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ゆるふわふぁんたじあ(改訂版)  作者: 天空桜
世界周遊~シリウ神聖国編~
201/255

183話

「ご苦労、後はこちらでやっておく。お前達は馬車を置いてさっさと帰るが良い。」


ここは女神騎士団本部。

北西側から上京し、30分程進んだ場所にあるそこで開口一番に言われたのがそれ。


命令を下したのは神聖国の中でも選ばれし存在。

かつ(凛が支配した)受付時と騎士達と同じ、女神騎士団の一員。


聖堂騎士団の上に位置するを理由に、当人以外の騎士達もつまらなさそうな顔で聖堂騎士団の面々を見やる。


「ありがとうございます。」


一方的に。

しかも完全に上から目線での物言いに、タッドはカチンと来そうになる。


しかし今後の為。

延いてはここまでお運びした方々に不利益を(こうむ)らせたくないとの想いから、努めて冷静に頭を下げる。


タッドとて分かってはいる。

片田舎の街よりも首都。

地球で言うところの支社よりも本社勤めの方が偉く、より上下関係が明白である事を。


同じ組織に属する以上、上からの命令に従わざるを得ない。

なので内心かなり辟易しながらも馬車を引き渡す━━━


「…ですが既に私達の心は女神教に(あら)ず。これからは別な御方にお仕えしたく思います。」


なんて事はなく、下を向いたままの状態で返事を返した。

これに女神騎士団は面食らい、聞き間違いか?と顔を見合わせ、首を捻る等して再びタッドを見やる。


「…今、何と言った?」


「察しが悪いな。頭の悪いお前達の為に分かりやすく答えてやろう。馬車を置いて帰れとの指図には従えん、寝言は寝て言えと答えたのだ。」


当のタッドは頭を上げ、ニヤリと笑いながら明確に拒否の意を表明。

女神騎士団が俄に殺気立つ。


「馬鹿が…お前達、血迷ったか。」


「…違いますよ。血迷っているのは女神教。並びに神聖国そのものです。タッドさん達はある意味被害者なのですから。」


「凛様!」


「なんだ貴様は…。」


「そうか!こいつが(異端)の!」


「敵襲っ!敵襲だーーー!!」


馬車の扉が開き、静かに姿を見せた凛が全ての元凶だとの判断を下した女神騎士団。

内1人が大声で仲間を呼び、別な者が笛を吹く。


残りは抜剣。

その誰かが次々と押し掛ける騎士達に対し、「あいつらを取り押さえろ!」と指令を出す。


「敵襲ですか…残念ですね。危険ですのでタッドさん達は馬車の中へ。しばらくの間、エリオットさんと一緒に中で待機してて下さい。」


最初に応対した騎士達はこちらへ剣を向けるだけで、動く素振りを見せない。

まだ時間的余裕がある、そう捉えた凛はタッド達へ差配。


「分かりました!お前達、凛様のお言葉は理解したな?すぐ言われた通りにするぞ!」


『はっ!』


彼らの動きは早く、次の瞬間には馬車へ詰め掛けていた。


「…それじゃ皆。出て来て良いよ。」


凛の言葉を合図に、馬車から影が動き、5メートル程離れた位置で停止。

マンホール位の大きさだった影は数倍にまで膨らみ、そこから美羽達が出現。


馬車の方から「エリオット卿以外の方々は…?」「他の方達でしたら、今頃外にいるのではないでしょうか」「…本当だ。しかしいつの間に?」なんて声が届けられた気もするが、誰もリアクションらしいリアクションを返さなかった。


「な、なんだこいつら…あんな狭い場所にこれだけの人数が?」


何故か騎士達は震えており、美羽と朔夜が凛の両隣に、雫達は凛の後ろへと移動したからだ。


脱出方法はともかく、どう見ても4人位しか乗れないであろう見た目の馬車に10人以上もの人数が乗車。

どうやってこの短時間の内に聖都までやって来たのかを後程たっぷりじっくり(拷問との形で)聞くつもりがそれどころではなくなり、さぞ窮屈な思いをしたのだろうとの考えで頭がいっぱいに。


大声で仲間を呼んだ騎士の発言が全てを物語っており、皆が恐ろしいものでも見たかの様に引き攣り、或いは青褪めていた。




「…ま、まあいい。たったの10人数程度、(女神騎)(士団本部)にいる1000人以上を相手取る事は不可能だ。」


そんな中、1人の騎士から出た虚勢。

それは自信の表れとなり、やる気に変換。


少しずつ周りへと伝播していく。


「そうかの?妾から見て、其方ら全員の相手をする事なぞ児戯に等しいのじゃが…。」


「ん、朔夜の言う通り。私達が貴方達の手合わせをしてあげる。」


閉じた宵闇片手に朔夜がんー?と首を傾げ、雫はフッと笑いながら私達『が』の部分を強調。

エルマとイルマが「2人共、少し言い過ぎじゃない?」、「あまり煽らない方が…」と止めるも、既に遅し。


騎士達は『あ"?』と苛立ち、ジークフリートの「そうか?僕は妥当だと思うのだが」がトドメに。


「こいつら…舐めやがって。我ら女神騎士団を馬鹿にした罪、存分に分からせてやる!」


騎士1人が体を震わせ、走り出したのを皮切りに大規模な訓練(?)が開始された。




その5分後


「やっ。んー、まだまだかな。」


「ん。ん。甘い。」


「それっ。はい!」


「えい!やぁっ!」


「む。出直して来い。次だ。」


「ほっ。ほれ。そんなもんかの?ほれ、次じゃ。」


これは美羽、雫、エルマ、イルマ、ジークフリート、朔夜の順。


凛はステラ、ミラ、エラに理彩達と馬車を守るよう伝え、早々に離脱。

その場で跳躍し、騎士団本部の中庭方面へと向かう。


残った美羽達が馬車を囲いながら散開し、全方位から向かって来る騎士達を相手。

彼らはいずれもエリート揃い。

冒険者階級で言うところの金級、場合によっては魔銀級に近い腕前を持つ。


だが逆に考えれば所詮その程度。

各自が神輝金級以上の強さである美羽達にとって、些事でしかない。

実際、木製の武器(死滅の森産の木材を使用し、段蔵に至っては素手)で騎士達を軽く一蹴。


仮令複数人を同時に迎えようがそれは変わらず、赤子の手を捻るが如く。

いやそれ以上の力関係が両者にはあり、どれだけ攻めようとも余裕の態度を崩せずにいる。


更に5分後


「ん…面倒。」


雫が飽きたらしい。

ただただ吶喊(とっかん)するばかりで一向に学習せず、(かなり手加減している為に)大した事ないと勘違いして再び挑むを繰り返すだけの騎士達を見限ったとも。


短い溜め息の後に木で出来た杖を無限収納へ仕舞い、カドゥケウスを手にする彼女。

前方を大きく凪ぎ払い、騎士達を吹き飛ばしたかと思えば、頭上に超巨大な水球を生成。


水球はやがて9つの頭を持つ多頭竜━━━ヒュドラへと変貌。

頭だけで1メートルはあり、全長10メートルを優に超えるサイズだ。


ゆっくりと舞い降りたヒュドラが「キシャァァァァァァ!」と咆哮し、騎士達の方へ首を(もた)げれば、誰もが蛇に睨まれた蛙状態。

金縛りにでもあったみたいに身動きが取れなくなり、一方的に蹂躙されていく。


「おー、面白い戦い方をしているではないか。どれ、ここは1つ妾も(雫の)真似をしてみるとするかの。」


これに感化されたのが朔夜。


彼女の持ち前のセンスにより、瞬く間に全く同じサイズの黒いヒュドラが誕生。

雫だけでなくその反対側でも悲鳴と断末魔が轟き始め、わずかな時間で女神騎士団本部は混沌の坩堝と化した。




「ぐがっ!?」


「げはっ!」


「ぎっ!」


「お"ぅ"っ!」


「ぎゃっ!」


「このっ!(パシッ)ぐ、ぐぐぐ…(パキィン)なっ!(ドゴッ)おぉぉ…。」


混沌と言えばこちらも。

凛VS騎士達との戦いだ。


相手の攻撃をすり抜け、往なし、金属鎧を纏っていようが関係なく拳1つで昏倒させる様は最早戦いにすらならないが…。


事実、地面には100どころか200。

下手すると300を越える者達が転がっており、早くも騎士達の心は折れ掛かっているのが現状だ。


「な、なんだこいつ…あんな見た目をしてるのにめちゃめちゃ強いじゃねぇかよ。そ、そうだ!魔法!誰かあいつに魔法を放ってくれ!」


その1人、切羽詰まった様子の騎士が叫び、数秒の後に「フレイムスピア」、「ハイドロスピア」、「ゲイルスピア」、「ロックスピア」と炎・水・風・土属性魔法の槍が凛へ飛来。


「はぁ…まさかここで魔法を使うなんて。僕だけじゃなく、近くにいる騎士さんも巻き込むつもりですか?」


それまで無言だった凛が嘆息し、右手を前に。


「ひとまずお返しします。しっかり反省して下さい。」


ロックタートルの最終進化、オリハルコンタートルから習得したスキル『反射』でそれらを弾き返し、術者付近の地面へ着弾。

各所で爆発や大飛沫等が巻き起こり、「うわー!」「ひー!」と言った悲鳴が追加されるだけで終わる。


「魔法も通用しないなんて奴はば、化け物か…。」


凛へ魔法を放つよう促した騎士は声を震わせ、ぺたんとその場で尻餅を突く。

その間、何名かの弓箭(きゅうせん)兵が矢を射たもののやはり跳ね返され、徒に負傷者を増やしただけ…なんて場面も。




「…これは何の騒ぎだ。」


そこから少し離れた場所。

建物と建物を繋ぐ通路の途中にて、一際豪奢な鎧を纏った男性が呟く。


「…!これはアーウィン騎士団長閣下、それにレイラ副団長もご一緒でしたか。騎士団本部に賊が入り込んだ模様です。」


「賊?」


「はい。賊はいずれもが強く、一般騎士(女神騎士団)ではまるで歯が立ちません。上位騎士の『栄光騎士団(グロリアスナイツ)』の方々でも勝てるかどうか…。」


男性の名はアーウィン。

女神騎士団の団長を務め、年の頃が40前後位。

身長が180センチ位あり、肩までの長さの銀髪。

少し髭を顎に蓄えていた。


その顎髭にアーウィンは手をやり、「ふむ…そうか」と1言。


「? アーウィン様?」


「あっ、騎士団長閣下!団長ーーー!!…行ってしまわれた。」


彼の後ろに控える、1本に纏めた金髪の女性━━━レイラが不思議がるのを他所に、アーウィンは移動を開始。

騎士が止めようとするのも無視され、凛がいる方へと向かって行った。


レイラはアーウィンの部下兼女神騎士団副団長で、年の頃が20代後半。

身長170センチ近くとモデル並の高さで、整った顔立ちをしている。 


それと話に出た栄光騎士団とは、アーウィンとレイラを含めた女神騎士団上位50人の騎士達の事を指す。

全員が最低でも魔銀級クラスのエリート中のエリートで、神聖国に於ける全ての騎士の憧れでもある。


因みに、アーウィンと話をしていた騎士は見えていない為に分からなかった様だが、その内の何割かは凛達によって既に負かされていたりする。




「少年。ここへ来た目的は一体何だ?」


アーウィンの声量は少し大きい程度。

しかし不思議と通る、そんな声だった。


これにより騎士達の動きがピタリと止まり、凛も「? 僕ですか?」と手を休める。


「そうですね、端的に言えば貴方方聖国全体を正しに来ました。」


凛の真っ直ぐ見据えた答えに、アーウィンの目がピクリと反応。

そのままスッと細め、少し遅れる形で「…ほう?」と返す。


「となると、やはり君が。しかしあまりにも━━━」


「隙ありゃぁぁぁぁぁ…あああああああ!?」


「ああっ、ゴンザさんが!?」


「不意打ちなら右に出る者はいないと称されるあのゴンザさんがあっさりと!?」


アーウィンと話をしている事で隙が生じた…とでも思ったのか。

栄光騎士団序列49位、ゴンザなる人物が死角から凛に襲い掛かり、流れる様な仕草で繰り出された空気投げによりあっさり退場。


真っ直ぐ壁へぶち当たり、「げひゃ」との声と共に気絶。

後には微妙な雰囲気だけが残された。


「えーっと、何のお話でしたっけ?」


「…コホン。君は今、聖国全体を正すと言ったが…まさか本気かね?」


「勿論本気です。本当はもう少し後になってからこちらへ訪問させて頂く予定だったのですが…事情が変わりました。『管理者』との立場から見て、貴方達の行いはとても良いとは言えませんからね。まぁ、ある意味では丁度良かったとも取れますが…。」


「(管理者?それに丁度良いとは何を指しての言葉だ?)…そうか。君の何が神聖国に対して気に入らないのかは分からない…が、こちらとしても黙ったままやられる訳にもいかない。」


アーウィンは腰に差した剣を抜き、切っ先を凛へ。


「故に…女神騎士団長である私が君の相手をしよう。」


「やはり貴方が団長さんでしたか。正直、団長さんが姿を現すまでもう少し時間が掛かるかなぁとか思ってたんですよね。手間が省けて助かります。」


剣呑なアーウィンに対し、凛が応えたのは笑顔だった。


臆するどころか微笑む余裕すらある。

そう考えたアーウィンはここに来て初めて不快感を露にし、騎士達の間でざわめきが起きる。


彼は冒険者階級で言う、黒鉄級上位の強さを所持。

多少ながら世界最強の一角だと自負し、そんな自分を相手に笑みを見せるのが余程気に食わなかったのだろう。


「私を相手に悠然な態度とは…随分と舐められたものだ。」


「これは失礼しました。それでは僕も…愛用の武器を使わせて頂きますね。」


「…君は空間収納(スキル)持ちだったのか。それに少し変わった武器と来たか。」


無限収納から取り出した凛の武器(玄冬)を見たアーウィンの警戒心が上がり、剣を持つ右手に自然と力が籠もる。


「ええ。これは刀と言いまして、恐らく神国にはない武器なのではないかと…では団長さん、準備は宜しいですね?」


続けて相手は体勢を低くし、柄部分に手を添え、左足を少し引く動作…所謂居合いの構えを取る。


先程までとは明らかに様子が変わった凛。

最早数で押そうとの考えは微塵も湧かず、ある程度離れている者は固唾を呑む等して押し黙り、近くにいる者は巻き込まれまいとして距離を置く始末。


「(先程までとはまるで雰囲気が違う、だと?)…ああ。それでは…行くぞ!」


アーウィンも似たような感じで、初めて目の当たりにする仕草。

またこちらを試そうとの目的なのだろう。


途端に相手が大きく見えるとの錯覚を覚え、背中を冷たい汗が流れる。


それでも勝るのは歓喜と言う感情。

今の地位に就いてから挑戦者側に回るとは、と半ば嬉しそうに口角を上げ、軽く微笑む凛の下へ一直線に向かうのだった。

アーウィンは旧作同様、テ◯ルズのヴェ◯ペリアのアレク◯イ。

それとレイラは明記してませんが、その補佐であるク◯ームとの立ち位置になります。

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