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これだよ…

「スズネちゃん、ただいま!」

「おかえり、リリリア」


 木を切って、川でのんびりして、綺麗な星空を眺めて、という平和な毎日を過ごしているうちにリリアが帰ってきた。

 何日か会話していなかったため、また名前を噛んでしまったが、この間よりマシだろう。


「私がいない間、寂しくなかった?」

「大丈夫だったよ」


 むしろ快適だった。


「本当に? 寂しくて夜も眠れなくて、弓矢に手紙を括り付けて送ろうとしたりしてない?」

「……それはリリアがしようとしてたことじゃなくて?」

「えへへ、やっぱりスズネちゃんは私のことを良く理解してくれているのね。……運命の出会いってやつよね、これ?」


 いや、リリアが分かりやす過ぎるんです。

 適当に言ったものの、正解していたようだ。


「それより、凄い荷物だね」


 リリアはその背に、身体の3倍程の横幅を持つリュックを、はち切れそうなほどにパンパンにさせて帰ってきた。

 多少の荷物はあると思ったが、まさかここまでとは。

 人の一人でも入っていそうだ。


「あ、これはね、毛布とかコップとか、生活に必要なものをひたすら詰めてきたの。流石に今のままじゃ不便かなと思って!」

「毛布!? 毛布って言った!?」

「い、言ったけど……どうしたの?」

「ちょ、ちょっと見せてもらうよ!」


 彼女が背負っていたリュックを下ろして、中を物色する。

 色とりどりの女性物の服に、俺も着れそうなシャツやズボン。

 リリアの父親のお下がりだろうか。

 なんにせよ、ちゃんと俺の分も持ってきてくれるのは嬉しい。

 しかし、今見つけたいのは衣類ではなく……。


「そ、そんなに奥まで見ないで……」


 時と場合によってはいかがわしく聞こえる言葉も無視して、リュックの奥に手を突っ込む。

 これだ。手のひらに伝わる柔らかな、人肌に優しい感触。

 そのまま引っ張ると中身を全てぶちまけてしまうので、一度手を抜いて落ち着き、リュックを解体していく。

 爆発寸前状態まで酷使していただけあって、中身を床に置いていくだけで、歩くスペースがなくなってしまいそうだ。

 だが、ついに毛布以外のものを出し切ることができた。


「あぁ……これだ……これだよ……」


 リュックの中で手を動かし、毛布をこねくり回した。

 バラエティ番組でよく見る、箱の中身を当てる企画。

 誰が行っても毛布と即答できるほどの高品質な肌触り。

 リリアの家は名家らしいし、使っている素材も一級品なのだろう。

 持ち上げると、明度の低い、高級そうな赤が目に入った。

 まさか毛布が手に入るとは……。

 幸いにも、今のメルンヴァラは、日本における春頃の気温であり、おかげで夜は寒くない。

 とはいえ、記憶の上では布団に入って眠るという生活を何十年も続けてきたため、何もかけずに寝るというのは何処か落ち着かなかった。

 寂しさにも似た感情を覚えていた。

 しかし、リリアの気遣いのお陰で、ついにその生活とおさらばできるのだ。


「リリア……本当にありがとう」

「え!? スズネちゃん泣いてるの!?」


 気付けば、俺の目からは涙が溢れていた。

 もちろん悲しくはないし、顔が歪みもしない。

 特有の過呼吸が起こることもなく、本当に、一人でに涙が流れている。

 布団が手に入ったことで泣くなんて、この世界に来た時は想像していなかったな……。

 突然、興奮して突然泣き出すという情緒不安定ムーブをかます俺に戸惑うリリアだったが、すぐに笑顔になると、両手を広く開いた。


「どうしたの〜。ほら、私の胸で泣いていいのよ」


 そう言うとリリアは、その大きな胸で俺を包んでくれた。


「悲しくて泣いてるんじゃないことくらいは私にもわかるわ。きっと、ホームシックになっちゃったのね。でも、これからは私がスズネちゃんのお家になってあげるからね」

「あ、ああ…………これは……」 


 何日か前にも同じ事があった気がするし、リリアが家になるってどういうことかと思ったが、その感触と、甘い匂いのダブルパンチでそれどころじゃない。

 俺の涙は止まり、再び理性との戦いが幕を開けたのだった……。


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