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この世界に転生して三日目。
昨夜、何やら夢を見た気がするが、それはシャボン玉のようなもので、簡単に割れて忘れてしまった。
腑に落ちない気持ちはあっても体調は良い。
万全ではないが、一応の安全を確保することに成功した俺は、ついに娯楽を楽しむ時間を手に入れた。
家具も何もない我が家。
水を汲むのには往復一時間歩かなければならないし、食料が毎日獲れる保証もない。
それでも癒しがあれば、この生活も苦じゃないと思っている。
いずれは畑をこしらえて自給自足の生活をしたい。
むしろ、働く気もないのに無駄に心を蝕む焦りが消えて、気分的にはこちらの生活の方が良い。
同年代の人間はどうだとか、世間はどうだとか、この世界では関係ないからな。多分。
そして、神はこの世界でも実況動画を楽しむことができるように、オーバーテクノロジーのタブレットを用意してくれた。
電波とか新着動画の更新とか、きっとすごく大変なんだろうな。感謝してもしきれない。
「ありがとうございます神様……いつか像とか作って祀ります」
心からの感謝を天に捧げつつ、宝物に触るように、あるいは初めて女子と手を繋ぐ時のような優しさでリュックからタブレットを取り出す。
まぁ、女子と手を繋いだ事はないが。
タブレットはA4サイズで、右側面には小さいボタンが一つ、左側面には二つ付いている。
おそらく右側が電源ボタンで、左側は音量のボタンだろう。
元いた世界でも流行っていた、フィグス製のものによく似ている。
できる限り馴染みのある形にしてくれているのだと、細かい配慮を感じ、再び感謝の念を抱く。
強いて言えば、ホラー実況やミュージックビデオのような、聴覚へのアプローチが重要な動画を観る時のためにイヤホンジャックも欲しかったが、流石に欲張りというものだ。
そこに対する工夫は、後々自らの手で行うとしよう。
箱の中にスマホを入れて映画館風にするの、一時期流行ったよね。
「それじゃあお待ちかねの動画タイムといきますか」
意を決して電源ボタンを押してみる。
画面に反射して写る、元の世界より何倍も整っている俺の顔はにやけていて気持ちが悪かったが、それもすぐに消え、いわゆるロック画面が現れた。
特にロック画像が設定されているわけではなく、真っ白な画面に、何やら通知が一つだけ。
『3本の動画があります』
……新作動画の通知だろうか。
俺が登録している動画チャンネルからの通知か?
それにしては本数が少ない気がする。
生前の記憶では、自分のアカウント宛には、毎日50ほどの新着動画を知らせる通知が来ていたはずだ。
まぁ、実際に見てみれば、それが何を知らせるものかわかるだろう。
軽い気持ちで指を右にスライドすると、ロック画面が消え――。
「……は?」
『1日目』
『2日目』
『3日目』
という3本の、未だ見慣れない自分がサムネイルに写っている動画が表示されていた。