147話
「え?どうして2人がここに?」
確かに、ここは獣国。
国民の多くを獣人を占め、それに付随して高確率で客も獣人になるであろう事は安易に予測が付く。
ただそれが見知った者達で、何も聞かされていなければ話は別。
獣人には違いないけどさ、的な感じで凛。
それと美羽がきょとんとするのも無理はないと言える。
「あー、いや僕は…。」
それを知ってか知らずか、ステラが歯切れが悪そうにし、
「メインはあちしだにゃ。」
反対にキャシーは満面の笑みに。
「言うの忘れてたんにゃけど、この子はあちしの妹にゃ。」
「はい!キャシー姉さんの妹なのであります!」
キャシーがどこか誇らしげな猫獣人の女性に並び立ち、彼女を紹介。
「妹?って割にはあまり似てないよね。髪色も違うし。」
キャシーは青色で、妹と名乗る女性は桃色の髪。
顔立ちもあまり…と言うか全然似ておらず、姉妹と名乗るには程遠い様に感じられる。
「あ、前に孤児院出身とか話してたよね?もしかして…。」
「にゃ!ヴァネッサはあちしと同じ孤児院出身なのにゃ。」
「似てないのはそれが理由か。」
ようやく納得したものの、今度は別な疑問が。
「ん?ならどうして今になって?それに、ステラは関係ないように思えるんだけど…。」
キャシーの口振りからして、以前より妹分のヴァネッサの勤務地がこの場所だと知っている事は明白。
また、ステラは彼女と同じ猫人ではあるが、2人が面識を持ったのは、共に凛の配下になってから。
彼の言う通り、今回の場合は全くの無関係となる。
「…ごめん、凛様。キャシーに見られちゃった。」
「見られちゃったって…あれ?」
「そう、あれ。」
「あちゃー。」
「ご、ごめんよ?嬉しくってつい…。」
凛が天を仰ぎ、(当時浮かれていたとは言え)ステラは流石に悪いと思ったのか、彼に近寄りつつ申し訳なさそうにする。
「にゃ。ステラ、からどぼるぐ?とか言う新しい玩具に頬擦りしてたにゃ。羨ましいにゃ。あちしも欲しいのにゃ。」
((キャシーが単純で良かった…))
「?」
不思議がるキャシーを他所に、凛とステラはほっと胸を撫で下ろした。
先程、キャシーは用事(?)でステラの部屋へ訪れ、その際だらしない顔で剣に頬擦りするステラと遭遇。
キャシーはあまり武器にこだわりや執着心を持たず、ただの武器相手に良くやる位にしか思っていない様だが、その剣はただの剣ではない。
名をカラドボルグと言い、昨晩凛から賜った『神器』となる。
神器の原料は凛達の武器やアルファの魔廻炉に使用された『ヒヒイロカネ』で、変化する前の金属は名前にも含まれている通り、金。
その金に、膨大な魔力を注いだら出来ると里香から聞かされ、これまでずっと臨んではみたものの、今日に至るまで前途多難の連続だった。
1つは量。
金に超膨大な魔力を注ぎ、しばらく馴染ませた後にようやく出来上がるのがヒヒイロカネ。
ただ、現在の凛でも1日10㎤位しか用意出来ない、極めて生産量が少ない代物でもある。
もう1つは性能。
いざヒヒイロカネに至ったとしても、変化直後だと鉄級クラスの魔物が倒せるかどうかの強度しかない。
当然使い物にならず、早急に強化する必要がある。
その為には更なる魔力をヒヒイロカネに与えれば良いのだが、物凄く効率が悪い。
どれ位悪いかと問われれば、神輝金級の魔物数体相当の魔力でゴブリン1体分上昇するかどうかと言うレベル。
それでも、魔力を込めれば込める程強靭さが増し、且つ属性を乗せればそちらへ染まる性質を持つとのメリットが。
以上がヒヒイロカネの特徴になるのだが、あくまで魔力を加える程に強くなり、属性を乗せればそちらへ変質するだけ。
美羽が愛用する白と黒の双剣みたく、武器そのものが進化・変形する訳ではない。
故に進化に至った理由は未だ分かっておらず、彼女を含めた5人はイレギュラー扱い。
誰よりも多くの魔力を注ぎ、使い込んでいるはずの凛の刀に変化が一向に訪れないのは何故?と常々疑問視されている。
ともあれ、里香から別れ際にある程度魔力を込められた状態のヒヒイロカネを渡され、同じタイミングで製法も聞いた凛。
玄冬等を作製後にヒヒイロカネを用意。
時間を見付けては魔力を注ぐを繰り返し、少しずつ成長させて来た。
そして昨日の夜。
ステラが用事で凛の部屋に訪れ、魔力を込める作業を目の当たりにする。
「それで何か作って!」
「まだ成長の途中だけど…まぁ良いか。」
説明を受けた彼女は目をキラキラとさせ、凛も現状でどれ位のものが出来るのかと考え、出来上がったのがカラドボルグ。
最初はエクスカリバー!と叫んでいたのだが、アーサーがいるから…との凛の答えに何とも言えない顔で納得。
ならばと注文したのがそれだった。
カラドボルグはエクスカリバーの原型とも言われ、名前の由来となった『固い稲光』。
つまりステラが2番目の頻度で多用し、好きな属性でもある『雷』に決まった瞬間でもある。
本当は光属性が良かったのだが、彼女の光への適正は結構なマイナス。
これはユニークスキル『黒幻』による弊害で、最も練度や適性値の高い闇でエクスカリバーはちょっと。
名前をカリバーンに変えれば或いは…と考えたりしたものの、結局はカラドボルグに。
しかし彼女のエクスカリバーへ対する思いは強いらしい。
最終的に凛がこれで作るからねと告げるまで、ずっと煮え切らない態度だった。
それでも完成品を見てしまえば考えがコロッと変わるのが人の性と言うもの。
ライトブリンガーやレーヴァテイン等よりも幾分かは質が劣るが…それでも神器である事に変わりはない。
エクスカリバーじゃないとの不満はカラドボルグヤバい格好良いへあっさりと塗り替わり、ふわぁぁぁ…とかうわぁぁぁぁ…どうしよう、嬉しい等と。
かつてない程にテンションが高いまま凛から受け取り、以後思い出し笑いでもするかの如くニヨニヨする場面が見受けられる様に。
そこから一夜明けた午前9時頃。
アレックス達がダンジョン攻略を成し遂げ、周辺一帯がその功績に沸き立つ中。
誰よりも喜びそうなステラがあの場にいなかったのは、自室でカラドボルグを眺めていたから。
本来であれば彼女も行くつもりだったのだが、後少し、もうちょっとだけ…となっていく内に我を忘れ、すっかりと見入っていた。
「見ーーちゃった、見ーちゃったにゃ!」
そこへ、キャシーが乱入。
ステラは慌てて取り繕うも間に合わず、今のをネタに脅され、付き添いとして引っ張られる形に。
「まぁ、本当は別に武器なんてどうでも良いのにゃ。代わりに凛の子種でも━━━」
「ステラちゃん?」
「ヒッ!な、何でもないのにゃ…。」
話は戻り、キャシーが武器の代替案を提示するも、瞬時に移動した美羽の心の底から冷えそうな声にあっさり辞退。
そこから「さっきのはどう言う意味かな?かな?」と詰め寄られ、「勘弁してにゃ。あちしが悪かったにゃ。だから許して欲しいにゃ。」「んー?良く聞こえないなぁ?」とたじたじに。
壁へ壁へと追いやられて行く。
「多分だけど、城に仕えてるヴァネッサさんを自慢したかったとかじゃないかな。」
「その通りにゃ!」
それで、2人は何をしにここへ?と言いたげな凛に気付いたのだろう。
ステラの説明に、キャシーが壁際からすっ飛んで来る形で同意を示した。
「だからって、僕を巻き込まないで欲しいんだけど。」
「まぁ良いじゃにゃいか。とにかく、ヴァネッサは小さい頃から身体能力に関しては優秀で、あちしも鼻が高かったにゃ。」
「「へー。」」
「いえ、姉さんに比べたら自分なんて…。」
「いつも褒める度に、そうやって謙遜するのにゃ…。頂点の1人にゃんだから、もっと自信持つにゃ。」
「「頂点?」」
「ヴァネッサは私の部下よ。」
凛とステラの疑問に答えたのはウェンディ。
「彼女は獣剛熾爪隊の1人なの。」
「あ、成程。」
「それなら実力は確かだね。」
「にゃ。ヴァネッサは凄いんだにゃ!」
「いやぁ…。」
大好きな姉貴分であるキャシーから絶賛され、ヴァネッサは恐縮しつつも満更ではない様子。
「あ、後ついでに、あちしにはもう1人弟分が━━━」
「失礼します。獣王様、相談したい事が…。」
そう言って室内に入って来たのは、紺色に近い色の髪や耳、尻尾を生やした狼人族の男性だった。
凛が彼を見て「あ、モフり甲斐がありそう」と思ったのは内緒だ。
「あ!ここにいやがった!」
「ほえ?」
男性は若干申し訳なさそうに俯くも、ヴァネッサを発見次第すぐに彼女の元へ向かい━━━
「はらみっ!!」
ゴィン、と拳骨を喰らわせる。
((うわ、痛そう…))
「痛いのでありますー!タイガー、いきなり何なのでありますかー!?」
「いきなりじゃねぇよ!!お前こそ、仕事すっぽかして何やってんだ!?」
「あ…ぶたばらっ!」
凛とステラが引いた目で見る傍らで、2回目の拳骨が。
ヴァネッサはその痛さから、痛いのでありますぅぅぅ…と踞り、代わりにキャシーが動いた。
「…相変わらずだにゃ。」
「あん?って、キャシーか。どうしてここに。」
「つれないにゃあ。昔はあんにゃに姉ちゃん姉ちゃんって懐いてたのに…。」
「ばっ!いつの話してんだよ!」
「キャシー、もしかしてその方が?」
「にゃ。ヴァネッサと同じ隊員のタイガだにゃ。良い歳して未だにへたれ、しかもやる事が一々子供と言う残念な弟分にゃけどにゃ。」
「誰がへたれで子供だ!」
「童○は黙るにゃ。」
「ばっ!?ど、どどどどど○貞違うし!」
「はぁ…その反応は、認めてるのと同じにゃ。」
キャシーの溜め息交じりの発言に、狼人の男性ことタイガがはっとした顔で口を抑える。
しかし既に遅く、生温かったり苦笑い。
にやにやとした視線が部屋中から向けられる。
「はぁ。その様子にゃと、まだヴァネッサとはまだ上手くいってないんにゃねぇ…。」
「どうしてそこでヴァネッサの名前が出て来るんだよ!?全然関係ねぇじゃねぇか!!」
「? 自分がどうしたのであります?」
「っ!何でもねぇ!馬鹿ッサは黙ってろ!!」
「たっかるび!!」
羞恥からタイガは顔を真っ赤にし、しゃがんだまま見上げるヴァネッサに容赦のない拳骨を浴びせる。
((そこはカルビとかじゃないんだ))
凛とステラがそんな事を思っているとは露知らず。
タイガはヴァネッサの首根っこを掴み、「おら、さっさと仕事に戻るぞ」とぶちぶち文句を言いながら彼女を引き摺り、その場を後にする。
「2人は昔っからあんにゃ感じにゃのにゃ。ヴァネッサはちょっと…いやかなり頭が弱く、タイガはヴァネッサの気を引こうとちょっかいばかり出す。全く、困った弟分と妹分だにゃ。」
「ああ、手が掛かる子程可愛い…ってやつだね。」
「そう、それにゃ。流石凛、あちしの言いたい事が分かるにゃんて〜、やっぱり相性ばっちしにゃのにゃ〜!」
そう言ってキャシーは凛の腕に抱き着き、その反対側に来た美羽と言い合いをし始める。
因みに、後から聞いた話によると、いつまで経っても進展しない2人にキャシーが焦れ、冒険者になると言い出したのだそう。
すると当然ヴァネッサも付いて来ようとする訳で。
そうはさせじと当時募集していた獣剛熾爪隊の入隊を促し、ヴァネッサが入るなら俺もとタイガが付いて行く流れに。
(ヴァネッサさんか。ベクトルは違うけど藍火みたいな感じだったな)
凛は手が掛かる可愛い子とのワードから、「っす!」と自信満々な様子の藍火を連想。
(タイガさん、きっと今まで沢山の苦労を重ねて来たんだろうなぁ)
そしてタイガに対し、同情の念を抱く。
「酷いっすー!」と言う声が聞こえた様な気もするが、なかった事にした。
それから、レオパルドやウェンディと共に王都イングラムを見て回った凛達一行。
視察は昼食を挟んで午後3時まで行われ、その後報告や今後の方針・対策について会議を行い、レオン一家に見送られながら屋敷へと帰るのだった。
ヒヒイロカネの件は、修正した8話と18話にちょこっとだけ。
それと、タイガの言う馬鹿ッサとは馬鹿+ヴァネッサの略称で、本当はあり○れみたく駄○ッサと書きたかったのですが…断念しました(苦笑)




