149話
時は少し戻る。
(ふん。見た事ない外観の建物が目立つ様だが…いるのは馬鹿ばかりか)
クリアフォレスト内にある、1つの大きな通り。
そこを、初老を過ぎたであろう外見の男性、コレオ・ヴァン・ブンドールが伸し歩く。
コレオは帝国でも屈指の大金持ちで、ごてごての宝石が付いた装飾品に、仕立ての良い服装と。
見るからに成金と言わんばかりの格好をしている。
その彼のすぐ後ろを、ひょろい見た目のソカニ・ヴァン・カスメール子爵。
小太りのモテルーノ・ヴァン・ウーバウ男爵が歩き、コレオの部下である私兵達が続く。
コレオ達は帝国でも急成長を遂げた都市スクルドから、地下鉄で来訪。
地下鉄がある北側から最も高級な店や物件が立ち並ぶ西方面へ向け、歩き始めたまでは良かった。
しかし1キロ程歩いたところでコレオがギブアップ。
近くのベンチで休憩するとなり、ぜはーぜはーと大きな体を揺らしながら息を整える。
日頃から不摂生極まりない生活を送り、馬車での移動が当たり前の彼にとって、ずっと歩きっぱなしと言うのはかなり堪えるらしい。
金髪ながら毛量が少ないをコンプレックスに、折角セットした(コレオ的に)自慢の髪型が汗で乱れ、今はまるでトマトのへたみたいな感じに。
しかも若干項垂れた姿勢のせいか前方に晒され、通り掛かる人々から面白い髪型だと嘲笑。
対象は身形からして貴族だと分かり、1人ないし2人。
3人以上の集団から笑い声が飛び始める。
ただ、周囲を喧騒が包み、声量も小さい。
取り巻き達がコレオを注視しているのも重なり、問題視される事はなかった。(トラブルにならないとの意味で)
(しかし、無駄に広い。広過ぎる。帝都以上とは何事か。後で領主に文句を言わねば)
コレオが忌々しげに吐き捨てる。
ここクリアフォレストの広さは直径10キロ程。
対する帝都が直径8キロと、1回り大きい。
反対に道幅は少し狭く、それでいて利用者数が多い事から、馬車の使用は不可。
北や南等の入口各所に、結構な広さの駐車スペースが設けられ、そちらへ停める様にとなっている。
一応、中心から見て2キロ、5キロ、8キロ地点に、(サルーンやスクルド、アゼルへ向かうのとは別に)地下鉄を設置。
距離や時間を大幅にカット出来るものの、それでも地上に於いてメインとなる移動手段は徒歩。
普段から運動をしない者にとって、代えがたい苦痛と言えよう。
現に、改札口から出てすぐの位置にデカデカと表示された地図を見上げ、その大きさを知って「は?(直径)10キロ?何の冗談だ?」と間抜けな顔で漏らしていた。
(それに、何が絶世の美女を模したゴーレムだ。下らぬ)
クリアフォレストでは、昨日からある噂が持ち切りになっていた。
帝国でも最大戦力を誇るとされるガディウム辺境伯。
その彼が誇るゴーレム達に鎧袖一触の強さを見せ付け、完膚なきまでに打ち負かしたのもまたゴーレム。
しかしゴーレムと言っても、岩と岩や鉱石をくっ付けた不格好な人形ではなく、見た目は完全に人間。
それも人ならざる程に美しく、気品があり、主人の指示に従順な高い知能を有すると来た。
そんな目が覚める美女と称してもおかしくないゴーレムだが、オストマとの争いの後、(凛の分身体と共に)忽然と姿を消した。
一切の行方が分からなくなり、唯一の手掛かりであるホズミ商会へ尋ねたりするも、「申し訳ございません、お客様のご質問にお答えする事は出来ません」の一点張り。
どれだけ圧力を掛けようが、下手に出て媚び諂おうが。
希う態度を見せようがそれは変わらず、9割が観念。
しかし残る1割は諦め切れないとして、今も捜索が続けられているとの話。
その様な状況下の中。
コレオは噂がもし本当なのであれば、最低でも昨日訪れたスクルド中に知れ渡っているはずだと踏んだ。
しかし実際に知られていたのは極少数。
良くて1〜2割がせいぜいで、残りはクリアフォレストとは別に、新たな街が複数出来たとの話で持ち切りだった。
なので、人ならざる程に美しいの部分は、人の手によるものにしてはの間違い。
美人と称するには程遠い、お粗末な造り。
強さに関しても、話の通りであれば、実力主義である帝国が放って置くはずがない。
むしろ諸手を挙げて受け入れる事だろうと踏む。
所詮は噂。
どうせ(帝国内で)ゴーレム好きの変態と称されるオストマの自作自演か、何かやらかしたに違いないと一笑に付した。
ここからは余談。
アルファが常に凛の傍に控えるとして、小さくなった際。
デフォルメ化した彼女に、殊更興味を示す人物が。
「可愛いーー!私も欲しいーーーーー!」
人形使いこと、酒造り担当ドワーフであるルルの妹のロロナだ。
この幼女ドワーフはキラッキラなお目々で、凛の左肩の上にぷかぷかと浮かぶアルファを。
次いで、期待に満ちた視線を凛に向けた。
凛はですよねー、と言いたげな顔になった後、デフォルメ化したアルファよりも更に10センチ小さい。
ドワーフの身長に合わせた、全長20センチ位の小さなアルファ、『ぷちあるふぁ』をロロナに進呈。
感極まったロロナが凛に抱き着き、それを見た幼女メイドのナナが負けじと反対側へ。
雫が自分もとにじり寄り、美羽から止められる一幕があったとかなかったとか。
因みに、ぷちあるふぁはアルファと同様。
普段は認識阻害スキルを用い、一般の人々に分からなくしてある。
戦闘時は1メートル弱の大きさとなり、グラディウス隊以上の力強さを見せる。
他のぬいぐるみ達と連携すれば、仮に襲われたとしても遅れを取る事はまずないだろうとの意見に。
話は戻り、復活したコレオは腹拵えと称し、近くの店へ。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
入店してすぐ、コレオは鬼人族の店員に声を掛けられる。
(…ほう、鬼人か。他も同じの様だな。)
コレオは入口にいる女性。
それと目の届く範囲にいる従業員が鬼人であると分かり、若干ながら感銘を受ける。
彼らがいるのは高級料亭。
それも超が付く様な(一般に出せると言う意味で)最高の逸品ばかりを出すお店で、料理によっては白金貨を超えるものも。
ここ以外にも高級料亭、料亭、割烹はあり、いずれも鬼人が店員を勤めている。
(しかし鬼人だけを集めるとは。何とも珍し…)
そして視線が少し奥まった所にいる人物━━━紅葉へ留まったのを合図に、まるで時間までもが止まったみたく微動だにしなくなった。
「…様。…客様。お客様。」
「はっ!儂は一体…。」
何度も女性店員に話し掛けられ、ようやく我に返ったコレオ。
後ろを振り向いてみれば、ソカニとモテルーノがこちらを窺っており、部下等もそれは同じだった。
咳払いを交え、「何でもない」と返す。
「失礼だが、あちらの女性は一体…。」
「?…ああ、紅葉様の事ですね。お奇麗でしょう。流石は『姫』と呼ばれるだけあって、私も見惚れる時があります…ささ、皆様こちらへ。ご案内致します。」
コレオ達は女性店員に言われるまま、建物を進んだ所にある座敷へと向かう。
上がる前に履物を脱ぐのが作法と聞かされ、難癖を付ける場面はあったものの。
ひとまず腰を落ち着ける事が出来た。
ややあって、昼食を摂り終えた一同。
『和食』と言う、初めて目にする食事形式なのは勿論の事。
料理の1つ1つが洗練され、この世のものとは思えぬ程極上の味に誰もが酔いしれ、限界を超えそうになるまで食べてしまう。
おかげで全員が幸せそうな顔で横になり、10分を過ぎても尚それは続いている。
「おい!誰か!」
かと思えば、突然コレオが起き上が…らず、横になったまま叫ぶ。
「お呼びでしょうか?」
「ああ。先程の…紅葉と言ったか?あの者をここに。」
「…申し訳ありません。紅葉様は店長ではありますが、同時に料理長の役にも就いてございます。只今、別の方から頂いた注文の料理を━━━」
「ええい!黙れ黙れ!!」
コレオは怒りを原動力に起き上がり、女性店員の言葉を遮る形で、空になった膳をひっくり返した。
「無駄口を叩くな!儂が連れて来いと言ったらそれに従えば良いのだ!」
「そうだそうだ!」
「たかが店員の癖に生意気だぞ!」
コレオが捲し立て、その彼にソカニとモテルーノが追随。
終いには部下達も便乗し、徐に食器類を掴んでは女性店員がいる方へと投げ付ける。
ただ、幸いにして本気で狙うつもりはないらしい。
彼女自身ではなく、すぐ近くにある襖。
または畳の上を目標と定め、それらに次々と当たっていく。
「何事ですか!?」
その衝撃で皿や小鉢は割れ、破片等が散乱。
紅葉が出張るのに、十分な騒ぎとなった。
紅葉、それと彼女と共に来た暁は、即座にふざけてこうなったのだと理解。
驚きから、怒気を孕んだ顔付きへと変わる。
反対に、我が意を得たりと言わんばかりにコレオが得意げに。
口の端を吊り上げ、舌なめずりまでする。
「ほう。やはり美しいな。その怒った顔も実に良い。」
この発言の通り、コレオに謝罪の言葉はない。
むしろ値踏みをする様なネットリとした視線を紅葉に向け、そこへ取り巻き達の醜悪な笑みが加わる程。
迷惑を通り越し、あまりの気持ち悪さに紅葉や女性店員が顔を顰める。
それに興奮したコレオが「調教するのが楽しみだ」等と更に邪な目を向け、取り巻き達も彼に倣う。
「…何だ貴様は。」
すると、暁が紅葉を守る様にして前に出、
「(コレオ達の下卑た視線から)紅葉様をお守りしているだけだが?」
訝しむコレオを睨み返した。
「…何だその目は。ここは客にその様な対応を取るのか!?」
「客?この有様でか?俺ならとてもじゃないが恥ずかしくて他所には出せないな。」
「貴様…!儂を━━━」
「あーあーあーあー、言わなくて良い。どうせ儂を馬鹿にしているのか、とかそんな所だろ?ワンパターン過ぎるんだよ。」
「ぎぎぎぎ…!貴っ様ぁ…!」
先程の余裕はどこへやら。
完全に立場が逆転し、暁が煽る様にして肩を竦め、コレオが歯軋り。
取り巻き達も剣呑な顔付きとなり、室内を一触即発の空気が漂う。
「そこまでじゃ。双方、矛を収めよ。」
そこへ、やって来た朔夜が待ったを掛けるのだった。
一応ながら補足。
コレオ・ヴァン・ブンドール→コレオブンドール→これを分捕る
ソカニ・ヴァン・カスメール→ソカニカスメール→密かに掠める
モテルーノ・ヴァン・ウーバウ→モテルーノウーバウ→持ってるのを奪う
となります。
彼らは旧ゆるじあにもいた人物で、コレオ以外は家名しかありませんでしたが、折角の再登場なので名前を用意。
本当はソカニではなくヒソカにしたかったのですが、某ハンター漫画の大事な所がズギューンする方とかぶってしまう為、こちらにしました。
あ、後、今話の主人公ことコレオちゃんの家名はガン○ムっぽい顔のショーグン(かなり昔のス○ロボ)の敵役から来てます。
カッとなったり蹴る人はいませんがw




