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ケチャップ

作者: 門林賢道

 お腹空いたからなんかないかなぁ、思って冷蔵庫開けたらレタスとキュウリとトマトしかなくて、我が家はいつからベジタリアンになったんやろ?思いながら、とりあえず切って皿に盛り付けて、食べよ思うたら、ドレッシングもマヨネーズもなくって、ケチャップしかなくって、買いに行くのめんどくさいし、「絶対あかんやろなぁ」と、思いながら、ケチャップかけて食べたら一口で棄権してもうた。


「キミはもっとデキる子のはずやのになぁ、残念やなぁ」と、ケチャップを慰めてあげたが、不味いもんは不味いし、炒めたらどうかな思って、炒めたけどダメやった。


 たまに想像以上に不味い料理を作ってしまうと破壊衝動にかられるほどイラっとしてしまうが、今回はまさしくそれやった。


「キミは肉食系とかフライ系との相性はええのに草食系とか淡白なやつにはダメなんやなぁ、トマトのクセに」と、自分のことを棚にあげ、ケチャップにダメだししてたら

「ただいまぁ」と、両手にスーパーの買い物袋を持った、お母ちゃんが帰って来た。


「なぁこれ食べてみて」と、テーブルの上にあるダメな創作料理を食べさせた。

「なんやのこれ、今まで食べた物の中で一番不味いわ、そりゃリコールされるわ」と、言われてしまった。


「リコールちゃうし」


 わたしの結婚生活は二年で終わった。

 まあ、二年あったら色々あるものだ。すれ違ったり、ケンカしたり、一度だけ他の男と寝たり、かまって欲しかったり、かまわないで欲しかったり、なにもなかったり、相性が合わないメニューがあったり、わたしもケチャップと一緒かも。


「やっぱ、お母ちゃんの料理最高やな」

 人に作ってもらう料理って、ほんまに美味しい。


「あんた、これからどうすんの?」

 わたしの前に座ってるお母ちゃんがお茶を飲みながら言った。

「食事中の幸せな時間に一番聞きたない呪文言わんといて、それといっつも言うてるけど、それ握力アップの機械やなくてギターのフレット押さえるやつやから、あんまパクパクせんといて、バネがバカになる」

 お母ちゃんはギターに付けるクリップ式のカポタストを握ぎ握ぎしてる。


「これ丁度ええわ」

「ようないよ」

「そやかてあんたギター弾いてへんし、つこうてないからええやないの」


 まあ、確かに近頃ご無沙汰で実家に帰ってきてからギターはケースに入ったままだ。


 カポだけはダンボールに入れるの忘れてて引越し際に旦那から、優しい感じに「忘れ物」と言って渡されポケットに入れて持って帰ってきた。


「ギターってな、やればやるほど上手くなんねんな、弾けんかったフレーズとか練習したら弾けるようになるし、指先もカチカチなって、進歩してるってわかるし、バンドもな音合わせていったらキマったなぁ、めっちゃ気持ちええ!言う時がくんねんけど、結婚生活ってどうやったら上手くなれんの?進歩してる感が全然ないし全然キマらへんかった、むしろ日々ヘタクソになってるような気がした」


「あんたギター弾けへんって諦めんと練習したから弾けるようなったんやろ、バンドも他の人が出す音をちゃんと聴いて、それに合わせて音出したからキマったんやろ、結婚生活も一緒や、わたしには無理やって諦めんと毎日続けたらええ感じのときもあるし、それにあんた旦那の出す音ちゃんと聴いてへんかったやろ、ギターソロばっかり弾いててもあかんねんで、ツーピースバンドやのに自分ギターだけ弾いとけばええわ。って思ってたんちゃうの、時にはベースもドラムもこなさなあかんねんで」と、なんだか上手いこと言うというか、まあ、その通りやわ。


「スリーピースにしとけば楽やったんかな?」


「バランス取るの難しなるけど役割分担はハッキリしてたかもなぁ。でもな、メンバー一人増やす時こそ、二人でよー話さなあかんで、子育ての方針とかな、教育とか、なんとも言えんけどな。まあ解散したもんはしゃあないわ、一番あかんのは止まることやで、こけてもええけどあかんのは立ち上がらんことなんやから、前に進みや、まだ若いんやし、そしたらなんか素敵なことあるわ」


「そやな、なんかせなな」

 と、思って夜中に久々にギターをケースから出してアンプに繋いでフルヴォリュームでかき鳴らしたら、お父ちゃんとお母ちゃんの二人から同時に怒られた。

 怒られながらも二人見てなんかええ夫婦やなぁと思った。

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