210話
先週は体調不良に次ぐ体調不良で、書く気力体力が湧きませんでした(´・ω・`)すみません
「しかしこうも変わるとはねぇ…獣国王都は10年振り位?だけど、まるで別物じゃあないかい。」
そう零すルルは現在、神輝金級のエンシェントドワーフ。
身長が低いのは変わらず、代わりに元々腰位あった髪は膝丈近くにまで伸びた。
数日前に進化を終えた彼女は、『鉱物生成』スキルを獲得。
これは消費する魔力に応じ、銅や銀、金を始めとした。
鍛冶で扱う鉱物を創り出せる様になるとのスキルだ。
「普通のドワーフなら誰もが欲しがるスキルなんだろうけどさぁ、あたいには凛がいるからね。単純に鉱物系の魔物(の素材)もだし、アクティベーション。超効率化なんてのがある…どうせなら、酒造りに役立つスキルが良かったさね。」
ルルはドワーフでありながら、鍛冶方面での才能が皆無。
ならばと趣味と実益を兼ねて酒造りに勤しみ、面白くなったと感じる今日この頃。
周りから新作を求められる位には期待され、同時に祖父のロイドから早く進化して欲しいとせっつかれていた彼女。
実はエンシェントドワーフ到達と、とある召喚事件の日にちが見事にバッティング。
折角の新作お披露目共々、危うく流されかけたのは悲しい思い出。
ついでに、彼女の妹ロロナはハイドワーフ止まり。
これはルルが大人なのに対し、ロロナは未成年。
それと凛の配下と客側との考えから来ている。
ダークエルフのヤイナは、長の孫娘兼転生エルフリーリアの付き人。
リーリアの奔放さに振り回され、心労が絶えなかった人物でもある。
昨今、主はクリアフォレストにあるユグドラシル教の大司教の座に就任。
ようやく腰を据え、落ち着いてくれたと陰ながら安堵したものだ。
そんな彼女はダークエルフクイーンへと進化。
見た目等の変化は特になく、強さ的にはちょっとだけ先に終えたルルと同じ神輝金級。
得たスキルは『影操作』と『魔装』の2つで、前者は影の中への移動。
全身真っ黒、且つ使用者と同じ背格好の分身が召喚可能。(現時点では2体が限界)
これにより、影の分身と連携して戦闘が行えるまでに。
「影を囮にも出来るのか…これはかなり戦略の幅が広がるな。」
とは、進化直後のヤイナの言。
加えて、黒い全身鎧に身を包んでのものだ。
その黒い全身鎧こそが魔装。
魔力を元に生み出され、維持には結構な消費を必要とする。
だがヤイナはダークエルフ。
魔法がメインのエルフ程ではないにせよ、魔力量自体はかなり多い。
また、彼女は凛のサポートを受ける身でもある。
おかげで、発動時間は実質無制限に近いまであるとか何とか。
因みに、魔装スキルは重厚そうな見た目に反し、魔力を具現化させたものなので純ミスリル製の鎧より軽い。
身体及び運動能力の補助を主とし、鎧としての役割も十二分に果たす。(インナーは変わらずビキニアーマーのまま)
その後、ルルは世界樹をベースとした『ミストルティン』。
ヤイナは漆黒の大剣『グラム』をそれぞれ凛から賜り、ディレイルームで鍛錬と習熟に勤しんだ。
ただ、その顔は終始笑顔。
新しいスキル、新しい武具は言わば玩具であり、刺激でもあるからだ。
2人は的や教育係を相手に思いっ切り楽しみ、最後は満足そうな様子で退室。
付き合った教育係から「2人してずっと笑いっぱなしだから怖かった」との言葉が漏れ、凛(分身体)は乾いた笑みになったのは言うまでもない。
話は戻り、「おーいてて…」と立ち上がったレオンがごほんと咳払い。
「さて、今日のお昼だが…まずは『粉もの屋』で摂ろうと思う。今日からオープンの新店だぞー。それに、ステラのオススメでもある。」
ステラの名前が挙がったからだろう。
勉の耳がピクリと動き、今まで上の空だった彼の目に活力が宿る。
今の反応で如何にステラへ対し関心を寄せているかが分かり、キャシー、アメリ双方から「ツ〜ト〜ム〜?」と追及を受ける羽目に。
「まだ途中なんだが…良いや、アレは放っとこう。ともあれ両隣も含め、人気が出るのは間違いない。ステラが言う、『商売繁盛間違いなし』ってやつだな。ガハハハハ!」
3人から目を逸らし、一頻り笑ってから「では行こう」と歩き出すレオン。
妻のタリア、娘2人を含めた光輝グループ、火燐グループが彼に続き、勉達3人だけが動かずそのまま。
戻った火燐による声掛けで、勉達も移動を開始。
ただ、現獣王夫妻に娘姉妹、数種類の亜人獣人。
最後にここでは珍しい、複数人の人族と。
あまりにも目立つ組み合わせに、注目が集まらないはずもなく━━━
「お、おいあれって…。」
「ん?ああっ!あいつはまさか…『大泥棒のキャシー』!?」
「良い男と見るや、相手がいようがお構いなしに食い漁る超問題児じゃないか!!」
「数々の修羅場を生んだって言う、あの…?」
「ひっ、狙われる!?」
と思いきや、過去にキャシーが何かやらかしたのだろう。
彼らの意識はそちらに吸い寄せられ、揃って恐ろしいものでも見たかの様な顔付きに。
しかし当の本人は俯き、恥ずかしそうに勉の影に隠れるだけ。
いつもの五月蝿さは鳴りを潜め、守りへと徹している。
「ゴチャゴチャうるっさいにゃ、おみゃーも襲ってやろうかにゃ!?にゃ!?」的なリアクションが返ってくるとばかり思っていた獣人達は、完全に予想外。
盛大に肩透かしを食らい、似てるだけで実は別人?との意見がちらほら。
尚もしおらしさが続くキャシーを見て相応の扱いになり、軽い謝罪の後に解散。
以降も、何度か似たやり取りが行われたのは言うまでもない。
「あそこだ。」
やがて1行は目的地へ。
「やっと着いたぜ…」と零すレオンが視線で指し示す先には、『粉もの屋』と看板が掲げられた飲食店が鎮座。
「ようこそいらっしゃいました。」
入口には茶色いお下げ+眼鏡+平仮名で『たお』と記載がされたエプロンを装着した女の子が待ち構えており、再び歩き出した彼らに向け深くお辞儀。
「垰か。此度の店舗らの設立、大儀であったぞ。」
少女の正体は、地神龍クエレブレこと垰。
楓の部下でもある彼女は、(中高生位の風貌とは裏腹に)こうして1人で新店設立を任される位には優秀、重宝がられている。
「ありがとうございます。今回はステラ様の知識を元にとの事で、普段とは勝手が違いましたが…頑張って良かったです。」
頑張ったと語る垰の表情は、変わらずいつも通りの真面目な委員長風。
しかもスッと眼鏡を整えながらだったのでクールだと捉えられ、彼女から発せられる出来る女性オーラにサラ&シーラ姉妹。
それと光輝に勉がおぉぉ…とプチ感動。
ただ、後者の2人には女性陣からの視線が突き刺さり、それに全く気付いていないのが悲しいところではあるのだが。
今回、粉もの屋を凛の領地内ではなく獣国王都で開店とした理由。
それは、一昨日レオン達と一緒にかき氷を食べるにまで時間を遡る。
王城にて、レオンとレオネルが一気にかき氷を掻き込み、ぐぉぉぉぉ…と頭痛に悶える様をタリアが「何やってるのよ」と冷ややかな目で見る。
その横で双子の姉サラがステラに好物を尋ね、返って来たのが粉ものと言う答えだった。
粉ものはパンやパスタ、ラーメン等も該当するが、ステラ的にはたこ焼きやお好み焼き。
焼きそば、うどん(焼きうどん含む)の事を指す。
日本にて、ステラこと日向は関西圏に住まう親戚が母方におり、本場を口にして大層気に入ったのが粉もの好きの切っ掛け。
以後再び親戚を訪ねるか冷凍品を送って貰う形で味わうのが毎年の楽しみで、昔語りした際に「また食べたいな…」との想いが出たりなんて場面も。
そこでレオン達は粉ものが何なのかを知る。
サラとシーラはイマイチピンと来ておらず、2人が気に入って食べているパンケーキも小麦粉を使用。
つまりしっかり粉もの料理である旨や、砂糖や果物を用いた甘い系。
肉や魚介類とも相性が良いとの伝達を受け、目を丸くする。
また、レオンもレオンでやる気を漲らせていた。
肉や魚介類と相性が良いと聞いて居ても立っても居られず、王都で粉ものを使った店を開きたい旨を凛に申し出る。
これに凛が「良いですよー」と快諾。
トントン拍子で話が進み、従業員の教育から店舗の設立を経て本日開店するとの運びに。
店内入ってしばらく。
カウンターの向こうには幾つかの鉄板が置かれ、メニューはそれに準じたもの。
たこ焼きに明石焼き、魚介類の入ったお好み焼き、いか焼きやもんじゃ焼きは勿論の事。
焼きそばや塩焼きそば、焼きうどん、焼きラーメン。
ムニエルや(肉を含めた)ソテー、魚1匹丸ごと使ったアクアパッツァ、(肉と魚介の2種類の餡がある)餃子が。
デザート枠として、ホットケーキ、パンケーキ、クレープ。
それと粉ものではないが、エビチリや海老のマヨネーズ炒め、野菜炒め。
ハンバーグ、ステーキ、そばめし等も載せ、客から人気を得てある。
30分後
「皆、余力は残しているな?あっちはまた後で行くとして、先にこっちの方か。」
そこそこ腹を膨らませ、粉もの屋を後にしたレオン1行。
案内役の垰を交え、すぐ左隣にある『ホズミ商店 獣国王都支店』と記載された商店…ではなく、その反対側。
ラーメン、うどん、パスタをメインとした『麺処 ホズミ』へと向かう。
因みにここ『ホズミ商会 獣国王都支店』は他店舗とは異なり、あまり高級品は置かれていない。
勿論人気がないとかではなく、獣人が質よりも量を好むとの気質からこの様な形に。
普段はそこそこの品質のものを目いっぱい。
しかしたまには思いっ切り贅沢を楽しみたいとの要望に応えた結果とも。
「さ〜て、どこに座るっかなぁ〜…ん?」
先頭で麺処 ホズミへ入ったレオンは、早速どこが空いているかを探ろうと店内をキョロキョロ。
すると彼から見て左奥。
カウンター席1番左のスペースに、一風変わった少女が座っているのを確認。
その少女は1人きり。
赤い髪、赤いドレス姿を着用し、丁寧な仕草で。
それも片方の手で耳をかき上げ、反対の手で可愛らしくチュルチュルとラーメンを啜るのが印象的だった。
「おいおい、いつまで突っ立って…お?あいつは…へぇ…。」
続けて火燐が入店。
せっかちな彼女はレオンに小言をぶつけようとし、彼の視線の先にいた人物に定められた焦点。
未だ固まるレオンを他所に、真っ直ぐそちらへと向かって行く。
「やっぱユーだったか。」
「あら、火燐様ではありませんか。」
ユーと呼ばれた少女は、やたら赤い事を除けば(外見上は)深窓の令嬢そのもの。
言葉の選び方、間の取り方1つ取ってもその上品さが窺える。
「人前を嫌がるお前が珍しい。」
「私、一応は関係者ですよ?…まぁ、出来を見に来たのが理由の大半にはなりますが。」
「流石、ラーメンジャンキー。」
尤もな風を装ってはいるが、本当はただラーメンを食べに来ただけ。
それに得心がいった火燐がクツクツと笑い、ユーの「失礼な」とのジト目が突き刺さるのだった。




