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ゆるふわふぁんたじあ(改訂版)  作者: 天空桜
世界周遊~シリウ神聖国編~
202/255

184話

「はぁっ!」


アーウィンが勢い良く剣を振り下ろす。

しかし呆気なく弾かれ、この小さな体のどこにそんな力があるのかとの焦りから「くっ」との声が。


「でぇぇいっ!!」


「はっ!おっと。」


それでも尚果敢に攻め、凛は連続でのバックステップで回避…からの反撃。

互いの武器が交差し、片方が攻め、もう片方が躱すか防ぐ形で斬り結んでいく。


その光景を、食い入る様にして見る騎士達。

極近い位置におり、2人の邪魔になるのを恐れた者達は、戦闘が始まってすぐに(単身だったり、倒れた者を引っ張る等して)離脱。

30メートル程の間合いで剣戟の様子を眺め、アーウィンの応援に熱を入れる。




3分後


「…やるな少年。私の剣がここまで酷い状態になったのは初めてだ。驚嘆に値すると言えよう。」


ほんの少しだけ困り顔のアーウィンが視線を落とす。


彼の愛剣はミスリル製。

苦楽を共にした相棒で、その何箇所かに刃こぼれが生じ、悲しく思ったのだろう。


にも関わらず、相手は未だ健在どころか(すこぶ)る元気。

むしろこちらの方が消耗させられた感が強く、今の状態が続く様であればそう遠くない内に。


それも無様な姿を曝すのではとの懸念が更に影を落とす。


「ありがとうございます。師匠に勝つまで、僕は誰にも負けるつもりはないので。」


「そうか…ならば、この技で以て君に勝利してみせよう!はぁぁあああ…光星剣っ!」


時間を掛ければ掛けるだけ不利。

ならばと一気に勝負に出たアーウィン。


限界まで身体強化を行い、武器に光系超級魔法ジャッジメントを封じ込めた必殺技━━━光星剣を凛にぶつける。


「おお!ですが…それでも僕を倒すには足りないですね。」


対する凛は笑みを崩さず。

むしろ相手の剣が白く光り、その周りを纏う光のオーラに格好良いとわずかに。

いや結構な割合で興奮すらした程。


それでも瞬時に切り替わるのは流石と言うべきか。

真面目な顔に戻り、居合いの構えを取ったを合図に、彼の周囲の空間が揺らめく。


直後、アーウィンが持つ剣の3割近くが切断。

それに伴い、維持出来なくなった光星剣が煌めきと共に霧散。


「馬鹿な!?私の剣が斬られただと!ぐ…?なんだ…体が急に、重く…。」


凛が行使したのは『無王(ぶおう)気』。

朔夜が持つ覇王気(身体能力向上+デバフ)に、ジークフリートが聖神龍バハムートへと進化して得た聖王気(身体能力+バフ)を調和スキルで1つに纏め上げたものだ。


これにより、アーウィンは本来の数分の1程度にまで弱体化。

片膝を突き、武器を持つ右手にも上手く力が入らない状態に陥ってしまう。


それ(ミスリル製)では僕の攻撃は防げません。それに━━━」


凛が言い終えるよりも先に届けられたのは金属音。

見ればアーウィンの剣の破片で、残った刀身の半分。

つまり3割位がいつの間にか斬り落とされたとの形に。


よくよく凛を注視していれば、話しながら彼が微細な動きをした事に気付けただろうが、それを神聖国側に求めるのは酷と言うもの。

実際、凛以外の全員がキィンとの音が聞こえ、初めてそこで分かった位だ。


アーウィンを含めた一同が揃って呆気に取られ、中には「えっ…?」と漏らす者まで。


ついでに、1度目は玄冬で。

2回目は脚を用い、空間越しにアーウィンの剣を両断した凛。

彼は今、どちらも上手(誰からも気付)く事が運べた(かれなかった)として、内心ちょっとした充足感で満たされていたりする。


「それよりも団長さん。手持ちの武器がそれだと厳しいと思うのですが…まだ続けますか?」


「いや…私よりも君の方が遥かに強いと分からされた。それに、先程から私の体は重いままだ。これ以上は困難だろう。」


「分かりました。それでは…。」


頭を振って得た答えに、凛は瞑目。


『仕上げへと入らせて頂きます。』


刹那、凛と全く同じ姿をした者達が訓練所内に。

しかも1人2人どころではなく、なんと90もの数で出現。


『!?』


一帯は驚きに包まれ、次の瞬間にはそれら全てがフッと掻き消えた。

「ん?」と固まったのも束の間、得も知れぬ恐怖に見舞われる羽目に。




パキキキキキキキキキキキキキキキキィィィィィ…ン


戦闘不能となった騎士達の武器が折られ、砕かれ、斬り刻まれる形で一斉に破壊された。


その一連の流れは、凛らしき者達が。

正確に言えば彼が(作業の同時進行等で)多用する九尾スキルに、蛾系魔物の最高位の1つ、ディスパースモスのスキル『幻実』を重ね掛け。

9つに分かれ、更に各自が10体ずつ増えた事による90もの分身体を。


そう、これらは凛が創り上げた分身体達が齎した結果。


アーウィン以上の実力を有しているだけでも厄介なのに、増殖までする。

すぐすぐ理解するには至らず、身構えようとしたタイミングで体がブレ、その場からいなくなった。


直後、訓練所に響き渡るは武器の破砕音。


それに対抗してなのか、強がりを見せながら武器をブンブンと振るう騎士がかち上げられ、軽く浮きながらにして装備品丸ごと粉砕。

文字通り全てが弾け飛び、剣だろうが鎧だろうが兜だろうが関係なく木っ端微塵に。


最後はパンイチ+尻を上へ突き出しながら気絶。

他にも空威張りをした者。

パニックになり、でたらめな方向へ向けて放つ初級や中級の魔法。

それと矢を放つ騎士も同様。


無力化された挙げ句強制的にパンツ1丁になり、不安と緊張は最高潮へ。


「ひぃーー!」


「止めてくれー!」


騎士達が逃げ惑い、泣き叫ぶ。


「ほ、ほら…武器は捨てた。だから許し…(パキィン)ひいっ!」


その1人がまだ斬られていない状態の剣を放り投げ、許しを請う。

地面へ刺さるよりも先に剣は4つに斬られ、刀身部分がなくなったそれを見てへたり込み、粗相をする。


「な、何なの…これは……?」


レイラは事態がまるで飲み込めず、阿鼻叫喚の地獄絵図と化した訓練所の風景をただただ見る事しか出来なかった。


「君は一体…。」


「僕は僕、ただそれだけです。」


「僕は僕、か…。」


凛の答えは要領を得ないものだったが、アーウィンにとっては違うらしい。

噛み締めるように繰り返し呟き、それでいてどこか嬉しそうでもあった。




「マスター♪」


そんな2人の元へ、美羽がやって来る。


「結局、凛が全部美味しいところを持っていってしまったのじゃあ。つまらぬのじゃー。」


「そう?もっと早くても良かった位。」


「全くだ。」


「いやいや…皆もっと穏便にいこうよ。これじゃあたしが天使だって伝えても、誰からも信じて貰えないじゃん…。」


「あはは…。」


残りのメンバーも歩み寄り、朔夜、雫、ジークフリート、エルマ、イルマの順で告げる。


「ちょっとミラちゃん、凛達っていつもこうなの(力押しで解決するの)?」


「違います。いつもはもっと平和的に、ですね。」


「まぁ確かに。誰も怪我してないみたいだからある意味では合ってるんだろうけど…。」


「コーキンてば難しく考え過ぎー、皆が無事ならそれで良いっしょ。ねぇ勉っち?」


「でゅふ、それを某に求められてもヒッ!こ、困ると申しますか…。」


「凛様怒ってるのん。ここまでグイグイ引っ張るの、私初めて見たなん。」


「そうなのでござるか?」


「ござるでござるん。」


朔夜達から若干遅れる形で、他も到着。

このまま真っ直ぐ歩いても大丈夫?ねぇ本当に大丈夫?とばかりに、おっかなびっくりで付いて来るが半分近くを占めていたが。


因みに、コーキンとは莉緒が名付けた光輝の愛称。

ワンコ系男子に似合う(コーギーとかコリー的な意味で)と豪語し、ドヤ顔まで決め込んでいた。


それと、ステラは所用の為に不在。

彼女だけが席を離れた状態となっている。


「皆、来たんだ。それじゃ…悔いが残った朔夜だけ、龍に戻ってみる?」


「そうじゃの。ひょっとすれば、妾の元へ向かって来る気骨のある者がおるやも知れぬ。」


凛からの提案を受け、朔夜は開いた宵闇をパチンと閉じる。


「君達は先程から一体何を言って━━━」


アーウィンはそれ以上話を続ける事は叶わなかった。

朔夜を中心に、猛烈な強い風が巻き起こったからだ。


彼は辛うじて踏ん張りを見せた様だが、他は煽られた後に飛ばされるか転がるだけ。

武器の破片は建物に突き刺さり、無事なのは魔力障壁や結界等で自らや身近にいる者達を覆った凛達のみとなった。


そうやって出来たスペースを活用し、ドラゴン形態へと戻る朔夜。

黒い繭で自身を覆い、程なくして建物よりも遥かに大きい姿を顕現させた。


だが、朔夜の考えは裏切られる。

騎士達は悉くが絶望の表情を浮かべ、腰を抜かし、涙を流し、股間にシミを作る。

それはまだ良い方で、キャパオーバーして壊れる者も一定数おり、まるで収集がつかなくなってしまった。


「…何だ、あの途轍(とてつ)もなく禍々しいドラゴンは!?」


そんな中、朔夜が放つ(プレッシャー)に呑まれず、全容を掴もうとするアーウィン。


本人はどう立ち回るが正解かを巡らせるのに必死。

しかし周りは異なり、見上げながらにして何らかの対策を立てていると捉えられ、『流石我らが団長だ』と高評価を受けていたり。




(あれ程に禍々しいドラゴンはどの記述でも見た事がない。それに、攻撃を仕掛けるにしてもも私の剣がこの有様では…。)


「彼女は朔夜。僕が名付けた邪神龍ティアマットです。」


「…!君が、名付けた…?」


ややあって、逡巡するアーウィンに伝えられるは、耳を疑う口上。

大きく見開かれ、正気か?と言わんばかりの目を凛に向ける。


「はい。ジーク、悪いんだけど、()()あの姿になって貰っても良いかな?」


「うむ、分かった。」


(また?)


未だ何か言いたげな顔を凛に向けるアーウィンを他所に、ジークフリートが「はっ!」と真上へ跳躍。

人間離れした彼の脚力、空中にて変化した本来の姿に視線が吸い寄せられる。


『お、おぉぉぉ…!』


朔夜が顔を上げ、ジークフリートが見下ろす。


2体の視線が互いに交差する様は、客観的に見れば争いの前の睨み合い。

前哨戦みたいなものだ。

それでも非常に絵になるのは確かで、騎士達はまるで神話の中にでも入り込んだかの様な錯覚を覚える。


最早戦意は微塵も湧かず、逆に溢れ出るは感動の念ばかり。

ジークフリートの神々しさに平伏し、お祈りまでする始末。


「そして彼はジークフリートと名付けた、聖神龍バハムート。朔夜とは対極に位置し、どちらもドラゴン種の最上位に当たります。」


「最…上位。」


「騎士団長さん、これで少しは話を聞いて貰える気になりました?」


「君達…(こほん)いや失礼、貴殿らは一体…?」


「僕は凛。女神様こと創造神様の実の弟にして、姉から管理者の任を賜った者です。」


「ふむ…。」


アーウィンは先程とは反対の手を顎鬚にやり、思案顔を浮かべる。




「何か提示出来る証拠は?」


少しして、アーウィンから出た言葉がそれだった。


「証拠、ですか。残念ながら特に持ち合わせてはいませんね。」


「そうか。ならば質問を変えよう。貴殿が用いた剣術、実に素晴らしいものだった。あれは先程の師匠とやらに?」


「剣術、と言うか刀術ですね。師匠との訓練で得た教訓を(もと)に、自分なりに纏めました。」


「その師匠の名は?」


「マクスウェル様です。」


「マクスウェル…?」


今度は難しい顔で熟考し始めるアーウィン。


「…っ!?精霊王マクスウェル様の事か!これは失礼した。」


かと思えば、十数秒の後にハッとなり、慌てて居住まいを正す。


「精霊王?そう言えば、マクスウェル様は自分の事を四大精霊の長だと仰ってた様な…。」


「ならば間違いはないだろう。四大精霊様は有名だが、マクスウェル様に関しては文献がほとんどない。少なくとも、いや恐らく我々位しか存じ上げないのではと言う位には。」


言い終えたアーウィンは徐に剣を鞘へ仕舞い、深くお辞儀。


マクスウェルは言わば中間管理職。

普段地上の事はイフリート達に任せ、彼らが見聞きした内容を創造神(里香)へ伝えるが主な役目。


故に情報が少なく、辛うじて創造神を補佐し、剣と魔法を得意とする老人との旨が何回か書き記された位。

それでも神代の頃に大いに活躍したとかで、神聖国教皇フィリップがいつか手合わせしたいと述べたとか何とか。


「この度は我ら女神騎士団一同、女神様の弟であらせられる凛様に対し、あろう事か刃を向けてしまいました。誠に申し訳ありません。私こと女神騎士団団長アーウィンが、今を以てこの場で責任を取らせて頂きたく。ですので…どうか部下達に対しては寛大な処置を━━━」


「アーウィンさん。その覚悟は大変ご立派ですが、僕はそれ(自害する事)を求めてはいません。僕達はあくまでも神国を矯正しに来ただけ。だからこそ(手加減してまで)誰も死なせるつもりはありませんし、(敵愾心を抱かせない目的で)武器の破壊しか行わなかったんですよ。」


その教皇から3ヶ月程前個人的に呼ばれ、新たな管理者に(まつ)わる話をアーウィンは聞いていた。

ただ、彼の言う神託が夢の中で、当時受けたのが最初にして最後。

以降何の進展もないまま今日を迎え、すっかりと忘れ去ってしまった部分は否めない。


それでも無礼を働いた事に変わりはない訳で。

決意を固めたアーウィンは頭を上げ、隠し持っていた短剣を喉元に当てようとし、そのタイミングで凛に(たしな)められるとの運びに。




「…成程。凛様は創造神様直々に招かれ、美羽様と共にマクスウェル様と1ヶ月間修行を行い、そこから管理者の役職を全うされて今に至るのですね。」


アーウィンがバツが悪そうに告げる。


現在彼は正座中。

持っていたミスリル製の短剣は、ひとまず預かるとの名目で没収された。


「ところで凛よ…其方この状況を狙っておったな?じゃからこそ妾に姿を変える様に申したのであろ?」


「あ、バレちゃった?」


「あ、バレちゃった?ではない。全く…凛にしてやられたのじゃ。」


「ゴメンゴメン、朔夜には後で美味しいデザートをあげるからさ、それで許してよ。ともあれ2人共、協力してくれてありがとう。」


「「うむ。」」


話に割り込み、不平を零す朔夜もお詫びの品(美味しいデザート)には弱いらしい。

眉をピクリと動かし、少しだけ得意気な様子のジークフリートと共に頷いてみせた。


「…さてアーウィンさん。僕達はこれ以上、戦闘を行う意志はありません。ですので、騎士の皆さんに攻撃を行わないようお伝え願えますか?」


「(あれだけの事を成し遂げられ、今更戦闘も何もないのだが…)畏まりました…皆の者!聞け!」


『!!』


一瞬複雑な表情になったものの、張り上げたアーウィンの声に騎士達がババっと整列する。


「我々女神騎士団は凛様方に、それも見事なまでに敗れた事は皆も周知の通りと思う!故に女神騎士団は今後、凛様。並びに関係者方へ向け、一切の攻撃を行う事を禁ずる!」


『はっ!』


アーウィンは周りを俯瞰(ふかん)

彼の命令に、騎士達は右手を胸に当てて応える。


「━━━ま、禁ずるも何も、手出し出来ないってのが正直なところだろうがな。」


すると、いつ頃からいたのだろうか。

腕組みし、半ば呆れ混じりで敷地内に立つ火燐に注目が集まるのだった。

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