133話
同時刻、死滅の森南部では。
紅葉、ステラ、猛を隊長とする、総勢27名もの大所帯で森を散策していた。
紅葉のグループは暁、旭、月夜、小夜、クロエ。
氷神龍ヨルムンガンドのアーサー、流に泉と名付けられた元リザードマン(現ドラゴノイド)の姉弟の8人。
ステラのグループは、午前中のみの仕事で午後が休みとなったトーマスに篝、パン屋が定休日の為に来た時雨と霙。
今朝の魔物形態での戦いに参加した白いツインテールの少女━━━聖炎神龍ドレイクの螢。
黒いツインテールの少女こと闇炎神龍テスカトリポカの仄。
銀髪ポニーテールの女性でセイバードラゴンの千剣3人に、キュレアとリナリーを加えた9人。
猛のグループは、彼に副隊長兼犬獣人のクリフを含め、ミゲルの配下である9人を足した10人だ。
「リナリーちゃん!何だか大冒険って感じがするねっ!」
「ええ、そうね。けどキュレア、だらかと言って油断しちゃダメよ?実戦に出る事自体久しぶりなんだし。」
「もー、分かってるよー。リナリーちゃんってば心配性だぁねぇ。」
そうやって、キュレアはおばちゃんじみた仕草で笑うも、リナリーからすれば全く笑える心境ではない。
何故なら少し前、ふとした油断から魔物に追い掛け回された挙げ句、逃げ込んだ先が盗賊の根城だったとの体験をしたばかりだからだ。
慌てて逃げ出すも、当時駆け出しの冒険者だった自分達が撒けるはずもなく、あっさりと捕縛。
紅葉達に救われたから良かったものの、パーティー仲間の少年達は殺され、2人は危うく慰みものになるところだった。
(もしかして…忘れてる?紅葉さん達に助け出された時、あんなに辛そうな顔をしてたのに?)
「?」
キュレアは楽観主義と言うか、細かい事を気にしないところがある。
なのでリナリーは頭に回るはずの栄養も全て胸に向かってるのでは?と考えており、不思議がる彼女を他所に別な意味で危機感を覚える。
「大丈夫。2人は僕が守るから安心して?」
そこへ、いつもの黒装束のステラが声を掛ける。
「ステラちゃーん!今日は宜しくねー!」
「…頼りにしてるわね。」
キュレアが左側から勢い良く抱き着き、その反対をリナリーが、それも若干頬を赤らめつつ腰部分をそっと掴む。
「猛さん。わざわざお時間を割いて頂き、ありがとうございます。」
「何、構わんさ。クリフ達を鍛える事は人々の安全に繋がるのだからな。」
「うっす。ありがとうございます。」
『ありがとうございます!』
猛と奈落の牙の面々は、どこの体育会系だよと突っ込みたくなるノリでやり取りを行う。
この様な感じで、美羽達と違い、メンバーの3割程がドラゴンかそれに連なる者で構成されているのだが、誰も気にする素振りを見せない。
「短い間ではございますが、本日は宜しくお願い致しますね。」
むしろ紅葉がはんなりと頭を下げ、明るかったりマイペース。
やる気十分と言った雰囲気で応える様子から、これからの事にのみ意識が向いているのが窺える。
紅葉達5人とステラ、アーサーも午後から半休。
研修中の流達と螢達は息抜きを兼ねての参加。
反対に、悪魔の玄は最近1人で行動する事が多い。
その彼を追う遥も、今回は不参加と言う形だ。
因みに、螢達3人は勉強との名目で竜胆から貸し与えられ、それに応えた凛がそれぞれに名前を与えた。
3人は(竜胆と葵程ではないにせよ)魔素量が増大し、どれ程になったかを確認する意味合いを込め、今朝の訓練に参加。
ただ、彼女達ですら、凛の配下達からすれば中堅でしかない。
ある意味頂上決戦とも取れる今朝の手合わせに混ざりこそしなかったものの、割と新参に位置する赤髪、緑髪、黄髪、茶髪の少女達よりも劣っていたりする。
今回、流達や螢達がこの場にいる理由の1つとして、どの様な感じで死滅の森の散策を行うかを知って貰うと言うのがある。
流と泉は今の自分がどれ位戦えるのかを知りたくてウズウズ、螢達は初めて訪れる死滅の森にソワソワしている様だった。
ついでに、流はまんま2足歩行するトカゲだった当時と違い、今はほぼほぼ人間の風貌ではある。
しかし普通の人よりも顔の彫りが深く、スー○ーサイ○人3みたいに見えなくもない。
それを嫌がった姉の泉は変化スキルを用い、完全に人間の見た目となるよう調整。
人知れず安堵し、主の凛にすら伝えておらず(ただしナビには駄々漏れ)、自分だけの内緒話に留めている。
「では参りましょうか。」
紅葉の言葉で一行が頷き、徐々に歩き始めた。
そんな中、1人だけやたらやる気を出した弟に軽く突っ込みを入れつつ、言葉だけでなく冷たい視線まで向ける。
「暁!旭!」
「「はっ。」」
「ほっ。」
「えいっ!」
「後ろはお任せ下さい!」
圷と颯を手にした紅葉が土と風の矢で牽制しつつ、暁達へ進むよう促す。
その彼女を襲おうとした魔物達を、月夜と小夜が後ろから月影や夜叉で突き刺し、守る構えを取る。
「せいっ!はっ!…!」
「させない!」
「ありがとう、時雨。」
「気にしないで。」
霙が凍霖のハルバードで敵を攻撃。
その影に隠れて姿を現し、そのまま彼女へ迫る個体に時雨が凍霖の弓を弾く。
放たれた水属性の矢は相手の首筋に当たり、息絶えた。
「2人共!まだ気を抜くには早いぞ!集中しろ!」
「「分かった(わ)!」」
トーマスは幽かに赤く光る熾炎の剣を構えながら2人に叱咤し、向かって来たマンティス達を斬り伏せる。
彼ら以外…例えば、紅葉達は彼女らが持つ圷や不動等を改良したものが。
ステラ達はそれそれが得意とする属性武器が。
クリフ達奈落の牙の面々は(自分達には勿体ないとして)アズリールシリーズの武器が配布されている。
「氷華絶影刃!」
凍霖の剣を賜ったアーサーが素早く縦、横、袈裟、逆袈裟方向に剣を振るい、氷による八芒星を形成。
最後に大きく薙ぎ払い、生成した氷の塊を前方へ飛ばした。
氷の塊は魔物に着弾し、その後周囲へ撒き散らす様にして大小様々な氷の刃が発生。
10体程が巻き込まれ、体をズタズタにされながら倒れていく。
「へー、やるじゃない。」
「流石は同族ってところね。」
剣を鞘に戻したアーサーに、白と黒のツインテ少女達━━━螢と仄が話し掛ける。
彼女らと同じく興味があるのか、千剣の姿もあった。
「いや、まだまだだ。こんなもの…凛の前では児戯に等しい。」
「凛の前では、って。本当のところどうなの?何か変なので朔夜様を圧倒してたみたいだけど…。」
「私達に名前を与えても全然余裕そうだったし、いまいち良く分からない。」
神妙な面持ちの螢達に同意するか如く、千剣が何度も首を縦に振る。
彼女達にとって、凛は巨大化した女性(厳密にはグランドモードのアルファ)の手を借り、名付けで弱体化するはずがピンピンしてる不思議な存在と言う事になっているらしい。
「凄いなんてものじゃない。あの場にいた全員で挑んだとしても、まるで葉が立たないだろうな。」
「え…。」
「そんなに…?」
「嘘でしょう?」
「嘘なものか。それに、先程の技は凛の動きを模倣しただけに過ぎない。しかもかなり劣化した状態でな。」
アーサーの苦虫を噛み潰したような顔に、3人は揃って絶句。
「そうだ、千剣。」
「はい、何でしょう?」
「お前が腰に差している刀だが…1番の使い手は凛だ。」
螢と仄は大人しそうな見た目に反し、素手だったり体の一部を龍に戻しての爪。
または白い炎や黒い炎を駆使して戦う。
千剣は元は体中が鋭い刃物で出来たセイバードラゴン。
その名残りで武器を…特に見た目の良さから刀を選んだ経緯を持つ。
「え?あちらにいる暁殿や篝殿が1番ではないのですか?」
「あいつらは弟子だな。それと、あの場にいた全員は参加した俺達だけじゃない。見ていた者達を足した数千人もと言う意味だ。」
凛は篝の実体を持つ分身スキル『九尾』に加え、以前倒したディスパースモスから得た『幻実』スキルで数百もの幻を生み出す。
しかもスキルそのものに手を加え、今や魔力も気も使えるのが九尾。
幻実はスキルも含めて全て使えず、実力も本来の1割位の強さしか有していないとの欠点を持つ。
それでも凛程の強さならさして気にならず、それどころか動かずして、それも圧倒的質量で一方的に攻められるのは大きなメリットと言えよう。
「それ程…ですか。」
「いくらなんでも…。」
「じょ、冗談だよ…ね?」
「さて、冗談で済めば俺としてもありがたいんだがな。」
アーサーは意味深な言葉を最後に、淡々とした様子で歩き出す。
(ちょっと、どうするのよ。ここで認められて自分達の地位を上げるって算段じゃなかったの。)
(予想外…。)
(ま、まぁ。今は取り敢えず、強くなる事に専念しましょう。)
3人はこそこそと話し、互いに頷き合った。
1時間後
「どりゃあっ!」
「穿て!ハイドロスピア!」
流が凍霖の大剣で縦に真っ二つにし、泉が凍霖の槍から伸ばした高圧水流で貫く。
「…やはり凄いな。使ったのは今日が初めてなのにしっくり来る。」
「何より楽だしね。」
流が噛み締める様に呟き、泉が同意を示した。
「正直、傘下に加わったばかりの俺達がこんな良いものを貰って良いのだろうかとは思うが…。」
「まぁ、良いんじゃない?とは言え、武器に固執し過ぎて足元を掬われたらどうしようもないわ。今まで通り、堅実に行きましょ。」
「…そうだな。」
姉弟は静かにやる気を漲らせる。
「闇遁・影喰い。」
ステラがそれっぽい構えで地面から影を伸ばし、ガルム達を囚える。
ガルム達は必死に抗うも、全く意味を為さず地面に吸われる形で消滅。
同じタイミングで断末魔も消え失せた。
「クロエー、今のガルム3体なんだけど…どうする?(不死の軍勢で)使う?」
ステラに水を向けられたクロエは不死の女王。
リッチからデミリッチを経て今に至り、進化の際にアンデッドを自らの手下に行使できるスキル、『死者の軍勢』を獲得している。
「欲しい!もふもふ!もふもふしたい!!」
「分かった。それじゃ出すねー。」
「うん!ありがとー!」
クロエは身振り手振りで感情を表現。
ステラがたった今無傷で確保し、影から出したガルム達の亡骸に不死の軍勢スキルを付与。
ガルム達は起き上がり、早速クロエとじゃれ合い始める。
それを皆が目を細めて眺め、少ししてから探索を再開。
「…ヒ○ノック?」
その1分後。
意外な顔で呟くステラの視線の先に、モン○ンのヒプ○ックを思わせる、全長6メートル程の鶏が映った。
○プノックもどきことヒュプノスはどうやら食事中…みたいなのだが、食われている相手は死んでいない。
厳密に言えば絶賛睡眠中で、30メートルはある巨体を体を軽く上下しながら啄まれる…つまり生きたまま体を食べられている状態。
どうやら内蔵が好みらしく、周辺には胸から腹に掛けての部分だけが血に染まり、身動き1つしない死体がちらほら。
これには一同ドン引き。
真っ先に敵だと判断ステラは、腰に差した2本の剣の内の1本である飆風の剣を抜き、スッと前に傾ける。
そしてヒュプノスが咀嚼したものを飲み込む目的で顔を離したタイミングを見計らい、剣先から雷系初級魔法ライトニングを射出。
着弾したヒュプノスはライトニングの副次効果で麻痺状態になり、驚愕した表情でその場に倒れ込んだ。
すると今ので何かしらの効果が切れただろう。
捕食された側である巨大な鳥の魔物━━━フレースヴェルグが目を覚ました。
直後、激痛に顔を歪めて腹部を見やり、大量の血だけでなく、かなり抉られている事に気付く。
続けてヒュプノスに視線を向け、お前がやったのかとばかりに怒りの咆哮を上げた。
「うわぁ…激おこだよ。」
「激…?良く分からんが、滅茶苦茶怒っているのは確かだな。」
フレースヴェルグは身動きの取れないヒュプノスを他所に、サッカーボールみたく蹴り飛ばした。
それから更なる雄叫びを上げ、風魔法で激突させた木諸共何度も打ち付け、嘴による連撃を追加。
それは烈火だったり、噴火の如く沸き上がった不満をぶつけている様で、ステラとトーマスが微妙な顔になるのも当然と言える。
やがてヒュプノスは息絶え、ステラが経緯の説明や回復、可能であれば仲間にならないかとの説明をしに赴き、同意を得て治療。
「宜しく頼むぜ!」
初めは驚いたものの、ステラの手によって完治し、人化スキルで人間の男性へと変化したフレースヴェルグ。
片手を挙げてニカッと笑い掛け、ほとんどの者がそれに応える。
ただ流と泉、螢達竜の谷、ジェフ達奈落の牙の面々はこのやり取りが初めてとなるの為、軽く目を見開き、目を丸くする等のリアクションを見せた。
更に1時間後
「おらぁ!」
仲間となったフレースヴェルグの男性が、脚力にものを言わせてい魔物を蹴り飛ばす。
「まだまだぁ!」
その直後に風を纏い、向かって来た者達にアッパーだったり蹴り上げを行い、両手を前に翳して放った風魔法で一掃。
「凄いな…俺達も負けてられん!」
その光景にクリフがぽかんとなるも、すぐにやる気を取り戻し、部下達と連携して次々に魔物達を片付ける。
「前へ向かいたいのは分かるが、注意を疎かにするな!周りにも気を配るんだ!」
そんな彼らの後ろから複数の魔物が襲おうとし、猛が崩土の大斧で一薙ぎ。
クリフ達に注意を促しつつ、自らも戦線に加わる。
「迅雷剣!」
ステラが右手に持った飆風の剣で斬り刻み、最後に雷を浴びせた一撃を喰らわせ、
「紅蓮剣!」
左手の熾炎の剣に炎を纏わせた状態で前方へ振るい、炎の輪を飛ばす。
2体の魔物は感電死、もしくは全身が火だるま状態となって倒れた。
(うーん…ノリと勢いでやってはみたけど、結構恥ずかしいものがあるね。)
ステラは熾炎と飆風の剣に合わせ、ティターニアのエラが持つ全属性適性上昇を採用。
それに属性武器を賜った事も重なり、折角なので予てより考えていた2つの技を使ってはみたものの、羞恥心からお蔵入りを決意する。
「ステラ、今の技は何だ!あたしにも教えてくれ!」
ところがそうは問屋が卸さなかったらしい。
篝が目をキラッキラさせながら近付き、顔を引き攣らせる彼女を無視してひたすら教えを乞うていた。
「はぁ…ステラ、何やってるのよ。」
リナリーが溜め息をつく。
ステラに好意を抱く彼女はストーカー…まではいかないとしても、ステラの動きをじっくり観察すると言う趣味が。
それは仲間になってすぐの頃、実験と称した凛との打ち合わせの時も同じ。
スキルの付け替えが出来るからと訓練部屋で色々とはっちゃけ、後で自らの黒歴史に沈む様も見ている。
その光景を思い出し、意味は良く分からないがまたやらかしたのは確かと憐れんでいるのだろう。
「良いなー!ね、ね、リナリーちゃん。私達も頑張って強くなれば、ステラちゃんみたいな強い武器が貰えるのかなぁ?」
「え?ああ、そうね。今はまだだけど、頑張ればいつかは…って言うか、このアズリールロッドでも十分じゃない?とても普通じゃ考えられない性能だと思うんだけど…。」
「ふーん、リナリーちゃんは良いんだ?ならあたしがリナリーちゃんの分も貰っちゃおーっと。」
「ダメよ!誰も要らないとまでは言ってないでしょ!」
「えへへー。もー、リナリーちゃんは素直じゃないなぁ。」
「まさかキュレアに言いくるめられるとはね…でも属性の付いた杖か。見た感じ、誰一人として同じ見た目ではないみたいだし、私だけのって思うと(テンションが)上がるわね。」
「でしょでしょー!」
戦闘行為は未だに行われており、話に花を咲かせるのはキュレアとリナリーだけかと思いきや。
押し問答が続くステラ&篝組も変化を見せる。
「何度も言うけど、あれはただの思い付きで…うん?」
「?どうした…。」
「グルルルル…。」
何かに気付いたと思われるステラがそちらに顔をやり、表情を変えないままぴたりと固まる。
それに疑問符を浮かべた篝も同じ方を向くと、そこには白い毛並みのライオンが。
それも周囲に青白い雷を発生させ、唸り声まで上げた臨戦態勢と来た。
「格好良いーーー!!」
「!?」
「ステラ!あいつは絶対に確保するぞ!」
「勿論だよ!ほらほら〜怖くない、怖くないからね〜。」
ビクッと驚いた弾みで雷を霧散させた白いライオン━━━ライトニングレオに、ステラと篝がじりじりと歩み寄る。
説得(?)の末、仲間になる事が決まった。
それからも森の探索は続けられ、時に休憩を挟みつつ午後6時前に帰宅。
フレースヴェルグにヒュプノス、ライトニングレオ以外で新たに発見した魔物はと言うと。
フレースヴェルグとは異なる進化先のヴェズルフェルニル。
過去に討伐経験のあるプラチナムタイガー…ではなく、もう1つの進化先で全身が金色の毛並みのゴルドタイガー。
ハイドラ系の進化先の1つであるナーガにナーガラジャで以上となる。
紅葉一行がダイニングへ向かうと、(ミレニア達等の)歓迎会と称し、豪勢な料理がテーブルに並べられているのが分かった。
程なくして歓迎会が開かれ、皆が料理に舌鼓を打ち、美味さのあまり感動する者も。
「成程。しかし、迅雷剣に紅蓮剣か…。」
今日の成果を伝えたステラに、凛が微妙な反応を示した。
「…やっぱり不味かった?」
「いや、不味いって言うか…。」
そう言って、凛は近くにいる美羽達をチラ見。
「あれ!?何か凄く笑いを堪えてる!?」
美羽、火燐、雫、翡翠、楓の5人が揃って下を向き、ぷるぷると震えて必死に笑いを堪えているのが窺えた。
「ご、ごめんなさい…。」
「くく…紅蓮剣か、良いと思うぜ?まぁ、オレはとてもじゃねぇが恥ずかしくて使えないけどな。」
「まだ迅雷剣は分かるとして…。」
「紅蓮剣はちょっとねー。」
「ん。厨二過ぎて(恥ずかしさから)悶絶する。」
「美羽達5人は特殊でね。僕越しに向こうの世界の知識を得る事が出来るんだよ。」
「妾もじゃ。」
「えー!?それ初耳なんだけどー!?」
楓、火燐、美羽、翡翠、雫の後に凛が説明し、最後に朔夜が乗っかる。
今の今まで知らされなかったステラは頭を抱え、その反応が可笑しかったのか火燐が机を手でバンバンと叩き、ゲラゲラと笑い出した。
雫は下を向いて「ふふ…ふふ…」と体をぷるぷる震わせ、美羽・翡翠・楓の3人は口元に手をやる形でクスクスと笑う。
凛は苦笑い、朔夜はニヤニヤとした笑みを浮かべる。
彼女達の近くにいたキュレアとリナリー。
そして紅蓮剣に興味を持った篝は、何がどう面白いのかが分からなかった様だ。
揃って不思議そうに凛達の事を見ていた。
「はぁ…何だか疲れちゃった。ちょっと早いけど、僕は風呂へ向かう事にするよ。」
ややあって、周りから散々弄られて精神的に疲れたステラが離席。
「あ、ステラちゃん待ってー!」
「あ、2人共!私を置いていかないで頂戴!」
「ステラ、まだ紅蓮剣の件は終わってないぞ!」
そんな彼女をキュレア、リナリー、篝が追う。
「んじゃ、オレ達も風呂に入るとするかー。」
「「はーい♪」」
「ん。」
「…行きましょうか。」
火燐達も続き、後に浴室から(心は未だに男のつもりでいる)ステラの悲鳴が届けられた。
その頃、王都のとある屋敷では。
「どの報告を聞いてもホズミ、ホズミ、ホズミ…最近はどこへ行ってもその名を耳にせぬ日はないな。」
そうつまらなさそうに語るのはサンティゴ・フォン・カーヴァン伯爵。
太った体を持つ壮年の男性で、子飼の商業ギルド員マルクトと共に、ミゲル達をサルーンへ向かわせた張本人でもある。
「聞けばそのホズミ商会とやら。王都を含めた都市ではなく、貧しい村々を中心に展開しているそうだな。」
次に腕を組みながら口を開いたのは、ドミニク・フォン・リーガル侯爵。
40代半ばで背が高く、そこそこ引き締まった偉丈夫だ。
「そして強者揃いなんですって?もっと早く広まってさえいれば、私のミリアちゃんは…。」
続けて、宝石等で着飾った40歳前後と思われる薄いピンクのウエーブヘアーの女性がさめざめと泣く。
「あのクソ豚カス野郎が!うちのミリアちゃんと同じ目に遭わせてやらないと気が済まないぃぃぃぃぃぃっ!」
かと思えばクワッと目を見開き、その後もひたすら喚き散らした。
(またヒスヒスが…今度は何が原因だ?)
(大方、カストロの屋敷で娘と思われる遺留品でも見付かったんだろ。)
(うわ…って、カストロの屋敷?どうやって探したんだ?)
(知らないの?アンジェリーナ様がカストロ達と共に王城へ現れたらしいわよ。)
(んで、そこから大勢の兵が奴の屋敷に押し掛け、数々の証拠品が押収されたって話だ。)
(知らなかった…。)
数人の男女が小声で話す通り、ヒスヒスと呼ばれた女性━━━ヒステリカ・フォン・オルブランカ伯爵の娘ミリアが身に着けていた装飾品がカストロの屋敷で発見された。
ヒスヒスと言うのはヒステリック持ちのヒステリカの略で、元から酷かったのが3年前に娘が行方不明となったのが切っ掛けで更に悪化。
今も髪を掻き毟る程に怒り狂い、場を気まずい雰囲気が包む。
「ヒステリカ、落ち着け。」
「ですがドミニク閣下!」
「私は落ち着けと言った。」
ドミニクに睨まれ、ヒステリカが不承不承と言った感じで口を噤んだ。
「ともあれ、王等の…いや、王国の安寧が脅かされようとしている。これは由々しき事態だ。」
現在開かれているのは『安寧会』と称し、人々の生活の安寧を願う紳士淑女の集まり。
しかしその実態は、貴族である自分達の優位性を保つ為の情報交換の場。
変化を嫌い、出る杭あらば即座に手を打って叩き潰す彼らからすれば、新進気鋭であるホズミ商会は非常に面白くない存在感とも言える。
安寧会はドミニク、サンティゴ、ヒステリカを中心に回され、そんな彼らは王族を中心に国を回す王族派(別名懐古派)。
自分達さえ良ければ民がどうなろうが知った事ではないが口癖。
他に貴族が人々を先導し、礎となろうとする貴族派(別名先進派)。
どちらにも属さない中立派がある。
「…旦那。」
そこへ、ローブ姿の男性が姿を現した。
「何者だ!」
「案ずるな。うちの手の者だ。」
「ミゲルが失敗したらしい。」
「何だと!?」
「信号を受けただけでまだ詳細は分かっちゃいねぇがな…ただ、何だか嫌な予感がする。」
「そうか…で、どうする?」
「んなもん決まってる。俺直々に出向くしかねぇだろ。ミゲルが勝てない程の手練とか楽しみだぜ。」
「ならば決まりだな。ジェフ…いや『狂犬』よ、期待しているぞ?」
「はっ。いつも通り、最後は殺して回るだけさ。それ以上でも以下でもねぇ。」
ローブの男性は手をひらひらと動かしながらその場からいなくなり、サンティゴが彼の後ろ姿を見て口角を上げる。
こうして、王度から新たな刺客が放たれるのだった。
白ツインテドラゴンこと螢ちゃんですが、本来であれば熒の字を当てたかったものの、音読みで変換しても出なかったので断念。
以上で章が終わるので、登場人物紹介も併せて載せますね。
それとすみません。
4月は朝夕両方忙しくなり、下手すると5月以降も執筆の時間を確保出来る自信があまりありません。
ありふれと転スラの小説も買っただけで読んでないのが数冊…と言った感じなので、ひとまず来月いっぱいはお休みを。
滞っていた最初らへんもぼちぼち直しつつ、5月から再起動出来ればなぁと。
その時は最近駆け足気味で増やした文字数も減らす予定です。




