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ゆるふわふぁんたじあ(改訂版)  作者: 天空桜
世界周遊~ダライド帝国編~
244/262

223話

1時間後


周囲に様々な残骸を散らばらせ、倒れ伏す白鳥の姿がそこにはあった。


様々な残骸は主に白、黒、黄金色の3つ。

白は『崩龍滅牙刀(ほうりゅうめつがとう)』(刀と付いてるのに形状は片刃の大剣)の素材である、骨と思しきもの。


黒は2振りのダガー、崩龍滅牙刀の鞘に刀身以外の部分。

更には最上位悪魔(悪魔王)を封じ込め、ハンドボール位の大きさにまで凝縮した鎧『デモンズメイル』。


そして最後、最も散らばっている黄金の欠片はオリハルコン。

極々一部として(からす)型の使い魔『フギン』と『ムニン』を呼び出す指輪、剣だったものあるが、それ以外。

元は◯ク(百◯とかではない)を少しのっぺりとさせた外観、30メートル以上の巨体さを誇るゴーレムで、名をオメガクラッシャー(撃滅破壊王)

見た目金色ボディーのなんちゃってザ◯なのに剣や鞭、(エーテルを射出する)ライフルだったりキャノン等の兵器を使用。


しかしそれらは竜胆こと、天空神龍ヴァルハラには露程も通用しなかった。

前2つは人間の、オメガクラッシャー時は本来の姿で応対。

パワーも大きさも竜胆の方が有利とあって、見事に粉砕。


特に、崩龍滅牙刀への力の入れようは凄まじく、破片どころか完全に粉末状になるまでの徹底ぶり。

彼の大剣に、昔可愛がっていた弟分の骨が素材として用いられたが故の行動なのだろう。


その弟分はあまり強いとは言えなかったものの、兄貴兄貴と竜胆を慕い、竜胆も応えたとの間柄。

ある時、そう遠くない位置にあるオークエンペラーが住まう魔素点が少し騒がしいとの報告を受け、竜胆は数名の配下と共に出発。


画策、及び調整したのは白鳥。

主戦力低下のタイミングを見計らった彼は、大人数で竜の里へ攻め入り、次々にドラゴン達を討伐。

斃した中から最も優れた個体がその弟分で、その骨を加工し、作ったとの流れに。


戻って報告を受けた竜胆は(はらわた)が煮えくり返り、良いように弄んでくれた小僧(ガキ)へ報復しにいこうと命令を下す。

ただ、どれだけ上手く個人だけを始末したとしても、既に(白鳥)は組織のトップ。

軽く調べただけで情報操作が得意だと分かり、縄張りを荒らされたドラゴン達が仕返しにやって来るかもとの事で絶賛警戒中。


なので下手に動けば近隣の。

下手すると世界中の人間共がこちらへ押し寄せると配下から窘められ、仕方なく。

非常〜〜〜に仕方ない想いで諦めざるを得なくなったとの経緯が。




「おい、いつまで寝てんだ。さっさと起きろ。」


荒げる1歩手前位の大きさで、竜胆(人間形態)が1言。


目の前で寝ている人物はコソコソと、それも石橋どころか鉄橋を慎重に叩いて渡る位、万全の体制でしか動かない力を多少得ただけの小者。

基本部下や配下に一切を任せ、自分は悠々自適生活。

いざと言う時用に備え、回復や離脱が出来る道具を幾つも持ち歩く程だ。


そんな仇敵も、今や丸肌に近い状態。

異なる空間の為に位相がズレ、転移不可。

武装兵装の類は見ての通り木っ端微塵だし、身体強化の強力版『身体強化・覇惨(はざん)』が施されたものを始めに、様々な障害を防いでくれる装身具(アクセサリー)

仮面◯イダーもどきに変身するもの込みで、道具類も軒並み破壊。


頼みの綱である回復手段。

やや青み掛かった水晶である『賢者の石』も、回数制限を超えて使用したが為に砕け散った。


「チッ…凛、『回復の魔眼』を使う。」


「分かった。」


「と言っても程々にだがな。」


うつ伏せになってから数分、呼び掛けて少し経っても何の反応も見られない事に我慢ならなくなった様だ。

竜胆が渋々告げるや、彼のセレスタイト(天青石)を思わせる空色の瞳に変化が。


わずかに白く光り、同じく仄かに白鳥の体に光が帯び、彼の傷が癒える。

竜胆が持つ『天空眼』スキルの1つ、回復眼の効果だ。


「起きろ。」


「…はぁ、そのまま放っておいてくれて良かったのに。」


竜胆に促され、のろのろと立ち上がる白鳥。

その顔は不満が有り有りと映っており、面倒臭さも垣間見えた。


「ねぇ、もう十分でしょ。許してよ。」


「あれ程大掛かりに動いてか?昔だけじゃない、今も凛に━━━」


「あぁもううるっっっっさいなぁ!!だったら僕を殺せよ!!ほらやれよ!どうした!?そうしたかったんだろ!?昔っからさぁ!!」


「このクソガキ…!」


ご要望なら、今すぐにでも(くび)り殺してやろうか。


そう体現するが如く、怒りのあまり竜胆の瞳孔が収縮。

顔や腕の一部がドラゴンに戻り始めた彼の肩の上にポンッと手を置かれ、後方━━━アレックスを見やる。




「白鳥…だったか、前にお前言ってたよな?主人公がどうこうって。」


1歩進んだアレックスが告げる。


「…それが何。」


「主人公云々(うんぬん)はひとまず置いといて、だ。お前、時間稼ぎしようとしてるだろ?」


「…訳分かんない事言わないでくれるかな。」


「訳分かんない、ねぇ…ステラ、どうなんだ?」


誤魔化す目的だろうか。

妙に不貞腐れた白鳥を尻目に、1歩前に出たアレックスがステラへ問い、「そうだね」と返される。


「その考えで合ってると思うよ、ねぇ双葉ちゃん?」


ステラが別方向へ話し掛けた瞬間、応える様にして「はいは〜い☆」と甲高(かんだか)い声が。


「呼ばれて飛び出てぇ…じゃじゃーーーん!!皆のアイドルぅ、双葉ちゃんで〜〜〜っす♪」


続けて、黒髪ツインテール少女。

双葉が、キャピッ☆との効果音が付きそうな感じで出現。


「うわキッツ。」


「じゃじゃーーーんって…妙に古く感じるのは俺だけかね?」


「モロに昭和感出てるしな。つーか、アイドルって何だよ。アイドル(笑)の間違いだろ。」


「「それな。」」


「うるせぇぞお前らぁ!?3枚に下ろしてやろうか!あぁ!?」


早々、火燐、アレックス、ユーウェインからダメ出しを喰らった彼女は、歯を見せてガルルルル…と威嚇。


「今のはお前が悪いだろ…。」


「自業自得。」


「もう少し空気を読んで欲しいおすなぁ。」


「はぁ…。」


続けて別な場所に現れた黒髪ツンツン頭の五百(いお)、同じく黒髪セミショートで片目を隠す奈々、黒髪ロングの静からは散々なリアクション。

静よりわずかに短い黒髪の(びゃく)は溜め息をつき、他のディシーバーズのメンバーもうんうんと頷くのみ。


ここに味方はいないと分かり、双葉が「お・ま・え・らぁーー!」と憤慨する。


「うわーん主ー、皆してイジメるぅーー。」


かと思えば凛へ甘えに走り、どこからか「あっ」「ずりぃ」との声が。


ふくちょー(副長)が真面目にやらないのがいけないんすよ。アタシを見習うが良い…なんちゃって。」


『それはない。』


程なくして、細身長身。

且つ黒に近い紫髪の女性━━━六花が足を組み、ちょっとした山と共に姿を見せる。

最初こそ優雅さを演出したものの、仲間(ディシーバーズ)からの全否定がツボに入ったのだろう。

可笑しそうにケラケラと笑う。


「お、お前達…。」


ちょっとした山。

それは人、厳密には多数の女性が積み重なって出来たものだった。


その上部分に位置する彼女らの名は、(かもめ)(かささぎ)、鷹、(はやぶさ)(ふくろう)(もず)(みさご)(ひたき)(にお)ちどり

人、亜人、獣人で構成されており、勿論偽名(コードネーム)

白鳥の命に従い、部下を連れて凛が治める領地を攻撃した者達でもある。


「キシシシシ!キシシシシシシ!」


驚愕する白鳥を尻目に、ピラミッド状に積まれた女性達の上で六花は愉快に笑い、笑い━━━


「キシシ…あっ。」


勢い余って後ろへと転がり落ちた。




火燐、アレックス、ユーウェイン、それとディシーバーズのメンバーが、バカだなーと言いたげな。

上記以外の面々があらら…と心配する目線を本人に向ける中。


(クッソ、どいつもこいつも使えねぇ!結局僕1人で動かないとかよ!)


白鳥は内心悪態をつき、静かな足取りでゆっくり離脱。

応援に来た鴎達を囮にする算段が脆くも崩れた彼は1歩、また1歩と後方へ下がり、十分だと見極めた瞬間ダッシュで逃走。


(ウッッッソだろおい!!)


部下達を見捨てて一目散に駆け、数十秒の後に視界へ入るは見知った。

そして2度と関わりたくないとすら思った、凛達の姿だった。


「ループして戻るとかどこのダンジョンだよ!でもまずは逃げ…!」


現在いるのは創られた空間の為、白鳥の意見は的外れではない。


ともあれ少しでも早く逃げ出したい彼は、急いでUターン。

今度こそはとの思いで遠ざかろうとする。


しかし動きは止まり…否。

無理矢理止められた感覚を彼は覚え、恐る恐る左足を見やる。


「残念、神からは逃げられない。」


白鳥を封じたのは雫だった。

(カドゥケウス)を突き出した彼女は闇系超級捕縛魔法「ヴォーパルチェイン」を足元から生やし、目標を捕縛。


「ま、神には違いねぇわな。『外なる』との前書きが付くが。」


右足に、右手に、左手に、首に、胴にと。

次々に巻き付くソレにグイグイと引っ張られる白鳥を他所にアレックスが宣い、「外なる…?それってクトゥ…」と(おのの)かれる。


「さて、審判の時が来たみてーだな。」


「…!何が審判だ!僕は主人公、いずれは神に至る者だぞ!こんな不敬が(まか)り通る訳がない!」


冷静なアレックスとは対照的に、ひたすら喚く白鳥。

彼我のテンションの落差、そして向こうの主張の中身の薄さに失笑が零れるのも仕方ないと言えよう。


「笑うなぁ!」


「いや笑うしかねぇだろ…なぁ聞かせてくれ、どうやって『魔王』から神へと至るんだ?」


「うぇ!?ま、魔王?僕が…?」


「『どうして分かるんだ?』って顔してんなぁ。答えは簡単だ、俺は一応鑑定眼が使えるんだよ。」


鑑定眼、それはファンタジーではお約束の能力。

大抵の者があると便利だと考え、白鳥も欲した1人。


「そんで魔王になるまでの経緯だが、闇に秀でているか悪逆非道を尽くすかのどちらか。ただお前を見る限り、あんま闇に傾倒してるとは思えねぇ…さてどうしてなんだろうな?」


「し、知るかよ!!」


「そうだな。少なくとも俺にとっちゃあどーでも良い事だ。自称主人公様の活躍はじゅーぶん見たしな。ククク。」


「ぐ、お前ぇ…!」


「さて、今なら俺でも片付けれそうなものだが…簡単に終わらせるつもりはないんだろ?」


身動きが取れず、挙げ句無防備を晒す白鳥を前に、アレックスが凛へ問う。


「だね。『管理者』として、白鳥君は完全に今この場で完全に終わらせる。終わらせなきゃいけない。」


「管理者…?」


「輪廻転生の類もなしって意味だよな?」


「うん、彼はやり過ぎた。可能な限り(裏から手を回して)被害を抑えてはいたけど…向こうが来てくれたんだ。なら応えるのが筋でしょ。」


若干俯きながら、それでも明確に、ゆっくりと言葉を紡ぐ凛。


対する白鳥は複雑だ。

必勝のつもりで挑むも完膚なきまでに敗れ、風前の灯にまで迫る自身の命。

ならばどうするか。


「巫山戯るな…!こんなところで終わってたまるかよぉぉぉおおおおお!!」


1度は諦め、しかしながら無価値なものでも見る視線。

物言いに我慢出来ず、脱出しようと思いっ切り暴れ始める。


「逃げられない、と私は言った。」


ただ、彼の頑張り虚しく徒労に終わった。

ほんのわずかな綻びさえ生まれず、疲労からハー、ハーと息が荒くなる。


「そんな貴方にとっておき。相応しいプレゼント。」


チラッと凛へ目配せ。

いきなり振られた事に当人は軽く目を大きくするも、即座に首肯で返す。


雫が再び杖を前に掲げた。


「エターナルフォースブリザード。」


エターナルフォースブリザード、またの名を永久凍結界…と言うかこちらが正式名称。

あまりにもあんまりな魔技名に大凡(おおよそ)が盛大に吹き出し、ユリウス含めた数名が首を傾げる。


「おま、お前ーーーー!!止めろ!マジで止めろ!!まるで俺がちゅ━━━」


白鳥も例に漏れず、全身で怒りを表現。

否定する内に先端より凍っていき、瞠目したまま固まるとの最期を迎える羽目に。


「いや、誰がどう見てもお前はそう(厨◯)だろうが。」


決して大きい声量とは言えないアレックスのツッコミに、誰しもが心裡(こころうち)で『確かに』と納得するのだった。

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