生放送2
思わぬプレッシャーに身体が強張るのを感じたが、生放送中にウダウダしていられない。
両手で顔を軽く叩いて気合をいれ、リリアの隣へゆっくりと歩いていく。
「えー……冗談はさておき、今日から建築する様子を、生放送という形でお送りしていきたいと思います。これを見てくれている皆さんと同じ時を、俺たちも過ごしているということが伝われば幸いです」
よし、しっかり話を戻すことができたな。
今の素晴らしいトークで、リリアの言ったプロポーズまがいの言葉など綺麗さっぱり忘れ去られたことだろう。そう思おう。
「それでは作業に入りたいと思います。しばらくは建築に必要な木材の確保、加工を主にやっていきます」
生放送を始めたと言っても、別に気を使って面白いことをする必要はない。普段通り作業をすれば良いのだ。
「あ、もちろん周囲の環境には細心の注意を払います。ご安心ください」
ここら辺が誰かの敷地だとは思えないが、一応気を遣わなくては。
どこから炎上するかわからないからな。
挨拶もそこそこに、実際に伐採に取り組むことにした。
斧太郎を振るい、木を切り倒すと共に加工していく。
そうしてできたものを、リリアが建築に使う。
本来であれば力仕事は俺の役目なのだろうが、身体強化が使えるリリアに任せた方が安全だろう。
木材を軽々と持ち上げる彼女を見ると、凄まじい頼もしさを感じる。
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「……ふぅ。ちょっと休憩しようか」
作業開始から二時間が経過した。
初日ということで気合も入っているが、ハードワークで身体を壊しては元も子もない。
「そうね。スズネちゃんが倒れちゃったら大変だもの!」
「リリアは疲れてないの?」
「私は全然よ! あと半日は余裕かも!」
両腕で力瘤をアピールする様なポーズをとっているが、筋肉どころか脂肪すらほとんどついていないような細さだ。
こんな華奢さからは想像できないスタミナと身体強化の効力に苦笑いしながら、タブレットを開く。
俺達が建築をする様子を、どうやらエリシダの人は楽しんでくれているようだ。ポイントが10万ほど増えていた。
「相変わらず増え方がエグいな……」
視聴者が一体どんな反応をしているのか、現時点で俺に知る術はない。
だが、一応コミュニケーションは取れるようで、【コメント機能をオンにする】という項目を見つけたのだが、条件を満たしていないため使えないと表示されてしまった。
その条件が何かは書かれていなかったが、おそらく実況を続けていれば解除されるものなのだろう。
確かに、最初からコメントが見えていたら、そればかりに気を取られてやるべき事に集中できない気がする。
他人の指図は受けす、我が道を貫く実況者もいるだろうが、大抵の人はそうはなれない。
参入初期は、動画は伸びないものという、半ば諦めにも似た受け入れをしているため、あまりコメントや再生数は気にならない。
だが、段々と視聴者が増えることで、もっと人気になりたいという欲が出て、本来の趣旨とは違うことをやり出したり、他人に批判されてでも注目されることを優先してしまう。
自分がレールから逸れていると気付いた時には遅く、誰からも注目されなくなっているのだ。
そう考えると、しばらくはこのまま、他人の意見に左右されずに配信ができる環境も良いかもしれないと思った。
「よし、水分も摂ったし、もう少し頑張ろうか」
「私は大丈夫だけど、あんまり無理しないでね? おうちで寝ててもいいのよ?」
リリアに一人重労働をさせたまま、ゴツゴツした床で眠るわけにはいかないだろう。
明日は筋肉痛になるという脳の訴えを退け、再び斧を手にした。




