九十七話 依頼人
リアラとシュベルゲンの戦いに決着がつき、観客が盛り上がりを見せるが、彼らの歓喜など全く話にならなかった。
この二人の親族に比べれば、
「キャーーーーーーーー!!!!リアラ!!!よくやったわ!愛してるわー!!!!!」
「おい!!!!シュベルゲン!何してるんだ!!!!ドレイニーちゃん以外の娘に負けてどうする!!!」
雷龍王がシュベルゲンに言い放つが、気絶しているために声が届いていなかった。
シュベルゲンは先の戦いで、リアラによって意識を失っていた。
彼の意識が戻るとするなら、恐らくあと一時間はかかるだろう。
シュベルゲンに、雷龍王は必至で彼の心に訴えかける。
その姿を見たエナは、小馬鹿にするような笑いで、
「オホホ!私のリアラに勝とうなど百年早いわ!」
「畜生!!!」
雷龍王が膝に拳を叩きつけ、全力で悔しがっている。
そんな姿を見ようものなら、エナはさらに調子に乗り出す。
「へへんだ!「氷龍王」の娘に勝てるわけないでしょ!普通に考えてわかるでしょう?」
「普通・・・ね・・・」
しばらく黙り込んでいた氷龍王ことバルカンがその口をゆっくりと開いた。
「ずっと思ってたんだけど、勝ったのはリアラだよな?なんでエナがそんなに偉そうにしてるんだ?」
勝負に勝ったのはあくまでリアラ。
それなのに、親であるエナが威張り散らかす意味が分からなかった。
確かに、エナが勝ったことは素直に嬉しいが、そんなリアラの頑張りを奪い取るエナは正直どうかと思う。
エナは突然のバルカンの問いに対して、一言たりとも発せなくなるエナに雷龍王は、
「そ、そうだよなー!!!娘の頑張りを奪うなんて母親失格だと僕は思うな!」
「う・・・」
「そうだな!頑張ったのはリアラちゃんであって、決してエナさんじゃないよな!」
「ドレグレアさんにだけは言われたくない!!!」
エナのライバルだった雷龍王とドレグレアが、バルカンの言葉を受けて同志であったエナを裏切っていく。
「うぅー、バルカンのせいで・・・」
エナが何を言おうと、バルカンは一つも間違えたことを言っていない。
最低のレッテルを貼られ、心が折れそうになるエナの背後に顔見知りの少女が立っていた。
「ねえ・・・」
「あ、リアラ。お疲れ様!よく頑張ったね!」
「あ、ありがとう。それよりさ・・・」
歯切れを悪くするリアラに、エナは目を大きく開いて彼女の顔を窺う。
そんなエナを前に、リアラはその美しい口から、
「声に出して応援しなくていいから・・・声出すとしても、もう少し音量を下げて・・・恥ずかしい・・・」
リアラはそう言い残し、エナの元から去っていく。
言葉の一言一句を解釈するのに時間が掛かっているのか、しばらくフリーズしたまま動かないエナ。
そして、思考が正常に追いついた時には涙を零しながらバルカンにくっついていた。
「なんでよー!!!!ただ応援してただけなのにー!!!!」
エナの泣き姿をみた雷龍王とドレグレアはクスクスと笑っていた。
実の娘にあのようなことを言われては、笑ってしまうのも無理はない。
バルカンはエナを落ち着かせようと背中を軽く叩きながら継続している龍王戦を拝見していた。
この龍王戦で見る子供達は皆、強者ばかりだった。
その強者共から一勝ずつ勝ち取っていくリアラは、ついに決勝でドレイニーと当たることになる。
いよいよ始まる龍王戦の決勝戦。
期待に胸を膨らませるバルカンの視界に一つのメッセージが表示された。
これは・・・・?
心当たりのない差出人にバルカンが戸惑っていると、ドレグレアの隣に座っていた雷龍王がいきなり立ち上がった。
人が何の前触れも無く立ち上がる場合は、いつも用事がそばについている。
そして雷龍王は、バルカンへと近づいていき、
「御呼ばれだな。さあ、いくか」
「え?」
「あら?会議に呼び出されたの?」
「まあ、龍王様だからいつ呼び出されてもおかしくないが、全く龍王様方はついてないな!」
「ほんとだよ。僕も最後まで見たかったけど、こればかりはね」
この話について行けていないのは恐らくバルカン、ただ一人だ。
そんなバルカンの肩に優しく手を置く雷龍王が合言葉のような言葉を口にした。
「ドラゴミーティング!」
雷龍王がそう叫んだ途端、視界は純白に包まれ、気が付けばそこは闘技場ではなかった。
窓の外からは、先ほどまで居た闘技場が見える。
どうやらバルカン達は「瞬間移動」したようだ。
・・・・・は?一体どうなってんだ!?
バルカンが動揺するのも無理はない。
ヘルバトスが生きた時代には「瞬間移動」という概念は存在していなかったからだ。
ゼラン達暗黒騎士が魔界へと行き来するために似たような能力を使っていたが、あれは「瞬間移動」ではなく「異次元空間移動」の分類に属される。
そもそも「瞬間移動」の能力は、ある時代で消失したとサタルドスから受け取った書物に書かれていた。
だとすると、この世界は「瞬間移動」が消える前の時代だということになる。
そんな時代背景はさておき、突然の「瞬間移動」で頭が混乱するバルカンに、一人の女性がバルカン達の元へと歩み寄ってくる。
「やあ、メネツェア!元気だったかい?」
「ああ、アタイは元気もりもりさ。ベクトは元気もりもりか?」
「僕も元気もりもりさ」
どうやら雷龍王の名前はベクトというらしい。
闘技場であれほどの時間を共に過ごしていたのに、名前の一文字も知らなかった。
それで、このショートカットの赤髪の女性はメネツェアというらしい。
そんな二人の名前の話はさておき、謎の挨拶を交わす二人を見てさらに混乱するバルカン。
謎の挨拶が飛び出してくれば誰だって戸惑うものだろう。
するとメネツェアはバルカンの方を向き、
「よお!バルカン!かなり痩せたな!元気もりもりになったか?」
「あ、ああ・・・・」
何と答えていいのかわからなくなるバルカンの様子が変だったのか、メネツェアは目を細くしてバルカンの顔の下から見上げるように、
「なあ?お前本当にバルカンか?」
「え?」
「アタイの知ってるバルカンは、嫁と毎晩ハッスルしてるぐらい元気もりもりのやつなんだが・・・」
「メネツェア、何言ってるのさ。毎晩ハッスルしているから元気もりもりじゃないんでしょ?」
「あー!なるへそ!そうなんね!いやーわりーわりー!さすがはハッスマンだな!」
バルカンの肩をこれでもかというぐらいバシバシ叩き続けるメネツェア。
ベクトが、救いの手を差し伸べてくれたと思ったがそうではなかった。
ベクトが余計なことを言ったせいで、話がどんどん拗れていき、そして、バルカンが弁論しないせいで話はさらに変な方向へと進んでいく。
「なあ!バルカン!いや、ハッスマン!一体何発すれば気が済むんだー?えー?」
悪酔いしたように絡んでくるメネツェアにベクトは、
「それは秘密に決まっているでしょう?そうでもしないと世の中ハッスマンだらけになっちゃうからね」
「ハハハ!そうだな!正義のヒーローハッスマンはただ一人だもんな!」
「ハハハハ!そうそう」
「ア、ハハハハハ・・・・・・」
場の雰囲気を壊さないようにと、必死に自我を抑えるバルカン。
そんな三人を見ていた一人が声をかける。
「あ、あの・・・もうそろそろ」
「んで?ぶっちゃけ何発よ?あんなに可愛い嫁なら何発でも行けそうだよな?」
「随分とオヤジ臭いことを言うね?メネツェアは女の子だろ?」
「あ・・・あの・・・・」
「ばーろ!アタイはとびっきり可愛い女の子が好きなんだよ!ハッスマンの嫁じゃなくても娘ちゃんでも構わないけどな?」
「リアラちゃんは流石にまずいんじゃないかな?年齢的にも・・・」
「もうそろそろ・・・・」
「ベクトはまだまだおこちゃまだな?知ってるか?恋愛に年齢は関係ないんだぜ?」
「格好よく言っても言ってることが残念だよね」
メネツェアとベクトは片隅で立っている女の子の話を聞こうともしない。
もちろんバルカンは気が付いている。
だが、この二人の猛攻から逃れることができない。
うまく話をあちらの女の子に移したいのだが、二人はその隙を一向に与えてくれなかった。
一体どうすれば・・・・!
すると、バルカン達がいる部屋に一人の年老いた竜人が入室してきた。
それと同時に会話の嵐は止み、ベクト達は膝をついてその竜人を歓迎している。
バルカンは何が起こったかわからないが、彼らと同じ動作をすることに。
竜人が一人一人の前を通り過ぎていくのにも関わらず、なぜかバルカンの前に来たときに立ち止まった。
何かやらかしでもしたのだろうか。
数々の不安から心臓が激しく脈を打ち出す。
その竜人がバルカンの肩に手を置くと同時に、バルカンはその身を揺らした。
他人から見てもバルカンはビビっている。
そんなバルカンに竜人は優しい声で、
「もう体調の方は大丈夫なのかな?」
「え、あ、はい。おかげさまで・・・」
「そう、ならよかった」
竜人はニッコリとしたまま、部屋の最前列へと座り込んだ。
しばらく竜人の言葉が耳から離れないバルカン。
予想外の出来事だったために、なかなか耳からその言葉が離れて行かないのだ。
そんなバルカンのペースに合わせることなく、会議は進行されていく。
「よし、龍王全員集まったようだな。「古龍王」ゼクスシード。「炎龍王」メネツェア。「雷龍王」ベクト。そして「氷龍王」バルカン。皆の顔が見れてわしは嬉しいぞ」
「「「ありがたきお言葉・・・・」」」
三人が軽く頭を下げているので、バルカンも軽く頭を下げた。
初めての経験故にどうすればいいのか全く分からなかったのだ。
しばらくは三人に合わせておこう・・・・
しかし、一体なぜ急に龍王全員が招集をかけられたのか。
その理由は、前に座る竜人から間もなくして告げられた。
「皆を集めたのは他でもない。ある依頼を頼みたかったからなんじゃ」
「ある依頼・・・ですか・・・・」
「どんな依頼だろうとアタイ達なら余裕ですよ!」
「あの・・・陛下の前でその言葉遣いは・・・」
「構わんよ。それより依頼主をここへ呼ぶとしよう」
龍王に任される依頼は、決してろくなものではないだろう。
一体どんな高難易度の依頼をされるのか。
まだバルカンの体に慣れていないヘルバトスには、正直不安でしかなかった。
そして部屋の扉はゆっくり開き、その扉の先から依頼主と思われる人物が姿を現した。
お・・・おまえは!!!!!
その姿に見覚えが、いや見間違えるはずがない。
ヘルバトスに試練という形で「話したいことを話せない」という「呪い」をかけた張本人であろうその人物。
その人物は迷うことなく龍王達の前に仁王立ちし、
「初めまして、ボクの名前はテレナシア。一人のか弱い依頼人さ」
テレナシアの言葉だけが、その静寂仕切ったその部屋に響き渡った。
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