122話 41日目
2日明けた41日目
午前6時過ぎ
「はぐっ、はぐっ…ズズズズッ、ガツガツガツ…。」
屋敷のダイニングにて、金髪ショートヘアーの女性が物凄い勢いで朝食を食べ進めていた。
彼女は顔や手先こそ剥き出しになってはいるが、それ以外は黒い衣装に身を包んだ状態。
彼女の近くには同じ黒装束姿の男性達が座り、負けず劣らずのスピードで朝食を貪っている。
「ミゲルさん、それに皆さんも。そんなに慌てなくても朝食は逃げないですから…。」
「マスター、誰も聞いてないみたいだよ?」
そんな彼女…ミゲル達を凛が諌めるも、誰一人として聞く耳を持っていない。
美羽の指摘含め、虚しく終わるだけに留まった。
実はミゲル達、王都から来たマルクトと共にいた人物達だったりする。
護衛でもあるミゲル達が、どうしてマルクトの傍ではなく凛の屋敷にいるのか。
それは3日前の昼過ぎにまで時間を遡る必要がある。
サルーンにて、カーヴァン伯爵子飼いの商業ギルド員…マルクトが、ミゲル達から報告を受けていた。
カーヴァン伯爵に、サルーンを調べるよう言い渡された件についてだ。
「はぁ!?サルーンの実権を握るホズミ商会のトップが元商業ギルド員のダニエルだぁ!?」
護衛兼暗殺者のミゲル達を使って調べさせ、聞かされた内容に驚愕する。
上記以外にも、サルーンが王国から脱却し、自治都市になった事。
サルーンを治めるのは以前と変わらずガイウスのままだが、何故か王国第1王女と帝国第1皇女が彼に付き添い、互いに自分が正妻だと主張している事。(ガイウスは困ったりやんわり濁すだけで否定せず)
彼に協力する組織…ホズミ商会に商業ギルドを含めた商国関係者が従っている様子から、どうやらホズミ商会の方が立場が上である事を突き止めた。
そして報告しようと言うタイミングで、新たにクリアフォレストなる都市が死滅の中に出来たと知る。
ミゲル達は更に2日間掛け、サルーンと同じく聞き込みだったり、客を装って内部に潜入する等してどこに何があるかを調べた。
調査の結果、サルーンよりも更に客層の幅が広がり、痒いところにまで手が届く様に。
商品力も更に向上し、今後はホズミ商会が世界の経済を回すのでは…との意見で纏まった。
「栄えある(商業)ギルド本部職員の俺が平民のあいつに付けと…?冗談じゃない、馬鹿も休み休み言え!」
マルクトは怒りに任せ、両拳をテーブルにダンッと叩き付ける。
「おいお前ら!!そのホズミ商会のトップとやらの首を取って来い!!」
「困難かと。彼の地はサルーン以上に警備が厳重━━━」
「だったら寝静まった頃にでも実行すれば良いだろ!!頭を使え頭を!!」
それ以降、ミゲル達がどれだけ理由を述べようとも一切聞き入れては貰えなかった。
結局深夜頃に、それも奈落の牙全員が一気に攻め入るで決まる。
時間は過ぎ、深夜間際に。
ホズミ商会のすぐ傍にある宿で休んだミゲル達は、くすんだローブから黒装束に衣装をチェンジ。
そのまま作戦決行…かと思いきや、唯一の出入り口がある正面には、この時間になっても多少ながら人通りがあった。
仕方なく裏手へ回り、壁の破壊工作を行う事に。
「こ〜んな時間に〜、それも怪しい事をしてるなんてぇ、いけないんだ〜☆」
「うふふふ…♡ほんに、悪いお人達やわぁ…♪」
作業開始してすぐ、双葉と静率いるディシーバーズが建物の上に出現。
それに気付いたミゲル達は彼女らを蹴散らそうとするも、反対に弄ばれてしまう。
次々に無力化され、動けなくなった者から順に地面へ引き摺り込まれていき、すぐに隊長であるミゲルを除いて全員が姿を消す。
静の相手をした副隊長のクリフまでもがいなくなり、呆然とする彼女を2人がくすくすと嘲笑ってみせた。
ミゲルは逆上し、目を見開きながら双葉へと挑み掛かる。
「ざ〜んね〜ん☆ボクに物理攻撃は効かないのだぁ〜♪」
「(くすくす)残念おしたなぁ…♪」
「な…に……馬…鹿…な………。」
苦労の末、ナイフを双葉の胸に刺す事に成功。
しかしそれで気が緩んだのだろう。
「殺った!」と内心で喜ぶミゲルの顔に、双葉が放った黒い靄が直撃。
折角刺さったナイフがするりと落ち、信じられない表情のまま眠りに落ちてしまう。
屋敷の地下にある地下牢へと運ばれたミゲル達一行。
そこで彼女と同じ様に眠らされた構成員達が次々に目を覚まし、互いに無事である事を確認。
喜び合ったのも束の間、緊迫した空気が彼女達を襲う。
「こんばんは、侵入者さん。」
凛が寝巻き姿の美羽達を伴い、ミゲル達の前に現れたからだ。
凛はニコニコと笑顔を浮かべてはいるが、彼以外は不機嫌さを露に。
特にタンクトップに短パン姿の火燐とパジャマにナイトキャップまで被った雫が苛立つ様子が窺える。
彼女達の放つ怒りのオーラに、ミゲル達は「油断させておいて纏めて葬る算段だったのか…」と戦慄を覚えた。(折角寝ていた所をナビに起こされたのが理由)
「そう警戒なさらないで下さい。火燐達も落ち着いて。」
「ちっ…分かったよ。」
「ん…。」
凛の言葉で2人は落ち着きを見せ、ミゲル達は安堵する。
「…説得に関しては礼を言う。が、私から話す事は何もない。時間の無駄だ、さっさと殺せ。」
「ああ?何だぁその言い草は!?」
「………。」
「今更ですが、僕は貴方方を傷付けるつもりはありません。」
「私達を捕えておいて、本当に今更だな。」
「その点についてはお詫びします。ですが━━━」
「我々は与えられた任務を遂行しようとした。それだけだ。」
「んっだぁてめぇ!!牢屋ん中だからって絶対ぇ安全とは限らねぇんだぞこらぁ!!」
火燐が鉄格子部分に前蹴りし、そこに嵌め込まれた黒い棒が大きく歪んだ。
「あー、美羽。ごめんだけど火燐を下げさせて。」
「うん、分かった。」
「すみません。どうやら寝ていた所を起こされたからか不機嫌みたいです。お互い冷静じゃないのもありますし、また6時間後位に出直しますね。」
そう言って、凛は雫以外の3人に引き摺られ、ギャーギャーと叫ぶ火燐達と共に地下牢を後にする。
「あ、火燐が凹ませた鉄格子ですけど、アダマンタイトを特殊加工したものなので真似しない事をオススメします。」
そんなセリフを残しながら。
「…隊長。もしあの人の言う事が本当だったとしたら俺達━━━」
「文字通り、命を散らして終わるだろうな。」
凛達がいなくなった後、ミゲル以外は火燐が残した爪痕を見て青い顔となった。
時刻は午前6時前に。
壁に凭れ掛かったり、目を瞑る等してミゲル達が休息を取っていた所、凛と美羽だけが戻って来た。
再び警戒した様子で臨むも、既にミゲル達が王都に存在する奈落の牙、その中隊の1つだとバレていた。
加えて、彼女らは揃って捨て子である事。
依頼を与えられたから従っているだけで、望んで殺人を行っている訳ではない事を告げられる。
前者は奈落の牙に潜入したねこ忍隊やディシーバーズから齎された情報。
後者は地下牢の天井部分に設けた監視カメラ越しに仲間内での会話を広い、精査したものだ。
ミゲル達は当然それを知らず、敵側の情報収集能力の高さに絶句。
凛はそんな彼女達に向け、組織から脱却して自分達の仲間にならないかと説得を試みる。
ミゲルはこれを断り、しかし凛は諦めずに何度も言葉を重ねた結果ミゲル側が折れ、間もなく朝食が始まるので一緒に食べうとなった。(ミゲルだけはやや渋っていたが)
そして皆で階段を上ると、そこには何故かサルーンにいるはずのガイウス、アンジェリーナ、リーゼロッテの姿が。
またそれ以外の面々…サルーンの隣に位置し、帝国都市スクルドの領主であるランドルフ一家。
商国代表のポールに、大陸最南端にある獣国漁業都市アゼルを治めるエルネスト一家。
北側のエルフの里の長夫妻にレオパルド、王国一の鍛冶職人ロイドの息子一家と。
人族・亜人族・獣人の各種族代表とも言える様な、錚々たる面々がこの場に集結していると分かり、ミゲル達は揃って腰を引かせる等していた。
因みに、エルネスト一家とリアム&ゾーラパルフェ夫妻、レオパルドは昨日からの参加。
シルヴィアの父アンダーソンが凛に挨拶した際、またもや雫が彼をアンダーソン君呼ばわりした。
それを見たステラが吹き出し、アケミが「アンダーソン君て!マ○リックスじゃん!」と爆笑。
アレックスは「お前、種族代表相手に君付けて…俺はとても真似出来そうにねぇわ。」と引いていたりする。
そうこうして皆で着席し、朝食が開始された。
皆が料理に舌鼓を打つ中、ミゲルだけは黒い頭巾を被ったまま。
隣に座るクリフや部下から「これ美味しいですよ!」と促されるも、後で1人で食べると返すだけで全く手を付けようとはしなかった。
理由はお腹が空いていないから…ではなく、昨晩は作戦決行に備えて軽くしか食べてない事もあり、空腹状態には違いなかった。
ならば何故頑なに食べないかと言うと、彼女が女性、それも隊長の地位にいたからなのが挙げられる。
そうは言っても周りから集まる視線、更に美味しそうな匂いも相まって、結構な音量のお腹の音が。
自棄になったミゲルは頭巾を取り、素顔を露にした。
これに驚いたのが、クリフを含めた奈落の牙メンバー。
「隊長…女だったんですね…。」
その言葉が全てを物語る通り、クリフや他の隊員はミゲルの事をずっと男だと思っていた。
しかし良く良く思い返してみれば、作戦中に1人でふらっとどこかへ行くのは当たり前。
一緒に寝た経験はあっても、食事や布で拭く等の体を清める行為は1度たりとも一緒に行った覚えがなかった。
「ふぉうふぁよ。ふぉんふぁふぇふぁふふぁっふぁふぁ。」
「いや、何言ってるのか分かりませんって。」
これも偏に女だからと馬鹿にされない為の処置ではあるのだが、今みたく頬いっぱいに物を詰め込んだ状態で言われてもまるで説得力がなかった。
話は冒頭に戻り、ミゲルだけでなくクリフ達も初めて体験する異世界の料理に夢中となり、それを皆が「ようこそこちら側の世界へ」と温かい目を向ける。
午前7時過ぎ
「蒼凰キーーーックっす!」
「灰燼脚ー!」
訓練部屋にて、藍火と灯の蹴りが交差する。
片や全身に蒼い炎を、片や右足にだけ赤黒い炎を纏わせている。
先日、藍火は蒼炎神龍ニーズヘッグへと進化し、その影響からか髪の一部に白いメッシュが入る様に。
技の名前にもなった『蒼凰』と言うスキルを獲得し、ドラゴン形態で使用した姿はまるで蒼い不死鳥みたく感じられる。(空を飛ぶ様子は相変わらずバ○ファルクっぽかったが)
灯は燼滅熊に。
髪が少し赤黒くなり、獲得したスキル『轟爆』で高温の熱だったり爆発が操作出来る様に。
今回は爆発を控え、炎による熱量対決と言う事で激突。
「ふっ、決まったっす…。」
「藍火ちゃん格好良いー!」
「なーーーっはっはっはっ!」
どうやら藍火の方に分があったらしく、ステラ達から歓声が上がり、得意げにする。
そこから少し離れた所では、暁とオークヒーローに進化した丞が剣戟を繰り広げていた。
暁は練習用の大太刀、丞は死滅の森に生えた木材を携え、ひたすら無言で打ち合う。
別な場所ではエンジェルロードとなったエルマとデビルロードのイルマが上級までの魔法戦を繰り広げ、同じくデビルロードの玄が旭と戦う。
しかしお姉さん達の声援を受けてだらしない顔になり、脳天に小太刀の腹部分をぶつけられて痛そうにする。
エルマと同じくエンジェルロードのミラとティターニアのエラもエンシェントエルフのリーリアと魔法合戦(リーリアの方は精霊魔法)を行い、リアム夫妻が感心。
ヤイナやアケミ、ユカは目をキラキラ輝かせながら興奮している。
他にも、訓練に参加するのはいずれも手練れ揃い。
あまりの練度の高さに、今日初めての参加のミゲル達は顎が外れそうな位驚いていた。
午前9時過ぎ
ナビから屋敷の地下1階にある管制室に呼ばれた凛とミゲル。
『下賤な者達め。私から話す事は何もありません。時間も惜しいですし、さっさと殺しなさい。』
一緒に来た美羽と共に先程録画したと思われる画面を見ていると、高級そうなドレスアーマーを身に着けた女性が悔しそうにする場面が映る。
「…デジャブかな?」
それを見た凛が独り言ち、美羽は微苦笑。
ミゲルは数時間前の自分を見てるみたいで恥ずかしくなり、両手で顔を覆うのだった。
参考までに↓
ブループロミネンスドラゴン→蒼炎神龍ニーズヘッグ
爆炎熊→燼滅熊
ヴァリアントオーク→オークヒーロー
セラフィム→エンジェルロード
デーモンロード→デビルロード
ハイエルフ→エンシェントエルフ
丞と灯の最終進化は書いてなかったはず…もし書いてたらごめんなさいw




