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「おぉーーーっ、大きい森ーーーーー!!」
黒髪ショートの少女(?)が嬉しそうに叫ぶ。
彼女の目の前には、左右どちらも先の見えない位、非常に広大な森が。
木の1本1本が20メートル前後はあり、それに見合うだけの太さも兼ね揃えている。
「それに…魔物が当たり前の様にいる!」
続けて後ろを振り返り、左から右へ見渡してみる。
視界に映るのは、寝転ぶと気持ち良さそうな草原に、狼っぽい者。
その狼の半分位の体長で、角が生えた兎の様な者。
地面を這う、若しくはピョンピョンと跳ねる薄水色の球体に、猪らしき者の姿も遠目にちらほら。
彼らは思い思いに徘徊だったり寝そべる等し、中には争う個体もいるのが見て取れた。
「あ、あそこに見えるのは街!…ん?」
そして(少女から見て)右側。
石で組まれた、防壁らしきものの一部があるのを発見。
そちらに目を奪われ、しかし興奮する間もなく現在いる場所にフッと影が差す。
「あれって…もしかしてドラゴン!?」
何事かと思い、黒髪の少女が空を見上げてみる。
すると、数十メートル上に西洋タイプのドラゴンらしき者が。
それも森から平原へ向け、悠然と飛んで行くのが分かった。
そのドラゴン(?)は、腕と翼が1つになったタイプ。
胴体よりも大きい両翼をはためかせ、一気に上昇。
遥か上空から狼と兎が争う様子を眺め、やがて狙いを定めたのだろう。
翼を畳み、真っ直ぐそちらへと急降下して行く
地上にいる魔物達はと言うと。
ドラゴンがいると分かるや否や、慌てて移動を開始。
登場からわずか10秒で、周辺一帯はがらんとした状態に。
ただ、戦闘中の狼と角付き兎だけは別。
お互いの動きを注視し、遠くからドラゴンが自分達を見下ろしている事に全く気付かないでいる。
やがて決着の時が。
互いに地を蹴り、肉薄したタイミングでようやくドラゴンの存在に気付くも…既に遅し。
2体共仲良くドラゴンの後ろ足に掴まれ、そのままどこかへと連れ去られてしまう。
後には水を打った様な静寂さと、急襲の際に生じた風だけが残された。
「まさか、来てすぐにこんな凄い光景が見られるとは思わなかったよ。ね、美羽。」
「うん、マスター♪」
少女の問い掛けに、彼女の右隣。
長いプラチナホワイトの髪を、ツインテールにした少女が満面の笑みで応える。
そのとびっきりの笑顔は、マスターと呼ぶ少女に全幅の信頼を寄せ、どこまでも付いて行くとの意思が感じられる。
「火燐。」
「ああ…!」
美羽の後ろ。
赤い髪を背中まで無造作に伸ばした少女がニヤリと笑い、
「雫。」
「ん。」
火燐の左隣。
青いショートボブの、少女とも幼女とも取れる小柄な女の子が澄まし顔で控え目に首肯。
「翡翠。」
「ビックリしたー!」
火燐の右隣。
エメラルドグリーンの髪をポニーテールにした、快活そうな少女がにひひと笑い、
「楓。」
「はい…。」
雫の左隣。
茶色い髪を肩下まで真っ直ぐ伸ばした少女が右手で靡くのを押さえ、穏やかな笑みを携えながら返答。
黒髪ショート、それと美羽と呼ばれた少女以外の4人は同じローブを着用。
そのいずれもが、元が灰色だと辛うじて分かる位にボロボロ。
しかし誰も気にする素振りを見せず、風に揺られるがまま。
美羽に比べ、火燐達の反応は少々素っ気ない感じもする。
が、4人共堂々とした佇まいな事から、彼女達なりの決意の表れ…なのかも知れない。
「これからどんな冒険が待ち受けてるんだろう。くぅぅぅ…楽しみだなぁ!」
黒髪ショートの少女が1歩前に出、目を閉じ、ぐぐぐ…と体を縮こませる。
今後の事を思うと、嬉しくて嬉しくて仕方ない。
興奮が抑えられず、全身で喜びを表現したと言う感じだろうか。
ただ、彼女以外がクスリと笑みを零す。
或いは苦笑いだったり(雫だけ)無表情なのを鑑みるに、期待に胸を膨らませるのは1人だけらしい。
「僕の…僕達の異世界ライフはこれから始まるんだ!」
そんな5人を他所に、黒髪の少女が天に向けて右拳を突き出す。
どこまでも真っ直ぐ見据え、やる気を露にするのだった。




