か、中学一年生だったはずだ。
とは言っても、小学生の時には既にぼっちとして出来上がっていたから、正確には、友達という存在が「唯一」いたのが中学一年生だ。
親の転勤によって、小学校を卒業すると同時に見知らぬ土地に引っ越した俺は、どうやらそれが好転してぼっちのラベルに気付かれず、ギリギリながらクラスに馴染むことができた。
もう名前も忘れてしまったが、二人の男子と仲が良く、常に三人グループで行動していた。
ゲームやアニメなど、特定の会話にのみ食い気味で入ってくる俺を、彼らはどう思っていたのか。
少なくとも、邪険に扱われてはいなかった。
――あの時までは。
やけに夕陽が眩しい放課後だった。
クラスメイトたちは、親や教師に縛られない時間を一秒でも長く楽しもうと、俺たち三人を除いて、みんな教室を出ていった。
俺たちも特段なにか目的があるわけではないが、とりとめのない話を、のんびりと宙に浮かべる。
それにも飽きてくると、おもむろに机の上から尻をあげ、相撲のようなじゃれあいを始めた。
永遠に続くような、変わり映えのない、けれども幸せな時間。
俺は二人を見ては笑っていた。
がしゃんと音がして、三人の顔から笑みが消えた。
軽いぶつかり合いで体勢を崩した友達が、そのまま背後の窓ガラスに激突し、割ってしまったのだ。
あまりにも脆く、瞬きする間もない出来事。
目の前の二人は、どうしよう、先生に謝りに行こうかと話し合っている。
たかが窓ガラスと言ってしまえば簡単だが、当時の俺たちにとってそれは、世界の終わりのような一大事。
通り過ぎてしまえばなんてことはないが、教師に叱られるのも嫌だ。
素直に謝ればいいが、それでは怒られてしまう。
かと言って、全てを忘れて他人のふりをするには良心が邪魔だ。
どうしよう、どうする、二人の声が、マイクで増幅されたように響く。
そして、そんな二人を見つめて俺は――。
翌日、朝のホームルームで先生に連れられてやってきた二人は、クラスメイトに向けて頭を下げた。
それに対して責めるクラスメイトはおらず、ただ「あいつら、また何かやらかしたのか」というふうに笑っていただけ。
だが、それを自分の席に座って見ていた俺だけは、笑うことができなかった。
友達を見捨てて逃げ帰ってしまったという後悔が、俺の心にヒビを入れたのだ。
同時に、三人の友情にも亀裂が入っていた。
その日から、彼らは俺に話しかけてこなくなった。
俺も声をかけられなかった。
しばらくして、俺は学校へ行くのをやめた。
引きこもってからは本を読み漁り、趣味に没頭し、全てを忘れたかのように毎日を過ごした。
今にして思えば、別に、なんでも良かったのだ。
俺も一緒に謝りに行くよ、そう口にすれば良かった。
倫理的な問題はあるが、みんなで黙っていれば、そのうち有耶無耶になるんじゃないか、でも良かったはずだ。
ただ、できることがあるのに何もせず、目を背けるようにして逃げなければ、それで良かった。