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ゆるふわふぁんたじあ(改訂版)  作者: 天空桜
辺境都市サルーンとそれを取り巻く者達
110/263

104話

正午前


王女達、皇女達を含めた凛達一行はガイウスの屋敷を出る。


そして門へ続く道で何を食べるかを話し合い、色んな料理を見てみたいとの意見から、そう遠くない場所にある高級レストランへ向かう事が決まった。


ただ、アレックスだけは和食専門とも言える、高級料亭に行きたがっていた。

しかし、他の5人が箸の使い方が分からない等で不便な思いをするのではとの凛の苦言を受け、取り敢えず今日の夕方か明日以降に。


また、アンジェリーナ達の存在をあまり公にするのもとガイウスとランドルフが口にし、最初は馬車で移動しようとなった。

ところが、どの馬車に乗るかだったり、バラバラで行けば良い等で揉め、結局は軽い認識阻害を掛けた徒歩に。


15分後、目的地である高級レストランに到着。

アンジェリーナとリーゼロッテはビーフシチュー。

パトリシアとアリスはミノタウロスとオークジェネラルを半々で使用したハンバーグ(ただしアリスは幼いのでハーフサイズ)。

アレックスはかつ鍋定食、ユリウスはミノタウロスのステーキをそれぞれ注文。


アリスを除く女性陣は、初めて体験する美味さや満足感に感銘を受け、シェフを自分達のいるテーブルに呼びつける程。

3人はシェフを口説き落とそうとするも、中々上手くいかず声を荒げてしまう。


そんな彼女らを気にも掛けず、アリスはうまうまと言いたげな顔で、ユリウスは「おっ、こいつは美味いな」とやや嬉しそうに。

アレックスは久しぶりの和食に感動してか、涙を流しながら食べていた。(後から聞いたところ、醤油ベースの出汁が利いたトンカツ+味噌汁+ご飯の組み合わせなのが良かったらしい。それと、生前は揚げ物が好物だったとか)


それは有り(てい)に言って異様な光景だった。

しかもアンジェリーナ達は気付いていない様だが、ヒートアップしたせいで周りからの注目を集めてしまう。


ガイウスとランドルフが彼女達を諌め、(凛が動くと逆効果になるとの理由から)ゴーガンは周囲に謝罪する羽目に。

何とか機嫌を直して貰い、3人は疲れた顔で溜め息をついた。




午後2時


「うぷっ、食べ過ぎたわ…。」


左手を口元にやり、顔を真っ青にしたパトリシアが呟いた。


あの後、シェフが店を離れられない事に対するお詫びと称し、彼女達のテーブルにショートケーキを3点並べた。

これにアンジェリーナ達が見事なまでに食い付き、一口食べて大興奮。


あっという間に平らげ、そこから大量のデザートを注文。

物珍しさも当然あったのだろうが、4人が座れるテーブル2つ分に所狭しと並べられたデザートは圧巻の一言だった。


アリスとミレイは「おー」と感心した目を向け、凛以外の男性陣は見るだけで胸焼けしそうな光景に揃って頬をひくつかせ、凛と美羽は困った笑みを浮かべる。

周りのテーブルにいる者達の何割かは、「分かるわ〜」と言いたそうな顔で何度も頷いていた。


それから1時間半以上もの間、アンジェリーナ達はひたすらデザートを食べ続けた。

所作こそ綺麗だが、表情は真剣そのもの。

なくなりそうなタイミングになれば、3人の内の誰かが次を注文するを繰り返すと言う謎の一体感を示す程だった。


途中、別な客に届いたカレーライスを見たアレックスが同じものを頼んだ。

しかしどうやら甘口だったらしく「うわ、あっめぇ…バー○ント並じゃねぇか。失敗したわ…」とぼやく。


頼んだ手前、残すのも悪いかと考えていたところ、アリスがカレーに興味を示した。

試しに一口食べさせ、目を輝かせて催促して来たので3割程手伝って貰い、にやついたユリウスに見られるのを気にしながら気合で残りを掻き込む場面も。


それと、途中で美羽が火燐から呼ばれたと言って席を外し、代わりにティンダロスの猟犬のモコ達がやって来た。

アンジェリーナ達はスイーツに夢中で気付いていない様だが、床からぴょこっと顔を出す仕草は心温まるものがある。

凛に混じってアレックス達も可愛がり、それを周りにいる者達は羨ましそうに見ていた。


そんなこんなで、店を出る頃にはアリス以外の女性のお腹はパンパンに。

アレックスからまるで妊婦みたいだとの突っ込みにビクッとなり、それをユリウスが肯定した事で落ち込んだ。


因みに、チワワタイプのクゥはユリウス、柴犬タイプのはなはアレックス、ミニチュアダックスタイプのモコはランドルフがそれぞれ抱いている。




午後3時


そこから散歩等を兼ね、ホズミ商会へ向かう事に。

アンジェリーナ達は興奮した様子で1階にある商品を閲覧して回り、凛は取り敢えずは大丈夫そうだと判断。


後の事をガイウス達に任せ、クゥ達と共に屋敷へと戻る。


「ただいまー。」


「お帰なさーい。」


リビングへ向かうと、テーブルに座った状態のステラが出迎えてくれた。

彼女はお茶が入ったペットボトル片手に持ち、もう片方の手でどら焼きを食べているところだ。


「あれ?ステラだけなんだ。美羽がどこへ行ったか知らない?」


「美羽ちゃん?ううん、何も聞いてないよ。」


「そうなんだ。2時間位前に火燐に呼ばれたって言ってそれっきりでさ。」


「ふーん?…あっ、帰って来たみたいだね。」


なんて話していると、何やら玄関の方が騒がしくなった。

どうやら美羽達が帰って来たらしい。




「たっだいまーーー♪」


「だぁーーっ、クソッ!あのベヒーモスの野郎、普通あそこで逃げるかぁ?じゃなくて戦う場面だろうが!!」


「荒れてるねぇー…。」


「ん。あれは仕方ない。」


「う・る・せっ!お前らもお前らだ。あの場で本気を()しゃ、上手く切り抜けられたってのによ!」


「…おまいう。」


「…?何だよ。」


「条件的には火燐が1番有利だったはず。なのにそれを私達のせいにされるのは心外。」


「うっ。だって、初めて見る奴とかいたから楽しくなって…(ごにょごにょ)。」


「ともあれ、誰が1番多く魔物を倒すかの賭けは私の勝ち。最下位の火燐は勝者の私にプリンを渡さなければならない。」


「ぬぐっ!…ん?つか、よくよく考えたらよ。炎属性で、しかも基本的に単体を相手にするオレって、最初から色んな意味で不利だったんじゃね?」


火燐の半目による追及(突っ込み)に、雫はすっと視線を逸らす形で応える。


炎に特化している彼女は勿論魔法も得意なのだが、初級や中級よりも、超級や最上級と言った派手で威力が高いものを好む。

なので過去に死滅の森探索でやらかし、余程の事がない限りは魔法禁止と凛から言い渡されている。


なので、今では赤熱したルージュやレーヴァテインを振り回すのが主な攻撃方法に。

最近はそこにフレアビットが加わる様になったものの、やはり一刀両断で倒すのが気持ち良いらしく、ほぼ一本化状態。


しかし雫、翡翠、楓の3人はその逆で、テクニックや手数重視。

複数を同時に相手取る事も普通にあり、それが勝敗を分ける結果となったのだろう。


「あはは…火燐ちゃん、ごめんね?」


「ごめんなさい…。」


「ボクは今回サポート役だったからノーカン♪」


翡翠と楓ややや申し訳なさげにし、美羽はころころと笑っていた。




話は午後1時過ぎにまで戻る。


火燐から念話越しに呼ばれた美羽は、死滅の森中層へ向かう。


彼女達がいるのは凛の屋敷から南東に位置する場所。

午後からとは言え、4人の時間が空いているのは久しぶりなのと、たまには違う所にとの事からここに落ち着いた。


「おっ、ベヒーモスがいるじゃねぇか!そーいや、見かけるのもあん時(渚達を配下にした時)以来か!よっしゃ行くぜぇ!」


そこから30分程探索を続けた所、結構離れた位置にてベヒーモスを発見。


火燐がやる気を出し、駆け出した。


「あ、ちょっと火燐ちゃん!?」


「ちょっと、いきなり走り出さないでよ!」


「ん。迷惑。」


「追い掛けましょう…!」


美羽達は面食らいながらも、急いで彼女の後を追う。


「…人間か。久しぶりに見たな。しかも5人全員が女か。」


そしてベヒーモスと対峙する火燐に追い付くと、50メートル程先にいるベヒーモスからそう話し掛けられた。


一応対話スキルを使用しながらの行動ではあるものの、簡潔ながらここまではっきりとした物言いをする魔物は初めて。

これに美羽達が目を丸くするのだが、火燐は至って普通のままだった。


「お、追い付いたか。野郎、余程勘が良いんだろうな。こんだけ離れてるのに気付きやがった。」


「はぁ…いきなり走り出した事に対する謝罪はないんだね。全く火燐ちゃんは…。」


「あ?美羽も前にベヒーモスと戦ってみたいって話してたじゃねぇか。」


「それはそうだけど…。」


「…話は纏まったか?」


「! ああ、今からお前をぶちのめしてやるか覚悟━━━」


「そうはいかん。俺も命は惜しいのでな、勝てない戦いに挑む程無謀ではないつもりだ。」


「へぇ?って事はなんだぁ?オレ達から逃げるつもりってか。それが叶うとでも?」


「出来るさ…こうすればな!」


ベヒーモスは大きな雄叫びを上げ、それを合図に大量の魔物が全方位から押し寄せて来た。

しかし魔物達は呼んだ張本人(?)であるベヒーモスには目もくれず、真っ直ぐ火燐達の元へ向かう。


「なっ!嘘だろ?あの野郎、魔物を呼ぶだけ呼んで逃げやがった。」


逃げるベヒーモスの後ろ姿を、信じられない顔で見る火燐。


そんな彼女を、翡翠がウインドアローを射ながら叱咤する。


「火燐ちゃん!いつまでも呆けてないで手伝って!」


「因みに、討伐数が1番少ない人は1位にプリンを差し出さなければならない。」


「…嘘だろ?」


雫により突然始まった競争だが、この時点で既に火燐を除く全員が二桁の魔物を討伐。

火燐は完全に出遅れたと悟り、雫に軽く縋るも、即座に一蹴されてしまう。


「本当。このままだと最下位は確実に火燐。口より行動で示す。」


「なっ!?ま、待てって。それはあんまりじゃ━━━」


「面白そうだね〜♪なら、ボクも参加しちゃおっかな?」


「ちょ、馬鹿!!美羽、お前が参加したらオレ達4人掛かりでも勝てねぇじゃねぇか!」


火燐が割と本気で焦り、美羽はそれが面白かったのかくすくすと笑う。


「冗談だよ♪ボクは皆のフォローに回るだけにするか、らっ!」


「へへ、それならオレも頑張れそうだ、なぁ!!…っと。」


2人は言葉を交わしつつ、向かって来たキラースコーピオンを斬り伏せるのだった。

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