126話
「ミスリルゴーレムをまるで玩具みたいに…ならば!」
オストマは再び指輪を光らせ、今度は15メートル近いゴーレム10体を喚び出す。
いずれも黒い光沢を放ち、今度は反対にニャン丸を見下ろす形に。
「ふはははは!今度はアダマンタイト製だ!これならば手出しも出来まい!さぁ、やってしまえ!!」
勝利を確信したオストマは高笑い。
しかしそのせいで庭に生えた芝生は更に踏み潰され、花や木も同様となった。
「…少しは被害を考えられぬのか。黒龍騎士団で処理してしまおうかの。」
朔夜は自らが行った行為を棚に上げ、物騒な言葉を口にする。
「いやいや、どう考えても過剰戦力だからね?仕事が増えたからって八つ当たりはダメだよ。」
「ちっ、分かっておるわい。」
先刻、庭を直すのは朔夜の役目だと決まった。
それは現在進行系で踏み躙られる芝生達も含まれ、彼女なりに思うところがあっての発言だったのだろう。
朔夜の言う黒龍騎士団とは、朔夜を含めた黒龍に連なる者達で組まれた部隊を差す。
その数300体余り。
一見少なく感じるが、全員が最後まで進化を終えた黒いドラゴン達━━━つまり隊員の誰もが神輝金級の強さを誇る。
1体で国1つ滅ぼせる実力があり、もし標的にされでもしたら全てが灰燼に帰す事だろう。
最終決定権は凛にあるものの、朔夜を頂点とし、段蔵が補佐。
しかし実際のトップは奈落と黄泉で、朔夜は専ら指示を出す係となっている。
同じ凛直属の部隊として、他にもいくつか出来たものがある。
1つはグラディウス隊。
凛の剣を冠し、アルファ達エクスマキナから質を落とした量産型で構成され、数は1万程。
男性型と女性型があり、死滅の森を探索する冒険者達を影ながらフォローするのが主な役目。
それと、サルーンやクリアフォレストの門番役や警備、周辺にいる魔物の間引きも行っている。
次にワルキューレ隊。
アルファ達ヴァルキリーと意味合いは同じだが、こちらは凛の為に戦う女性達で構成された部隊。
隊員は主に種族の代表かその補佐で、各種族の意見を聞いたりする、所謂中間管理職的なポジション。
メンバーはエルマ&ミラ、イルマ、紅葉、藍火&渚(ただし2人では心配なので補佐にもう1人)。
リーリア、篝、エラ、シンシア、シルヴィア、ルル、琥珀&瑪瑙、トルテ、プレシア、キャシー、ミレイ、翠。
他にも、蜘蛛、蟷螂、蝶々、蟻、鳥、ラミア、犬、イビルアイに連なる魔物を統べる者達がいる。(ステラと朔夜は別枠扱いの為除外)
そして人間の代表はと言うと、まさかのナナ(9歳)。
凛大好き彼女はワルキューレ隊発足の案内の後にディレイルームへ籠もり、ただでさえ凛の為にと付けた実力を更に伸ばした。
ついでに籠もった分だけ月日が経ち、ディレイルーム内で誕生日を迎えたのだから、彼女の本気の度合いが見て取れる。
結果、カリナや赤髪ポニーテールっ子を含む、あらゆる種族の中で最も層の厚い人間代表戦に勝った。
勝ち残ってしまった。
本人は並み居る強豪達を押し退けたと大喜び。
しかしそれを他所に、周囲から流石に年齢的に厳しいのではとの意見から、藍火達と同じくサポートが入る事に。
そんな、選定戦を期に名実共にスーパー幼女の呼び名を恣にした彼女。
母親であるニーナは自分より遥かに強くなってしまった娘を見て、よくぞここまで成長したと喜んで良いのか。
それとも凛への愛情や忠誠心の高さを褒めれば良いのか、何か育て方を間違ってしまったのではないだろうかと本気で頭を悩ませているらしい。
つい先日も、相談と言う名の陳情を凛に上げた程だ。
当事者であるナナは、ベテランメイドとして今日も元気に新人教育に携わる。
そして「ここはこーでねー、こんな感じですると良いよー」なんて言いながらテキパキと教え、新人メイド達はとても幼女とは思えない動きに「え、何この子…」と何度も目を瞬かせたとか。
それと男性で虎人のキールと犬人のノアは、性転換してでも凛の傍にいたい。
つまりワルキューレ隊に入りたいが為に薬を使い、女体化。
その覚悟から入隊を許可された。(その薬は霊薬生成を元に生み出したもので、女性用のも含め、娼館等の施設でもそれなりに需要があるとか)
因みに、紫水は他にも女性型の蜘蛛の魔物がいる関係から、変わらず少年のまま。
さり気なく凛の膝の上に居座り、負けじと琥珀や瑪瑙がくっ付き、それを見た他の者達が…と言った感じが多い。
最後に美羽達。
始まりの5人とも称され、最も凛に近い位置…つまり彼の盾であり、側近や近衛、親衛隊に当たる。
なので最初はロイヤルガードとかインペリアルガードで呼ばれ、しかし火燐を除いた4人から可愛くないと不満が上がり、早々に『ロイヤルガールズ』へと変更。
美羽達ロイヤルガールズが先駆けとなり、以後ねこ忍隊やディシーバーズと言った後続の部隊が出来上がっていく流れに。
5分後
オストマはゴーレム達をニャン丸に向かわせ、そこからちょっとした怪獣大戦争へと発展。
建物自体は頑丈に出来ている為に無害だが、庭は荒れ放題。
彼らの存在は勿論。
震動、衝撃、轟音が辺りに伝わり、クリアフォレスト中が大騒ぎ。
これに凛は困り、こちらへ来たステラは申し訳なさそうにし、朔夜1人だけが無表情に。
そのステラに話を聞いたところ、闢の交代依頼で参上したそうだ。
彼らが持つ『魔素喰い』は、対象の魔素を取り込み、自身の強化或いは相手の弱体化を図るスキル。
魔法や魔素を用いた攻撃も吸収出来る万能なスキルだが、こと朔夜に対しては意味を為さない。
魔素ではなく気を用いる『覇王気』であったり、『物質変換・闇』で周囲に質量のあるバリアを張ったり影に蓋をして封じる等。
彼らにとって、彼女はある意味天敵となる存在。
そんな朔夜を苦手とし、また敬愛する凛に攻撃を仕掛けた件について、まだ完全には許していないらしい。
朔夜は反省し、罰等があれば受け入れるつもりでいる為、両者の蟠りがなくなるまで、そう時間は掛からないだろうと凛は見ている。
「…いい加減にせい。主らが荒らした庭を綺麗にするのは妾なのじゃぞ?無理矢理にでも手伝わせてやろうか?んん?」
本来の姿に戻り、前屈みになりながら(人間で言うところの)左手人差し指で1体のゴーレムを指す。
その圧力たるや、凛とステラ以外の全員が震え上がり、ニャン丸は「にゃぅぅ」と縮こまる程。
術者であるオストマがビビった影響でゴーレム達への命令が途切れ、それぞれ動作の途中で固まっていた。
「ふん。ようやく静かになったのじゃ。」
「朔夜ー!喜んでるところ悪いんだけどー、残念なお知らせがあるのー!」
「…嫌な予感がするのぅ。聞かないとの選択肢は…。」
「ある訳ないでしょー!代行から領主に格上げねーー!」
「何故じゃ!?まずは様子見だと申したではないか!」
「今朝の時点ではねー!でも周りを見てみてー!」
朔夜は凛に促されるまま辺りを見回す。
視界の先には大勢の人達がおり、ほぼ全てがこちらに顔を向けているのが分かった。
「皆朔夜を見てるでしょー!つまり君が力のある竜人やドラゴンだと認識されたって事ー!」
朔夜が持つ爬虫類特有の瞳から、オストマみたく見る人が見れば彼女が竜人だと分かる。
そこから伝播し、クリアフォレストには非常に強い竜人がいるのだと浸透する流れに。
「のぉぉぉぉぉぉ!なんったる事じゃ!凛よ、妾を嵌めよったな!?」
「自業自得が招いた結果でしょー!僕のせいにしないでーー!」
「ぬ、ぬぐぐぐぐ…!おのれ、こうなったのはお主のせいじゃぞ!」
朔夜は涙目でオストマを睨み、これにオストマ一行はたじろぐ。
やがて「ひ、ひぃぃぃぃ!!」と悲鳴を上げ、一目散に逃げて行った。
「…全く、散々じゃったわ。」
再び人間の姿となり、ふぅと言いながら掻いてもない汗を拭う仕草を取る朔夜。
「そうやって逃げるつもりだろうけど、勿論ダメだから。もしやったらしばらくご飯抜き…あ、それと驚かせた事に対する人々へのお詫びもお願いね。」
「なん…じゃと……?」
凛はそんな彼女の肩にポンッと手を置き、信じられないものでも見たかの様な顔を向けられる。
午後3時前
「たっだいまーーー♪」
「おかえりー。」
屋敷のリビングに美羽の元気な声が響き渡り、そこにいた凛が応える。
凛は事前に美羽が死滅の森にいる雫に呼ばれた事。
それともう間もなく戻る旨をナビから聞き、それが元でのリビング待機となっている。
「美羽、結果はどう━━━」
「凛。ミルク確保出来た…!」
その彼が尋ねるよりも先に雫が動いた。
目つきこそいつものジト目だが瞳は輝いており、鼻息荒くする彼女に凛は「そ、そうなんだ…」と圧倒。
普段口数少なめとは思えない程、雫が喜々として死滅の森での顛末を語り始める。
時刻は正午。
昼食を摂りつつ、午前中戦った魔物について談笑する場面にまで遡る。
美羽達は(聖王になった者が得た)『結界術』スキルを用い、自分達の周りに結界を張りながらレジャーシートに座っている状態。
結界術は魔物の侵入を防ぐのは勿論。
火燐の炎、雫の水みたく、術者にとって有利な状況へと持っていく『領域結界』も発動が可能となっている。
「いやー、今日の成果は中々だったなー!美味そうな牛肉も手に入ったし、今夜はステーキだな!」
火燐の言う牛肉とは、額部分にも目がある首の長い水牛の様な魔物━━━カトブレパスを差す。
エンカウント直後、最も近い位置にいた1体が強烈な毒・麻痺・衰弱の効果が同時に乗った『死の魔眼』を火燐に向けた。
しかし火燐は軽くピリッと感じただけで他に何もなく、火燐・カトブレパス双方が不思議そうにする。
すぐに火燐が大剣を抜き、カトブレパスが逃げる形で移動を開始。
しかしあっという間に追い付かれ、ほとんど何も出来ないまま一方的に狩られていった。
「新しい仲間も結構増えたし。」
「まさか、久しぶりに湖に来たら新しい住民がいるなんてねー。」
火燐と翡翠の視線の先には、緑系や青系の髪色をした男女が。
彼ら、彼女らは渚達がいた湖に新しく住むようになったリザードマン達。
出会った当時はボロボロで敵意剥き出しだったが、今は説得を受け入れた+人化スキルで人間の姿となり、昼食の争奪戦を繰り広げている。
「タロス…だったか。同じオリハルコンでも全然質が違うんだな。」
ゴーレムの1団とも戦った。
高さ15メートルのアダマンコロッサス達を率いる形で30メートル近いタロスが現れ、これらを撃破。
アダマンコロッサスは、タロスは神輝金級中位、タロスは神輝金級上位の中でも上の方の強さを持つ。
両者は高品質のアダマンタイトとオリハルコンで出来ており、良い手土産になったと喜んだ。
犬型の魔物からも遭遇。
2体のガルムがヘルハウンド達を、3つ頭のケルベロス3体が双頭のオルトロス達を率いる形だ。
しかし楓の影から現れたモコ達に恐れを為し、全員が腹を見せて服従の意を見せた。
「あとよろ。」
「ちょ!?」
ノアの所へ転移し、随一のテイマーである彼女に押し付け…もとい預けたのは言うまでもない。
ハイドラ系の魔物で、10の頭を持つラードーン3体や配下のアークハイドラ達に、それを率いるムシュマッヘ。
甲羅を持つドラゴン系のタラスクやタラスクロード達とも交戦。
その途中、ナーガ達と共にやって来たナーガラージャと乱戦状態に。
彼らは光線じみたり毒を帯びたブレスを辺り一帯に吐き、その影響で付近が焦土や毒まみれに。
戦闘後、次に来た時も荒れ果てたままなのはちょっととの意見から、戦闘もこなしつつ楓を中心に周りを整えるとなった。
そして午後の部を開始して1時間が経った頃。
雫が話す件のミルク…もとい、茶色い巨大な雌牛を模した魔物『アウズンブラ』の集団と遭遇。
「もう邪魔!」
「鬱陶しーー!」
「あっち行って!」
アウズンブラ達は黒い鎧を纏った黒い蜘蛛…アーマードタランチュラに襲われている最中。
後ろだったり木の上には鬼の顔に牛の角を生やした蜘蛛…計5体の牛鬼が控え、アウズンブラ達はその場で体を震わせたり暴れ回る等。
非常に煩わしそうにする。
「どうするよ?」
「見た感じ牛さん…あ、蜘蛛じゃない方ね?が襲われてるっぽいし、ひとまず助ける方向で良いんじゃないかな?」
「異議なーし!」
「急ぎましょう…!」
「なら決まりだな…って雫。おめー、なんでさっきから固まってんだ?」
「…ぱい。」
「あん?」
「おっぱい。」
まさかの下ネタ発言に、雫以外の全員がその場でずっこける。
「い、いきなり何言い出しやがる…。」
「違う。(アウズンブラを)良く見て。」
「?」
「あ!あー、そう言う…。」
「言われるまで気付きませんでした…。」
美羽達とアウズンブラ達との距離はそれなりに遠い。
またアウズンブラよりも牛鬼達の動きに気を取られたのも重なり、雫に言われてから初めて気付いた様だ。
「ん。ここは死滅の森中層…きっとあれは最高のミルクに違いない。つまりスイーツ作りが捗る。」
「「「!?」」」
「たかがミルクにそんな大袈裟な…。」
「む。なら火燐の分はなし。」
雫は戦闘面以外で彼を真似る様になり、万能さは凛、美羽に次ぐ3番目。
また彼女のスイーツ好きは留まるところを知らず、腕前はスイーツ部門代表であるトルテより上の2番目にまで成長。(当然ながら1番は凛)
その雫からスイーツが貰えないとあっては流石に困るのだろう。
ギョっとした顔の後、後ろから肩を揉む形で雫のご機嫌を取り始める。
「じょ、冗談だって。だから俺にも分けてくれよ。な?な?」
「大丈夫、火燐にもちゃんとあげる。」
「ほっ。」
「それより、向こうに動きが。」
「…確かに。ならオレ達も動かねーと…って、ん?雫は?」
「ん?今までいたよね?」
「雫ちゃーん!」
「どこへ行ったのでしょう…?」
火燐の前にいたはずが、忽然と姿を消した雫。
4人でキョロキョロと周辺を探していると、不意に火燐の後ろから声を掛けられる。
「ただいま。」
「うぉっ!?驚かせるんじゃねぇよ…。」
「雫ちゃん、どこ行ってたのー?」
「ん。ちょっと味見をしに向こうまで…美味だった。」
「飲んだんかい!!」
舌を出し、満更でもない様子の雫に火燐の盛大なツッコミが入るのだった。
ロイヤルガールズの件は実は結構前から考えてたのですが、中々実装と言うか紹介にまで行き着きませんでした(苦笑)
またクリスマスのお話に出た女性版キールとノアはここに繋がります。
参考までに↓
グレーターミノタウロス→カトブレパス
サハギン→ハイサハギン→リザードマン
アイアンゴーレム→ミスリルゴーレム→アダマンコロッサスorタロス
アッシュウルフ→ブラックウルフ→バーゲスト→ヘルハウンド→ガルム
バーゲスト→オルトロス→ケルベロス
ハイドラ→アークハイドラ→ラードーンorムシュマッヘ
ハイドラ→ナーガ→ナーガラージャ
ランドドラゴン→シェルドラゴン→タラスク→ロード
グレーターミノタウロス→アウズンブラ
ビッグスパイダー→フォレストスパイダー→土蜘蛛→アーマードタランチュラor牛鬼
ゴーレムに関してですが、オストマが召喚したものは魔物よりも1〜2段強さが劣ると思って頂ければ。
それと出来れば今月中に魔物一覧的なのを1話の前に載せようかと考えてます。




