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編集と投稿

「はじめまして! いきなりですが、俺は神様の計らいで、別の世界からメランヴァラへ生まれ変わった人間です」


 口の中が乾く。

 水脈のない砂漠かと思うほどカラカラだ。


「せっかくいただいた第二の人生、今日からこの世界で生きていく様子を、実況動画として残していこうと思います」


 ちゃんと話せているだろうか。

 誰かが俺の動画を観てくれるのだろうか。

 分からない。

 だが、今はやるしかない。


「精一杯頑張っていくので、応援してくれると嬉しいです!」


 深く頭を下げる。

 脳内で5秒ほど数えて、ゆっくり姿勢を戻す。


「それでは、今から皆さんにご覧いただくのは、俺がメルンヴァラに来てから三日間のまとめになります。『こいつ、頑張って生きてるな』とか『暇つぶしにはなったな』という方は、ぜひチャンネル登録お願いします!」


 ・


「……よし、こんな感じでいいかな」


 今さっき撮ったばかりの自己紹介素材をタブレットで確認し、ひとまず合格とした。

 数分喋っただけなのに、どっと疲れが出てきて、野原に大の字で寝そべる。

 雲ひとつない青空だ。

 新鮮な空気を吸って心を落ち着けていると、徐々に口の中に水気が戻ってきた。 

 自己紹介部分は撮れたが、果たして本当にこれで良いのだろうか?

 どうすれば楽しんでもらえるのか、不快感を与えないのか。

 伝えるべきことや、伝えなくても良いこと。

 俺が異世界に転生してからまだ三日しか経っていないが、かなり濃密な毎日だった。

 しかし、それら全てを詳細に伝えることは求められていない。

 たとえば、映画には数十時間分のシーンを撮りながらも、実際に使われるのはわずか二時間分ということがあるらしい。

 監督が素材を吟味し、本当に伝えたいことや、表現したいことに近しいものを選ぶのだ。

 それと同じように、俺も自分の三日間を振り返り、ケーキのように切り分け、持ち上げる必要がある。 

 簡単に言えば、ペルソナを設定するというやつだな。

 まさかニートの俺が、こんな難しそうな言葉を使う日が来るなんて。

 動画内容的に、最初に自己紹介をして、転生させてもらった人間だという珍しさで興味を引いた方がいい気がする。  

 友達でもない知らん人間の動画なんて、特別興味を惹かれる部分がなければ歯牙にも掛けないだろう。


「……とはいえ、名前はちゃんと名乗った方がいいよな。撮り直すか」


 いくつか改善点を考ると、水を一口飲み、呼吸を整えて口を開く。


「はじめまして! 俺は神様の計らいでこの世界に生まれ変わった人間で、スズネと言います」


 フルネームだと覚えてもらえない可能性があるだろうし、名前だけを名乗る。


「神様にいただいた二度目の人生。今日から、俺が生きていく様子を実況動画として残していこうと思います」


 殺したのも神だけどな。と言いたいのは山々だったが、無駄な情報なので我慢した。


「精一杯頑張っていくので、応援してくれると嬉しいです! 今から流れるのは、俺がここに来てから三日間の映像です。それではどうぞ!」


 ……若干のテレビ番組感があるけど、まぁいいだろう。

 冒頭部分が撮れたので、次はこの世界に来てからの素材の選別だ。

 活力を感じる場面を多く選ぶ。

 特に、焚き火や武器の製作といったシーンは重要だろう。 

 その後の並べる作業では、森の探索や狩りをしているところをバランスよく配置。

 あまり長いこと流していると飽きられてしまう。

 それだけではつまらないので、恥ずかしいが、笑いどころとして、木に引っかかって転ぶ場面も入れておこう。

 神と関わった人間ということで警戒心、ないしは恐怖心を持たれているだろうし、ここでそれを緩和したい。

 そして最後に、洞窟で暖をとって寝るところ。


「意外とぽんぽん進んじゃったな」


 これで大体三十分くらいの動画になった。

 芸能人なんかが自分の休日の様子を動画にしているのを思い出し、それを参考にしてみた。

 ……だが、これだと少し長い気がするので、再度動画を確認しながら余分な箇所を削っていく。


「水を汲むのはペットボトルを見せないようにして……後は家がバレないように……」


 展開が被っていたり、冗長だと感じる部分を削除すると、動画は二十分ほどに短くなった。

 本当は、後五分ほど短くしたかったが、これ以上減らせる部分が見当たらない。

 まだ選球眼が養われていないのだろう。

 仕上げに少しだけ編集し、見やすさを追求してみよう。

 効果音を少し入れてみたり、自己紹介の部分に文字入れする。

 最後に寝るところで暗転させて、一日の終わりを表現してみた。

 そんな作業を3時間ほど続け――。


 「やったぞ! 完成だ!!」


 ついにはじめての動画が完成した。

 お世辞にもクオリティが高い動画とは言えないが、はじめてにしては頑張ったと自画自賛する。


「公開……してみるか?」


「でも閲覧0だったら凹むなぁ」


「酷いコメント来ないといいなぁ」


「まぁ……せっかく頑張ったんだし、とりあえず公開してみるか……」


 動画制作までは気合十分に行うことができたが、投稿となると手が止まってしまう。

 叩かれたらどうしようとか、いきなり家を特定されて凸られたりとか、心配が絶えない。

 そうして不安と緊張から一人会議を開き、小一時間悩んだ末に、ようやく動画を投稿することに決めた。


「悩んでもしょうがない! なるようになれ!」


 決意を固め、画面右下に表示されている《動画を公開する》を押す。

 ……これで投稿された……はずである。

 達成感に満たされながら、大きく伸びをする。


 「疲れた……外に出て今日の昼飯を……」


 決意してからすぐに動画作りを始めたのに、洞窟から出てみると、空がオレンジ色に染まっていた。


「自己紹介の動画を作るのにここまで時間がかかるのか……」


 普段、何気なく見ている一五分の動画の裏には、凄まじい労力がかかっていると身をもって実感する。

 とはいえゆっくり休んでいられない。

 急いで食料を探しに行かなければ。

 空になったペットボトルをリュックに入れ、本日の探検へと飛び出す。

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