221話
「わお。」
「マジか。」
「…へぇ。」
「ふーん、成程な。」
「聞いてた通りっす!」
白鳥の全体像を改めて見直したステラ、アレックス、ユリウス、火燐、藍火のリアクションがコレ。
アレックスとユリウスは前情報なし、残る3人はタマモから聞かされての返しでもある。
なので藍火のセリフを受け、何も知らないアレックスとユリウスが「え?」となったのは言うまでもない。
さて、アレックス達が白鳥を見て驚いた原因。
それは彼の背丈、髪型、最後にルックスと。
その全てが何となく、本当に何となーーーくではあるが凛を思わせるからだったりする。
転移された当時は14歳にも関わらず、数センチしか身長が変わらない。
髪は乱れこそしたがワックスを使用したみたいな仕上がり、四白眼等々。
細かい点を述べればキリがないものの、遠目から見れば凛の様に見えなくもないのは事実。
その感じが凛っぽい=2人は関係者なのではないかとタマモが勝手に腹を立て、異端者認定へ。
後にぶつかるとの流れとなり、実は白鳥と何の縁もゆかりもない事が分かるや心底申し訳なさそうにしたのは記憶に新しい。
ともあれ、凛(表向きはホズミ商会)へ全面的に協力するとのスタンスを打ち出した神国。
彼の国、厳密にはタマモを目の敵にする白鳥にとって、その件が面白い訳もなく。
彼の調べによると、凛は世界で見てもかなりの強者。
強者なのだろうが…自分より数段劣ると見ている。
「どうして俺の方がダメージを負っている?おかしいだろうが!!」
凛の配下である火燐。
白鳥にとって取るに足らない存在だと思っていた彼女から尋常ならざる痛手を被り、結果使う予定がないはずの回復手段を用いてしまった。
だからこそ白鳥は納得いかない。
何故なら自分は支配者。
これまでも、そしてこれからも世界を管理しなければならない。
「何故も何も、お前がその程度だからだろ。」
あっけらかんと言い放つ火燐にキレた白鳥が瞬く間に距離を詰め、持っていたナイフを突き立てる。
「…ぎっ!」
…が、空いていた側の手に魔力を込めた火燐によりあっさり弾かれ、前蹴りによって吹き飛ばされた。
「何なんだよ…何なんだよお前ぇぇぇ!!」
正面、側面、背面、斜めを含めた上方向と。
幾度となく白鳥がナイフを振るい、その全てを手首から先に具現化した赤い炎(を模した魔力)で防がれる。
変わらずもう片方の腕でユーウェインを抱き、明後日に視線を向けながらで…だ。
これに白鳥が腹を立て、更に苛烈なものへと変わる。
しかしやはり涼しい顔で捌かれ、終いには片腕での防御→反撃により殴り飛ばされる始末。
「言ったろ?そんなもんだって。」
「んな訳あるかぁ!!俺は主人公だぞ!最強なんだぞ!?いずれ世界の王になる男だ!!」
「ぐふっ…しゅ、主人公…?」
「ぶっ…最強…?」
真っ赤な顔で否定する白鳥とは裏腹に。
吹き出し、つっかえながらもどうにか言い終えた火燐とアレックス。
互いに顔を見合わせた後、アレックスは面白顔で体を震わせ、火燐もやはり同じく面白顔で小刻みに動きつつ優しくユーウェインを下ろす。
「「だーーーーっはっはっはっはっは!!」」
「おい、聞いたかアレックス!?主人公だってよ!!」
「ククククークークーククげぇっほげほっ!…んぐっ、それに最強だぁ?ここまで笑える冗談は生まれて初めてだわ!!」
「「だはははははは!!」」
火燐とアレックス。
2人による大きな笑い声が辺りに響いた。
火燐がアレックスの肩をバシバシ叩き、アレックスもアレックスで途中で噎せこそしたものの、久し振りに見るモールス音みたいな笑い方。
ユリウスは後ろを向いて必死に笑いを堪えるし、ステラは「主人公ぉ?」とハテナマーク。
ユーウェインに至っては「ないわー、アレを中心に世界が回るとか絶対ないわー」と吐き捨て、本気で嫌がっている風に見える。
「ぐぐ…笑うなぁ!」
白鳥が吶喊。
勢いのまま振り下ろした腕を火燐が掴み、反対の手でカウンター。
「ぐぼぇぇっ!」
腹部を殴られた白鳥は錐揉みしながら飛んで行き、近くの建物へ激しく衝突。
「しっかし弱ぇな。コレで世界の王を自称するんだから恐れ入るわ。」
溜め息交じりで白鳥がいる方へと歩みを進める火燐。
「俺は弱くないっ!」
黒く禍々しいナイフを両腕に携え直した白鳥が瞬く間に詰め寄り、極短時間の内に繰り出される数十もの斬撃。
それらを火燐は素手で往なし、やがて左手首、右手首の順番で掴み、巴投げの要領で空中へ。
起き上がってすぐに後を追い掛け、10秒近い空中戦(重力に任せながら)の末、回避も兼ねた踵落としにて決着が付いた。
「まぁまぁ強いがそれだけだ。動き以上に、防御がまるでなっちゃあいない…さてはお前、格下としか戦った経験がねぇな?」
降り立った火燐からの指摘に、白鳥が蹲りながら「うぐっ」と漏らした。
実の父に加え、かつての想い人であるタマモの姉を殺して力を得た白鳥。
その新たな力は非常に強く、大陸全土を手中に収め━━━られなかった。
タマモが住まう神国を攻め落とすには至らなかったし、帝国中心付近で幅を利かせたオークエンペラーの討伐も叶わなかったからだ。
どちらも死力を尽くせば終わらせられたものを、戦力を出し渋り、苦労するのが嫌だからと面倒がった。
そう、世界最強を自負するあまり鍛錬を怠り、向上心も失った彼が切磋琢磨を常とする火燐に勝てないのは自明の理。
否、(凛サイドの中で)十指に入る火燐は疎か、2桁台の藍火にステラ、3桁台のユーウェインにも負ける。
「楽がしてぇのは誰だろうが一緒。本気で上を目指してぇなら抗ってこそ、だろ?」
それは白鳥へと言うより、ウェルズ含めた帝国側全員に告げた言葉。
選民思想の度合いなら王国が勝るが、こと他種族への蔑みだったり力や権力の渇望は帝国に軍配が上がる。
その状況に甘んじるあまり、満足するだけの力量や地位になるや途端に手を抜き、停滞又は堕落。
帝都からそう遠くない位置に抑止力となる存在がいるのも、関係なくはないと問われれば嘘になる。
ただそれも本人のやる気次第。
才能や環境、適性如何は別として、反骨心に努力。
それと何者にも負けんとする強い意志さえ備えれば、人はどこまでも強くなれるのだから。
的な感じで、火燐が斜め後方に顔を向けた瞬間。
白鳥は片方の剣をそっと地面に置き、懐から取り出した拳銃と思しきモノを発砲。
「…いてぇじゃねぇか。」
火燐は意識を逸らしても、警戒自体は怠っていなかった。
撃ち出されたものを素手で掴み、ゆっくりと正面を向く。
彼女の手からは白い煙が上がり、撃った本人。
並びに帝国の面々をざわつかせた。(謎の道具の出現以上に、あの状況から不意打ちを防いだのかとの意味で)
「痛い!?痛いだけで済む!?アレは…イレイザーはその程度じゃ…。」
「いやイレイザーて。確かに威力はありそうだが、そんなんでオレを倒すなんぞ土台無理な話だ。」
「ちぃぃ!」
白鳥は拳銃を持っていない方の手を突いて起き上がり、もう1丁用意。
「ガン=カタだ。まさか本当に使う人がいたなんて…。」
「それな。それとアイツ、陰陽師の家系なのな。技名が如何にも厨二っぽいからスゲー違和感。」
「陰陽師ならではの古い仕来りの反動とか?」
「その考えもあるか…。」
白鳥は2丁の拳銃を交えた格闘術、所謂ガン=カタと呼ばれる戦い方で火燐を相手。
先程のイレイザーとは別に、滅龍弾、貫通弾、強制破壊弾なる弾を次々に放出。
「そうそう、陰陽師と言えばアレだよね!急急如律令とか、オン何とか何とかソワカ!」
「後アレだろ!じゅげむじゅげむ、五秒でブチギレ!」
「…ゴボウ…じゃなかったごこうのすり切れじゃあ?それにじゅげむ関係ない…。」
「えっ、そうだったか?」
ステラとアレックスによる謎の漫才でユーウェインが吹き出したのはさて置き。
陰陽師云々は彼の口から出た単語で、霊力に特化。
霊力はエーテルとも呼ばれ、光系やそれを含めた複合系。
上に上がれば上がる程強さを増し、比例して浄化・殲滅力も向上するとの仕様に。
「つーか、今更だけどよ。バカスカ撃ち過ぎじゃね?ちったぁ配慮しろっての。でも不思議と、建物とかに当たる前に消えてるんだよな…謎だぜ。」
そして最後、白鳥が無闇矢鱈に物騒なエネルギー弾を撃ちまくっても周囲が一切無事な理由。
「そりゃ、被害がないよう僕が防いでるからね。」
いつの間に来ていたのだろう。
すぐ右側の位置から凛がひょっこり顔を覗かせ、ニコッと笑う彼にアレックスは思いっ切り面食らうのだった。
アレックスが言っていた『じゅげむじゅげむ五秒でブチギレ』ですが、割と最近買った白地に前片足を突いたパンダがイラストのシャツの事でして、たまに着る位には気に入ってますw
あ、後半年以上ぶりにステラの方も更新しました↓
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