212話
「よっし、食休みは終わり。軽く運動でもしようぜ!」
商店からホズミ商会 獣国王都支店へ移動。
ショッピングを終えた1行は、付近にあるベンチで休憩。
しばらくしてレオンがその様な事を宣い、光輝達の顔が「へ?」となる。
現在地より少し離れた場所にダンジョンがある関係からか、戦闘用装備品や関連道具や魔道具や食料品。
それと家庭は勿論、ダンジョン内に於いても活躍が見込まれる新商品『メイカー』シリーズが、ホズミ商会 獣国王都支店で人気を博している。
メイカーとは魔石に内包されるエネルギーを原料に、完成品を創り出す魔道具。
見た目は大きめの電子レンジみたいな形状で、ブレッド、ライス、サラダ、スープ、メイン、デザートの計6種類。
メニューを選び、5分後には1人前が完成するとの流れだ。
値段は少々お高めではあるものの、人目を憚らずに好きなものを、好きなだけ食べれるとして好評。
男性はメイン、女性はデザートタイプのメイカーが売れ筋なのだとか。
レオン達は様々な理由でメイカーシリーズは購入不可となり、ここでも食い付いたのは莉緒。
姉妹揃ってホズミ商会に籍を置くも、理彩は商会全体を統括、本人は美容関連と分かれているのも興味を示した原因の1つ。
ちゃっかりデザートメイカーを買おうとし、ホズミ商会に勤める姉から品質が並である事。
それと(凛の配下の)誰かしらに頼めば即提供してくれるであろう旨を伝えられ、だったらいらな〜いとなったのは御愛嬌。
話は戻り、軽い運動を名目にレオンが暴れたいとの要望へ。
(本人以外が)周りの目を気にしだしたので王城の中庭へと場所を移す。
「火燐さん、この場合の武器って…。」
「普通は木刀とかだな。だが普通の木だとレオンが圧し折るだろうし、死滅の森のだと硬過ぎる。割り当てられた神…んんっ。武器も同様、てな訳で今回は『コイツ』を使う。」
光輝からの質問に答えつつ、火燐が(無限収納から)取り出したのは長さ30センチ位の1本の白い筒。
ほとんどの面子が不思議がり、首を傾げる等する中。
理彩が目を瞬かせ、莉緒は「何か見た事あるかもー」と笑顔。
光輝と勉が「え、嘘でしょ…」と目を見開きながら驚いてみせた。
「一部分かったみてぇだが…コイツはこうやって使う。」
皆に見せる目的で開いた右手を閉じ、顔の前に運んだ火燐が白い筒に魔力を流す。
すると赤いレーザー的なものが延びていき、長さ80センチになった辺りで停止。
それはどう見てもス◯ー◯ォーズに出て来るライ◯セーバー。
フォンフォンと音を立て、振り回す火燐に注視を余儀なくされる。
特に男性組が顕著。
レオンは新しい玩具、商国代表ポールは火燐のカッコ良さとの意味でお目々がキラッキラ。
幾つになっても男の子との表れなのだろう。
城にいた男性も同様。
レオパルド、レオネル、獣剛熾爪隊の男性メンバー何名かの順で気付き、上記の様な反応を示してからのダッシュ。
兵士等を含めた他の男性も目を爛々と輝かせるのとは対照的に、日本人2人。
それとポール以外の商国サイドが外れそうな位に顎を落とすと言う、落差が酷いものではあったが。
ともあれ、火燐が齎したサプライズは大成功。
程なくしてレオン達、続けてやって来たレオパルド達が彼女の元に押し掛け、質問責めにしたのは語るまでもない。
今回火燐がお披露目したのは『ホロウソード』。
中身が空っぽの剣、実体がない剣との意味だ。
先日、凛は丞に渡した金砕棒をヒントに、何か変わり種的な武器がないかを考案。
こうして生まれたのがホロウソードとなる。
初心者、上級者問わず誰でも扱えるをコンセプトに、訓練の一環としても使用が可能。
他にも大剣、斧、槍の3タイプがあり、赤色、水色、緑色、茶色、白色、黒色、紫色で色が変化。
このホロウソード、発動中は常に魔素を消費し続け、消費量の増減で切れ味が変わったりするとの仕様だったり制限が。
一応、子供でも扱えるようセーフティ機能付きでもある。
火燐から投げ渡され、おっかなびっくり受け取ってからの起動を果たした光輝。
光属性を得意とする彼は、白いエネルギー状の刃を出現。
感動する光輝に(フリではあるが)火燐が斬り掛かり、再び慌てる…なんて場面も。
こうして突如始まった手合わせ。
何故か言い出しっぺであるレオンはすっかり蚊帳の外、しかしながら本人が全く気にしていないので続けられるとの運びに。
火燐の方が遥かに強いのでかなり手加減。
それでも光輝にとってはいっぱいいっぱいらしく、ヒィヒィ言っていたが。
因みに彼女が言い掛けた神…と漏らしかけたのは神器クラウ・ソラス。
白金色の刀身を持つ光の剣の事を指し、割り当てられた光輝が飛び跳ねて喜んだのだそう。(今は腰に装着したアイテム袋の中にあります)
それと凛が初めてホロウソードを試験運用させた際、美羽、火燐、雫、翡翠、楓、ステラ、朔夜の7名を招致。
紫色の光刃が出ている状態のホロウソードを振り回し、魔力をオフ。
光刃が消えたのを確認してホロウソード本体を右掌の上に乗せ、左手で指し示しながら皆に説明。
ホロウソードは全属性に対応している旨を伝え、再び紫色の光刃を出現させた後、紫→赤→青→緑→茶→白→黒→紫の順番で色を変更。
その様子に美羽達は目を輝かせ、或いは興味深そうに見ていたのが印象的だ。
それから、ホロウソードの性能を見るとの話に移行。
凛は左手で岩を生成し、軽く上へ。
落ちて来る岩を横へ両断、テストと称して美羽と斬り結ぶ流れに。
1分後
ヴォン、ヴォン、チュイィィン、ヴォヴォン
袈裟、斬り払い、しばし交差からの袈裟、逆袈裟で離れた凛が紫色の。
同じくバックステップした美羽が白色と黒色の光刃を消す。
「…取り敢えずはこんな感じかな。ありがとう、美羽。」
「いえいえー♪これ面白いねー!マスター、貰っても良い?」
「勿論良いよ。」
「やった♪」
主から承諾を得た美羽が、嬉しさのあまりその場で小さくジャンプ。
「凛様、僕も!僕もジェ○イみたいになりたい!」
「ん。凛、私も…!」
「妾も欲しいのじゃ!」
「あ〜、オレも良いか?」
「あたしにも頂戴ーーー!」
「仕組みが気になります…。」
続けて、ステラ、雫、朔夜、火燐、翡翠、楓が大なり小なり挙手。
それぞれが欲しいアピールをする。
これに凛はクスリと笑い、
「ホロウソード、格好良いもんね。けど簡単な様で意外と難しかったりするから、取り扱いには注意してね。」
と告げ、『は〜い!』との返事が。
「後は変なタイミングで刃が出ちゃったりとか、光刃の威力が現在どれ位なのかは本人しか分からないのがホロウソードの欠点でもある。なのでホロウソード同士での手合わせの際は━━━」
「分かったのじゃ!だからはよう、凛よはよう配るのじゃぁぁぁ!」
朔夜の慟哭、もとい要求に説明をぶった切られる凛。
それだけやる気が漲っているとの証拠なのだろうが、安全と同時に危険物でもある…と最後まで説明させて欲しかったのもまた事実。
見れば雫達も言外に催促しているのが窺え、凛は微苦笑で彼女らにホロウソードを配布。
一様に喜んでくれてるのが分かり、まぁ良っかと軽く溜め息。
後に、武具屋(若しくはホズミ商会)に於いて、取り扱い説明込みでホロウソードの一般販売が開始。
ただ、白金貨1枚と非常に高額。
にも関わらず、光刃を出した時の格好良さ。
実用性の高さも相まって、飛ぶ様に売れたのだそう。
と言うのも、
「雫…曲がりなりにもお前が剣に興味を示すなんてな。体術はあんま得意じゃなかっただろ。」
「…!これは杖の延長線的な物。決して剣ではないのだ。」
「ホントか〜〜〜?」
「くっ…火燐の癖に生意気。」
「どぅわっ!お前、いきなり向けて来んな!しかもソレ、かなり魔力込めてっだろ!」
「ん。大丈夫、問題ない。」
「どこが!?むしろ問題しかねぇ!!」
「ん。火燐だし。」
「どんな理屈だよソレ!」
これは凛からホロウソードを賜った次の日。
雫を誂う目的で近付いた火燐が逆襲を受け、少々(?)危ないチャンバラへと発展。
互いに魔法を放ち、それを出力高めのホロウソードで切断し合う事数時間。
最後は仲良く大の字で寝っ転がる姿を見掛けた翡翠と楓に笑われ、2人して神妙な面持ちになったらしい。
ともあれ、剣でありながら魔法を斬ると言う。
並の武器では出来ない芸当との後押しを受け、本当に斬れたとの実績も重なって民衆からの人気に拍車を掛けた。
「…っつー訳で、コイツは武術と魔力、両方の訓練を1度に纏めて行えるっつー代物だ。込める魔力が多ければ多い程斬れ味は増すし、逆に少なければ威力はお察し。幼児とか、そこにいるポールのパンチレベルくれーしかねぇ。」
凛がやったのをファイアボールで再現。
空のペットボトル程度にまでホロウソードの強度を落とした火燐が、胸の前で左掌の上にペシペシ当てる。
「そんな!火燐様、私の拳はそんなものでは━━━」
すると、ポールが不服さを露に。
ズンズンと距離を詰め、言い終えるよりも先に「変態は黙ってろ」と火燐がホロウソードで強打。
頬に手を添えながら「ああん」と崩れ落ち、恍惚の表情で彼女を見上げる様は先程と似た(むしろ全く同じ)シチュエーション。
殺傷能力の低さを実証してくれた反面、失った代償は大きい。
多くの者が「やっぱコイツだめだ」との判断を下し、冷ややかな目を向けたのも仕方ないと言えよう。
火燐がポールの頬を打ってから10分後
「はっ、はっ、てりゃあっ、ていっ!」
「よっ、ほっ、おっ…だらぁぁ…あ?チッ、もう魔力切れか。」
光輝とレオンによる模擬戦中、レオンの魔力が総量の2割にまで減少。
警戒域に達したと見なされ、強制的にシャットダウン状態へと移行された。
ホロウソードに白い光刃を生やした光輝を前に、自身の紫色の光刃が消失。
顔の前へ持って行き、舌打ち混じりで悔しそうにする。
「まだだ…まだ勝負は付いちゃいねぇ。安全装置を解除して━━━」
「させるとお思いですか?コレは没収します。」
「ああっ!」
「ああっ!ではありません。ほら、次の方の為に移動しますよ。」
「おぅ…。」
ホロウソードをタリアに取り上げられた事で、すっかり落ち込むレオン。
ホロウソードには魔力残量が4割の安全域、2割の警戒域、1割の危険域に達したら発動終了と言う。
3段階での安全装置が施されている。
レオンがやろうとしたのは、それらを全部取っ払い、限界ギリギリまで戦う事。
当然魔力枯渇を理由に気を失うし、それが同時に攻撃を仕掛けるタイミングであれば最悪の事態も十二分に有り得る。
如何に獣王と言えど、レオンは獣人なので魔力は少なめ。
客観的に見てもそちら側が劣勢。
反面、転移者との高いスペックに加え、度重なる訓練+食事で強化された光輝にはまだ余裕が感じられた。
如何に魔力を用いた模擬戦とは言え、今回の勝負の行方は分かり切っており、レオンの最終手段は悪足掻きにすらならなかっただろう。
恥の上塗りをして欲しくないタリアが戦いを終わらせたのはレオンの為でもあり、しょぼくれる夫を慰めるのも妻の務め。
彼の背中に手を添え、英雄の如く持て囃される光輝達の元へと歩みを進めるのだった。




