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ゆるふわふぁんたじあ(改訂版)  作者: 天空桜
辺境都市サルーンとそれを取り巻く者達

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95話 29日目

明くる29日目 午前4時過ぎ


爆炎斬(ばくえんざん)!!」


火燐は訓練部屋にある的へ向け、炎系上級魔法エクスプロード級の威力を込めた斬撃━━━爆炎斬を放った。

直後、アダマンタイト製の的がドオォォォンと音と共に吹き飛ぶ…のではなく、風船みたいにぷくーーっと膨れてから元に戻る。


その光景に、凛達は珍しいものを見た表情になるのだが、どうやら火燐だけは違ったらしい。

破壊するつもりが膨れるだけで終わり、驚きのあまりうぉっと仰け反った。

そして神妙な顔で的をまじまじと見、「いけると思ったんだが…威力が足りなかったか?」と呟く。




「…行って。フローズンスピア・ディケイド(10倍)。」


雫はそんな火燐を一瞥し、カドゥケウスを前に掲げる。

すると彼女の頭上にて、普段のものより一回り大きな氷の槍が出現。

火燐の隣にある的へ向け、真っ直ぐ放たれた。


その的も同じくアダマンタイトで出来ており、先程火燐の攻撃を防いでみせた事から、今度も無効化されるのではと思われた。

しかし実際は胸部分に大きな穴を開ける形でぶち抜き、そのまま壁に衝突して消える。


これに凛達からおーと感心の声が寄せられ、火燐だけが面白くなさそうにする。


雫が撃ち出した氷の槍は10本分の魔力が込められ、通常のより威力、強度、密度が比べ物にならない程に強化されている。

それこそ純粋な威力で表した場合、超級と同じ位かそれ以上。

銃から撃ち出された弾丸みたく、一点突破を行った結果と言える。


因みに、この世界では上級から上の魔法になるにつれ、範囲が広くなっていく。

勿論威力もそれに見合ったものにはなるのだが、下手すると味方を巻き込んでしまう可能性がある。


それだと格上相手へは有効打になり得ないと考えた雫と楓は、出来るだけ周りを巻き込まず、かつ威力の高い魔法を用意しようと結論付けた。

昨日までに話し合いや検証を重ね、今はここまでが限界と判断。

今の形に落ち着いた様だ。




「アローレイン!スラストアロー!ビッグ…アロー!!」


翡翠は軽く浮きながらウインドアローを用い、上空で散開し、一帯に着弾するアローレイン。

それと着弾と同時に風の刃で対象を斬り刻むスラストアロー。

発射直後、大木と同じ位にまで大きくなるビッグアローを放つ。


しかしアダマンタイト製の的はビクともせず、ギィン、ギギギギギィン、ゴガァァァンと音を響かせるだけで終わった。


「…んー、いてて。まだちょっと制御が難しいや…行け!テン()ペス()トア()ロー()っ!!」


続けて、翡翠はバチバチ…バチバチ…と周りに小さな雷を発生させる、高密度の風で出来た矢━━━テンペストアローを用意。

しかしまだ上手く制御出来ていないのか何度も感電し、少し痛そうにする。


翡翠から放たれた矢は的のど真ん中に当たり、直径10メートル位の黒い竜巻が発生。

その竜巻の内部は無数の雷と風の刃で満たされ、ひたすら的を焼き、斬り刻む。


しばらくして竜巻が止むと、そこは焦げ跡以外、何も残されてはいなかった。




「…撃ちます。ロックスピア・ディケイド…!」


楓も雫と同様、10倍の魔力を込めた岩の槍を放った。

こちらもほとんど抵抗らしい抵抗を見せずに鎧を貫通し、そのまま壁にぶつかり、吸い込まれる様にして吸収。


楓は最低限の役目は果たせたとばかりに安堵し、どこか気の抜けた笑みを浮かべる。


火燐だけやや残念な結果に終わったものの、ひとまず4人には必殺技と呼べる強力な技や魔法が備わる形となった。


また、堅実な戦いが売りのガイウスに必殺技と呼べるものはないが、ゴーガンはある。

限界まで体に魔力を纏わせて振りかぶり、大岩をも真っ二つにする威力を持った『大岩斬(だいがんざん)』。


ついでに、風(と見えないよう調整した幻影)の魔力を体に纏わせた状態のライアンが、光の様に速く鋭い7連続の突き攻撃を放つ『セブンス(七色の)レイ(光線)』と言う技をそれぞれ所持。


しかしどちらも暁と戦った際、あまりにも圧倒され過ぎたのを理由に、とても技を繰り出すどころではなかった。

その為、凛達は未だに彼らが技を所持している事自体知られていなかったり。




火燐、翡翠、楓が集まり、互いに反省点を述べ合う。


「くく…火燐は我らの中で最弱。四天王の名折れよ。」


そこに雫も加わるかと思いきや、ニヤリと笑いながらそんな事を言い出した。

頭に来た火燐は彼女へ詰め寄り、「いきなり何だぁ?お前、オレに喧嘩売ってんのか?あ?」とメンチを切る。


「四天王?」


「恐らくですが…凛君が1番上で美羽ちゃんが補佐役。その下にいる私達の事を指すのではないでしょうか…?」


「あ、成程ね〜。急に始まるから何事かと思っちゃったよー。」


雫は全く動じず、火燐がタラタラと文句を垂れる中。

翡翠と楓はまたやってると言いたげな様子で2人を見る。


少しして、(火燐の文句をひたすらガン無視した)雫は離れた位置に顔を向けた。

火燐や凛達も彼女に釣られて視線を動かし、エラがいる事に気付く。


心做しか少し大きくなったエラは相変わらずのへーっとした表情を浮かべ、背中に生えた羽をパタパタと動かしながらゆっくり移動。

やがてぴたりと止まる。


「たらりたんたん、たりたり〜〜〜ん。エレメンタルスピア〜〜、みっだれっうち〜〜〜〜。」


エラは口をへにょっとさせたまま空中でくるくる〜と舞い、


「━━なのん!」


持っていた杖をビシッと前に突き出した。


直後、炎・水・風・土だけでなく、氷・雷・砂。

そして植物系の精霊が扱える、木で出来た槍が彼女の近くに次々と出現。

エラは的に向けて30秒程撃ち続け、満足したのか杖を下ろす。

そして煙が晴れて確認してみると、そこには何も残っていなかった。


雫は「まだ何か?」と言わんばかりの顔を火燐に向け、「マジかよ…エラに劣るオレって一体…」と火燐が崩れ落ちる。

そんな彼女らの心境を知ってか知らずか、エラが凛達の元へとやって来た。


「エラ、おはよう。」


「おはようなん。」


「もしかして今のが?」


「なのん。進化して使える様になれたん。」


エラはハイフェアリーからフェアリークイーンへと進化。

(ぺったんこなのは相変わらずだが)身長が10センチ程伸び、『四属性適性上昇・大』を取得。

これにより、炎・水・風・土属性の適性値が上昇し、四属性やそれに連なる属性が最低でも上級まで扱える様になった。


「さっき見てて思ったんだけど、木で出来た槍なんてあるんだね。」


「そうなん。試しにやってみたら出来たん。」


木魔法は基本的に植物系の精霊…凛の配下で言うところの翠と金花、銀花しか扱えない魔法だ。

しかし今のエラは神輝金級中位のフェアリークイーン。

精霊達を統べる立場になった事で使える様になったのだろう。


彼女は元々水と風に適性があり、今は炎と土にも適性が生まれた状態。

今後、スキルの組み合わせ次第では化ける可能性がある。


「成程ね。…ところで、どうして僕達がここにいるって分かったの?」


「さっき顔を洗おうと思ってダイニングに上がったん。そしたら(凛達が)出て行く姿が見えたのん。」


エラはディレイルームの中で時間を過ごし、進化を終えて部屋を出る。

そして階段を上がっている途中、凛達が話をしながらリビングを後にする場面に遭遇。

ナビから事情を聞き、いそいそと準備を済ませて来た。


因みに、先にミラはセラフィムへの進化を終え、今も自室で爆睡中だ。


「で、そこから準備してって訳か…そう言えば、さっきのは?」


「んーん、特に意味はないの。強いて言えば気分?なのん。」


「あ、やっぱり意味なかったんだ…。」


「凛様、おはようございます。宜しければ、私達も訓練に参加させて頂きたく…。」


そこへ、今度は紅葉が楚々(そそ)とした様子でやって来た。

彼女の他に暁、旭、月夜、小夜の姿もある。


「今度は紅葉達か。大方、エラの姿を見てってところだろうな。」


『…?』


凛の苦笑いで呟き、紅葉達は揃って不思議そうにしていた。




「そんじゃ、紅葉達が来た事だしオレ達はズレっかな。」


紅葉達を見てショックから立ち直ったのか、火燐がそんな事を言った。


「? 火燐様、ズレると仰るのは…?」


「火燐、明らかに説明不足。」


「あー、見てねぇなら分かんねぇか…紅葉達は訓練しに来たんだよな?」


「はい、勿論でございます。」


「ここにいるってこたぁ、紅葉も進化を終えたと考えて良いんだろ?」


「はい。私、鬼子母神(きしもじん)になりました。」


紅葉はエラと異なるディレイルームで時間を過ごし、鬼姫から鬼子母神へと至った。


「進化に伴い、『守護者』『感応』『魂魄(こんぱく)操作』のスキルを獲得致しました。」


感応は相手がどう思っているかがある程度分かり、魂魄操作は魂を弄ったり出来る。


それと守護者は配下(ただし鬼人族に限る)を強化。

しかも自身(スキル所持者)に近ければ近い程効果が増すと言うものだ。


先程紅葉はナビからスキルの説明を聞いた際、「もっと早く守護者を手に入れていれば、更なる余裕を持って鬼王を対処出来たのでは…」と密かに残念がっていたが。


2人(紅葉とエラ)とは別に、もう1人最終進化を終えた奴がいるんだが…分かるか?」


「…分かりません。」


「同じくなのん。」


「それはな…篝だよ。」


「篝様ですか?」

「篝なのん?」


まさかの答えに、紅葉とエラは声をハモらせた。


「ああ。篝はまだ体に(だる)さが残ってるからって自分の部屋に向かっちまったんだが…中々すげぇスキルを手に入れたみたいでな。『九尾』ってんだ。」


「「九尾?(なのん?)」」


「こいつは名前の通り、9つの尻尾って意味だ。」


篝は天狐から神輝金級の空狐へ進化し、それぞれの特徴を表す動物へと姿を変える『獣王化』。

それと狐人特有スキルである『九尾』を獲得。

九尾スキルの効果により、元々1本だった尻尾が9本に増えた。


篝は進化を終え、一度は目覚めた。

しかし尻尾の1本1本に感覚が宿ってるのが気持ち悪いと言うか、落ち着かないとして気疲れした様だ。

ナビに頼んで尻尾を1本に戻し、再び寝た。


「そんで、実際に生やした訳じゃねぇが、試しにやってみたら凛そっくりな分身が出来ちまった。魔法が使えねぇっつー制限はあるみてぇだが、今まで(つちか)って来た技術とスキルに関しては全く問題ねぇ。」


「何と…。」


「それ、ズルくないん?」


「数が増えたらその分だけ制御が大変になるみてぇだがな。で、だ。尻尾が9あるってこたぁ、出来上がる分身は最大で?」


「「9ですね(なのん)。」」


「その通り。でな、そこにいる凛…実は九尾を使った分身体なんだよ。」


「そうなのですか!?」

「そうなん!?」


「ああ。その本体っつーか、本物の凛は別の部屋で3体の分身と手合わせしてる。」


九尾によって生み出された分身体は、術者の強さや人格をベースにしている。


また、凛の場合は魔法よりも玄冬を使った戦い方がメイン。

しかも仲間内で1番強く、2番目以降である美羽達を相手取っても尚余裕があるだけのスペックを誇る。


故に満足出来ない日々が続き、少し前に始まった本日の早朝訓練。

ナビからの報せで九尾スキルの存在を知り、そこから生まれた自分の分身=魔法を使えないだけで同じ力量と言う構図が成り立つ事が分かった。


すると凛は居ても立っても居られなくなり、訓練部屋を飛び出す。

そして早速分身体を生み出し、今では実に楽しそうにしながら分身達と手合わせをしている。


「何と…。」


「同じ強さの分身を3体同時…凛はやっぱり色々おかしいと思うのん。」


「はは、ちげぇねえ。正直、オレらもちとばかり困ってるしな…。」


火燐が困った笑みで答える。


凛が本気で戦えると言う事は、今以上に強くなる事へ繋がる。

現状で力量にかなりの差があると自覚している火燐達からすれば、これ以上凛から離されたくないと言うのが本音なのだろう。


「…っと、話が逸れちまったな。取り敢えず、ここにいる凛(の分身体)は紅葉達に譲る。手合わせするなりアドバイス貰うなり好きにしてくれ。」


「? どこか行かれるご予定が?」


「ん?ああいや、オレらは凛の様子を見るついでに、追加で分身を出して貰おうかなって。」


「成程…わざわざ私達の為にありがとうございます。」


「気にすんなって。ここに来たのも強くなる為だろ?お互い頑張ろーぜ。」


「ふふ、そうですね。」


それから、火燐達は凛の分身体を通じ、更に分身を出すよう頼む。

それを合図に紅葉達とエラは訓練を始め、火燐達は軽く眺めてから訓練部屋を後にするのだった。

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