255話
「あ、困ってるみたいだ。それなら助けなきゃだね。」
岩の壁の向こうにいる女性(?)からの救援要請と受け止めた凛は、一先ず目の前で無理矢理戦わされるティラノサウルスとブラッディベルゼルガをおとなしくさせる事に専念。
「なら、あっちの方は私が行くのです!」
「梓やる気だね。相手もドラゴンだからかな?」
「なのです!」
「分かった。でもあのティラノサウルスと話がしてみたいからさ、出来れば倒さないで貰えると助かるかも。」
「分かったのです!」
「なら、あの黒いワンちゃんは私が━━━。」
「棗はもう十分暴れただろ?ここはアタイの出番さね。」
「むぅ…。」
そこへ梓とルルが立候補。
双方共にむふーと鼻息を荒くし、如何にもやる気充分!と言った感じで方針を決める。
「…!グルルルル…。」
ケツァルコアトルの姿となり、地上約1メートルの高さでふわふわ浮く梓。
ゆっくりとティラノサウルスの背後へと向かい、丁度吹き飛ばされた彼(彼女?)と目が合い、向けられる敵意。
それはルルを相手にするブラッディベルゼルガも同様だった。
ティラノサウルスはアルバートサウルスから、ブラッディベルゼルガはバーゲスト→ブラッドファングを経ての進化。
ウォーヴォルフはウェアウルフ系の最高位で、いずれも立ち位置的には神輝金級上位の強さ。
「クワァァァ!(私が貴方の相手をするのです!)」
「グォガァァァァ!!」
「バウワウワウ!!」
「あーもう、五月蝿いったらないね!」
梓が吼えた事で、ティラノサウルスが対抗。
ブラッディベルゼルガもしっかり誘発され、ルルが片耳を抑える。
そうこうしている内にティラノサウルスが50メートル程離れた梓へ頭から突っ込み、受け止められ、互いが前に押し合う形で力比べが始━━━
「ガァァァァ!(ガキン)…?」
「クルックルックー。クルルルゥ♪(ふっふっふー。甘いのですー♪)」
らなかった。
一応、5秒程度なら行われ、大きく口を開けたティラノサウルスが梓へ噛み付いたまでは良かったものの、身体強化&ジャガーノートのスキル硬化で体を硬くして防御。
「?」
バシッ
「グォォォ!?」
何物をも砕くはずの自慢の歯が一切通らず、隙だらけとなったボディに梓は尻尾を当てて吹き飛ばし、そのまま岩の壁へ。
バキィィン
「ちょっ!?」
幸か不幸か、ティラノサウルスが向かったのは先刻声が聞こえた場所。
彼女(?)が展開した壁を破壊した先にある、本来のオーバ山の壁への激突でようやく止まる。
自身を守る為に用意した壁があっさり粉砕された事に女性(?)は慌てた様子で声を上げ、どこかの蛇よろしく最低限だけ岩っぽいものを纏い、コソコソと隅っこへ移動。
そこから紙の箱…ではなく厚い厚い岩の壁を生成し、完全に引き籠った。
「梓ー!(ティラノサウルスを)そっちに飛ばしたらダメだよー!」
『(ごめんなさいなのです。これからは方向も考えて戦うのです。)』
主の指摘を受け、申し訳なさそうにした後、再びゆっくりとティラノサウルスがいる方へ向かう梓。
彼女から受けた攻撃で更に頭に来たのか、起き上がったと同時にティラノサウルスがダッシュ。
猛烈な勢いで以て、体当たりを仕掛けて来る。
梓は防御態勢でティラノサウルスを受け止め、2体はそれから一旦離れては体当たりを行うを何回か繰り返した。
「ガァァァ!」
「…!(やらせないのです!)」
少しして、尻尾を振り回そうとするティラノサウルスに気付いた梓がその場で回転。
遠心力の乗った、尻尾同士が衝突。
梓の方が何倍も体が長いものの、ティラノサウルスより動きが数段速く、それでいてコンパクトに動いた事で威力が増大。
気持ち不利な状況だったにも関わらず、同じタイミングで繰り出した互いの尻尾が当たるや、吹き飛ばされたのはティラノサウルス側。
加えて、先程より速く強く壁に衝突。
戦意も体力も削ぐのに成功したらしく、ズルズルと崩れ落ちていく。
その数秒後、しかもそう遠くない位置に叩き付けられるはブラッディベルゼルガ。
「ふぅ、まぁこんなもんさね。」
こちらは睨むだけの体力こそ残されていたものの、満身創痍。
唸り声もルルル…と弱々しいものへと化した。
「クワーッ!(アースハイヒールなのです!)」
「…!グルル…。」
2体の元へ向かった梓が、土系上級回復魔法アースハイヒールを行使。
ティラノサウルスはパチリと目を覚まし、驚いた様子で立ち上がったかと思えば周囲をキョロキョロ。
程なくして梓に焦点を定め、彼女の事をじっと見る。
「梓ー、そのティラノサウルスにどうして岩を破壊してたか尋ねて貰って良いー?」
なんて尋ねつつ、凛は戦いを邪魔されたを理由に怒り狂うウォーヴォルフを蹴り飛ばす。
「グォアォアォアー!!」
「またそれ?何度やっても効かないのに、懲りないなぁ…っと。」
「ギャン!」
体勢を整えたウォーヴォルフが咆哮と共に、スキル『凶虐化』を発動。
闘争心を掻き立て、理性を失わせ、凄惨の限りを尽くすとの効力を持つそれは、隔絶した精強さを持つ凛の前だとほぼ無力に成り果てた。
わずかばかりチリっとノイズが入っただけで終わり、捕らえようとした合間を縫ってサマーソルト━━━偃月。
からの高速移動での踵落としを見舞い、バウンドしたところを猛烈な風を帯びた突きこと颱擘で正面へと殴り付け、短い間隔の転移こと飛燕による追撃が複数回。
「はっ!」
白目を剥きながらくの字で吹き飛んだ先、圧縮した気を用いた攻撃…霞穿を背中に叩き付けられたウォーヴォルフ。
盛大に息を吐かされた挙げ句、強制的に覚醒。
「誰か、(ウォーヴォルフの)捕縛をお願い。」
「私がやるわ。」
最後は空中に投げ出され、凛の指示に応えた翠の手により拘束。
無理矢理動かし、ボロボロになるまでティラノサウルスとブラッディベルゼルガを戦わせたとの経緯から、凛は紛れもなく敵との判断から来ている。
なら残る2体は?
その思いから、まずは対話を試みてみて決める事に。
『(梓はそっちをお願いして良い?)』
「(分かったのです。)」
念話越しに尋ねられ、頷いた梓はティラノサウルスと話をし始める。
すっかりおとなしくなったティラノサウルス曰く、ほんの少し前に目が覚め、気付いたら体が勝手に動く様になったらしい。
どれだけ力を入れても変わらず、目の前がボヤけ始めたと思ったら何か凄いのが見え、やられてしまったとの事。
実際はひたすら壁の中で眠り、ふとした弾みで一部が砕けたところをウォーヴォルフが発見。
丁度ブラッディベルゼルガと対峙したタイミングだったのも重なり、退屈凌ぎに凶虐化スキルで自身と戦わせたとの運びに。
「(成程なのです。主様ー。)」
『(ん?終わった?)』
『(はいなのです…って、何してるのですー!?)』
話を聞き終えた梓が凛を見てみれば、まさかの膝枕中だった。
彼の太ももの上に顎を乗せ、頭を撫でられながら微睡んでいたブラッディベルゼルガは(梓の)ただならぬ気配に飛び起き、同時にハッと我にも返った。
「凛ちゃんってば凄いのよ。」
「気分を鎮め、優しく触り出したと思ったらあっと言う間だったわ。」
「職人芸って、こんな感じなんだねー。」
「絶対違うさね。いや、これはこれで大したもんだけど。いつの間にか傷は治ってるし、毛並みも良くなってるけど。」
翠、棗、翡翠、ルルの順で口を開き、ブラッディベルゼルガから距離を取られて心做しか寂しそうにする凛へ焦点が定まる。
「…こほん。早い話が彼も被害者でね。オーバ山の王として過ごし、ティラノサウルスさんとは別にあのウェアウルフが壊れた壁の向こうから現れたみたいなんだ。」
あ、誤魔化したのです。私の目は騙せないのです…と、梓が思ったのはさて置き。
咳払いを交え、何事もなかったかの様にして語る凛。
加えるならば、今朝方まではいつも通りだったのが地響きと共にウォーヴォルフが。
凶虐化スキルに抗えず、気分が荒ぶったところにティラノサウルスが姿を見せたと言った感じ。
「取り敢えず危険は去りましたし、壁の向こうにいらっしゃる貴方も出て貰って大丈夫ですよ。」
「こ、ここには誰もいないよー…?」
壁の向こうにいる存在に向けて凛が問い掛けるも、彼の言葉が信じられないのか。
将又都合が悪くなったとでも捉えられたのだろうか。
明らかに嘘としか思えない答えが返って来た。
「あの、沈黙だけは止めてくれないかな…。」
凛達は複雑な表情、呆れ、絶句のいずれかで黙ってしまい、今度は困った様子の声が届けられる。
「…お兄ちゃん。あの壁の向こうにいる精霊に、風の最・
上・級・魔法を放っても良いかなぁ?」
怒りマーク付きの笑顔+最上級の部分を強調するのは翡翠。
精霊の弱点である風魔法、その頂にあるゴッドブレスを、胸の前へ持って来た右手にて形成する彼女。
翡翠は━━━否。
彼女を含めた全員が、部屋に入るよりも早く壁の向こうにいるのが土に関する精霊だと認知。
なので、翡翠的に完全に巫山戯ている。
苦し紛れにも程があるとしか考えられず、少々お灸を据える目的も兼ね、取り敢えず1発いっとく?と魔法を構えた次第だ。
「ごめんなさーい!今すぐ出るから許してー!」
これに慌てたのが精霊。
どうして色々と分かったかは不明ではあるものの、時間を掛ければ掛ける程不利だと察した模様。
岩の壁を解除し、これまでひた隠しにした自らの姿。
2メートル程の大きさで、消炭色とでも言おうか。
全身がほんのりオレンジ色を帯びた濃い灰色、且つゴツゴツした鎧を凛達の前に晒すのだった。




