229話
「それで、結局メアリーを抱えたのはどちらさんだ?垰が隣にいるから凛の配下には違いないんだろうが。」
遠回しに紹介してくれとアレックスが告げるや凛サイドがハッとなり、そう言えばとメアリーを抱き抱える人物━━━骸に視線が集まる。
ただ、本人は未だメアリーとゼノンの板挟みに遭い、どこかウンザリとしているみたいだが。
「彼は骸さん。アレク、ドネグ湿原って知ってる?」
「骸?骸…名前から察するに、アンデッド辺りが妥当か?んで、ドネグ湿原…ねぇ。神聖国最大の魔素点じゃねえか。(この世界じゃ)かなり有名な場所だぞ?」
「やっぱ分かるよね。」
アレックスの返答を受け、ステラがクスクスと笑う。
ただ、朗らかな雰囲気なのは2人位。
名前を呼ばれた骸に、凛達や垰(ついでにシャルとシャルルも)がそちらを向く傍ら。
隣国に於いて災厄の地とも称される地名が聞こえ、強制的に意識を奪われたゼノン、オリビア、メアリーの3名。
会話中断を余儀なくされ、否が応でもアレックスらの方へ耳目を集めざるを得ない状況に。
「となると、やはり(ドネグ湿原の)関係者か。」
「関係者どころか、むしろトップだけどね。」
「まさかのトップかよ!なら、竜胆と?」
「うん。同じく魔素点の代表になるね。因みに、骸さんの方が年上だよ。」
「竜胆と同じ位か、それ以上の戦力を得た訳だな。頼もしい限りじゃねぇか。」
「だよね、だよね!しかも骸さん面倒見が良いからさー、仲間になったばかりなのにもう皆から慕われてるの。」
「へぇー。長年トップを務めると、その辺の匙加減も上手くなるんだな。」
「どうだろ。単純に骸さんの人徳が成し得た結果だと僕は思うよ。」
「ほう。」
手放しで称賛するステラに釣られ、骸へ対するアレックスの評価も右肩上がりに。
ゼノンとオリビアは骸。
延いては彼に近しい強さ、且つ龍人の代表となれば『竜の里』しかないのではと(小声で)真剣に話し合い、骸の両腕の中にいるメアリーは何故かドヤ顔。
前者は何故帝城にとか直接攻め入りに来たのか、後者は流石自分が見初めた存在だとの意味だ。
「それがどうして今頃、そして垰と組み、その垰が若干トゲのある目付きで姉貴を睨んでる事に繋がるんだ?」
気持ち幼い見た目のシャルやシャルルは付き添いで、骸は2人の保護者的な立ち位置なのだろう。
そう判断したアレックスはシャル達をいないものとし、骸→垰の順で目線を動かしながら問う。
「あー、それね。実は━━━」
「俺から説明しよう。」
ステラの言葉を遮ったのは骸。
メアリーを降ろし、名残惜しそうにする彼女に気付かぬまま前方へと進む。
「初めましてだな。俺は骸、長い間コイツらの世話をしたからか仲介役を任されている。」
メアリーへざまあみろ的な目で見てから小走りで追い掛け、自身の前に立ったシャル達の頭に骸がポンッと手を置く。
「骸さんはイクリプスドラゴン、アンデッドドラゴンの頂点にいるんだ。」
「へー。」
(((アンデッドドラゴン!?しかも頂点!?)))
「頂点って意味では竜胆さんも同じだね。」
「知ってる。天空神龍ヴァルハラだろ?ついでに朔夜は邪神龍ティアマット、葵は嵐神龍プルリヤシュな。」
(((やはりとんでもなかった!!と言うか落ち着き過ぎでは!?)))
ゼノン、オリビア、メアリーが内心で悲鳴を上げ、アイシャが「あわわわわ、お1人でも国1つは優に滅ぼせる方がこ、こんなに…」と狼狽。
ドラゴンは畏怖であり畏敬。
若しくは憧憬の象徴とされるのが影響しているのかも知れない。
そんなドラゴン様なのに、紹介されたのかされてないのか微妙なラインの朔夜と葵。
「ついで扱いとな」「後でお話する必要があるみたいね」と宣い、別な意味で興味を持たれたり。
それでも、アレックスの人柄と言うかコミュ力の高さに感心する一同。
特に両親と未来の義母(になるかも知れない)が顕著で、会話し始めて1分経たずして早速骸と仲良くなり、そこに竜胆を誘うとの光景を前に、このまま逃すにはあまりにも惜しい。
加えて、力あるドラゴンとの関係を途切れさせたくはないし、いざと言う時に備え、繋がりは欲しい。
それらの思惑が交差し、互いに目配せする。
「はぁ!?また姉貴がやらかしたのかよ!?」
そうこうしている間に進展があった様だ。
「やらかしたなんて失礼ね!私はただ、お母様がいない内に━━━」
「私が何ですって?」
「あ、いえ…。」
「聞いてくれよおふ…母さん。姉貴の奴、頼まれてもいないのに自分から首を突っ込んだ挙げ句、途中自分の都合でその場から離れたんだと。」
「ほう?」
「ち、違うのですお母様。私は最低限やるべき事はやったと判断して…。」
「そのやるべき事とは?」
「オストマを討ちました。」
母からの鋭い指摘をリーゼロッテは受け流しつつ、誇らしげに胸を張る。
ただ、褒めて貰えると思っているのは当人だけで、凛サイドは多くが困惑。
垰の目付きが益々厳しくなる辺り、どうやら関係性はありそうだ。
そして帝国側。
唐突に、それも意味の分からない供述にオリビアが「は?」となり、ゼノンとメアリーとアイシャも遠からずな反応。
「ですよねー」と言いたげな空気が場を包んだ。
「お待ちなさい…オストマ、とはまさかオストマ・ヴァン・ガディウム辺境伯を指すのですか?」
「はい!」
「代々続くゴーレム狂いの?」
「はい!」
「…その、辺境伯本人を討ったと。」
「その通りです!」
状況を少しでも好転させようとの狙いからか、満面の笑みで答えるリーゼロッテ。
反対にオリビアの表情は曇る一方。
最後は目眩がしそうになり、溜め息まで出る始末。
「…一応、訊いておきましょう。(ガディウム辺境伯を)討った理由は?」
「あの馬…失礼、ガディウム辺境伯がいきなり妻にしてやるから下れと仰ったからです。それも、正妻ではなく朔夜に次ぐ2番目として。」
「朔夜…あちらにいらっしゃる女性の龍人の内のどちらか、ですね。それで?」
「私には既に夫となる方がおります。ですので丁重にお断りしたのですが…どう言う訳かあちらがお怒りになり、ゴーレムをけしかけたので応戦。止むに止まれず、討ち取った次第です…。」
すると今度はさも悲しい素振りを見せ、仕方なかった感を醸し出すリーゼロッテ。
知らない人ならいざ知らず、育ての親であるオリビアには通用しなかったらしい。(演技臭く見えたとも)
再びジト目を娘に。
次いでアレックスへとやり、「詳細は?」と視線で問うた。
「やっぱ俺か。えっとな━━━」
色々諦めたアレックス曰く、事の発端はクリアフォレストを含む各都市への襲撃。
主犯は勿論白鳥だが、どうやらオストマも1枚噛んでいた模様。
元王女ラニ以下、10人の女性が隊長を務めるダーティークルセイダー━━━十死天との意味らしい━━━に紛れ、オストマの手駒であるゴーレムも参加。
ゴーレムは強さこそそこまでないものの、とにかく数が多い上、無差別に出現。
先手を取られ続けては面倒との意見から乗り込むとなり、折角なので正面から。
相手が転移機能の付いた魔道具(の様なもの)でコソコソやって来るのに対し、こちらは堂々と向かうで決まる。
その際、用いられた移動手段がドラゴン。
ステラが藍火と共に現れたのはそれが所以で、しれっと便乗したのがリーゼロッテ。
彼女は朔夜の背の上で年甲斐もなく燥ぎ、皆から生温かい目で見られたのは言うまでもない。
やがて1行は辺境伯領、オストマの屋敷へと到着。
その敷地内と言うか、直径数キロはある広大な土地に夥しいゴーレムが立ち並び、現在も送還の真っ最中。
リーゼロッテの指示で適当な場所に朔夜がブレスを吐き、オストマを驚かせて作業を中断。
からの、醜い言い争い。
始めこそ丁寧な物腰だったオストマの化けの皮はすぐに剥がれ、ガディウム家自慢のゴーレム。
加えて白鳥から貸与された(贈与ではなく貸与)総アダマンタイト製のソレを盾に、2人へ婚姻を迫るも呆気なく玉砕。
何代にも渡って蓄えられた。
貸し与えられたゴーレムを自分の実力だと勘違いし、振られて間抜け面となったオストマの姿がそこにはあった。
激しく憤り、雄叫びを交えながら吶喊するも、一刀両断。
アダマンタイト製のゴーレムごと、リーゼロッテに斬り捨てられる形での最期となった。
オストマ本人は一応(?)片が付き、同道したアルファにステラ&藍火、骸&シャル+シャルル。
更に翡翠&風神龍ヴァーユの風華、雫&雷神龍インドラの雷華、楓&垰、炎神龍ファフニールの茜。
竜胆の配下である聖炎神龍ドレイクの螢、闇炎神龍テスカポリトカの仄、セイバードラゴンの千剣による、豪華過ぎるメンバーでの消化試合。
もといゴーレム達の破壊活動が執行…された直後。
ここまでの一連の流れで満足したのだろう。
リーゼロッテが帰ると口に出し、1人だけさっさと撤収。
サルーンへ帰宅したタイミングで部下から義母オリビアが城を出たと報され、帝城へ赴いたとの事。
尚、凛サイドに於いて。
オストマが理想のゴーレムとするアルファを除き、茜だけがソロなのは本来であれば火燐とセットの予定だった。
しかしながら、ユーウェイン大好きの彼女が貴重な晴れ舞台を放って置けるはずもなく。
茜と向かった風を装い、勝負服だったり戦闘の様子を見に行ったからだったりする。
次に、骸と垰の件。
オストマの屋敷敷地内でのゴーレム掃討中、骸が邪な魔力を察知。
場所は帝都にあるブンドール候爵邸地下。
急行した骸(+シャル、シャルル、補佐役として垰)により、引き起こされる寸前だった悪魔召喚の儀式を強制停止。
高まった魔力を骸が吸い込み、床に描かれた魔方陣は垰が書き換える形で無力化させた。
程なくして、役目を終えた魔方陣が消失。
ひとまず脅威は去ったとして候爵邸を後にし、ナビへの報告を済ませがてら、国のお偉方に伝達へに話が移行。
その時点でアレックスが城にいると分かり、彼を介そして行おうとの話から「アレックス?誰だ?」→「この国の第3皇子です。少し口は悪いですが、とても良い子ですよ(※実は垰の方がお姉さん)」→「ほー。何にせよ、伝があるのは良い事だ」で帝城へと足を運ぶ。
門前にて、アイシャがいると聞き付けたメアリーが門番2人と押し問答。
そこへ骸(と垰)が姿を見せ、「あー、取り込み中のところ悪いが通っても構わないだろうか」と伝え、3人が反応。
特に物々しい雰囲気が影響して娘に何かあってはと気が気でないメアリーの眼光は鋭く、しかし彼が視界に入った次の瞬間にはハートマークへと変貌。
骸が好みのどストライク、且つこちらへ対し申し訳なさそうにする。
つまりかつてない程の紳士だと(勝手に)勘違いし、一方的に打ちのめされた。
それまでの娘への想いやら何やらがどこかへ綺麗サッパリ飛んで行き、勢い余ってよろけてしまう。
そこをフォローする骸。
倒れそうだったところへ手を伸ばし、「大丈夫か」と問えば「ダ、ダメかも知れないざます…」との返事が。
彼女を抱き抱え、城の内部について詳しいとの旨の言葉から道案内を依頼。
ただ、目的地。
即ち凛達がいる謁見の間を目標に進むも、中々辿り着かなかった。
降って湧いた機会を良い事に、メアリーが骸の両腕に収まる時間を引き延ばすだけ引き延ばしたからだ。
おかげで城の中をグルグル歩き、やがて帰宅したオリビアと遭遇。
事情を何となく察せられ、ひとまず移動するから今へと至る。
「よくもまぁ…取り敢えず今日起きた出来事については全て保留。リーゼロッテは再修行とします。」
一通り話を聞いたオリビアが告げる。
そう時間が経っていないにも関わらず疲れ切った顔をしており、頭もかなり痛そうだった。
「ですがお母様━━━」
「ですがではありません。如何に皇族とは言え、辺境伯家当主を斬り捨てて良い理由にはならないでしょう。いくら不躾な態度で迫られたとしてもです。あんなのでも一応は(神国との)防衛の要なのですよ?何か代案でも?」
ないでしょう?
だったら黙ってなさいと言わんばかりの圧が放たれ、リーゼロッテは尻込み。
笑顔のはずなのに反論を許さない、妙な迫力がそこにはあった。
「り、凛に頼んで…。」
「論外です。その辺も含めての再修行と致しましょう。まずは話し合いです。たっぷり、じっくりとね…。」
「そんなぁ…。」
あまりにも自分勝手。
あまりにも他力本願な考えのリーゼロッテにピシャリと言い放った後、オリビアはうふふと笑い掛け、娘を項垂れさせるのだった。
予定ではとっくに先へ行ってるはずが…ともあれ白鳥に関するリザルトはひとまず終了です。
名前だけ挙がったアルファや翡翠等の詳細は次の話にて。




