ラストパス
こんな「さがしもの」もたまにはありですかね?
会場内の時計をチラッと見た。すでにアディショナルタイムに入っているだろう。引き分けじゃリーグ突破できない。
「くそっ!」
しかも囲まれた。うざい。タックルをかわし、ボールを足元へ。チッ、からだをよせてきやがる。パスを出させないつもりか?
「おい、早くパス出せって!」
うるせぇ! いつもおれがパス出しても、シュート外すだけの能無しどもめ! くそっ、こんな弱小チームじゃなかったら、おれだって輝けるはずなのに!
「ゴールが欲しい! くそっ、くそくそっ!」
能無しどもが寄ってくる。バカが、せめてゴール前に固まれよ! なんでおれのそばに寄ってくるんだ!
「早くパスしろって! 時間ねぇだろ、早く!」
うるせぇうるせぇ! んなことはわかってるんだ! お前らに出したって、どうにもならないじゃないか! 今までだってそうだ! 最後はおれが決めてきたんだ! それなのにこんな、こんな……。
――あれ、あそこ、ゴール前に、誰かいる――
うちのユニフォームを着たやつが、ゴール前にはっている。背番号はよく見えないが、あいつにパス出せば、勝てるはずだ! でも、決めてくれるか?
――ちぇっ、誰もパス出してくれねぇ。サッカーなんて面白くねぇな。やってられるか――
「なんだ?」
まわりを囲んでるやつらを見る。いや、今の声はこいつらじゃない。こいつらは、おれのボールを取ろうとして、しゃべる余裕なんてない。じゃあ、いったい今のは……?
――少しくらいうまいからって、あいつ生意気だよな――
――次の試合さ、あいつには絶対パス出すなよ――
――ボール持っても無視してやろうぜ――
「う、うぅっ、くそぉっ!」
雑魚どもが! おれが本気を出せば、お前らなんてすぐに抜けるんだ! バカが、おれのターンと足技で、しりもちついてやがる! だが、時間がねぇ、早くしねぇと!
――おい、なんで誰もおれにパス出してくれねぇんだよ! 仲間じゃないのか? チームメイトだろ――
まただ、また聞こえた。まさか、あいつから? あの、ゴール前で待ってるやつから、聞こえてきたのか?
――へっ、大口たたいて、結局あいつゴール決められなかったじゃんか。なにが天才だ。……まぁ、おれたちがパス出さなかったおかげで、チャンスがなかったからだけどな――
「やめろっ、やめろやめろやめろ!」
ノイズを追い出そうと叫んだからだろうか、まわりの雑魚どもがビビってやがる。今のうちに――
「あれっ?」
いなくなった。さっき、ゴール前で待ってたやつ、どこに行きやがった? くそっ、あそこで待ってりゃ、パス出したのに――
――本当に出したのか――
ボールをキープしながら、さっきのやつを探す。囲まれてるから、さすがのおれもこいつらを抜いてゴールを決めるなんてできない。
――誰もボールをおれにくれねぇなら、おれだって誰にもボールを出さねぇ! 他のやつのボールを奪ってでも、おれがシュートを決めてやる! おれ一人でやってやるんだ――
だが、今はそんなこといってられねぇ! リーグ突破がかかってるんだ! なのに、あいつを探しても、どこにも見つからねぇ! くそっ、いったいどこ行きやがったんだ!
「ここだ、ここだよ!」
なんだよ、声がするのに、どうしてすがたが見えねぇんだ! くそっ、どいつもこいつも、おれのことをバカにしやがって!
「ぼくを、ぼくを見てよ! ぼくにパスを出してよ! ぼくを仲間外れにしないでよ!」
――仲間外れに、しないで……だって?――
そうだった、おれは、ずっとずっと仲間外れにされてたから、だからみんなを見かえしたくて、毎日ずっと練習し続けたんだ。でも、それって、本当はみんなを見かえしたかったからじゃない。
――おれが欲しかったのは、ゴールじゃない……。それは――
「仲間だ!」
ディフェンダーをかわして、ふりきって、ようやく見つけたそいつに、おれは思いっきりクロスをあげた。そいつはずっと昔の、みんなでサッカーするのが一番楽しかった、あのころのおれそっくりに、ヘタクソなオーバーヘッドを決めて、ボールを思いっきりホームランしやがった……。
「あっははははっ!」
試合終了。おれたちの大会は終わった。でも、おれはすぐにオーバーヘッドしたやつのところへかけより、手をつかんで抱え起こして、それから泣き笑いして抱きしめた。そいつは目をぱちくりさせてやがったが、そりゃそうだろう。偏屈なストライカーが、パス出して、決めきらなかったのに笑ってるんだから。でも、おれは気にしなかった。だっておれは、探しものを見つけたんだから。あのころのおれを――