今時の若い子の感覚
つい数日前、うちの部署が中心となり、ある式典を開いた。
珍しく会長もやって来て、予定に無かったはずの会長スピーチまでノリノリで行っていた。
また、来賓関係では当初の予定よりも大物が来ることになるなど、感染症対策によりイベント縮小ムードの現在にあっては比較的華やかで、賑やかな催しとなった。
式典終了後、会社のホームページに今回のイベントについてをアップするようにと、恐らく会長か社長からの指示なのだろう、秘書室から連絡が入った。
元々ホームページにあげる必要があると考えていた為、式典当日は事前に決めておいた撮影要員が随時パシャパシャ写真撮影していた。
式典の翌日、データを落とし込んだ記憶媒体のメモリースティックを、撮影担当者から受け取った。
さて。
だ・れ・に・し・よ・う・か・な。
きっと若い子の感覚が新しくて良いだろう。
おじさん連中(自分もそこに含まれるのだろうが)に任せると、頭でっかちの、頭の固いページに仕上がる恐れがある。
我が部署が誇る、若く新しい風。
直属の部下、若手女性社員の花畠さんにメモリースティックを渡し、ホームページに掲載する写真の選定からページ作成までの仕事の一切を指示した。
そして、千枚以上の画像データの中から花畠さんが選んだ写真は計5枚。
①除幕前、②除幕後、③取り付け作業中、④取り付け後、⑤会長インタビュー、の5枚の写真だ。
ふむふむ。
なかなかに、いいセンスだ。
式典の流れが順を追うように分かるのも良い。
空の青さと高さ、木々の緑が美しいのも良いし、⑤の会長の生き生きとした表情がとても良い。
③の、取り付け作業中の写真……作業服にヘルメットにマスクの姿の作業員が2名。
③の写真全体は、ほぼほぼ作業服で、写真の下部、屈む作業員の手元(足もほぼ同位置だが)に設置物が一応見えてはいる。式典の流れ、順序は確かに分かりやすいのかもしれないが……でもこの写真、本当に要るだろうか?
「はいっ部長、私は確信を持って、3枚目の写真は必要だと思います!」
「だが、くすんだグリーンの作業服2名が写真の大部分を占めていて、見映えがしないだろう」
「そんなことはありません! 働く男の作業服姿に萌えを感じる女性は部長が思うよりもきっと多いと、私は思うんです! そこにときめく女子は多いはずです!女子達にはキュンが必要なんです! 働く男達の汗やヘルメット、作業服は尊いんです! それに、2枚目と4枚目の写真は撮影位置、構図が同じなので、空と地面が同じ割合で写り込んでいて、写真が似て見えるんです。3枚目を挟むことには視覚的にも意味があると思います。目を飽きさせない為にも、似たような2枚目と4枚目の間に、色味や雰囲気が異なる3枚目をワンクッションで入れる効果は十分あると、私は考えます」
「あ、あぁ。そうか……。だ、だが……、3枚目はおじさん2人の写真だし、こう……、何と言うか、パッとしない、だろう?」
「いえ、決してそんなことはありません! ヘルメットにマスク、そしてほぼ横向きなので、顔はほとんど分かりませんし、イケメンかどうかも、年齢も、写真を見てバレなければ何の問題も無いんです! 作業服にメットにマスクで妄想……幸せな想像が出来るんです! 我が社の業務に馴染みが無くて、仕事内容にイメージを持つことが出来ていない人にも、写真の作業服姿から我が社の仕事、従業員の仕事っぷりを何となく想像して貰えますから」
「……そ、う……なの、か……?」
「はい! そうです!」
「あ、あぁ。では、花畠さんに任せるよ……」
「はい! 有り難うございます!」
数日後、ホームページを見たという会長から、直々に声を掛けられ、お褒めの言葉を頂いた。
「写真のチョイスが良かったわ。私が綺麗に若く見える、笑顔の写真をちゃんと選んでくれていて。作業員の写真も良かったわ。会社の仕事のアピール、イメージアップにも繋がる写真で、特に良かったわ!」
「……はい。有り難うございます」
今時の若い子の感覚とは素晴らしい。
あの会長が認めるとは。
自分には無い感覚、流石、若く新しい風だと、しみじみ思うのだった。