254話
「…あれ?山だからてっきり登ると思ったんだけど、下方向なんだね。」
「実はそうなんだ。意外だよね。」
「ホントだよー!」
翡翠の驚きに、凛が微笑む。
霊峰エルミール然り。
山=登り坂で進行するものだと彼女は思い込んでおり、軽く裏切られた気分だったのかも知れない。
凛は先日調べたので既に把握済み、他の面々も多かれ少なかれ衝撃を受ける。
気を取り直した彼らは、500メートル程進んで開けた場所に出るのだが…どうやらその部屋から難易度が中々に上がるらしい。
ラージディオネアマスキプラに毒属性が付与されたパープルディオネアマスキプラ、
イービルバターカップはパラライズバターカップ、
イービルミモザはコウマミモザ、
イービルウルフズベインはヴェノムウルフズベインへとそれぞれ進化。
魔銀級となり、植物系4種はいずれも体の大きさはそのままに色が濃くなっていた。
黒鉄級上位のガイアドラゴンに、シデライトスライム。
アースドラゴンからの派生で、全長15メートル程となったアルバートサウルス。
ドラゴンブラッドツリーの進化個体である、全長10メートル程のアークドラゴンブ|ラッド|《樹》ツリーの姿も。
アルバートサウルスはそれまでのスピノサウルスの見た目から、ティラノサウルスに近いものへと変貌。
嘗てのフォレストドラゴン以上に凶暴な性格で、エネルギッシュとでも表現しようか。
暴れ回る様な形で攻撃を仕掛けて来る。
アークドラゴンブラッドツリーは進化前と比べ、枝や葉っぱの割合が少し減少。
その反動か、根が太く大きくなる様はヒュドラを思わせ、幹部分にも短い腕みたいなものが生え、中級までの土魔法を使うまでに。
更に、この部屋にはキノコの魔物であるパラライズファンガス、コーマファンガス、ポイズンファンガス、
コンフュージョンファンガス、ペトリファクションファンガスも存在。
「キノコが沢山…。」
誰が呟いたか、数だけでなく見た目も多様化。
パラライズファンガスはアンズタケ、
コーマファンガスは気持ち青み掛かった舞茸、
ポイズンファンガスは紫色のしめじ、
コンフュージョンファンガスは赤いエリンギ、
最後のペトリファクションファンガスは異色過ぎると言うか、歩く石灰岩みたいな色をした椎茸的な感じ。
パラライズファンガスとペトリファクションは全体的に黄色と灰色、他は傘部分だけが上記の色へ。
元がオニテングダケをずんぐりとさせたマモノダケだとはとても思えない風貌。
どれもこれも、見るからに毒々しい色合いと化していた。
尚、ファンガス達はそれぞれ2メートル程の大きさ。
金級の強さを持ち、傘の部分から胞子を飛ばし、当たった箇所を起点に状態異常を引き起こすとの仕様だ。
「…なんて言うか、ティラノサウルスっぽい?如何にも肉食の恐竜がいて少し驚かされたけど、他は正に状態異常のオンパレードって感じで構成されてるね。」
「あはは…そだね。」
「後で代表さん達用に、状態異常を防ぐお守りみたいなのを作って渡した方が良さそうかな?」
「うーん…でも誰が着けるかで争奪戦が起きたりとか、お金目的で転売する人が出るんじゃないかな?ほら、能力が付与された装飾品自体この世界には少ないからさー。」
「技量不足と独占の可能性か。」
「そうね。凛ちゃんがここの人達を心配するのは分かるけど、皆が皆善い性格とは限らないでしょ?独占と口にした通り、少なくとも今は止めておいた方が良いと思うわ。」
「うーん、難しいなぁ…。」
凛と翡翠。
途中から翠を交えつつ、向かって来る魔物達を飛ぶ斬撃にウインドアロー、テンペストアローや植物魔法で迎撃。
(行くのですーっ!)
「やってやるぜー!」
「樹、柊。私達も行くわよ。」
「「はっ、お嬢様。」」
「…俺も行くとするか。」
凛達にばかり任せてはならないと、本来の姿に戻った梓。
ルル、棗達、丞が参戦。
金花と銀花は無理して戦わなくても良いと伝えてあり、凛達。
厳密には翠の後ろに控え、梓達の様子を眺めながら時折会話に参加。
10分程で魔物達の殲滅を終えた凛達は、ついでに高い位置に生えた土靭鉱の採取をし、次とその次の部屋へ向かう。
どちらの部屋も広くなっただけで、魔物達の種類は先程と同じ。
強いて言うなら上の方の割合が増した位か。
ともあれ、凛達が終始優勢なのは変わらない。
悉くを薙ぎ払い、降参の意を示した魔物達を配下に→屋敷へ転送して進む。
下に続く事しばし。
凛達は一層開けた場所へと出る。
その部屋から再び魔物達の難易度が更に上がったのを証明するかの如く、構成する魔物がランクアップ。
バターカップ達の中にクイーン種。
バターカップクイーン、ミモザクイーン、ウルフズベインクイーンが現れ、更に毒・麻痺・睡眠へ特化した能力に。
フルドラの中にもクイーンが。
背中の木の部分が小さくなり、ほとんどヤマネコの獣人にしか見えない。
しかし進化した事で魅了に加え、(短時間だけだが)姿を隠せるまでに。
それらを併用し、上級の土系魔法を凛達に放つ。
それとファンガスの進化系、レインボーファンガスも登場。
レインボーと謳っておきながら緑ではなく、代わりに石化を司る灰色なのはご愛嬌。
今までの5種類から、火傷と凍傷を追加した7種類を1体に統合。
単体ながら、状態異常の宝庫と言っても差し支えなければないだろう。
そんな見た目巨大なマッシュルームことレインボーファンガスは、7色の傘と胞子で構成されている。
レインボーファンガスは2回り位肥大化。
クイーン達はいずれも大きさは変わっていない反面、それぞれ黒鉄級上位に至った事で単純に美しさに磨きが掛かり、綺麗ながらも禍々しい姿のどちらかに。
後、プラテオサウルス…もとい、アークドラゴンブラッドツリーの進化個体。
神輝金級中位のカオスアビスドラゴンツリーに、その上位進化である(首を短くした)ブラキオザウルスに近い見た目の4本脚の木龍。
邪樹龍クリフォトも存在。
嘗て根だった部分がカオスアビスドラゴンツリーは6本、クリフォトは10本の尻尾へ変化。
根元から千切れ、自律型の空飛ぶ木製の蛇よろしく本体と連携。
クリフォトの方が1つ1つ大きさも攻撃力も増したそれら込みで凛達に牙を剥く。
ところ変わり、横穴の先にあったそこそこの広さの空間。
今回訪れたオーバ山、そこに住まうどの魔物より場違い感を放つ『それ』に、凛達は目を奪われていた。
「メェ~。」
「メェ~。」
「メェ~。」
「ンメェ~~。」
「ンメェ~へへへ!」
「羊だー!」
「羊ねぇ。」
「「羊…。」」
「羊なのです!」
「羊…?」
「変わった羊ね。」
「「羊ですね。」」
「…羊だな。」
「思った以上に羊だった…。」
『それ』は羊だった。
ただ、現在地は魔素点。
棗の変わった、凛の思った以上にとの発言の通り、こんな危険極まりない場所に普通の羊がいるはずもなく。
木に見えなくもない植物の上に生える、羊型の魔物。
名をバロメッツと言い、150センチ前後の背丈。
黄金色の毛を持ち、羊の下にある細長い植物部分をみょんみょんとしならせながら移動。
元はパープルディオネアマスキプラからの進化で、これでも神輝金級の強さを持つ。
中にはまだ成熟(?)し切っていないのか、羊ではなくトマトを彷彿とさせる赤い実だけを付けている者も。
凛サイド、バロメッツサイド双方がほんわかとした空気を纏わせ、やがて向こうから気付かれるを皮切りに威嚇。
伝播し、戦闘態勢に入られてからは土魔法。
その土魔法で体の硬度を増し、高い柔軟性を生かしてのモーニングスターを想起させる体当たりに蔓や根を交え、威勢良く出る。
そう、威勢良く。
つまりは最初だけ。
「メ"ェーっ!」
「メ"ェーメ"ェー!」
「メェーー!」
殊の外、バロメッツ達との種は痛いのが嫌で臆病な性格の持ち主らしい。
先頭に出た樹が攻撃を掻い潜ってバロメッツの1体を蹴り飛ばし、柊と棗が続くやあっさり折れる心。
鳴き声を上げながら逃げ惑い、涙目で壁際へ集まる様子が見て取れた。
『………。』
最早戦闘ではなく、単なるイジメ。
彼我の実力差を理解したのは悪い事ではないのだろうが、些か怖がり過ぎでは…と思わなくもない。
自分達が一方的にバロメッツを痛め付けるとの想いに至った凛達の手が止まり、一様に何とも言えない表情へ。
ややあって、この場にいたバロメッツ全員が仲間に。
少し前までの元気なさげな雰囲気から、どことなくアウズンブラを連想。
仲良くなれそうだとの考えから草原部屋にポータルを繋ぎ、アウズンブラ達代表のアルルに経緯を説明。
「…分かった。私達がこの子達の面倒を見れば良いのね?」
「うん。いきなりでごめんね。君達も、アルル達の迷惑にならない様にするんだよ?」
『メェーー♪』
了承を得、少し申し訳なさそうにする凛がバロメッツ達へ問い掛け、彼女らは返事もそこそこに草むらへまっしぐら。
つい今しがたの悲壮感もかくやとばかり、ご満悦な顔付きに。
なんだかなーとか変わり身早い等の心裡を抱きつつ、凛達は他の部屋へ。
幾つかの部屋を経由し、倒すか配下(ほとんどがバロメッツだが)にして更に進む凛達。
合計1〜2時間を費やして出たそこにいたのは、全長20メートル程のティラノサウルスだった。
「あれは…ティラノサウルスかしら?さっきのと違い、今度は本物っぽいわね。」
「おー!本物だとしたらステラちゃんアレックスくん辺りがかなり喜びそうだね!」
「そうねぇ。そのティラノサウルス、だけど…黒いフェンリル?と協力して戦ってる━━━いえ、無理矢理戦わされてると言った方が良いかしらね。」
棗、翡翠、翠を中心に注がれる視線。
そこには本物のティラノサウルス、及び一昔の昊であるフェンリル━━━を赤黒くしたフォルムの者が血まみれで。
挙げ句、操り人形みたく変な挙動なのは誰の目にも明らかだった。
そんな2体を相手する、後ろ脚で立つ巨大な灰狼ことウォーヴォルフ。
朽ちた黒い翼みたいなものを背中に生やし、一鳴きする毎にティラノサウルスと赤黒いフェンリル…ブラッディベルゼルガが攻撃を敢行する度、カウンターを見舞う。
「凛ちゃん、介入する?しない?ついでに、そこの壁の向こうから気配がするのだけどスルーが正解で良いのかしら?」
「うーん、どこから突っ込んで良いものやら…。」
翠の提案に凛が難色を示す。
他の者達もどうしたものかと決め倦ねていると、件の壁から声が。
「ちょっとー!折角ここまで来たんでしょー!?なら助けてよー!」
壁から響くは女性のもの。
悲鳴とも取れるそれに、皆の焦点が凛へと定められるのだった。
きのこのこ達は魔物図鑑自体には以前から表記されてましたが、実際に出現したのは今話が初でお願いします(苦笑)




