189話
10分後
1行はとあるエリアにいた。
そこは通常であれば厳重に厳重を重ねた体制が敷かれ、何人たりとて拒まれる場所。
それこそ女神騎士団長や教皇ですら入るのを許されない━━━4人目の枢機卿が住まうとされる区画だ。
「…しかし、まさかとは思ったが本当に誰もいないのだな。」
最低でも6人は入口に立ち、その圧で以て足早に通り抜けざるを得ない。
そんな通路が現在は誰もおらず、アーウィンが不思議そうにする。
「露払いは済ませましたから。」
「露払い…?ああ、先程の戦闘がどうとかの…確か五百と奈々、だったか。」
「お、良く覚えてたな。流石は騎士団長サマってところか…良かったな、2人共。」
そう言って影斗が後ろを振り向けば、いつの間にか五百と奈々の姿が。
「お、俺らもついに日の目を浴びるまでに…!」
少々小さい背丈でツンツンヘアー、両手を後頭部で組む五百が注目された事に歓びを見出す。
「え、日の目をって…アンタ日光が弱点じゃん。浄化されたいの?キモッ…。」
突っ込みを入れるのはもう1人の人物━━━奈々だ。
セミショートながら片目を髪で隠す彼女は、まるで変態を目の当たりにしたかの如く本気で気持ち悪がる。
それが何故か五百にとっては面白いらしく、彼女が毒を吐こうが関係なく「辛辣ぅ!」とケタケタ笑っていた。
「り、凛殿の配下には個性豊かな者が多いのだな。」
引き攣った顔のアーウィンが視線を五百から凛へ移せば「優秀ではあるんですけどね」と苦笑いで返され、近くにいる双葉と影斗が肩を竦める。
「着きました。」
更に1分が経過し、凛達は一際大きな扉の前に立つ。
その扉は重厚、かつ他者を寄せ付けない。
そんな雰囲気を纏っており、アーウィンやレイラ、召喚組が圧倒される。
「さて、では開けましょうか。」
「凛様。」
「その役目、我らに。」
凛が踏み出そうとしたタイミングで(六花以外では)最後のメンバー、闢と鼎が姿を見せる。
静かに佇みながらでの登場にアーウィンとレイラが目を丸くするも、やはりお構いなしだ。
「そう?じゃ、お願い。」
その言葉と共に扉が手前に引かれ━━━
「ついにここまで!」
「ここから先へ行かせるもんですかっ!」
「この命に代えても!」
向こう側から、3人のシスター風女性。
狐宵裏隊のメンバーと思しき者達が襲来。
「邪魔どす…♪」
しかし静によって一蹴。
厳密には長い髪を伸ばし、拳状に変えて殴るとの形だ。
その際、さり気なく勉にボディタッチし、「ひょあっ」との悲鳴を頂戴してもいた。
空中にいた3人は予想外の展開に瞠目。
こちらへ向かって来る髪にばかり意識が向き、碌に回避出来ないまま。
つまり3人が3人して諸に攻撃を喰らい、仲良く後方へと吹き飛ばされていった。
「…ん?チッ、呪いの類いか。しゃらくせえ、倍返しにしてやんよ。」
直後、舌打ちを交えながら渋面を作る双葉。
彼女が感じ取ったのは明確な殺意。
『死』を具現化した様な、目に見えない抱擁だった。
自身も悪意の塊故に素早く気付いた双葉は、これまた見えない『ナニカ』で瞬く間に捕食。
その場で咀嚼・解析し、仕掛けたであろう2人。
部屋をある程度進んだところにいる司祭服の男女(ただし肌は青白く、生気が感じられない)へ向けて散布。
黒い靄に包まれた2人は、程なくしてバタリと倒れた。
「四狐魔だけでなく、此奴らまで…!」
部屋の中心にて、1人佇む妙齢の女性。
彼女が唯一の女性にして最後の枢機卿。
しかも朔夜クラスの美貌の持ち主であり、苦々しい表情の後にギンッと目を見開く。
それを合図に長い金髪が揺らめき始め、人間から巨大な狐へと姿形が変化。
豪華な祭服は裂け、9つの尻尾をゆらゆらと揺らめかせ、10メートルはあろうかと言う高さから1行を見下ろし、大きく遠吠えをする。
尚、部屋は(特別仕様になっているのか)彼女より数メートル程度ではあるが高く、軽く走り回れる位には広かったりする。
「ぐっ…よもやここまでとは…。」
「立っていられない…。」
アーウィンとレイラがプレッシャーに耐え兼ね、苦しげに片膝を突くも、辛そうにしているのは彼らだけ。
フィリップは「おっとっと」と陽気にへたり込み、召喚組は(凛が施した)結界により難を逃れたからだ。
だが彼らはそれどころではなく、凛達共々「嘘でしょ…?」と言いたげな顔を巨大金狐に向ける。
「聞き間違い、じゃないよね…?」
「うん。皆が同じ反応を示す=まず間違いないと見て良いんじゃない…かな?」
「嘘じゃねぇってのかよ…?」
「ん…。」
「ビックリだよね。」
「まさか、『4コマ』なんて役職が…完全に予想外です…。」
凛、美羽、火燐、雫、翡翠、楓が代表で漏らし、他の面々も同意とばかりに頷く。
楓の言う通り、4コマは漫画に携わった事がある者であれば分かる単語。
ただ、大抵はギャグ━━━冗談で終わる場合が多く、真面目な。
それこそ諜報や暗殺を生業とする組織には似つかわしくないのでは?との考えが過り、今みたいなリアクションに繋がったのではと推測される。
そんな4コマこと四狐魔は、狐宵裏隊に於ける四天王的な立ち位置。
名をアメリ、ヤクモ、ヒノエ、カレハと言い、双葉と静のおかげで全く印象に残らなかったものの…実は全員が空狐。
神輝金級の実力を所持し、もしアーウィンが挑んだとしても余裕で返り討ちに遭った事だろう。
組織内でも重要な役を担い、巨大金狐を支える事数百年。
子供の様に可愛がる彼女達を酷い目に遭わせたとして、金狐となった女性━━━タマモが目の前にいる存在達に対し、怒りを露にする。
「最早捨て置けぬ…即刻消え失せるが良い!!」
大きく口を開けたタマモは、レーザー状のブレスを発射。
白い閃光が凛達を覆う。
「さて…やる事は山積みじゃ。まずはアメリの解放に、国の立て直し…ああ、御礼参りが先━━━」
「おいおい、そりゃあ気が早えぇってもんじゃねぇか?」
土埃が晴れ、最も手前にいたのは右手を前に翳した火燐だった。
彼女を含め、全員が無傷。
また壁や天井についても同様らしく、そちらまで届いた形跡は残されていなかった。
「何故じゃ…何故朕の攻撃を喰らって生きておる!?」
「あん?見りゃ分かんだろ。大したもんじゃなかったってだけだ。」
「取り零しておいてよぅ抜かすわ。」
「うっせ。」
攻撃跡は火燐の足元で止まっており、抑え切れなかった部分は朔夜。
及びアウトサイダーの面々がマナイータースキルで吸収、被害を最小限に留めた。
ただ、相手方の攻撃が光属性を帯びていた事もあり、顔を顰めながらではあったが。
「つか朕って何だよ、王様気取りか?振る舞い自体は正にそれみてぇだが。」
「おのれ…朕を愚弄するか!痴れ者めが!」
「愚弄も何も、そのままのつもりなんだがな。」
「ふざけるでない!」
こうして、タマモ対火燐の戦いが始まる。
タマモが飛び掛かり、火燐が(無限収納から出した)レーヴァテインを抜き放つとの構図だ。
「貴様も炎を得意とするか。」
「だったらどうしたよ?」
「朕に喧嘩を売ったのだ。そう易々と死んでくれてはつまらぬ。逝くならせいぜい苦しんでからにせい。」
「…へぇ?なら、でけぇ図体だけじゃねぇってところをオレに見せてくれ。」
「抜かせ!」
途中、この様な1幕が。
「全然見えん…。」
「状況がさっぱり分かりませんね。」
更に2人の苛烈さは増し、常人の目には追えない速度に。
まだ常人枠に収まる(?)アーウィン、レイラは共に難しい顔を浮かべ、
「そうでしょうか?慣れれば意外と見えるものですよ。」
「「えっ?」」
朗らかに笑うフィリップに目を丸くしていた。
5分後
そこには体の至る箇所から血を流し、横たわるタマモの姿が。
「ふ…ふ…見誤っていたのは朕の方であったか。」
反対に火燐は余裕そのもの。
レーヴァテインを肩に担ぎ、少し離れた場所から見下ろす彼女へ苦しげに語る。
「それでも…やらせる訳にはいかぬ。全身全霊で以て討ち滅ぼしてくれよう。」
ゆっくりと起き上がり、彼女を身の丈以上の白いオーラが包む。
それらを口元へ集約し、先程よりも強大なブレスとして放出。
「はいドーン。」
対する火燐は球状の炎の塊━━━炎系超級魔法クリムゾンノートで応戦。
ブレスより1回り小さいそれは、向かって来るブレスを物ともしないどころか逆に食い破り、突き抜けていく。
「オ、オ…オオオォォォォォォ!?」
数秒後、クリムゾンノートが着弾。
タマモは一瞬で炎に飲み込まれ、堪らずと言った感じで絶叫する。
やがて「ハァッ!」と気合いと共に、炎が消散。
脱力し、息を荒げる彼女へ、火燐から「おー、やるじゃねぇか」との賞賛の声が。
「…この程度…いくら放たれようとも━━━」
「んじゃ、本番行ってみようか。」
「は?ほ、本番…?」
呆気に取られるタマモを他所に、火燐が右手人差し指をクイッと動かす。
刹那、タマモは身の丈以上の結界で覆われ、右から灼熱の炎。
左から猛烈な吹雪が発生、彼女を襲う。
「━━━マカハドマ」
火燐がそう呟いたのを機に、炎と吹雪の勢いが一気に増す。
数秒経った頃に位置が入れ替わり、時には前後。
或いは上下、最後は螺旋となって彼女を攻め立てるのだった。
雫「ち◯ちん」
一同『止めなさい』




