193話
「うぉー!」
「いけー!」
時刻は午前7時半過ぎ。
巨大モニター付闘技場、その空中にて。
凛と美羽が搭乗するアルファと、朔夜(龍形態)との戦いが繰り広げられていた。
アルファは現在、所謂ト◯ンザム状態。
残像を残しての高速移動を行い、朔夜を翻弄。
「そこだ!…おお、幻魔次元斬!決まったーーー!!」
「朔夜様ー、頑張れー!」
彼女の隙を突き、攻撃すると見せ掛けたのが実は幻影。
本体+3体の分身と共に、少し離れた場所へ出現。
4体同時に。
それも斜め方向から放たれた、空間越しの斬撃を喰らったところだ。
観戦中のタマモは周りの声援そっちのけで口をあんぐりと開け、部下である狐宵裏隊は絶句。
アメリ達四狐魔は真っ青な顔で抱き合っていた。
朝食が終わる頃、改めて宜しくとタマモから申し出があり、凛が快諾。
「これからはずっと一緒になる訳ですし、隠し事は必要ありませんよね」と告げられ、ん?と思いながらも相槌を返す。
こうして朝食後の訓練の様子を観覧する運びとなったのだが、まず驚いたのが凛の配下の恐ろしいまでの練度の高さ。
自分達でさえ舌を巻くレベルの猛者が普通に。
しかも数十数百単位ではなく、数千クラスの大人数で手合わせを行う光景は圧巻の1言。
どう見ても一般人にしか見えない者ですら凄まじい技量を誇示され、タマモ達だけでなくフィリップ達3人までもが驚く。
「ここにいる面子は最低でも神金級なんだと。大昔ならいざ知らず、今じゃ世に出りゃ大騒ぎ間違いないってのにすげぇよな。」
何故かレオンが誇らしげにし、妻タリアから白い目を向けられられているがまるで感じ取れてない様だ。
(徴集のやり方自体は我が考案したのと似ているであろうが、やる気がまるで違う。自らやろうとするか、やらされているかの差か…)
狐宵裏隊は神聖国内に住む狐人をスカウト、執行人は同じく国内にある孤児院上がりが主な人材発掘手段。
前者は国外の場合もあるが、後者はリスクを極力抑える意味を込めてこの形に。
失踪したと思っていた他国の要人が、実は執行人メンバーでした。
間違いなくトラブルへ発展、宗教の在り方も言及されるとの懸念からこうなった。
ついでに、タマモは公の時以外は我が一人称。
思考や言葉遣いも幾分か柔らかくなる。
それが終われば次は大型の魔物同士による武闘。
獣化した自らの姿の倍。
若しくは数倍の大きさの者達が盛大に暴れ回る姿は度肝を抜かれ、「これがただの手合わせ?いやいや世界頂上決戦の間違いでは?」と言わしめた程。
極めつけは、勝ち残った朔夜対凛&美羽が駆る巨人との勝負だ。
この時点で朔夜が余力を残し、珍妙な生き物だと思っていたアルファが、実は巨大化可能だと知る。
タマモを以てしても理解が追い付かず、卒倒する部下が多数。
アメリ達はあのとんでもない攻撃の数々がこちらに飛んで来るとでも考えたのか、絶望に染まったとの流れに。
「我はこの世界の上位者で、敵は白鳥位だと思っておったが…全くの勘違いだったとはの。汗顔の至りとはこの事か。」
宙に浮き、神妙な面持ちで腕組みするタマモ。
(執行人もそうだが)誰1人失する事なくこちらへ返してくれた礼もあり、恩は膨らむ一方。
「折角生まれ変わった命。次こそは誰も失する事なきよう、細心の注意を払わねば…。」
朔夜を下したアルファを尻目に、これからどうすべきか考えを巡らせる。
午前9時過ぎ
「これが地下墓所ですか、雰囲気ありますね。」
凛は聖都地下。
更に言えばタマモの寝所から繋がる地下墓所へとやって来た。
同行者は恒例であるシエルと美羽に、雫、ステラ、朔夜、紅葉、クロエ。
案内役としてタマモにアメリ達四狐魔、関係者枠でフィリップ達3人での構成となる。
地下墓所の広さは大聖堂と同程度。
然程時間を掛けずして目的の人物、赤黒いスケルトンへと変わり果てた元栄光騎士━━━パーシヴァルの元へと到着。
石で出来た台座の様なものに座り、静かに佇む彼をタマモが指し示した。
「彼奴はパーシヴァル。かつての栄光騎士で、今は半魔物化しておる。」
パーシヴァルは凡そ600年前に活躍した栄光騎士。
当時騎士団長になれるだけのポテンシャルを秘め、しかし病気の妹の為を理由に蹴った男としても有名。
彼が亡くなってから約400年後、今から200年近く前に突然起きた地震。
それによる被害は特に見らなかったものの、1点だけ。
神聖国中央部南東に位置し、国内最大にして悩みのタネでもある魔素点。
そこから結構離れているにも関わらず、地下越しに接点…亀裂を含む小さな穴が生まれ、魔素が流れる様に。
地下墓所は魔素で満たされ、真っ先に甦ったのがパーシヴァル。
たまたま彼だった部分も大いにあるだろうが、誰よりも早くアンデッドとして生を受ける形に。
始めは朧げだった意識も、月日が経つに連れて明瞭に。
その点は以前仲間になったクマ大好きっ子こと、ダンジョンマスターであるミレイと同じ。
彼女も昔の記憶と言うか、自我を取り戻すまで魔素点内を徘徊。
他の魔物を倒し、強化を図った結果今があるのだとか。(ただ、ボーッとしているのは当時と変わらず、自分探し中の間の事はハッキリ覚えていなかったり)
それと、ダンジョンに触れたので零れ話を1つ。
最近では戦闘未経験者でも稼げるとの噂を元に、神聖国を除く世界中から出稼ぎに訪れる者が引っ切りなしにやって来る。
中でも多いのが王国。
重い税を少しでも和らげるを目的に、酷い場合は夜逃げ同然に赴き、そのまま移り住むなんてパターンも。
おかげでその地を治める領主の収入が激減、ないし何割か減少。
不平不満をぶつけに最寄りのホズミ商会へ…と言っても中央付近や王国西部に支部はなく、わざわざ東、南、北方面のいずれかへ陳情しに向かうらしい。
ただ、その手のクレームはどれもがホズミ商会と提携するに相応しくないと判断された者ばかり。
話半分に聞き、肩を怒らせて帰るのを見送るまでがセットとなる。
それと、出稼ぎに赴いた者達への対処として。
クリアフォレスト、オリーブ、アンバーウッド、トネリコとは別に。
チーク、マホガニー、ウォールナット、ハイペリオン、トゥーレの5つの都市を追加。
どれもが5万人以上を想定した造りとなっており、既存の4箇所も面積を拡大。
相互間は地上だけでなく地下でも結ばれ、後者だと近隣で30分。
遠くても2時間位で端から端へ向かう事が可能となっている。
肝心のダンジョンだが、非戦闘員増加に併せ、アイテム袋の無料貸し出しを開始。
魔物の出ないチュートリアルダンジョンなので収納量は低く、一般的なリュックの5倍程度しか入らないものの、無料は無料。
ほぼ100%が利用し、パンパンになるまで素材を入れて帰還するのだとか。
また戦闘要員も増えたのに伴い、ダンジョンラスボス討伐ボーナスを追加。
これは銀級から上を対象とし、好きな属性魔法をランダムで1つ入手(ただし複合属性、及び光と闇に関しては強力の為、2回目で入手)。
銀級は初級、金級だと中級と言った具合だ。
他にもランクに見合った武器防具、ダンジョンに役立つ魔道具、戦闘に役立つスキル(剣装備時に攻撃力が上がる、杖装備時に消費魔力が減る等)が選択肢として選べるまでに。
「まさか大聖堂の下にこの様な空間があったとは…。」
「危険だと判断し、我の部屋からのみ行けるよう変更したのじゃ。関係者とは言え、外様の人間を入れたのは実に100年以上振りではなかろうか。」
「ほうほう…!」
話と時は戻り、フィリップ達は本来、立場故に参加せず、凛達を見送る予定だった。
しかし昨日まで存在すら知らなかった地下墓所の話に興味を惹かれ、聞き進めるに連れて俄然やる気に。
先程、大聖堂の1室に参集させた上役達の前に姿を見せたフィリップ。
近くで顔を青くするバルサー含めた枢機卿3人を軽く一瞥しつつ、元気さをアピール。
亡くなるまで秒読み段階だと聞かされていた関係者は目が点になり、力強いポージングをキメる彼に圧倒。
それから居住まいを正したフィリップから、神聖国の今後についての取り決め、並びにガイドラインを改めると発表。
不正や見返りを求める事の一切の禁止に加え、皆が受けやすいよう治療費を引き下げると告げられた。
これに関係者が猛反発。
収入源が大きく減るのだから、当然と言えば当然。
しかしフィリップが全く折れようとせず、逆に疚しい事があるから反対しているのではと突っ込まれ、泣く泣く了承。
最後にフィリップは枢機卿3人を呼び出し、しばらく抜けるので上手くやるよう指示。
バルサー達が何か喚いていたが、満面の笑顔で黙殺。
アーウィンとレイラはNo.3の立場にいる者に仕事を丸投げしたらしく、合流したフィリップ共々上機嫌で戻って来た。
いずれも拒否出来る雰囲気ではなく…むしろ断ろうものならどんな酷い仕打ちを受けるか分かったものではない。
それらの恐怖から、首を縦に振るしか選択肢がなかったとも。
ともあれ、フィリップは新しい玩具でも見付けたが如く童心に帰り、アーウィン達もほうと感嘆の声を漏らす。
そんなこんなで1行はパーシヴァルの前へ。
「パーシヴァルは栄光騎士だった頃の記憶と、魔物本来の行動の流入とが鬩ぎ合っているみたいでの。我も迂闊に近寄れなんだ。」
ボロボロのマントを纏った赤黒いスケルトンことパーシヴァルは、傍から見て少し苦しそうに感じられた。
それでも侵入者を排斥しない訳にはいかず、半ば無理矢理立ち上がった風にも。
「成程。それをどうにか抑えて欲しいのがタマモのお願い、と。」
「然り。タダヒコと姉に関しては我の不徳の致すところだが…パーシヴァルは違う。せめて彼奴位は救わねば罰が当たると考えての。」
パーシヴァル以外にも、数多の有名な騎士達が地下墓所で丁寧に埋葬され、魔素の影響で復活。
しかし彼により斃され、再びタマモ達に回収→粉状にし、近くの川に撒かれている。
それと、タマモはパーシヴァルを被害者だと考え、半分魔物ながら骨自体は健在。
恩師や姉、他の亡くなった騎士達とは異なり、体を示すものが残っているが故に彼だけでもとなった。
「それじゃ早速━━━」
凛がパーシヴァルと対話を目的に動こうとする。
そのタイミングでフィリップから「凛様、良いですかな?」との待ったの声が。
「教皇様?」
「申し訳ありませぬ。パーシヴァル様、でしたか。あちらの御仁が如何程のものか、些か気になりまして。」
「…つまり戦いたいんですね?」
「有り体に申せばそうなりますな。」
フィリップがキリッとした様子で答え、アーウィンとレイラが「申し訳ない(ごめんなさい)。うちの教皇(様)が本当に申し訳ない(ごめんなさい)」と恐縮。
凛達は明け透けだなーと苦笑い、又は困り顔を浮かべ、パーシヴァルが完全に空気と化している事に誰も突っ込まないでいる。
1分後
「…参りましたねぇ。まさかここまで歯が立たないとは…。」
微苦笑のフィリップが手をプラプラと動かす。
朝食時にもアンブロシア、加えてベヒーモスの肉が入ったメニューを食した彼。
昨日より更に若返り、現在は50代前半の見た目へ。
活力も戻ったので、リハビリがてらパーシヴァルとの手合わせを申し出たのが今回の詳細。
こうして2人の視線が交差。
フィリップが走り出す形で口火を切り、正面だけでなく側面、背面から斬り掛かる。
それに対し、パーシヴァルは動作が緩慢と言うか、首をゆっくり動かすだけ。
ダメージを受けている風には見えず、むしろその硬さにフィリップの方が音を上げ、こうして腕の痺れを解消させた程だ。
パーシヴァルは不思議そうに首を傾げ、しかし次の瞬間には剣を振り下ろす構えでフィリップの眼前へと迫る。
「…!しまっ━━━」
フィリップは対応こそ遅れたものの、ギリギリ防御する事に成功。
ただ、盾代わり使用した自前の剣は壊れ、本人も凄い勢いで壁へ飛ばされる羽目に。
「…まだ続けますか?」
そこへ、すかさず凛が救出。
窺う様にして出た質問に、フィリップは「いやはや、まるで敵いませんでした」と笑い、十分な旨を伝えるのだった。
本文に記載はしておりませんが、魔物同士での戦いの際。
凛達の神気に当てられ、フェンリルから大口真神に進化した昊。
『ライ』と名付けられた、133話にちょこっとだけ出たライトニングレオ→テンペストルーラーも参戦しております。
上記2体と、地下墓所で出たパーシヴァルを魔物一覧表に追加してます。(パーシヴァルはひとまず『???』として)
ついでに、同じく書いてはいませんがハイペリオンとの名前から凛、ステラ、光輝、勉の4人によるガン◯ム談義で盛り上がったとか何とかw




