230話
16日の予定が、間違って23日になってました(´・ω・`)申し訳ない
投稿前に修正した際にズレたのかな…
正午になってから30分位が経過した頃
「よお。寝小便の癖は治ったかよ?」
「ふ…チビ猫が囀りよるわ。」
ニヤニヤと笑う獣王レオンへ、皇帝ゼノンが冷静に返す。
直後。
2人は極間近な距離で「「あ"あ"?」」と青筋を立て、殴り合いの喧嘩へと発展。
「おい、止めろ。止めろ、食事中だ…止めろっつってんだろうがっっ!!」
火燐が止めるも2人はまるで聞く耳を持たず、終いには拳骨にて両成敗。
「痛ぁっ!?」「ぐぉっ!」と悲鳴を上げ、双方共にその場で踞る
「はぁ。一国の王がチビだの寝小便だのと、みっともねぇ事言うんじゃねぇよ。時間もだし、そもそも2人にはデリカシーってもんが…だから止めろ。何度も言わすな。いい加減にしねぇと出禁にすっぞ。」
だが、2人は火燐の説教もそこそこに再び啀み合うも、真顔で「お?」と迫る彼女にタジタジ。
それでも視線だけは互いへ向けるものだから、火燐の口から自然と溜め息が零れる。
「お前ら、ホントに国の代表か?商国と神国(の代表)を見てみろ。あんなに落ち着いて…ないわ。1人は紛う事なき変態だし、もう1一方は戦闘狂…あれ?微妙に詰んでねぇ?」
後ろを振り返った火燐が、今度は戸惑いの色を見せる。
商国代表でドM要素を持つポールは拳骨を貰った2人を羨ましそうに見ているし、神聖国代表の教皇フィリップは戦闘に転じても今と同じ朗らかな笑みを浮かべるのみ。
体調が万全に近くなったとの事で、リハビリも兼ねて戦闘だったり魔物との模擬戦闘をさせてみたものの、いずれも笑みを崩さない戦い方から「笑う死神」との2つ名を頂いた程だった。
「リビちゃん久し振り〜♪」
「りっちゃんも。元気そうで何よりだわ〜!」
片や王妃と皇后。
こちらは殺伐な雰囲気は微塵も感じさせず、手を取り合って再会を喜び、ハグまでする始末。
これに野郎2人はえ?と面食らい、仲良さげな妻達を前にすっかり毒気を抜かれ、喧嘩どころではなくなってしまう。
「親父は前世を思い出したんだろ?なんて名だったんだ?」
そう言や、と気付いた素振りを見せたアレックスがゼノンに問う。
時刻は少しだけ戻り、正午前。
場所は凛の屋敷のダイニングで、ひとまず言いたい事、聞きたい事を終えたとオリビアが戻って来たのに併せての移動だ。
当の本人はツヤツヤ、拉致られたリーゼロッテはゲッソリだったのがやたら印象的でもあった。
移動手段は凛が展開した転移魔方陣。
メンバーはアイシャとメアリーを除いた全員で、アレックスは今後こちら側に。
ゼノンとオリビアは国の代表で、既に王国を除く3ヶ国と同盟を組んでいるからが選ばれた理由だ。
アイシャはアレックスの婚約者ではあるが、それは帝国内でのお話。
本気で国を離れたがる彼に、付いて行く気概はあるのか。
もし付いて行くのであれば、最悪ヴァレリー家との身分を捨てる覚悟をしなければならない。
以上を根拠にこれからの関係性が不透明となり、母親共々同行を見送られ、揃って残念がるとの形に。
やっと帰って来れたぜー、なんて呑気に進んだのはアレックス位。
ゼノンとオリビアはいきなり景色が変わった事もそうだが、帝城よりも壮大。
且つ煌びやかなエントランス、及びダイニングに度肝を抜かれていた。
話は戻り、アレックスからの質問に答えたくないのか、明後日の方へとゼノンは視線を移す。
「ん〜、絶品なのですよー♪これも、これも、これもっ♪」
「………。」
彼の視線の先。
金髪の青年と思しき人物が疲れた様子で座り、その両隣には円卓の騎士の女性メンバーであるナノウとアイヴィーが。
ナノウとアイヴィーの2人は食事を堪能中。
後者に至ってはテーブルマナーすら忘れてひたすら貪り、騎士である以前に貴族令嬢なのか怪しいすらある。
「主君、次はこちらについて尋ねたいのだが…主君?」
青年の後ろで尋ねるは、金髪ショートの女性。
ウエーブヘアーを傾け、青年━━━光輝の顔を覗き込んで見せる。
「兄さん…不潔です。」
その彼を、青年に似てると言えば似てる少女が向かい側で不快感を露にし、同じ黒髪の女性が隣からフォロー。
更に視点を変えれば、先程登場した骸がメアリーとは異なる女性からスプーンを差し出される…所謂アーン待ちとの光景が。
女性はどこか見覚えがあり、(骸と一緒にいた金髪の幼子2人からハイライトの消えた目で見られるのを他所に)ニコニコと微笑みながら骸が受け入れるのを待っている様だった。
更に更に別な場所では、雫と朔夜なる者が椅子ではなく床。
それも強制的に座らされ、顔には『反省中』との貼り紙が。
正面に立つ、緑髪を1本に纏めた少女から厳しく叱責され、頬を膨らませた茶髪の少女が傍らに控える。
最後に火燐。
豪快な性格の少女へ目を移せば、何やら物凄く沈んでいる様子。
むしろ落ち込み過ぎるあまり、(大凡30分後を含め)先刻の勝ち気とは打って変わり、別人かと見紛う顔付きになる程。
ユーウェインが現在進行系で彼女を説得中みたいだが、全く反応しないまま尚も崩れた表情を晒し続けている。
「…名等どうでも良いではないか。我は今(の名)を気に入っている。それで十分だ。」
それら全ての光景を、見なかった事にしたゼノン。
カオスとしか言えない状況に、踏み込むだけの勇気が彼にはなかったとも。
顔の位置を戻し、さもそれっぽい内容のセリフで流れを断ち切ろうとする。
「そんなもんか?俺は昔のも大事だと思うけどな。」
だがやはりアレックスを相手に誤魔化すのは厳しかった模様。
息子の正論パンチに「ぐ…」と呻くのを鑑みるに、何か口にしたくない理由でもあるのだろう。
「前世?名前?」とばかりに首を傾げるのはオリビアのみ。
彼女がリーゼロッテを連れ去ってからアレックス、ユーウェイン、ステラの順で日本人名が明かされ、彼らが迷い人だと判明。
ゼノン、メアリー、(名前自体は初めて聞く)アイシャの3名が驚愕。
次はアンタの番とばかりにアレックスの視線がゼノンへと刺さり、逃げに逃げを重ねた結果が今。
周りは騒がしいのに彼らの区画だけが静寂に包まれ、深い溜め息の後に重めの口調でようやく告げる。
「…あ、だ。」
「え?悪い、小さくて聞き取れなかった。」
「だから、『しいざあ』だ。」
半ばやっつけ感のあるゼノンの物言いに、どこからか「うわ、キラキラネームだ」との声が。
「し、しいざあ?しいざあっつぅと、アレだろ?漢字だと皇帝って書く奴。親父、本気で言ってるのか?」
「本気も何も、その様な名だったと答えるしかなかろう。当時の我はどうこう出来る立場ではなかったのでな。因みに、3つ上の姉は『きてぃ』と呼ばれていた。」
「マ、マジかぁ…因みに、幾つまでの記憶がある?後、名字は?」
「5歳になるかならないか位、だったか。姓は…言いたくない。」
「言いたくないって、今更?そんな、ヤバい姓でもあるまいし。」
「違う。確実に馬鹿にするであろう光景が目に浮かぶからだ。」
「いやいやいや…ん?逆に考えれば良いのか。しいざあとは皇帝、つまり国のトップを指すんだろ。ソレに相応しい名字、名字…皇とか?」
西園寺、伊集院、財前…etc。
どれもこれも浮かんでは違うと思考から外し、十何個目かで出たのが『皇』。
「………。」
「その反応、ホントみてぇだな。」
「はぁ、振る舞いの割に頭が回るとは思っていたが、よもやここまでとは…。」
どうだ?と目線越しに問うてみれば、まさかの正解らしい。
マジか…とアレックスがうんざり気味になれば、被せる形でゼノンが嘆息。
2人の仕草は似ており、やはり親子なのだと再認識させられた。
「しかし皇皇帝、ね。皇帝になるべくしてなった名だよな。つか、姉(?)のきてぃってどう書くんだ。」
「多分、姫の星と書くんじゃないかな。それか希望の希に星。」
アレックスの質問に、凛が回答。
名前に星の字が入ってるからか、「何となくだけど、仲良く出来そう」とステラがはにかみ、周りを和ませた。
尚、ゼノンの前世こと皇 皇帝は享年4歳。
ろくでなしの父と水商売の母の間に生まれた、所謂ネグレクトの子供だった。
父は酒がなくなると良く癇癪を起こし、流れで暴力へと移行。
その日、家には皇帝と父しかおらず、母と姉は外出。
ビールが切れたが一応の理由ではあるのだが、彼女らが帰宅するまでに不機嫌から来る理不尽な暴力を受け、蹴り飛ばされた挙げ句即死。
当たりどころが悪く、又2人が戻るまで放置されたが為に起こった事故でもあった。
そして転生。
以前の記憶はなくとも、(地位や権力と言った)状況を盾に偉ぶり、暴挙に出る相手に不思議と心を掻き乱され、苛立ちへと繋がる位には未練が残っていたのだろう。
良くも悪くもやる気だったり原動力へと変わり、押し潰そうとした兄達を反対に捻じ伏せ、悉く叩き潰した。
(しかし姉か。碌でもない両親だったが、姫星だけは我を気に掛けてくれたな。)
ゼノンが思い出すは、やたらお姉さんぶろうとする姉、姫星。
弟に良いところを見せたいのかやたら張り切り、その度に空回ってはくしゃりと笑う姿が印象的。
元父に殴られた時は身を挺して庇い、守ってくれる優しい存在でもあった。
そんな唯一の家族とも呼べる姉。
ゼノンは彼女を想い、せめて良い人生をと願うのだった。




