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ゆるふわふぁんたじあ(改訂版)  作者: 天空桜
都市同盟(アライアンス)
134/262

125話

「貴様らがバーガンの言っていた者共か…ふむ。」


馬車の中にて、案内された凛達に告げたカストロの言葉がそれだった。


内装は無駄に豪華でギラギラと輝き、奥にいるカストロはふんぞり返り、自身の両側に美女2人を侍らせる。

睨め付ける目は鋭く、それでいてかなりの粘り気を帯びていた。


凛達は寒気を催すのを我慢しつつ、まずは代表してダニエルが口を開く事に。


「お初にお目にかかります。私━━━」


「あー、いらんいらん。そんな上面だけの言葉なぞ求めてはおらぬわ。」


それを遮り、右手でシッシッと追い払う仕草を取る。


「それより後ろの2人だ。名は何と言う?」


「私、シルヴィア・エルネストと申します。」


「エルネスト?エルネスト…はて、どこかで聞いた名だな。」


「父が漁業都市アゼルの領主を務めております。恐らくその繋がりではないかと。」


「おお、そうだそうだ!…ん?待て、確かエルネスト家は人魚族ではなかったか?」


「左様でございます。」


「そうか…。(ちっ。人間の姿を真似た亜人だったか。だが見た目は良い。軽く楽しんでから適当に処理するか)…貴様の名は?」


「あ、はい。凛 八月朔日と申します。」


「ホズミ?今最も話題のホズミ商会と何か関係があるのか?」


「関係も何も、立ち上げた張本人です。」


「何ぃ!?」


「それは同じ場所にいたサルーンの領主ガイウスさん。それと当時商業ギルド員だった、こちらのダニエルさんが証人です。」


「…それは真か?」


カストロは「ガイウスさん?」と僅かな引っ掛かりを覚えながらも、更に鋭い視線をダニエルに向ける。


「はい。現ホズミ商会会長として、また女神様に懸けて(誓って)凛様の仰る事に嘘偽りがないと断言出来ます。」




ダニエルの言う女神様の弟がここにいる事はさておき。


シルヴィアの外見に騙されたと(勝手な勘違いとも言う)の疑念しかなかったカストロも、真面目に肯定するダニエルを見て信じる気になったらしい。

「そうか…」との呟きの後、しばし沈黙が訪れた。


「最近何故か不幸続きだったが…ようやく私にもツキが回って来た様だ。」


王都を出発する少し前位から、カストロの周辺では空回りが相次いだ。

苛々を溜め込み、発散しようとするも何故か強烈な睡魔に襲われ、すぐに寝入る日々を送った。


そこにサルーンの噂が届き、たまには王都以外の場所に行くのも悪くないとの判断から今に至る。


「つまり貴様らは漁業都市アゼル、それとホズミ商会からの使者として儂に面会を求めた訳なのだな。」


食料品を始めとした圧倒的な物量。

既存の常識をぶち壊す品質や値段に、貴族だけでなく平民までが挙って利用。

その回転率の早さを以て、叩き出すであろう高い売上。

そして従業員は高いレベルで接客を行い、容姿が整った者も多い。


つまり、ホズミ商会には『酒』『金』『女』全てが揃っている。


カストロ一行はサルーンの隣にあるアダム領を通る際、彼の所にあるホズミ商会関連施設を利用。

ここへ来るまでに、その有用性を体感した形となる。


挨拶は建前。

公爵である自分に近付こうと、これまで訪れた市や街みたく献上品と称し、人数は2人と少ないながらもまずは女をあてがいに来たのだろう。

カストロは勝手にそう判断し、ニヤリと笑いながらホズミ商会、それとアゼルが齎すであろう利益についての皮算用をし始める。


「相分かった。貴様らの気持ちはありがたく受け取ろう。さぁ、こちらへ来るが良い。」


「? 何故そちらへ行く必要があるのです?」


「儂が可愛がるからに決まっておろう。早うこちらへ。」


「僕、男ですよ?」


凛の発言に、場が凍り付いた。


「おおおおお男…?その見た目でか?」


「はい。」


カストロは恐る恐る凛を指差し、次いで首をダニエルの方にギギギ…とぎこちない動きで向ける。


「本当です。サルーン領主ガイウス様もそれをお認めになられておりますし、少なくとも(アダムが治める領都)コーリンやスクルドを始めとした周辺一帯では周知の事実にございます。」


凛がサルーンに来たばかりの頃。

ガイウスがゴーガンに凛の紹介をした事により、彼が男であると広まった。


それでもその美少女っぷりや性格の良さから、非常に高い人気を誇る。

その人気たるや、彼に次ぐ美少女である美羽を差し置き、堂々の1位。


公式非公式問わずファンクラブが幾つもあり、彼を模した人形やフィギュア。

トレーディングカード化したブロマイドが玩具店での売上トップなのはご愛嬌。

本人はこれに苦笑いしか出ず、反対に美羽等の彼を慕う者達は当然とばかりに喜んでいるとか。


「ふ…ざ、けるなぁ!!」


しかしカストロには通用しなかった。


片や人間ではなく、侮蔑対象である亜人。

片や女ではなく男と来た。


どちらもなまじ見た目が良いだけに、裏切られたと言う気持ちも大きくなったらしい。

左右にいる女達を押し退ける形で立ち上がり、外にいたバーガン達が何事かと駆け寄って来る。


「閣下、どうされましたか!?」


「どうしたもこうしたもあるか!!彼奴(きゃつ)らめ、この儂を(たばか)りおった。自分達が亜人や男だと分かっていながら擦り寄って来たのだ!」


「なっ!?」


「擦り寄ったとは語弊がありますね。僕達はただ挨拶に伺っただけ。ご覧の通り、先程ご案内して頂いた時から1歩も動いてませんしね。」


「出鱈目を抜かすな!!」


「出鱈目ではありません。バーガンさん、僕達を案内して下さったのは貴方ではありませんか。覚えてらっしゃらないのですか?」


「ええい、黙れ!そうか分かったぞ。私を愚弄(ぐろう)し、優位に立とうと言う腹積もりだな。しかし残念、いくら見た目が良かろうと私は騙されはせぬ!」


「そんな、僕はそんな事考えていません。」


「どうだかな。優れた者は腹に一物があると聞く。貴様程の者ならばも一物どころか二物も三物もあって不思議ではない。」


「残念です。バーガンさんは僕をその様に思われていたのですね…。」


「あ、いや。少し言い過ぎたやも知れぬ。」


「僕自身、この見た目なのは甚だ遺憾ですし、出来れば屈強な体で生まれたかった…。」


「そう自分を卑下するでない。少なくとも私は好みだ。それもど真ん中でな。このままで良いとさえ思っている」


「ありがとうございます…え?」


バーガンのまさかのカミングアウト。

凛が男だと知っても尚、受け入れるらしい。

凛が「お前もか」と言いたそうな顔で固まり、ダニエルはそのままだがシルヴィアが冷たい目でボソッと「変態ですね」と呟く。


バーガンと一緒に来たアッホスとマヌーカは複雑そうにし、カストロも部下の痴態に目眩がしそうな感覚を覚える。


「え、ええい!いつまで馬鹿をやっておるのだ!いい加減ここからこいつらを摘み出せ!」


「…!は、はっ。だそうだ。貴様ら、そこを動くな!」


「良いのですか?」


「なんだ、今更怖気付いたのか?」


「いえ。僕達も捕まりたくはないので抵抗させて頂きます…が、その際内装を傷付けたり馬車そのものを破壊したとしても、当方では一切の責任は負わないと言う事です。」


これだけ無駄に凝った飾りの数々だ。

相応の手間と資金が掛かったに違いない。


凛の言葉を受け、カストロやバーガン達は不味いと捉えた様だ。

そしてこのままだと埒が明かないと思ったらしく、「…何もしないでやるから、そのまま外に出ろ」とバーガンが先導する事に。




「さて、諸君。」


馬車の外にて、バーガンがこほんと居住まいを正す。

彼の前に凛達が立ち、後ろにはアッホスとマヌーカ、それと少しだけ離れた場所にカストロがいる構図だ。


「諸君らは我々アルビオン公爵家を虚仮(こけ)にしてくれた。」


「捏造ですね。」


「亜人を人間だと、男なのに女だと(うそぶ)いた。これは立派な罪だ。」


「冤罪ですね。」


「武勇に優れ、誉れ高き王国の至宝たる閣下を利用せんとした。」


「既に王国、帝国、獣国、商国の王族、皇族、代表の方々が当商会を利用頂き、尚且つ称賛の言葉を賜っているのにですか?」


「そうだ。どれも閣下の御威光には…え?本当に?」


「はい。お疑いでしたらこちらへお呼び致しましょうか?」


「い、いや良い…いずれにせよ、閣下が目的で近付いた。相違ないな?」


「最後はゴリ押しですか?そもそも、こちらが要件を話す前に━━━」


「ええい、黙れ!黙らんか!」


最初はわずかにキメ顔だったバーガンも、凛に看破され続けて腹が立ち、最後は地団駄を踏む。


「バーガン、いつまで遊んでおる!さっさと片付けてしまえ!」


「ははっ。直ちに。」


「宜しいのですか?商国と言う後ろ盾がある僕達を害しても。」


「それは脅しか?」


「いいえ。単に、貴方方は国を敵に回す覚悟があるのかと問いたいだけです。」


「減らず口を…。」


「そこで僕から提案です。決闘しましょう。」


『け、決闘…(だと)?』


「はい。過去に貴方方が何度も決闘を行って来た事は調べが付いてます。ですので、こちらもそれに倣おうかと。勝利報酬は互いの全てです。」


厳密に言えば公爵家側から吹っ掛け、その立場から有利な条件に持って行っての決闘。

もはやカストロ達にとって決闘=ボーナスだったり勝ち確定のイベントみたいなもので、公爵家の者達が俄に湧き立つ。


「…良かろう。受け手はこちらなのだ、どの様に戦うかはこちらで決めて良いな?」


「はい。勿論です。」


「ならばそこの男が1人で戦え。こちらは兵士全員を含めた総力でお相手しよう。」


カストロの口から出た条件はあまりにも巫山戯(ふざけ)た内容だった。

凛達側は優男風の男性(ダニエル)が1人に対し、(不真面目そうだったり、だらしなさそうとの但し書きが付くが)兵士80人とで戦うからだ。


しかもバーガン達はこう見えて、何度か実戦経験もある猛者。

曲がりなりにも黒鉄級か、それに準じた強さを持っている。


言い回しも何とも微妙な感じとなり、凛は間違いなくゴネる━━━


「分かりました。それでお願いします。」


なんて事はなく、あっさりと了承。

これには、カストロ達も理解が追い付けなかった。


「決闘の日は明日にするとして、場所は━━━」


「待て!待て待て待てぇぇぇい!」


「どうかされましたか?」


ぜぇぜぇと息を荒げるカストロに対し、凛はキョトン顔だ。


「おかしいとは思わぬのか!?ここは1人でなく、もっと戦力を━━━」


「あ、追加して良いのですか?でしたら…。」


「ああいや。そちらが良いのであればそれに従うべきだな、うん。お前達もそう思うよな?」


「はい!」

「閣下の仰る通りかと…。」

「我々は貴方様の指示に従います!」


「だ、そうだ。」


「分かりました。場所はここ、時間は明日の午前10時と言う事で宜しいですか?」


「うむ。良いだろう。」


「ではそれで。これからサルーンをご案内…の前に。」


話の途中、凛がパチンと指を鳴らす。


直後、カストロ達は揃って固まり、微動だにしなくなった。

野次馬やカストロと一緒に来た女性達は急に動かなくなった彼らを見て不思議がり、少ししてから凛が「アルビオン公爵様、行きますよ」と促す。

カストロ達はそれが合図で我に返り、若干ふらついてはいたが彼を筆頭に次々と歩き出した。


「公爵様。私達も。」


そう言って、先程馬車内で彼に侍っていた女性も付いて行こうとする。

しかし、何故か拒絶される形でカストロに突き飛ばされてしまう。


「きゃっ。な、何を…。」


「お前達には飽きた。ここで捨てる故、そのまま好きな場所へ行くが良い。」


「え…。」


女性は尻餅を突いたまま、茫然自失した状態でカストロの背中を見詰める。


既に彼は自分達に興味を失ったのか全く見向きもせず、真っ直ぐ歩き続ける。

それはすっかりカストロ色に染まったバーガン達兵士も同じ。


とても普段下卑た表情で口説いて来る人物と同じだとは思えず、ただただ呆気に取られるだけ。

それは周りにいる野次馬達も同じで、先程までの険悪な雰囲気が嘘の様に静まり返っていた事に驚きを禁じ得ないでいる。


「な、何が起きたって言うのよ…。」


カストロに突き飛ばされたエルフの女性…エレンケレベルの呟きに答える者はいなかったが、代わりに近付く者はいた。


「あれは凛様の御業ですよ。何をしたかまではお教え出来ませんがね。」


その人物はダニエルだった。

ダニエルはエレンケレベルを起こそうと右手を差し出し、しかし彼女はそれを手に取る事なく弾いてみせる。


「馬鹿にしないで!卑劣な手段で捕まりはしたけど、これでも族長の娘。人間の手助けなんか必要ないわ!」


「これは差し出がましい事を。失礼致しました。」


「ふんっ。」


そうやってエレンケレベルが不貞腐れていたところへ、姉2人や母を連れたミレニアが駆け寄って来た。


「エル君…。」


「ミィ、心配しないで下さい。僕なら大丈夫ですから。」


「そうは言ってもエル君、数が違い過ぎるよ。」


「そうよ。いくらエル君でも厳しいって。」


「気持ちはありがたいけど、私達の為に無理しないで…。」


ミレニアを宥めるダニエルに話し掛けるのは、順番に長女のソニアに次女のモナ、それと彼女達の母親であるルシエラだ。


母娘だからか全員が似ており、かつ年齢よりも若く見える。

25歳のミレニアは20歳位で、やや吊り目で27歳のモナと明るめな印象の28歳のソニアは20代前半。

今年44歳になる気弱そうなルシエラは、20代後半から30歳前後と言った感じ。


ミレニア以外の3人も彼女と同様、体中に大なり小なりの傷を負っている。


「ご心配には及びません。僕はこの日の為に訓練を重ねて来ましたから。」


「え?それはどう言う…。」


「ダニエル様。準備が整いました。全員付いて来るとの事です。」


「それは重畳…ミレニア。」


「はっ、はい!」


「モナさん。」


「…?何?」


「ソニアさん。」


「うん?」


「ルシエラさん。」


「何かしら?」


「貴方方4人とそちらのエルフのご令嬢以外は、我々ホズミ商会の庇護下に入る事が決まったそうです。つきましては…。」


『行く!』


「他の皆がお世話になるのに、私達だけ行かないなんて選択肢はないよ!」


「迅速かつ賢明なご判断です。そちらは…ああ、協力は不要でしたね。エルフであれば商会本部にあるクリアフォレストの御神木に興味が…おっと。私とした事が、少々お喋りが過ぎました。では皆さん、参りましょうか。」


『はい!』


ミレニア達を諭し、移動を始める一行。

早速とばかりにミレニアがダニエルの右腕に抱き着き、「あー、ミィだけズルい!」と反対側にいたモナが真似する等。

和気藹々としながらも甘い雰囲気に。


そう言えば昔もこんな感じだったとルシエラとソニアが懐かしみ、トーマスとミゲルも凛と合流。

威嚇&デモンストレーションで展開した|天辺以外の武装《バリスタとガトリング砲》も、何事もなかったかの様にして元の外壁へと戻っている。


唯一エレンケレベルだけがその場に取り残され、「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!誰も付いて行かないとまでは言ってないでしょ!後、その御神木について詳しく教えなさい!」と宣いながら慌てて追い掛けたとか何とか。




1時間後


凛はカストロ達をサルーンへ案内しつつ、先程施したブ()()()()ュで決闘の合意書にサインさせ、娼館へと誘導。

そこの代表・副代表であるアイリとプレシア、それに美女揃いの従業員を見た彼らはテンションMAXに。

凛は後の事を彼女らに任せ、屋敷へと帰る。


因みに、カストロ達は疲れていたのか早々に寝てしまい、別な意味で絞られたとか。

プレシア達サキュバスが「ご馳走様♪」と笑顔になったのは言うまでもない。


その間、シルヴィアはミレニア達を屋敷の浴室へと案内。

そこで入浴の仕方をレクチャーし、1番近くにいたミレニアの傷を癒やす。

女性達は大いに驚き、次は私!その次は私!と言った感じで盛り上がる。

ただ、そこから綺麗な体だの、胸が大きいだのと明け透けな話へ移り、リビングで待つダニエルは落ち着かない気持ちに。


そこへ凛が帰宅。

ミレニア達と協議をしつつ、何か摘めるものを作ろうとキッチンに入り、その補助をする事に。

そうこうしている内にミレニア達母娘が顔を出し、高い地位にいるだけでなく料理も出来るなんて素敵とキャーキャー言い合う。


『凛よ。すまぬがこちらに来て貰えぬかの?』


すると、クリアフォレストにいる朔夜から念話での連絡が入る。

凛は席を外すとダニエルに告げ、代わりにミレニア達が彼のサポートへ回るとなった。


「…で、何をやらかしたの。」


凛が呼ばれた地点に向かうと、そこにはゴーレムと思しき鈍色の残骸が積まれていた。

近くには貴族と思われる男性や従者が揃って目を剥き、朔夜はやっちまったぜーと言わんばかりな笑みを浮かべる。


「いやー、そこな坊が壊せるものなら壊してみろと申すでな。ものは試しと小突いてみたのじゃが…これがまぁ脆い脆い。先程の自信はどこから来たのかと、小一時間程問い質したい位じゃ。」


凛達がいるのは屋敷の隣にある領主の館━━━の手前にある、それなりの広さを持った庭。

手入れの行き届いた庭は5メートル級のアイアンゴーレムを破壊した際の影響によるもの。


抉られ、穴が空き、爆発したり焦げた跡があちこちに残されている。


「まぁ、見た目的に鉄製だろうし、朔夜からすれば物足りなかっただろうね…で、何か言う事は?」


「…すまぬ。思った以上に脆かったとは言え、少々やり過ぎてしまったのじゃ。」


「宜しい。後で修復の手伝いをする様にね。」


「がびーん、なのじゃ。」


「がびーんて…。」


若干大袈裟とも取れる朔夜のリアクションに苦笑いしつつ、凛は未だに呆けている男性に水を向ける。


「申し訳ございません。当家の者が失礼致しました。」


「………。」


「すみませーん!」


「はっ!な、なんだお前は!?(と言うか、こんなに美しい少女がいるものなのか!)」


「こちらにいる者の上司です。うちの者が失礼致しました。」


朔夜は妙齢の女性の見た目をしているが、凛達の中で最高齢。

長く生きただけあり、かなりの知性の高さを誇る。


その高さたるや、自前のスキル(『物質変換・闇』)で凛との間に出来たリンク…つまりナビ越しに地球の知識を得ると言うチート(規格外)っぷり。

そんな彼女程の存在を遊ばせるのは勿体ないと、領主ないし代行の勉強がてら経験を積ませ始めたのが今日。


そんな中で起きたのが今回の出来事となる。


「そ、そうか…名は何と言う?」


「僕ですか?凛と申します。」


「ほう、凛とな…僕?」


「ええ、僕は男です。」


「ま、まさかその見た━━━」


「あ、そのやり取りは結構です。つい今しがた行ったばかりなので。」


「あ、はい。すみません。」


凛は笑顔こそ浮かべてはいるものの、そこには有無を言わさぬ迫力があった。

男性はそれに気圧され、少し引いた様子で謝罪する。




「こほん。私はオストマ。オストマ・ヴァン・ガディウム辺境伯だ。聖国との間の国境付近を任されている。『ゴーレム卿』なんて呼ばれ方もするがな。」


髪を搔き上げながら説明する、オストマことガディウム辺境伯は、30歳半ばにして代々続くゴーレム使い。

稀に子供に受け継がれない時もあったが、当時のゴーレム使いを嫁或いは婿として迎え、窮地を凌いでいる。


今が正にそのシチュエーションで、領地にいる14歳、12歳、10歳の息子3人全員が適性なし。

もしもドワーフのルルの妹ロロナがこの場におり、しかも『人形使い』だと分かれば、(本人の愛くるしさも重なり)間違いなく囲いたがったに違いない。


「分かりました、オストマさんですね。」


「オスッ!?」


しかし格好良いと思ってした仕草も、百戦錬磨の凛には全く通用しない。

むしろ逆で、いきなりの(彼にとっては当たり前の)さん付けに面食らう程だった。


「それで、本日はどの様なご用件でしょうか?」


「う、うむ。朔夜殿を私の妻に迎え入れたいと思ってな。見るに、彼女は竜人族。それもかなりの上位者だ。血に五月蝿い者達(貴族達)も、これなら納得してくれよう。無論礼は弾む、協力してくれるな?」


凛の問い掛けに、オストマは両手を広げる等して大仰(おおぎょう)気味に答える。


彼は帝国南部を任され、ゴーレムを主力とした大軍団を常に展開。

聖国だったり、北部以外の帝国全域への防波堤、もしくは牽制役を担って来た。


有事の際の最大戦力と言う事で帝国中枢にも顔が利き、発言力も高い。

故に傲慢、高慢で尊大な性格になりやすく、例に漏れなくオストマも同じ様に育った。

むしろ稀に見る能力の高さから酷くなり、そのせいで余計高圧的に。


そして子供達だ。

揃いも揃って適性が皆無なのは、貴族社会において恰好の笑いのネタ。

それが元で妻との間で毎日の様に喧嘩を行い、やがて数年前に愛想を尽かされ、バツイチに。

以降、陰ながら帝国中に馬鹿にされ、悪評も相まって再婚を半ば諦めていた。


クリアフォレストに来たのはたまたま。

スクルドの噂を元に気分転換で訪れ、そこからクリアフォレストの評判を聞いての事だ。


そこで傾国の美女とも称される朔夜の話題を耳にし、領主の館にいると知って直接会いに行き、一目惚れ。

久方ぶりに感じた熱いパトスを抑え切れず、告白する流れとなった。


「嫌じゃ。」

「お断りします。」


しかし当然ながら、「はい、分かりました」等と受け入れられる訳がない。

また断られた側も「そうですか、残念です」と納得するはずもなく、尚も食い下がろうとする。


「何故だ!?これは双方にとって旨味のある話なのだぞ!!」


「それは主に限った話であろう?少なくとも妾は、どこの馬の骨とも分からぬ輩と番になる気はないのじゃ。」


「つ、番とは…また直接的な言い回しを。だがそれも魅力的だ。(ボソッ)」


「お主…また訳の分からぬ事を…。」


「つまり私がどれ程の力を持つかを示せば良いのだな?ならばこれはどうだ!」


そう言って、オストマは右手の中指に嵌めた指輪に魔力を込め、光らせる。


すると、丸みを帯びつつもずんぐりむっくりとしたゴーレムが出現。

その辺に転がるのと違い、今度は8メートルクラス。

(まばゆ)いばかりの白い光を放ち、心做しか強そうにも見える。


「はははは!先程はアイアンだが今度はミスリル!そう易々とは━━━」


「そのミスリル製のゴーレムじゃが、何やら弄ばれておるみたいじゃぞ?」


「へ?」


朔夜に促され、オストマが後ろを向く。

するとそこには、いつの間にかゴーレムよりも更に大きい黒猫がいた。

前足でタシッタシッと猫パンチを繰り出し、転がった先で更にちょっかいを出す姿が映る。


それはさながらおもちゃ遊びをしている様で、保護者であるステラが「ニャン丸〜!」と叫び、必死に止めようとする。


「………。」


オストマは事態の変化に付いて行けなくなり、人前にも関わらず間の抜けた顔を晒すのだった。

本当なら先週の内にここまで来たかったのですが、流石に無理でした(苦笑)


ついでに、じゃれ付くのは危険なので勘弁ですがニャン丸のお腹にダイブとか肉球をぷにぷにしてみたいw

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