食事
日が暮れる頃に帰宅した俺は、さっそく兎を料理しようと思い、ナイフを取り出す。
肝心の料理方法なのだが、シンプルに串焼きにすることにした。
いや、それ以外のレシピを知らないからなのだが。
実は、兎の内臓を取り除いたり、皮を剥ぐ方法は知っている。
そう、あれは中学2年の夏だったか。
年齢特有の「病」を発症していた俺は、いつか異世界に転生するかもしれないと考え、密かに生きるための術を身につけようとしていたのだ。
武器の製作に続き、まさか、その知識が役立つとは……。
ありがとう、昔の自分。
そんなこんなで、俺は兎を料理しようとナイフを手に取り、その身体に触れた。
毛皮だけとなった兎を見て、俺は感謝の意を示す。今日を生き延びさせてくれてありがとう。
失礼だが、思っていたよりも美味しかった。
流石に生きる上で必要な時しか食べようとは思わないが。
あまり乱獲していたら生態系を壊してしまうかもしれないしな。
食後の満腹感に浸り、のんびりしているうちに洞窟の外は真っ暗闇になっていた。
春頃の気温と焚火のお陰で夜は冷えないとはいえ、布団が恋しい。
俺はベッド派ではなく布団派なのだ。
身体を痛める心配はあるだろうが、地面に全てを委ねて眠るのは心地よい。
地球が俺を支えてくれている気になるからだ。
だが、今の俺には布団はない。
ガイアを感じることはできるが、いささか感じすぎるというか、ごつごつした岩肌が痛い。
小さい兎の皮を撫でながら、元の世界がどれだけ恵まれていたかを考えつつ横になっていた。
何か大切なことを忘れている気がする。
一体なんだ?
毎日行っていたが、転生してからしていない何か。
俺の人生の大部分を占めていた何か。
生きていく糧となっていた、かけがえのない――。
「そうだ。実況動画だ!」
この2日間は命がけで、三代欲求意外を思い出す余裕もなかった。
しかし、今は食、住の問題を解決して、少し余裕もある。
満を持して娯楽の出番ということだ。
……そう思っていたのだが、今日を生き抜けた安心感からか、猛烈な眠気に襲われる。
抗いたい気持ちもあったが、集中力に欠けた状態では、投稿者の気分を害するコメントをしてしまう可能性がある。
あくまでも投稿者あっての実況動画だ。
定められていなくとも、マナーは守っていきたい。
仕方ない、明日の朝からぶっ通しで動画を観てやろう。
二日ぶりの楽しみに胸を膨らませながら、夢の世界へ意識を送り出した。