281話
場所は戻り、再び帝城へ。
現時点では特にする事はないを理由に、商会で取り扱う商品の数々を紹介。
それらはアレックス専属であるファイ。
彼女を含むナンバーズによって運ばれ、トリで登場するは最初にして最高スペックを誇るアルファ。
彼女が。
彼女だけがメイド服ではなくドレスアーマーを身に纏い、どこからどう見ても高級品。
加えて、アルファ達は大凡が機械━━━金属で出来たゴーレムみたいな存在で、オストマ討伐時の主戦力でもある。
これらの情報に、貴族達は挙って白目を剥いた。
「アルファ達の事はこの位で良いだろ。それよりこの品々についてだが━━━」
流石はホズミ商会営業担当。
パンパンと手を鳴らし、何事もなかったが如く商品の説明に入るアレックス。
あまりの急変ぶりに付いて行けない者が一定数出るも、当人はお構いなし。(かつてのオストマみたく、その場で買い上げようとする輩を防ぐとの目的も)
サクサクと進行していく様に、あまり乗り遅れる訳には…と否が応でも耳を傾けざるを得ない状況に。
「━━━以上だ。」
それから1時間強。
ポーション等の消耗品から始まり、お菓子、化粧品、嗜好品、玩具の解説を終える。
何を原材料として用い、どう使う或いは遊ぶのか。
どんな感触や舌触り、風味や食感、喉越しなのか。
どの様な効能効果を齎すか。
ザックリではあるものの、彼のプレゼン力に貴族らは舌を巻き、それに伴いアレックスへ対する評価も上がった。
「んで、だ。こうして現物を目にし、話を聞いても実際どんなもんかまでは分からない…そうだろ?」
貴族の何割かが相槌を打ち、同意の言葉を漏らす。
心裡をアレックスが代弁し、それに応えた形とも。
これだけの数の品物だ。
見た経験がない物もそれなりにある事から、ある種当然と言えよう。
「ならば実際に知れば良い…と言う訳で、こっからは体験。並びに体感の時間だ。各々興味があるスペース、希望する商品の前に向かってくれ。コレを試したいと言えば、こちら側が用意する。」
「費用は?」
「実体験と言ったろう?当然、無料だ。ただ、数に限りがある。これだけの人数がいるからな。申し訳ないが堪えて欲しい。なくなり次第終了とさせて頂く…では、スタート。」
貴族の1人が挙手。
彼の問いに答えつつ、言い終えると同時にパンッとアレックスが柏手を打つ。
「ほらほら、先着順…つまりは早い者勝ちだ。アルコールとかシャンプーとか、一部対象外の物はあるがこの世界にはない…未知、或いは最先端とも言える技術が詰まっている訳だ。
他の緻密な装身具や道具(高級グラスや切子、万華鏡等)含め、それらが無料。無料で試せるんだぞ?直接触れられるんだぞ?勿体ない例えだが、落とした結果壊れてしまっても構わない位だ。この機会を逃すなんて、あまりにも勿体ないとは思わないか?」
そうアレックスが仄めかすや、つい今しがたまで鈍かった貴族達が過敏過ぎるまでに反応。
忙しなく動き回り、手当たり次第に試しては目を輝かせる等する。
尚、彼が述べた通り、水や湯。
拭く物を必要とするからシャンプーの類い。
それと今後の業務等に差し障りがあるを理由に、アルコール類はお預け。
代わりに、化粧品からはドライシャンプーや洗い流さないタイプのトリートメントにヘアオイル。
嗜好品はコーヒー、ココア、ノンアルコールのビール、ワイン、カクテル、ハイボールを用意。
肌や髪が綺麗になった、艶が出た、少しではあるが悩みが改善された。
初めて体験する質感や味等とは別に、上記の嗜好品は小口サイズのお菓子(クッキー、ラングドシャ、ブラウニー、どら焼きetc…)と相性が良いとして喜ばれ、(ポーション類は中級までではあったものの)いずれも高い評価を得るとの結果に。
ついでに、「むっ!」「何だこれは…!」「うーまーいーぞーーー!!」「(栄養ドリンクを飲んで)物凄く元気に!?」「滾る、滾るぞォ…漲るァァァァァァァ!!」みたいな感じで、気炎を上げる者もチラホラ。
となれば、途端に欲が湧くのが人間と言うもの。
「アレックス皇子殿下では荷が重かろう。私が代わらせて頂く。厳密には、ウチが抱える商会が…だが。」
頼んでもないのにしゃしゃり出たのはフェルナンド。
出遅れた、とばかりに何名かが顔を歪める辺り、似た考えの者がそれなりにいたとの証左にも。
「え、無理じゃね?色んな意味で。」
これに、当然の如くアレックスがバッサリ。
彼は女性━━━特に年頃の子女達から話し掛けられている真っ最中。
子女らは、伯爵家以下を中心に構成。
商品に対し、興味津々風を装ってはいるが…本当に狙っているのは彼自身。
人の良い笑みを浮かべ、柔らかい口調で接しているものの、内面は紛う事なき肉食獣とも。
ただ、その本性と言うか。
いずれもがネガティブなイメージだったり、視線を当人に向けたとの過去が。
無論アレックスは把握しており、表面こそ微笑ではあるものの、あくまでも客と従業員的な心境を抱くのみ。
歳の近しい子女に囲まれようが、微塵も心動かされてはいなかったりする。
「何故だ?上手く使ってやれば良いだけの事ではないか。何より、公爵家の専属になるのだ。誉れ高いと咽び泣くところではないか?」
「誉れ高いねぇ…なら聞くが、ゾンドルキア家はダライド帝国代表か?他の公爵家や、俺達皇族よりも上なのか?」
「…そこで、何故国が出て来る。」
うちは帝国1の資産家との自負があるも、流石に皇族程ではない。
また言葉にするのは(今この場に於いて他家を敵に回すとの意味で)憚られ、皇族に対しては恐れ多いとしてどうにか飲み込む。
「商国を下に置き、獣国との関係は良好。神聖国とは付き合いが始まったばかりだが、既に教皇と懇意の間柄。そんな大商会とも言えるホズミ商会を、お前ら如きが御する?何の冗談だ?」
「ふん。大方、献金なりして地位を得たとかそんなところだろう?私は騙されんぞ。」
「なら、これらの数々についてはどう説明するんだよ。まさか偽物だとでも言い張るつもりか?見て触れて味見まで出来るのに?」
「それは…そう、迷い人が考えた浅知恵━━━」
「浅知恵なのはオメーだ。物に対しての意見を求めてんのに、迷い人が考えただぁ?どっから迷い人が出たかは知らんが、間違いなく却下だ。理論に値しねぇ答えなんて要らねーんだよ。」
「ぐぐ…!」
吐き捨てるアレックスに、フェルナンドが歯噛み。
そうこうする内に、凛達が到着した様だ。
ステラ、ニア、アンジェリーナの3名が外れ、代わりにシニョンに纏めた赤髪美人が同行。
彼ら彼女らの存在にアレックスが「お、ようやく来たか」と水を向け、釣られて凛サイドや皇族や貴族。
最後にフェルナンドがそちらを見やる。
「ん…?何だ、トカゲ?どうやってここに入り込んだ?」
その途中、フェルナンドは地を這う赤い小さなトカゲ(みたいなもの)を発見。
場にいるほとんどが突如出現した━━━━当然ながら、普通に扉を開けて入った━━━━この世のものとは思えない美姫達に息を呑む中。
割と近くにいる小さな存在に彼だけが気付き、訝しんだ後、何をトチ狂ったのか「薄汚いトカゲ風情が。この場で消し炭にしてくれる」と魔法の詠唱に入る。
「ファイアーボ━━━」
間もなく魔法発動。
そのタイミングで、彼を中心に火柱が発生。
火柱は3秒程で消滅し、フェルナンドは生きてはいたものの軽く全身黒焦げ状態。
気を失っており、無抵抗のまま後ろへドサリと倒れ込んだ。
皆がいる前にも関わらずいきなり魔法を放とうとするフェルナンドも大概だが、何の兆候もなく巻き起こった火柱に辺りは騒然。
彼が倒れるのを合図に悲鳴が起き、しかしながら全く気にしていない足取りで赤いトカゲへと近付く、1人の人物。
「失礼。もしや貴方様は精霊、それも高貴な身分に属する御方ではありませんか?」
アレックスだ。
膝を突き、妙に畏まった態度での挨拶に貴族達は面食らう。
これは勿論、計算ありきの行動。
かなりわざとらしいとも取れる彼の物言いに周りが「え?」となり、「そだよ〜ん」と返事しつつモヒカン少年へと姿を変える、小さな赤いトカゲ…もとい高位精霊。
「ちょいと前までは高位、今は大精霊となった『サラマンダー』だよぉ。君がアレックス?よろしくねぇ…あ、喋り方は普通で良いよん。」
「おう、アレックスだ。よろしくな。んで早速だがサラマンダー、さっきのは擬態…そこの馬鹿を欺く為の演出とかか?」
「せぇ〜か〜い〜!」
「まんまと引っ掛かった訳か、ダサッ。取り敢えず、コイツの事は捨て置いて…サラマンダーは見た目的に炎を司るとかだろ?」
「そだよぉ。」
「となると、ソルヴェー火山の関係者の可能性がある訳だ。」
「そうなるねぇ。」
「離れて大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃあないねぇ。」
凛達の登場に併せ、姿を見せた赤いトカゲ━━━だと思った存在が実は大精霊。
しかも人型へ姿を変えたと来た。
当然全てを鵜呑みにしたとかではないが、(そこそこの使い手である)フェルナンドを相手に全く歯牙にも掛けないとの見解から、そう間違ってはいない。
畢竟、ソルヴェー火山の関係者であるのも強ち嘘でもない?との判断に至る貴族達。
「ままま待って欲しい、ソルヴェーは?ソルヴェー火山は今後どうなる?」
「そうよ!まさか、そのサラマンダーがいなくなった影響で休眠するとかじゃないでしょうね!?」
「休眠んんん!?ルイーズ、滅多な事を言うでない!しかし実際どうなんだ!?なぁ!?」
となれば、1番割を食うのはゾンドルキア公爵家。
ソルヴェー火山の恩恵を最も受け、同時に生命線でもあるのが彼の家に当たる。
現当主ゾルダ・ヴァン・ゾンドルキア公爵とその娘ルイーズにとっては重大事案。
気が気でなく、詳細を詰めんとアレックスへ急接近する。
「俺に聞くなよ…で、そこんとこどうなんだ?」
令嬢達がたじろぎ、恐怖から(物理的に)距離を取る一方。
当のアレックスはこれっぽっちも気負わず、むしろ肩を竦めるものだから余計に不安を駆り立てさせられる、ゾンドルキア父娘。
「ん〜〜〜…不合格、かなぁ。」
「ふ、不合格?それは、どう言う意味で━━━」
「協力したくない、このまま離れるが答えだねぇ。」
「何故…。」
「何故?(ファイアバードを通じて)知ってるよ〜?君達さぁ、自分が豊かに暮らしたいからって、やりたい様にしてるでしょぉ?なら、分かるんじゃないかなぁ。」
「それは…だがしかし。」
「燃やされたい?」
ゾルダの往生際の悪さに、若干機嫌が悪くなるサラマンダー。
炎のオーラみたいなものが彼の周囲を漂い始め、青い顔をされる。
「なんてのは冗談でぇ、時間の問題かなぁ?君達みたいな欲望丸出しの人達が近くにいるだけで住む気が失せる…当然だよねぇ?だからオイラはあそこから離れる。他にも大精霊がいるって話だしぃ、会ってみたい。」
「資源…ソルヴェー火山で採れる資源は!?」
「一応はあるんじゃなぁい?核はオイラが飲み込んじゃったから大分控えめになるだろうけど。」
サラマンダーがのほほんと言い放つ。
それとは対照的に、驚きを隠そうともしないのはゾンドルキア父娘。
「はぁ!?」と叫び、貴族達も驚愕の事実に目を見開くのだった。




