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冬童話2021 『さがしもの』

ラストパス

作者: 小畠愛子

こんな「さがしもの」もたまにはありですかね?

 会場内の時計をチラッと見た。すでにアディショナルタイムに入っているだろう。引き分けじゃリーグ突破できない。


「くそっ!」


 しかも囲まれた。うざい。タックルをかわし、ボールを足元へ。チッ、からだをよせてきやがる。パスを出させないつもりか?


「おい、早くパス出せって!」


 うるせぇ! いつもおれがパス出しても、シュート外すだけの能無しどもめ! くそっ、こんな弱小チームじゃなかったら、おれだって輝けるはずなのに!


「ゴールが欲しい! くそっ、くそくそっ!」


 能無しどもが寄ってくる。バカが、せめてゴール前に固まれよ! なんでおれのそばに寄ってくるんだ!


「早くパスしろって! 時間ねぇだろ、早く!」


 うるせぇうるせぇ! んなことはわかってるんだ! お前らに出したって、どうにもならないじゃないか! 今までだってそうだ! 最後はおれが決めてきたんだ! それなのにこんな、こんな……。


 ――あれ、あそこ、ゴール前に、誰かいる――


 うちのユニフォームを着たやつが、ゴール前にはっている。背番号はよく見えないが、あいつにパス出せば、勝てるはずだ! でも、決めてくれるか?


 ――ちぇっ、誰もパス出してくれねぇ。サッカーなんて面白くねぇな。やってられるか――


「なんだ?」


 まわりを囲んでるやつらを見る。いや、今の声はこいつらじゃない。こいつらは、おれのボールを取ろうとして、しゃべる余裕なんてない。じゃあ、いったい今のは……?


 ――少しくらいうまいからって、あいつ生意気だよな――

 ――次の試合さ、あいつには絶対パス出すなよ――

 ――ボール持っても無視してやろうぜ――


「う、うぅっ、くそぉっ!」


 雑魚どもが! おれが本気を出せば、お前らなんてすぐに抜けるんだ! バカが、おれのターンと足技で、しりもちついてやがる! だが、時間がねぇ、早くしねぇと!


 ――おい、なんで誰もおれにパス出してくれねぇんだよ! 仲間じゃないのか? チームメイトだろ――


 まただ、また聞こえた。まさか、あいつから? あの、ゴール前で待ってるやつから、聞こえてきたのか?


 ――へっ、大口たたいて、結局あいつゴール決められなかったじゃんか。なにが天才だ。……まぁ、おれたちがパス出さなかったおかげで、チャンスがなかったからだけどな――


「やめろっ、やめろやめろやめろ!」


 ノイズを追い出そうと叫んだからだろうか、まわりの雑魚どもがビビってやがる。今のうちに――


「あれっ?」


 いなくなった。さっき、ゴール前で待ってたやつ、どこに行きやがった? くそっ、あそこで待ってりゃ、パス出したのに――


 ――本当に出したのか――


 ボールをキープしながら、さっきのやつを探す。囲まれてるから、さすがのおれもこいつらを抜いてゴールを決めるなんてできない。


 ――誰もボールをおれにくれねぇなら、おれだって誰にもボールを出さねぇ! 他のやつのボールを奪ってでも、おれがシュートを決めてやる! おれ一人でやってやるんだ――


 だが、今はそんなこといってられねぇ! リーグ突破がかかってるんだ! なのに、あいつを探しても、どこにも見つからねぇ! くそっ、いったいどこ行きやがったんだ!


「ここだ、ここだよ!」


 なんだよ、声がするのに、どうしてすがたが見えねぇんだ! くそっ、どいつもこいつも、おれのことをバカにしやがって!


「ぼくを、ぼくを見てよ! ぼくにパスを出してよ! ぼくを()()()()()()()()()よ!」


 ――仲間外れに、しないで……だって?――


 そうだった、おれは、ずっとずっと仲間外れにされてたから、だからみんなを見かえしたくて、毎日ずっと練習し続けたんだ。でも、それって、本当はみんなを見かえしたかったからじゃない。


 ――おれが欲しかったのは、ゴールじゃない……。それは――


「仲間だ!」


 ディフェンダーをかわして、ふりきって、ようやく見つけたそいつに、おれは思いっきりクロスをあげた。そいつはずっと昔の、みんなでサッカーするのが一番楽しかった、あのころのおれそっくりに、ヘタクソなオーバーヘッドを決めて、ボールを思いっきりホームランしやがった……。


「あっははははっ!」


 試合終了。おれたちの大会は終わった。でも、おれはすぐにオーバーヘッドしたやつのところへかけより、手をつかんで抱え起こして、それから泣き笑いして抱きしめた。そいつは目をぱちくりさせてやがったが、そりゃそうだろう。偏屈なストライカーが、パス出して、決めきらなかったのに笑ってるんだから。でも、おれは気にしなかった。だっておれは、探しものを見つけたんだから。あのころのおれを――

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― 新着の感想 ―
[一言] チームであり、互いにライバルでもある。スポーツの世界(特にサッカー)はなかなかシビアですよね。 それでも負の感情に囚われず、差し込んできた光に手を伸ばすことができた彼は、選手としても人間と…
[一言] 試合には負けましたけど、主人公君は余計なこだわりを捨てられたようですね。 見事にホームランしていったボールと一緒にさようならしてくれたのでしょう。 これからは、今まで以上に強い選手になれるこ…
[一言] 熱いヒューマンドラマを見せて頂いた気がします。 昔の気持ちを思い出せて良かったですね。
2020/12/19 16:00 退会済み
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