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 建築を始めてから一月程が経過した。

 キリも良いし、切り抜きのストックが貯まってきたので、編集して建築過程の動画を一本作ったのだが……。

 正直なところ、少し物足りなさを感じていた。

 というのも、他の動画を一本もアップしていないからだ。

 仮に俺のチャンネル情報を可視化することができるなら、自己紹介動画が一本と、建築の様子のまとめが一本。それだけ。

 毎月建築動画だけを投稿するのでは、流石に視聴者も飽きてしまう。

 せめて、何かもう一本くらいは、月に一度でも投稿するべきだろう。

 また、メルンヴァラで生きていくにあたって、一つのルールを決めることにした。

 ポイント交換の制限である。

 交換できるものは食材から家具、果ては城など多岐に渡り、もはや、最終的に交換できないものを探すほうが大変だろう。

 だからこそ、それに頼りきっていると動画のネタがなくなってしまう。

 便利な世界に慣れてしまえば、不便を我慢できなくなる。

 美味しいものばかり食べていれば、反応も自ずと薄くなってしまう。

 そのため俺は、ツール購入と、動物を殺さなければ手に入らない食材以外の交換を、原則禁止とすることに決めた。

 ツールは確かに便利だが、それを使って行動する必要があるし、何かを作る際には頭を使う。

 食材に関しては、元の世界で何かの命を奪うといった経験がないせいか、やはり心理的なブロックがかかっている。

 要は、手段となる物であれば交換しても良いが、結果として手に入る物は極力禁止ということだ。

 自分の力で生活を豊かにしてこそ、スローライフは輝く。

 可能な限り楽はしたいが。


「というわけで、今回の動画では畑を作っていきたいと思います!」


 幸い、家の周りに土地は余るほどある。

 リリア以外、誰も訪ねてこないあたり、市有地でもなさそうだし、ならば好きなように利用しても良いだろう。

 ダメだったら土下座で手を打ってもらいたいと思ったが、あれは国ごとに違った行動になるんだったか。

 日本ではプラスの意味だったピースサインが、海外では命を落とす要因になるらしい。

 それはさておき、俺はこのために交換しておいた【簡単に耕せて、作物もすぐ育つ! 耕すくん6号!】というキャッチコピーのクワを手に、洞窟と建築予定地の間に畑を作ることにした。

 6号はそのキャッチコピーの通り、とにかく手間をかけずに土を耕すことができるらしい。

 まじめに農業をやっている人に怒られそうだが、クレームは神にお願いしたい。

 クワを両手でしっかり持って、作業をスタートする。

 持ち手を上げ、重さに任せて振り下ろすと、驚くほど簡単に土を耕すことができた。

 地面にクワが刺さる手応えは抜群だが、その反動というか、疲労はほとんど感じない。

 つまり、クワを持つ重さ分しか負担がかかっていないのだ。

 耕すくんのお陰で、あれよあれよと縦横五メートルくらいの畑を作ることができてしまった。


「おいおい、一瞬だよ……」


 出来上がりが早すぎて、動画にしては五分にも満たない。

 さらにクワを振るおうかとも思ったが、これ以上畑を大きくしても手が回らないと考えて、一応の完成とした。


「それじゃあ、ここからは肝心の種を蒔いていきたいと思います」


 ここからは種まきだ。

 種は、最初のうちはポイント交換で手に入れることにした。

 今の俺には、ポイント交換以外で種を手に入れる方法がないからだ。

 エリシダに行けば購入することもできるだろうが、俺は未だにこの世界の貨幣を所持していない。

 貨幣など存在せず、市民がそれぞれもらえるポイントを使って買い物をする……とかだったらどうしよう。


「えー、種は神様にもらったので、これを使っていきたいと思います」


 神の存在を匂わせるのは極力避けたいが、今回に関しては突っ込まれる可能性がありそうなので、その入手経路を出すことにした。


「まずはナスから植えていきます。みなさんはなんと呼んでいるかわかりませんが、紫色で辛い豆腐なんかと一緒に食べると美味しいアレです」


 喋り続けながら、土に深さ一センチくらいの溝を作っていく。

 そして、等間隔にタネを蒔いて、再び土をかぶせる。

 作物がすぐ育つと書いてあったが、どの程度早くなるのだろう。

 とりあえず今回は、七月が旬の野菜の種を植えてみることにした。

 ナスの他にきゅうりやピーマンの種を蒔き、水をやる。

 土に水がじわじわと染み込み、その色をさらに濃くしていく。

 毎日忘れずに水をやらないとな。

 作物が育つ様子を動画にしても楽しいかもしれない。自由研究みたいだし、ワクワクする。


「次はカカシ作りです。工作とかはあまり得意じゃないけど、頑張っていきます!」 

 

 スライム探索の際に、何かと使えると思ってい拾っておいた細長い木の棒を二本用意し、糸で十字に括り付ける。

 頭の部分には木製のバケツを被せて、ナイフで目や口を彫っておいた。

 どんな動物、はたまた魔物が作物を狙ってくるかは分からないが、これで多少は効果があるだろう。

 思いの外早く作業が終わってしまったので、建築中のリリアを呼んで、畑を見せてみることにした。


「畑を作ったから、今度からここで採れる野菜を使って料理しよう」

「スズネちゃんすごい! よく頑張ったわね!」


 本日の過保護タイムだ。

 最近は撫でられるより抱きつかれることの方が多くなってきている。


「ちょ、ちょっと力が強いんだけど……」

「あ、ごめんね!? あんまりスズネちゃんが可愛いものだから、ちょっと潰したくなったというか……っていうか汗臭くなかった!? 大丈夫!?」

「え、あぁ、大丈夫だよ……」

「どうして目を逸らすの!?」


 それは、リリアの汗の匂いに妖艶な魅力を感じてしまったからだ。

 こんなこと直接言ったら、即、両手に手錠だろう。

 あと、潰されるのは勘弁だ。

 ただでさえリリアには身体強化があるわけだし、比喩じゃ済まない気がする。

 もう少し安全で、なおかつ力を使いそうな愛情表現があればいいんだが。

 次はなんだろうか……肩車とか?


「それじゃあ、私も頑張ってくるわね! ふぁいとー!」


 一通り俺を甘やかしたあと、リリアは再び建築へと戻って行った。

 心なしか、呼んできた時より元気な気がする。

 それはさておき、実は、今回農業に手を出したのには理由がある。

 まだ先の話とはいえ、冬のために備蓄をしておきたかったからだ。

 この世界……というかこの森には電気もなければ機械もないので、冷蔵や冷凍はできないと思っていたが、少しでも食物の痛みを抑えられればと、地面に保管場所を作ったのが評価されたようで、これまたご都合主義の【びちびち備蓄くん】が解禁されていた。

 早いうちに交換しておいたが、説明を読む限り、例によってとんでもなく長持ちさせられるそうなので、野菜を収穫次第入れていきたいと思う。

 でも、いずれはきちんとこの世界に合った保存方法で食料を貯めよう。

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