197話 66日目
66日目
開門と同時に、王国使節団を名乗る1団がサルーンを後にした。
彼らは昨日、各施設にて散々迷惑を掛け、強制的に追い出されたり叩き出された者達。
王国代表を謳い、客や利用者がいようがお構いなしにズカズカと押し入り、迷惑行為ばかりする集団でもあった。
情報を開示しろはまだ良い方で、技術や設備を寄越せと言ってみたり、今日から自分が代表を務めるから指示に従えと抜かす輩まで。
下手すると作業を滞らせる…例を挙げると、調理に使う材料だったり調味料を不潔な手で触ったり口にしたり、患者の手術中にも関わらず(直接間接問わず)邪魔をすると言った感じで。
場合によっては引っ繰り返される等が理由で最初からやり直し、なんてケースも。
いずれもこちらや第3者側が被害を被り、散々嫌がらせを受けるのだが…引っ掻き回した本人は平然としており、謝罪どころか悪びれる素振りすら皆無。
逆に、多少遅れる程度なら問題あるまい?とか、我々の糧になるのだから誇りに思えとまるで話にならない。
百害あって一利なしと捉えたホズミ商会は、彼らをただの悪質行為をする団体と断定。
施設内に於いて一切の自由を許さない方向へシフトし、彼らの行動を徹底的に阻害。
すぐにクレーマーと化そうがそれは変わらず、慰謝料として1番良い宿を提供しろと言われようが毅然とした態度で拒否。(しかも笑顔で)
結果、各々が自らの懐に応じた宿泊施設に泊まり、散々悪態をついて宿や門を出て行ったとの流れに。
午前8時過ぎ
「それでは、今日の訓練を開始します━━━の前に。」
とある訓練部屋にて、凛(の分身体の1体)が無限収納から1振りの剣、それと杖を取り出す。
「クラウソラスにマスターウィザードセプター、それぞれ光の剣若しくは輝く剣、それと魔導王の王笏って意味になります。こちらを光輝君と勉さんに。」
差し出された剣は神々しく、杖は所持するだけで魔法の頂にでも立った様な錯覚に陥りそう。
それだけの存在感を両者は放っており、名前を呼ばれた両名は恐る恐る手にする。
「おぉ、ついに…と言う程には時が経ってない気もするんだけど、本当に貰っちゃって良いのかな?」
「何だか申し訳ないでござる…。」
「勿論ですよ。OKを出すのは他の誰でもない、製作者の僕ですし。文句は言わせませんのでご安心を…それとも、お2人共専用武器って響きは嫌いですか?」
「まさか。嫌いどころか、反対に好きな部類だよ。」
「左様。流石と言うべきか、我々の弱いポイントを見事に突いているでござる。」
「良かった。なら貰ってくれますね?」
「参ったな、そこまで言われちゃ受け取らない訳にはいかない、か。」
「忝いでござる。」
困りながらも、両手で大事そうに拝受する光輝と勉。
鞘から剣を抜く、上に掲げる等して感動を味わう。
特に勉は昨晩も複数人からかなり絞られた分、喜びも一入。
光輝以上に騒ぎ、小躍りする等していた。
2人が凛に渡されたのは神器。
それも昨晩出来たばかり、最新のものだ。
それとここにはいないが、ついつい最近配下になったばかりのパーシヴァル。
彼の分も用意してあり、また呼び止めるのを忘れたので分身体でも…と思ったタイミングで、何故か雫が立候補。
凛から神器を預かり、大聖堂へと向かって行った。
そんな彼らに渡す切っ掛けとなったのは、召喚された翌日朝。
美羽が凛大好きと知り、キャパオーバーで失神したが為に繰り越された顔合わせ時。
凛が主だった者から紹介し、ジークフリートの番になって「ジークフリート?前から思ってはいたけどまさか…」と返された事から始まる。(パーシヴァルは親睦も兼ねて)
「あ、分かっちゃった?ジーク、悪いんだけどバルムンクを出して貰って良いかな?」
「む?…これで良いか?」
そう言ってジークフリートが無限収納から取り出すは、鞘に収まった状態の白い大剣。
その剣は凛がバルムンクと名付け、ジークフリート用に設えた神器。
光属性を扱いやすくするだけでなく、魔力を消費して自己治癒までしてくれる効果を持つ。
当然ながら、量産品ではなく美羽達のと同じ一点物となっている。
「うぉー!かっけーー!!」
「お、おぉ…?僕の武器を褒めて貰えるのはありがたいが…少々近過ぎではないか?」
「あ、はいすみません。」
光輝はオタクでありゲーマー。
その中でも取り分けロールプレイングが好きで、ジークフリートとバルムンクは彼の中でセット扱い。
色々な角度からジークフリート&バルムンクを眺め、諌められる。
そんな彼らを見た勉が、気持ちは分かるとばかりに何回も頷くのが印象的だった。
「すっげー!!さっきのバルムンクもそうだったけど、神話とかゲームの終盤に出て来る様な武器が…こんなに…。」
ジークフリートのバルムンクに続き、光輝は床に置かれた3本の剣に何度も視線を動かし、ごくりと生唾を飲む。
「ねー!凄いよねー!この3本全てが神器だよ神器!まさか貰えるなんて思わないでしょ?だからすっごく嬉しかったんだーーー!」
3本の剣こと、炎に関する事象を扱いやすくする、赤のマルミアドワーズ。
同じく風の、鮮やかな緑色の色彩を帯びたフラガラッハ。
そして複合属性である、稲妻を意味する黄金色のカラドボルグ。
それらの所有者はステラ。
彼女は闇。
次いで水に秀でるも、創作物で良く光属性として取り上げられるエクスカリバーに、並々ならぬ思いを抱いていた。
しかし伝説で語られるエクスカリバーを振るう人物、アーサー。
何の因果か、凛の配下にもアーサーが在籍しており、彼に下賜されるとの運びに。
そのアーサーは水神龍リヴァイアサン。
即ち水を司る為、自ずとエクスカリバーの属性もそちらに。
(ステラ、あんなに楽しそうにするなんて…余程凛様から新しい武器を貰えたのが嬉しかったのね。)
なのでそれに近く、元となったカラドボルグ。
雷のベースとなる炎と風から、他の2本も与えられたステラは非常にご満悦。
ついでに、それらを扱う目的で属性の適性値も大きく上昇させた。
熱く語りながら耳をピコピコ。
尻尾をフリンフリンするステラを遠目に、彼女を自称するリナリーはほっこり。
(ちょ、ステラちゃん近い!それにめっちゃ良い匂い、ホントに元男の子?)
訂正、距離感の近さにドギマギする光輝に若干イラッ☆
どうしたのー?なんて言いながらグイグイ詰めるステラを見た勉も、どこか羨ましげだ。
光輝は現在、大学1年生の19歳。
ステラのかつての幼馴染みのアレックスの1つ下に当たり、少しばかり彼と重ねた部分があったのかも知れない。
神器に纏わる話題が出たので、零れ話を1つ。
里香から託された分を使い切り、新たに生成したヒヒイロカネから武具を造るとなった数日前の晩。
凛の頭に真っ先に思い浮かんだのがアーサーとジークフリートだった。
それが元で2人の武器の名前はすぐに決まったものの、問題はその後。
お披露目しようものなら即座に羨ましがるであろう人物━━━ステラの事を考え、1人でクスクスと笑ったりもした。
その後気を取り直した凛は、アーサーとジークフリート。
また2人以外の者達用にと、神話や伝説に出てくる名前の武器を考えては創るを繰り返していく。
明けて翌朝。
自身を含め、配下の中でも手練れだけが参加する早朝訓練。
開始する前に凛はジークフリートとアーサーを呼び、バルムンクとエクスカリバーを差し出す。
2人は互いに目配せし、戸惑いながらも受け取ってくれた。
その様子を他の面々も見ていたのだが、殊更興味を示したのは案の定ステラ。
それはもうキラッキラと期待に満ち満ちた顔を浮かべ、凛はやっぱり思った通りだったかと内心苦笑い。
なるべく見ない様にしつつ1人を招き、武器を渡しては次の者を呼ぶを繰り返した。
やがて、ドラゴノイド(旧リザードマン)の流と泉には、アーサーとはデザイン違い。
かつ水属性を扱いやすくする剣『デュランダル』と『アルマス』を。
リーリアは木の枝が巻き付いた様な見た目で、風の適性を持つ弓『エルヴンボウ』。
同じくエルフのリリアナには、リーリアと同じ世界樹を素材として作製した剣『エルヴンソード』と短弓『エルヴンショートボウ』。
リーリアの幼少期からの知り合い兼、かつての護衛だったダークエルフのヤイナは闇属性の大剣『グラム』を。
元村人で、今は都市オリーブの代表となったトーマス。
彼には、ステラのと趣が異なる炎剣『リットゥ』。
トーマスと仲が良いミゲルは、少しだけ小型化したリットゥに、同サイズで水や氷属性を扱いやすくする小剣『ミュルグレス』を。
大精霊たる翠は、性能だけでなく威厳も大事との事で『アスクレピオスの杖』を。
2匹の蛇が絡み合い、持ち手の上部分には白い翼があしらわれている。
農耕神龍ケツァルコアトルの梓にはメイス『シャルウル』と、自身を覆う位に大きな盾『アイアスの盾』。
棗は腕輪型の『ヴァナルガンド』で、どちらも翠と同じ、土と精霊魔法である木属性を扱いやすくするとの効果が。
猫人のキャシーは軽さと硬さに重きを置き、水と風に恩恵のある短剣『クリスナーガ』。
ドワーフのルルには巨大な木製ハンマー『ミストルティン』。
(貴族の令息から毎日の様に口説かれるも、凛1筋な為か一向に脈が見られない)元貴族令嬢カリナは炎剣『ブルトガング』を。
妖精姉妹こと、エンジェルロードの姉ミラは聖雷槌『ミョルニル』。
妖精女王の妹エラは、打撃にも転用可能な杖『ユグドラシルセプター』。
鬼子母神の部下にしてアンデッド筆頭、ノーライフクイーンのクロエは仕込み杖『布都御魂』を。
凛が好き過ぎる+恩義から女性へと性転換した狼人少女キールには、白と黒の剣《カオスオーダー》。
同じく性転換し、鬼王から救出した元少年の犬人召喚師ノアへは、漆黒の剣『逢魔』を進呈。
そんなこんなで配っていき、やがて順番はステラへ。
彼女は次々に武器が手渡されていくのを眺める事しか出来ず、付け加えるとまさか自分も貰えるとは思っていなかったらしい。
凛から急に名前を呼ばれた事でテンパり、ひゃい!と答えてしまった為に大爆笑。
その恥ずかしさから俯き、しかも手と足が一緒に出る(所謂ナンバ歩き)との状態で凛の元へ。
彼からマルミアドワーズ、フラガラッハ、カラドボルグの3本の剣が譲渡された。
1本でも御の字なのに、3本もとなると流石にステラでもキャパオーバーだったのだろう。
極度の緊張から来る、体全体を震わせての受け取り。
帰り際も、錆びたブリキ人形みたくギギギ…と歩き、かなり不格好なままで終わった。
ややあって、少し離れた場所に立ち、ようやく心に余裕が生まれたのか、にへらと笑うステラ。
改めて受け取った3本の剣を見やり、尻尾が千切れるのではないかと言う位にぶんぶんと振る。
「それじゃ最後に丞、一応用意はしてみたんだけど…これ、なんだよね…。」
凛が取り出したのは一見すると黒い金棒。
しかし持ち手から上の至るところに突起が付いており、殺傷力マシマシのヤバいフォルムとなっている。
これには配下達もざわつき、
「~♪…え、それって…エス○リボルグ?」
ゴロゴロと喉を鳴らし、頬擦りする位には浮かれまくっていたステラですら、凝視せざるを得ないインパクトを有した。
「やっぱり?雫からの要望で創ってはみたものの、それにしか見えないよね…。」
「さす凛。見事、私の期待に応えてくれた。」
「おー、中々にエグい形をしておるのー。」
ドン引きする一同を他所に、言い出しっぺである雫。
それと彼女の隣に立つ朔夜がパチパチパチ…と拍手を送る。
雫が現れたのは例の面白センサーが働いたから。
凛が丞の武器について考え、頭を悩ませたタイミングでの登場だったりする。
雫が事情を尋ね、これから丞の武器を創るとの返答を受け、黒くてゴツくて大きい武器が(丞に)似合うと自信満々に力説。
言うだけ言って彼女はそのまま帰り、凛は雫の要望に出来るだけ添い、完成したのがコレだ。
「…ありがたく頂戴します。」
丞的に少々(結構かも知れない)思うところはあるものの、折角主が用意して下さったのに断るなんて無粋な真似は出来ない。
仮令それが凶悪にしか見えない『ナニカ』だとしても、だ。
故に丞はその場で静かに頭を下げ、凛から黒光りする金棒━━━金砕棒を恭しく受け取る。
それにより謎の歓声や悲鳴が上がるも、心を殺し、無に徹する彼。
美羽は予想外過ぎるあまりは○ゅねさんみたいな顔になっているし、周りの者達も呆然とした様子で金砕棒を注視。
顔を上げた丞が右手1本で持ち直してみれば、聞こえて来るのは「あれ?以外に似合っている?」との声。
内心嘘だろと思い、辺りを見渡せば何故か多くが納得顔。
そこからさり気なく自室へ戻り、その状態でも、本来のオークヒーローの姿でも意外と似合っていた事に気付き、その場で崩れ落ちるのだった。
〜〜〜オマケ〜〜〜
パーシヴァル「フルンティングにティルヴィングか…俺には過ぎる武具だと思うんだが…」
雫「フルンティング…フルチ━━━」
パーシヴァル「止めろよ!?」
雫「ティルヴィングはチクb…」
パーシヴァル「止めろっつってんだろうが!!つか後の方、ちと強引過ぎだろ!?」
雫「パーシヴァル、五月蝿い」
パーシヴァル「俺か!?俺が悪いのか!?あんたのせいだろうが、あぁん!?」
ルイズ「どうどう。ですが兄さん、似たような事は幼少期に言ってましたよね」
パーシヴァル「昔も昔、それこそガキの頃の話だろ、ならノーカンじゃね?」
雫「言ったに変わりはない」
パーシヴァル「マジかよ…血も涙もねぇのな。おぉ神よ」
雫「私が神だ」
パーシヴァル「そう言やそうだった…とりまチェンジで」
雫「私、上位神…」
パーシヴァル「だからこそ、余計にチェンジしたくなる」
雫「しょぼーん」
ルイズ「兄さん、いくらなんでも雫様に失礼です。謝って下さい」
パーシヴァル「いや妹よ、(雫に)ハグしながらだと説得力がだな?」
ルイズ「良いではないですか」
雫「羨ましかろう?羨ましかろう?ん?」
パーシヴァル「(生前含め、折角若返ったのにルイズが中々スキンシップを取らせてくれない)俺への当て付けか、仲が良い様で何よりだよチクショウ」




