233話
アレックスが持つ、どう見ても◯マートフォン的な物体。
その実態は、異世界版ス◯ホとでも言おうか。
魔素を介し、遠くの相手と会話するとの意味から『マナフォン』。
略して『マナホ』と呼ばれるものだ。
機能は通話、メッセージ、鑑定機能付カメラ、(グループ込みの)チャットの4種類。
今朝方齎されたばかりのホヤホヤとあって、アレックス含めた元地球人組の喜びは一入。
それはここにいるゼノンやラニも然り。
ゼノンの「何か見た覚えがあるな」との呟きに、ラニが「ええ、久々ですね」と同調。
室内をざわつかせる、なんて場面も。
尚、骸も2人と同様、転生者。
ただ記憶を完全に引き継いではいない為か、彼だけは首を斜めに傾けていた。
アレックスが異世界版スマ◯ならぬマナホを得た切っ掛け。
昨日昼食を終え、しばらくした頃にナビより報された白鳥の解析結果から始まる。
彼の非道な振る舞いや、自分本位な性格云々はさて置き。
曲がりなりにも苦労する羽目になったのは、2つ(正確には3つ)の特殊能力があったからが理由。
1つは元々所持していた『金属の操者』スキル。
(2つ目且つセットである)『金属生成』スキルで生み出した金属を操り、インドア趣味から始まった物作りが影響して数多の武具や魔道具を用意。
もう1つは覚醒した際に得た『置換』。
文字通り、何かと何かを置き換えると言うもので、これは同等の価値。
或いは効果のものと交換可能になるスキルだ。
白鳥は主に後者を使用。
鍛錬嫌いの努力嫌い、怠け癖があるからか楽な方へと逃げ、表面上だけでも。
若しくは一先ず形を整える的な意味で前者を用い、補完。
必要に応じ、金属や魔石等に機能を付与したり。
こうして出来上がったのが、(魔道具っぽく見せた)使い捨ての転移装置。
他にも武具や家財道具、魔法陣関連がこれに該当。
調味料と言うか、食料の類いは置換による等価交換の模様。
ラニらが白鳥の目を盗む時を除き、彼1人が恩恵を受けたとの流れだ。
新たに2つの固有スキルをゲットした凛は、早速マナホの製作へ。
ギャルエルフことアケミの端末操作のおかげでモニターだったり防犯カメラは得られたものの、他の機器へ繋ぐにはケーブルが必要。
単体、並びに無線で情報を飛ばす事はこれまで叶わなかった。
この問題を解決したのが両スキル。
前者で鉄やミスリルの魔力の通りを良くし、後者は送受信機能をオリハルコンへ。
端末操作と組み合わせ、まんまス◯ホの外見をしたマナホが完成との構図になる。
マナホ作成に費された時間は丸1晩。
夜通し作業が行われ、翌朝4時前にお披露目と相成った。
ただ、嬉しそうにするのは本人と元地球人位。
美羽を筆頭に大目玉を食らい、直ちにディレイルームへと運ばれ挙げ句、睡眠魔法で無理矢理就寝。
朝食の途中で気まずそうに顔を見せ、ここでもやはり注意喚起を受けるとの結果に。
話は戻り、真っ先に我へ返ったのはリーゼロッテだった。
「アレックス…何面白そうなモノ持ってるのよ。ちょっとソレ貸しなさい。」
椅子から立ち上がり、アレックスの方へと右手を伸ばす。
「嫌だね。何だかんだと御託を並べ、分捕るのが目に見えてらぁ。」
「まぁ、分捕るなんて人聞きの悪い…ちょぉーーーっとお願いしてるだけじゃない。」
「お願い、ねぇ。邪な感じがしてならないのは気のせいか?」
「この澄んだ目を見て頂戴。」
「ど・こ・が・澄んだ目だ。濁りまくってんじゃねぇか。」
「五月蝿いわねぇ、良いから寄越しなさい!」
「本性現しやがったコイツ!」
未知の道具登場を根拠に、謎の姉弟喧嘩が勃発。
「…ん?あ、ちょっと待て。」
「またそうやって誤魔化そうとして!」
「だから待てっての!凛からメッセが届いたんだよ!」
「メッセ?」
「メッセージの略。文章を相手に送る機能の事で…何々?」
アレックスは片手で姉リーゼロッテを制し、もう片手でマナホを操作。
「へー」なんて言いながらマナホを置き、無限収納を発動。
黒い穴から1本の大剣を取り出し、テーブル…ではなく。
「ほらよ、親父にだと」との言葉と共に放り投げ、赤と白で構成されたソレをゼノンがキャッチ。
「コレは?」
「親父の新しい剣、しかも『変形』機能付きらしい。」
「変形…?」
凛から送られたメッセージによると。
ゼノンは何やら炎属性に特化した熾炎武器を気に入ったとかで、彼用にチューンアップしたものらしい。
名はカレドヴルッフで、要した時間は30分程。
つまり朝食後の訓練を終え、今へ至るまでに(試作との意味合いが強いが)完成した代物だ。
そうは思えない位に出来映えの良いカレドヴルッフは、3つの形態が存在。
1つは通常モードである両刃。
片刃になる代わりに刀身が1.5倍にまで伸びる長刃。
最後に斧に重きを置いた斧槍とあり、魔力を込めながら念じると形が変わる仕組みになっているのだそう。
カレドヴルッフとは別に名前があると告げるもこちらが良いとキッパリ断言し、アレックスから説明されるがまま変形機能を試す事数十回。
琴線に触れたのか、将又前世含め初めての玩具に心奪われたのかも知れない。
「…静かになったのであれば丁度良い。卿らに幾つか伝える事がある。」
ともあれ、渡されてから2〜3分が経ち、ようやく皆がこちらを静観している事に気付く彼。
少しだけ恥ずかしそうに咳払いし、今までの醜態をなかったかの様にして話を進める。
曰く、ブンドール候爵がホズミ商会の者に決闘を挑み、完膚なきまでに敗北。
帝城の1室にて沙汰を待つはずが、あろう事か自身の屋敷地下に設けた魔法陣を介し、悪魔。
それも悪魔公、更には階級の高い者を喚び出そうとした。
悪魔は2体。
とある協力者達のおかげで未然に抑えられたものの、帝都を危機に陥れたのは紛れもない事実。
到底許せるものではなく、死よりもキツい鉱山送りの罪とした。
「次に、我々の━━━」
「親父ー。その話へ入る前に、アイツの関係者繋がりでもう1件伝える事あんだろ。」
アレックスの言葉を受け、カレドヴルッフを貰う前の渋面に戻るゼノン。
もう1件とは、オストマ・ヴァン・ガディウム辺境伯━━━通称ゴーレム狂いによる凶行。
ある者に唆され、その者と共謀してホズミ商会に喧嘩を売るも、双方返り討ちに遭ったとの話だ。
「ま、その片方…ってか、オストマはウチの長女がぶった斬ったんだけども。」
刺激が強いと思い、敢えてオブラートに包んだのに遠慮なく暴露。
案の定驚愕の顔が1点に向けられ、向けられた側とオブラートに包んだ本人が犯人を睥睨。
当人はケロッとしており、2人を「コイツ…」と更に苛立たせた。
「コホン…では最後に。」
続けての発表は、今後の皇族の在り方について。
まずはアレックスで、皇族からの脱却。
2人掛かりとは言え、自分に打ち勝ったからを理由に挙げた。
次に、退位の表明。
そう遠くない内に皇帝の座を嫡男に譲り、それまでは皇太子とすると告げるや、途端に空気が変わる。
何の先触れも兆候もなく。
しかも既に決定事項みたいな物言いに、貴族達だけでなく振られた嫡男。
更には数人の皇子や皇女が目を見開き、信じられないと言わんばかりの面持ちに。
特に後者に至っては、家族でありながら完全に蚊帳の外扱い。
3人がつまらなさそうな態度を示し、2人程仕草が変わらないのは別として。
せめて1言位は欲しかった、そう思われても仕方ないと言えよう。
そして最後。
ゼノンの口から発せられたのは婚約発表だった。
1人目は長女リーゼロッテ。
彼女については本人込みで割とどうでも良いらしく、場所や相手を知らされても特にリアクションらしいリアクションは得られなかった。
2人目は次女フェリス。
姫将軍の異名を持ち、高潔な性格の持ち主でもある。
もし選ばれれば誉れ高いとあって俄に沸き立つも、相手の名前を聞くや『誰?』となり、しかも3女クーネリアも同じ人物だと分かるや飛び交う怒号。
ただ、次女は複雑な表情のまま。
3女も相変わらずテンパり続けるのも重なって、余計に収集がつかなくなるとの始末。
「鎮まれ。」
無理矢理収めたのはゼノン。
声量自体はそう大きくなくとも、込められた覇気に貴族達は圧倒。
そんな中、1人の神経質そうな男性貴族が「恐れながら皇帝陛下」と申し出、「我は鎮まれ、と言った。聞こえなかったか?」とにべもなく一蹴。
「も、申し訳ございません!出過ぎた真似を!」と勢い良く頭を下げ、フンと鼻を鳴らされる。
「アレックスが所持する物は、彼の商会の新商品。いずれ(市井に)出回ると思う故、沙汰を待て。皇女2人の件は双方合意の上、話は纏まっている。何より相手が悪い、諦めるのが賢明…とだけ言っておこう。我からは以上だ、何か(質問は)あるか?」
場が静寂に包まれ、先程の男性が「では、僭越ながら…」と前に出る。
よりも早く「父様、私は?」との言葉が届けられ、声の主。
それまで沈黙を貫いていた、第5皇女アリスに焦点が当てられる。
「勿論忘れていない。忘れてはいないのだが…父として。何より皇帝としてだな。」
「約束。」
ゼノンはじっと見据えるアリスに「ぐ…」とたじろぎ、やがて根負けした様に瞑目。
「先刻の婚約の件だが…実は続きがある。見て分かる通り、末娘アリスについてだ。アリスも嫁ぐを背景に、皇族を除籍。肝心の相手だが…我が息子にして第3皇子、アレックスを希望…だそうだ。」
「へー、アリスが俺をねぇ…って俺ぇ!?ちょっと待て親父ぃ、一体全体どう言う事だってばよ!?」
他人事だと思っていたら、まさかの自分だった。
アレックスはビックリするあまり突いた頬杖からズリ落ち、そのままひっくり返りそうになるのをどうにか堪え、父ゼノンに説明を求めるのだった。
ゼノンが得たカレドヴルッフは赤い龍のMSが持つ武器にモンハンのス◯アク要素を足したと思って頂ければ。
後、メタルディーラーのディーラーは扱う+人→操る者から操者となっております。
↓はオマケ
凛「白鳥君の固有能力の1つに、置換と言うのがあったんだ」
雫「お巡りさんこの人です」
朔夜「妾、いつかはやると思っておったのじゃ」
雫「悲しいかな。しかしそれが人の業…」
火燐「意味分かんねー事ぬかしながら人を指差すな。つかそのチカンじゃねぇ」




