227話
「…!嘘だろ!?」
「(バフが)消えた…?」
波動が体を通り抜けた後、アレックスとユリウスを纏っていた赤と黒のオーラ。
身体強化を始めとした、バフ効果が綺麗サッパリ消失。
これには、2人も驚くしかなかった。
「チッ、だがまた掛け直せば━━━」
「誰が1度だけと言った。」
「何?…まさか。」
「左様。根比べがしたいのであれば付き合うぞ?」
「冗談、(時間等の)ロスになるだけだ。」
「然り。」
アレックスがハッと吐き捨て、頷く形でゼノンが応える。
「こんな事も出来る。」
そう語るや、ゼノンは体全体から深紅のオーラを噴出。
プレッシャーがグンッと跳ね上がり、アレックス達を圧倒する。
「喰らうが良い。」
再び左手を前に翳したかと思えば、今度は凝縮したエネルギーを発射。
波◯拳に見えなくもないソレはアレックスの胴体へと当たり、「ぐあっ!?」と悲鳴と共に彼を吹き飛ばす。
「っつ〜!あんな冗談みてーな技なのに、結構なダメージが…!」
何回かバウンドを挟み、最後は両手足で踏ん張るアレックス。
どうにか立て直すまでは良かったものの、体勢を崩しそうになる。
片目を閉じ、腹部を手で押さえるとの様子から鑑みるに、未だジクジクとした痛みが残るのだろう。
「平気か?殿下。」
「どうにかね。ただ、あんまし喰らいたいモンじゃあねぇな。」
ユリウスが駆け寄り、彼から受けた返答に「…そうみたいだな」と零しつつ、ゼノンを見やる。
「にしても、今のは何だったんだ?ユニークスキルか?」
「多分…気系かな?でも(スキルに関する)情報はないんだよね。ステラは?」
アレックスの問いに、凛が反応。
その彼から水を向けられたステラが「僕も知らなーい」と返すものだから、謁見の間全体が『え"っ』となった。
「つまり…本当は使えるが、今まで使う機会がなかったが為に今回が初(のお披露目)。」
「それか、突然行使可能になったか…だな。」
アレックス、ユリウスの順で口を開き、答えを求めるが如く皆の視線がゼノンに集中。
「…恐らく後者、と言っておこう。先程死に瀕した時に転生者だと分かり、力の使い方が流れて来た。」
「おいコラ元凶!オメーのせいで余計なパワーアップイベントが発生しちまったじゃねえか!どうしてくれんだよ!」
どうやら、今しがたリーゼロッテがボコしたせいでゼノンは覚醒したらしい。
とんだとばっちりとばかりにアレックスがリーゼロッテを睨み、しかし当人は目を合わせようとはしない。
現実逃避でもするみたく、明後日方向を見るだけだった。
「ああもう五月蝿いわねぇ!男でしょ!ゴチャゴチャ言わずに現実を受け入れなさい!」
終いには地団駄を踏まれる。
回数が増える毎にヒビ割れが生じ、しかも段々と大きくなるものだから挙ってドン引き。
「出た出た、逆ギレ!汚い、流石皇族汚い!」
「残念でしたー。アンタにもその皇族の血が流れてるんですー。」
「ぐおおぉぉぉぉぉ!!」
そして突っ込んだアレックスに被弾。
四つん這いで叫び、彼を煽った本人は弟の悔しがる顔がツボに入ったのか盛大に高笑い。
場はカオスと化し、ゼノンですら「そんなに嫌なのか…」と微妙に凹む程だった。
ややあって、戦闘を仕切り直した3人。
しかしゼノンのスキル故か、発動中は自身の動きが良くなり、相手方の体が重くなった風に感じられる。
バフを掛ければ即座に打ち消され、斬撃+波動攻撃により被弾する一方。
開始5分もしない内に、アレックス側がかなりの劣勢状態へと陥った。
「まじぃな。まさかここまで差があるとは…。」
「とは言っても、諦める気は毛頭ないんだろ?」
「当然。にしてもどうするかねぇ…。」
はぁはぁと息を荒げながらも、目に光を。
希望を絶やさずに前方を見据えるアレックスとユリウス。
「せめてデバフだけでもどうにか出来りゃあな。」
「手立てはあるのか?」
「そこなんだよなー。そうそう美味い方法なんて━━━」
「あるよ。」
2人の間に入ったのは、やはり凛だった。
「それは…ブーストエナジー、だったか?」
凛が2人へ見せるはブーストエナジー。
時限付きではあるが身体能力を底上げし、且つデメリットが皆無(※ただしたまに服用する場合にのみ)の優れた代物だ。
「うん、それの改良版ね。」
「ブーストエナジーplusって言うんだよ♪」
「効果はステータスに2倍にアップ。無印のと比べ、5割増しってところかな。」
ステラ、美羽、凛の順で告げる。
元々のブーストエナジーに、アトランティカや仙桃等のエキスを追加。
おかげでより良いものが完成し、ミドルヒール相当の治癒力に体力回復も相まって、(凛の配下で)ここぞと言う時に用いられるのだとか。
「視た感じ、外的要因はまだしも内的要因にまでは対応してないんじゃないかと思ったんだ。」
身体強化にせよ、武器の切れ味上昇にせよ。
どちらも外側から覆い、纏わせる事で効力を発揮。
霧散させられている。
ならば外でなはなく、内。
それも湧き上がらせる形ではどうか?
仮令弾かれようが、薬効の続く限りリカバリーが利くのではと凛は推察。
「ただ、協力しようにも一応は部外者だから…。」
「ハイハイ、分かったわよ。私が時間稼ぎしろって事でしょ。」
「おぉ…珍しく姉貴が空気を読んでる。」
「やっぱ張り倒そうかしら。」
不気味がるアレックスへ、リーゼロッテの神妙な顔付きが向けられる。
「━━━と言う訳で、再度手合わせ願うわ。お父様。」
「抜かせ、今度こそ返り討ちにしてくれるわ。」
野性的な笑みを浮かべるゼノン。
これにリーゼロッテは「まぁ怖い」と返しはするものの、一切怖がる様子を見せない。
むしろ嬉々とした様子で父の猛襲に応え、室内の至る箇所で火花を散らした。
「姉貴、交代だ。」
「あら、もう終わり?ゆっくりしたいでしょう、もうちょっと譲ってくれて良いのよ?」
「そんで間違って倒しでもしたら、俺らは何しにココへ来たんだってなるだろうが。」
「それもそうね。ちょっとだけ見てみたい気もするのだけど。」
「いやそんな冗談要らねぇから、マジで。」
止めてくれ、と準備を終えたアレックスが嘆息する一方。
口元に手を当てたリーゼロッテが、彼を見ながらクスクスと笑う。
まるで手応えがないと思っていた父が、そこそこ楽しめるにまで成長。
様子見を済ませ、これからって時に水を差された意趣返しなのかも知れない。
さて、凛の予想は当たり、善戦する様になったアレックス達。
厳密には解除の波動(仮)でバフ効果を少しだけ弾き飛ばされ、しかしものの2〜3秒で復元。
何回か繰り返す内にゼノンが断念し、剣と魔法。
それと波動攻撃で臨んでいるとの運びだ。
ブーストエナジーにより力が引き上げられ、同等位にまで渡り合えたとなれば、残るは武器としての性能。
アレックスの火之迦具土、ユリウスの千子村正に加え、(幾分か性能は劣るが)凛から賜った黄赤色の属性剣「エクレール」を持つリーゼロッテとも相手をしている。
度重なる戦闘。
酷使に酷使を重ねた影響により受けたダメージは計り知れず、「ぬぅ…」と苦悶の声が漏れる。
「ユリウス、一気に決める。隙を作ってくれ!」
「了解!」
その隙を突き、アレックスは時間稼ぎを依頼。
応えたユリウスが千子村正を掲げるや、瞬く間に室内全体が闇で満たされる。
「闇?今更何の意味が…ぐぅ!」
視界が遮られ、警戒を露にするより早く伝わる、背中への衝撃。
それを起点に左側頭部、右太もも、右肩、腹部…と、次々に襲い掛かって来る斬撃の様なナニカ。
「決めるぜ、斬狼…咬呀陣!!」
「舐めるなぁ!覇獄ッ!!」
闇が晴れ…否。
集約された闇を黒い狼として形成、咆哮を思わせる突撃に真っ向から挑むゼノン。
昨日まで轟焔断と呼ばれた技は、力の目醒めを経てより猛々しく。
より激しい炎となって相対するも、やはりここでも問われるは武器の質。
ユリウスが通り抜け、千子村正を振り払うのを合図に、金属と思しき物体が近場の床へ刺さる。
「俺の番だな…超・爆、炎、斬っっ!!」
続けて跳び上がるはアレックス。
両手で持つ火之迦具土、その刀身部分に集めた全エネルギーをゼノンへとぶつける。
「う、うぉぉぉぉぉおおおおおおおお!?」
そんなアレックスの全力を、ゼノンは前に構えたジオブレイズで防ごうとする。
だが既に4割位が折れ飛び、残りの部分にも有り有りと残る、大小様々なキズや欠けに、ヒビ割れ。
膨大な火力の前にはとても頼り甲斐があるとは言えず、ボロボロと崩れ落ちるのは無理からぬ事だった。
防ぐ手段を失った彼を中心に起きる、大爆発。
室内は大きく揺れ、離脱を済ませたアレックス含め、一同を爆風が駆け抜ける。
程なくして露になる、ゼノンの姿。
「負けぬ…我はもう負ける訳にはいかんのだ。我はゼノン・ヴァン・アウグストゥス・ダライド。帝国皇帝にして頂点━━━」
爆発の影響でなのだろう。
衣服は焼け落ち、上半身裸で直立する彼。
全身を焦がされても尚衰えない。
むしろ執念とも取れる迫力を見せ付けるも、最後は仰向けの状態で気絶。
最早戦闘継続は困難。
誰の目にも勝敗は明らかだった。
「俺達の…勝ちだ!」
嬉しさのあまり、右手を突き上げたアレックスがガッツポーズを決める。
「やったな、殿下。」
「ああ!」
その彼の前に立ち、向き合いつつ左手を挙げるユリウス。
アレックスは右手を交差させる形でパァンと鳴らし、屈託のない笑みを浮かべるのだった。
ユリウスの奥義は、元ネタである漸◯狼影陣に◯迅狼破の要素を足したものです。
なので密かに雫がウズウズとし、「閃け、◯烈なる刃」と言おうとしたとかしなかったとかw
ともあれ、一方的にボコられ、復活したにも関わらず再びボコられるゼノンは泣いて良いと思います(苦笑)
ついでに、リーゼロッテのエクレールは洋菓子のエクレアから来ていたり。




