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狩り

 川から離れ、再び森の中を彷徨っている。

 この森には木の実もあったが、果たして人間が口にして安全なのか。

 サバイバル本に書いてあった気がするが、やはり中学生の、武器が気になるお年頃。

 ページが破けるほど読み込んだそちらとは違い、食事のページは新品同様の綺麗さ。

 ということで、恥ずかしながら知識のない俺は、焼けばまず食べられるであろう、昨日見かけた兎を獲物に定めることにした。

 デカイハムスターでも良いが、もしかしたら目にも止まらぬ素早い動きで、俺の心臓を一突き、なんて事もあるかもしれない。

 ないとは思うが、念には念を入れておく。

 何しろ異世界二日目、自分の中にある常識が通じるのか、若干疑問に思っているからだ。

 とはいえ空腹は待ってはくれない。

 考えてばかりいても時間の無駄だし、さっそく準備に取り掛かろう。


 今回は、二つの武器を使って兎を狩ろうと思う。

 まずは槍だ。

 槍は作るのが比較的簡単で、効率的らしい。

 まっすぐで長さのある木を拾い、片方の端をナイフで鋭利に削る。

 焚き火の時もそうだったが、神が持たせてくれたナイフがだいぶ役に立っている。

 素人が使っても傷ひとつ付く様子がないし、もしかしたら、無限の耐久力を秘めているのかも。

 植物の蔓でナイフを先端に括り付けても良いかと考えたが、もしもの接近戦に備えて腰に装備する。

 その代わり、槍の削った部分を火で焼いて強度を上げた。

 これでとどめを刺すことはできる。

 だが、相手は野生動物だ。

 リーチの長い槍を持っていたとしても、近づく気配を察知されて逃げられてしまう。

 歩幅で優っていても、小回りのきく兎に逃げ切られる可能性は高い。

 だから、対象の動きを鈍らせるべく弓と矢を製作する。


 弓を作るために、柔軟性がありながらも強度のある長い枝を用意した。

 弓の弦には樹皮を利用し、矢は直線状の細い枝の先端を削って作った。

 弱肉強食という過酷な環境を生き抜くために勘が鋭く、素人が近寄るのは難しい野生動物だが、速く、そして鋭く獲物を射抜いてくれる矢ならば勝算はある。

 そして、試しに矢を放ってみようと手に取った瞬間、ここでも神の恩恵を感じた。

 まるで長い研鑽を積んだかのように、身体が弓の使い方を理解しているのを感じたのだ。

 武器を持っているというのに、緊張も何もない。

 明鏡止水の心で矢を番え、弓を引き、手を放す。

 矢は一直線に突き進み、遠くの木の幹に命中する。すごい精度だ。

 よくよく考えてみれば、確かに弓は遠距離からの攻撃になるが、当然使うには相応の修練を積む必要がある。

 むしろ、まともに扱うには、剣を使うより時間がかかっていたはずだ。

 神がくれたこの能力がなければ、おそらく標的を正確に射抜けるようになる頃には、天野鈴音からボーンアーチャーへクラスチェンジしていたことだろう。


 こうして武器を手に入れた俺は、森を練り歩き獲物を探す。

 小鳥やトカゲ、兎、シカのように元の世界でも見たことのある生物から、羽の生えたリスや角ハムスターなど、どういう進化をすればこうなるのか疑問に思う生物まで多様な生態系。

 この闇鍋のようなラインナップから、どうにかして獲物を探す。

 いくら生きるためとはいえ、他の生物の命を奪うのだ。出来るだけその数は少ない方がいい。

 とはいえシカは強そうだし、やはり兎か。

 そう思いながら慎重に辺りを見回していると――。


「……いた」


 自分にしか聞こえないほど小さな呟き。

 10メートルくらい先、兎が呑気に歩いている。

 懸命に毎日を生きる生命を殺してしまう事に対して罪悪感を感じるが、これも生き抜く為なので許して欲しい。

 俺は心の中で兎に謝罪しながら、弓を引き、狙いを定める。

 本来の俺なら遠くの、しかも、ゆっくりとは言え動く的に矢を当てることは到底できない。

 しかし神に貰った力のお陰で、矢は驚くほどスムーズに兎に命中した。

 小さな悲鳴を漏らして倒れる命。

 こちらの勝手で申し訳ないが、彼をしっかり食べ、生きる糧として供養する。

 そうして水と兎という、狩り初日にしては大きな収穫を手に、早くも愛着が湧いてきた無骨な我が家へと足を進めた。


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