らくらく斧太郎
洞窟の入り口から、心地の良い眩しさを感じる。
爽やかに澄んだ空気を吸い込み、細胞が目覚めるのにつられて目を開ける。
二時間後。亀並みの速度で昼飯を済ませた俺は、斧や、それに似た武器を作る方法を考えていた。
その結果、形だけそれっぽいものを作ってみてはどうだろうと思い立つ。
まず、長めでそこそこの太さのある木の棒を拾ってくる。
次に、メインウェポンであるナイフを取り出し、棒の先端を削って尖らせる。
そして、ナイフのように鋭くなった先端から少し遡った場所に、木の蔓で十字を作るようにくくりつける。
「……まぁ、うん。それっぽいよな……?」
斧といえば手斧、投げてもよし、殴りかかってもよしの優れものだが、俺が作成したのは少し違う。
ゲームでよく見る「ハルバード」をイメージしてみた。
ハルバードは斧だけでなく、槍や鉤を組み合わせたような武器であり、叩き切る以外にも、突いたり引っかけたりという使い方ができるのだ。
流石にナイフを付けたくらいで引っ掛けるは無理だが、用途としては同じような武器と言えるだろう。
事実、作成後にポイント交換の項目を見ていると、【らくらく斧太郎】という、なんとも脱力するネーミングの斧が追加されていた。
「いや、名前ダサすぎない……?」
本音が漏れつつも、らくらく斧太郎の解説文を読んでみる。
【らくらく斧太郎】
従来の斧とは一線を画す手軽さを体験してみませんか?
瞬時に、好きなように木を切れる優れものです。
でも、いくら楽しいからと言って、過度な環境破壊はいけませんよ?
※今ならカバー付き
海外サイトで売っている便利アイテムの説明文を日本語訳したような文体だな。
二万ポイントもするが、瞬時に、好きなように木を切れるというのは魅力的だ。
早速購入してみると、目の前に、牛皮のカバーを纏った斧が落ちてきた。
カバーは紐を巻いて留める形式になっていて、本体を取り出してみると、ごくごく普通の両手で持つ斧だった。
果たして、本当に、楽に木を切り倒すことができるのだろうか。
環境を適度に破壊するために外へ出る。
斧を持った時点で、その使い方が脳内にインプットされた。
とはいえ、自力で木を伐採するなんて体力を使う行為を、ひよっちい自分に日に何度もできるとは思えない。
本当に使えるといいんだが。
……当然のように交換したが、最初の動画が意味のわからないバズり方をしなければ、俺はいつまでも狩しか行えず、生活は旧石器時代以下だっただろう。
ちなみに【神様ありがとうセット】という、ビールやつまみが合わさった商品もあったが、ノーリアクションでスルーしておいた。
「……よし、この辺にするか」
洞窟から少し離れていて、川のある程度近く。
氾濫しても被害がなさそうな位置に家を建てようと思う。
水もポイント交換できるとはいえ、飲む以外にも使い道は多岐にわたる。
いい加減、川の冷たい水で身体を洗うのもやめにしたいしな。
もし風呂を作るとなると、ペットボトルの水だけではどうにもならない。
そのため、川を水源として引っ張ってこれるよう、出来るだけ近くを建設予定地とする。
今使っている洞窟はどうしようか。
神への感謝を表す、小さい神像を作って祀るのも良いかもしれない。
彼が原因とはいえ、夢のような世界に送ってくれたことに関しては、一応の恩は感じている。
さて、ここからは実際に身体を動かしていこう。
斧の性能を試すため、斧を構え、横から木に切り込んでみる。
「――はえ?」
たった一撃で、木が真っ二つに切断される。
まるで、最初から切られていたものをなぞったような、それ程までに滑らかな断面。
斧には木屑の欠片すら付着していない。
「楽すぎる……らくらく斧太郎……」
文明の利器とかそんなレベルじゃない、木こり廃業だ。
しかも、刃の入れ方や強さによって、細かい加工や大きさの調整まで自在に行うことができる。
カメラに斧に、もう「そういう道具」として認識するべきだろうか。
次に使う道具が馬鹿みたいに便利でも驚かないようにしよう。




