九十六話 「氷龍王」の娘VS「雷龍王」の弟
「前回の龍王戦は、ドレイニ―ちゃんに負かされちゃったからなー。リアラちゃんと対戦することなかったけど、こうして龍王の血縁関係同士で戦えるのはなかなかの見物だよ!」
「まあ、そうだな。二人の実力は相当のものだからな!まあ、ドレイニ―には到底敵わないけどな!」
「あら、ドレグレアさん。完全にフラグ立ててますよ?どうやら今回はリアラの優勝で間違いないかしらね?」
「おやおや、リアラちゃんはここで敗退ですよ?長い期間、シュベルゲンを育て上げたのは僕なんですから!」
親通しが争いを行う中、フィールド内でもバチバチに火花が飛び散っていた。
お互い、「龍王」という親族を持っているせいでかなりのプレッシャーになっているのだろう。
龍王の親族だと審判が明らかにさせることで、会場は大いに盛り上がり、それと同時に二人の眼はさらに目つきを尖らせる。
この試合で負けた方の龍王は、勝った方の龍王より劣っていると思っているからだろう。
だが、バルカンは決してそんなことは思わなかった。
今戦っている張本人達は龍王でも何でもない。
リアラ達はただ、親族に龍王がいるというステータスを持っているだけだ。
そんなリアラ達が龍王のことを一切考えずに、出せる限りの力でぶつかって欲しい。
それがバルカンの願いだった。
それを伝えようとするも、タイミングの良いところで試合が開始されてしまった。
始まってしまえば、邪魔することなく静かに娘の勝利を願うだけのはずなのだが、
「リアラーーーーーーー!!!!頑張ってーーーーーーー!!!!!」
「おーーーーーい!シュベルゲンーーーーーー!負けたら晩飯抜きだからなーーーーー!!!!!」
どうやらこの二人は静かに見守ることすらできないらしい。
バルカンは二人に何も告げることなく、ただリアラの勝利を願っていた。
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リアラはシュベルゲンが引き抜く剣に驚きを隠すことができなかった。
シュベルゲンの剣は取っ手しかなく、肝心の鋼の部分がない。
驚いた様子をしたリアラにシュベルゲンは、
「へ!何間抜け面してんだよ!お前とやってることは変わらないぜ?」
「そう、あなた・・・魔法武器をようやく作れるようになったのね」
前龍王戦では、普通の金属剣を使用していたシュベルゲンだったが、今龍王戦は少し違うらしい。
シュベルゲンは、その取っ手しかない剣から雷で剣を形作り、その刃先をリアラに向けた。
「さあ?リアラ・・・いや、「氷姫」のリアラ!お前もさっさと魔法武器を作れ!」
「あなた、そんなにお喋りだった?前の龍王戦でドレイニ―ちゃんにぼっこぼこにされすぎて人格変わったのかな?」
「んなわけないだろ!からかうのもほどほどにしろ!」
クスクスと笑うリアラは自身の魔法武器である「ナックル」をその手に復元させた。
凍てつく氷で作られたナックルは、誰もが見惚れてしまう。
リアラの愛称で呼ばれている「氷姫」というのは、彼女自身の美貌と武器の美しさから名付けられたのだろう。
そんなリアラとシュベルゲンの間に、自然と会話はなくなっていた。
そして、数分間に渡って睨み合い、先に動いたのはシュベルゲンだった。
シュベルゲンは近距離攻撃でありながら、剣を大きくその場で振るい、その衝撃でできた電磁波がリアラを襲う。
だが、リアラはその電磁波を右拳で簡単に打ち消した。
「先手必勝だったんだがな!」
「なかなか良い攻撃だったよ。私やドレイニーでなければ確実に仕留められていたね」
「それじゃあ、この攻撃で仕留めてやるよ!」
シュベルゲンは連続で電磁波攻撃を放った。
電磁波の向き、速度、角度。
全てをバラバラのタイミングで打ち放ったが、どうやら本当にこの攻撃ではリアラを仕留められそうになかった。
リアラはその場から一歩も動かずに、ただ右手の拳だけで防ぎ切った。
「どうやら、ハッタリではないようだな」
「嘘つく理由なんてないでしょ?それじゃあ!今度は私のターン!!!」
リアラは右手の拳を握り直し、拳を勢いよく突き出した。
空白の数秒後に、鉄拳の風圧のように透明度の高い純氷がシュベルゲンに襲い掛かる。
シュベルゲンは、剣でそれを真っ二つに切り裂き、純氷が止まった時には観衆の鼻の先端にまで行き届いていた。
「おい!俺が受け止めてなかったら観衆を巻き込んでたぞ!もう少しセーブしろ!」
「え、これでも全然力を出していないんだけどなー?もしかしてあなた・・・・余裕がないの?」
「その生意気な口を切り刻んでやる!」
シュベルゲンは素早くリアラの元まで駆け寄ったが、その行動パターンはすでにリアラは読んでいた。
観衆に向けられた純氷の先を、シュベルゲンに向けてうまくコントロールした。
勝ちを確信したのか、シュベルゲンはその純氷に気づくことなくリアラに斬りかかったが、
「なに!?」
「残念、あなたの攻撃力はまだ対応圏内なの」
リアラはシュベルゲンの魔法武器を難なく手づかみし、それと同時にシュベルゲンの垂れさがった袖に向かって純氷の刃が突き刺さる。
この攻撃は決してシュベルゲンを狙った攻撃ではない。
リアラが狙っていたのは、
「これであなたは動けなくなったと。どうする?この状況でもまだ続ける気?」
「ふん!誰が動けなくなったって?」
するとシュベルゲンの体から発せられる電気が純氷を粉々に打ち砕き、身動きが取れるようにとリアラの脇腹に向かって蹴りを一発ブチ込んだ。
リアラはその攻撃を凌ぐことができず、蹴られた場所を必死に手で抑えていた。
「どうした?女子には少々痛かったか?ごめんな?手加減できなくて」
「こんなもの・・・大したダメージではない!」
脇腹を抑えながら虚勢を張るリアラ。
シュベルゲンの魔法武器はリアラの手から解放され、自由に動くことを許された。
そしてシュベルゲンはリアラに向けて、
「シュベルゲンの名において、詠唱魔法を顕現させる!」
そう言うシュベルゲンの真下に黄色く光り輝く魔法陣が現れ、その魔法陣から現れた雷が天に向かって注ぎ出す。
その雷の檻に閉じ込められたシュベルゲンの姿が時間が経過することに姿を変えて行き、十秒経った頃には別人のような格好で姿を現した。
銀色に輝く翼に、気高く生えた一本の雷角。
その姿はまるで「雷龍」と合体したような姿だった。
そんなシュベルゲンは満足したような顔で、
「どうだい!これが俺の切り札だ!リアラには手足も出ないだろう」
確かに、シュベルゲンから駄々洩れているオーラはとてつもなく強大なものだった。
だが、この時点でシュベルゲンは一つ大きな点を見落としている。
戦いにおいて、一番やってはいけないこと。
その点はリアラの口から真っ直ぐに告げられた。
「私も侮られたものね」
「リアラにもう勝ち目はない。早く降参しないと死んじゃうぞ?」
「そうね、昔の私だったら死んでいたかもね」
シュベルゲンが放つオーラで挫けるのは、昔のリアラであり今のリアラではない。
シュベルゲンが見落としていた点というのは、すなわち「成長」である。
彼は前龍王戦で、ドレイニ―に敗れた後に雷龍王のもとで鍛錬を積んでいた。
だが、それはリアラも同じこと。
リアラも前龍王戦でドレイニーに敗れており、彼女を倒すためにも日々鍛錬を続けてきていた。
上がる経験値は違くても、一方的にやられていたシュベルゲンと互角なはずがない。
シュベルゲンはそこに気が付くべきだった。
だが、リアラの闘争心に火をつけてしまった以上、どうすることもできなかった。
今まで遠距離で攻撃してきたリアラがついに動き出す。
リアラはその場の地面がえぐれるほどに踏み込み、シュベルゲンへと接近する。
「・・・・・え?」
シュベルゲンは驚愕した。
先ほどまで遠くにいたリアラの姿が目の前にあることに。
シュベルゲンはすぐさま距離を取ろうとその銀翼を羽ばたかせるが、空を飛ぶことができない。
なんで・・・・!?どうなってんだ!?
接近したまま、下を向いて動かないリアラに剣を振り上げようとするが、
なんで剣が上がらない・・・!?
剣だけではなく、体の自由までが奪われていた。
やばい・・・・!このままじゃ・・・!
どうにかして体を動かそうとするも、全く動くことはない。
そんな哀れなシュベルゲンの姿を目にしたリアラは、
「降参するなら、解放してあげるけど」
「ふ、ふざけるな!そんなことする訳ないだろ!!!!」
シュベルゲンは必死に足掻こうとするが、体は不自由なまま。
そしてリアラは素敵な笑みと共に、シュベルゲンに投げかけた。
それはこの勝負の終焉を意味する。
「シュベルゲン・・・・・さようなら」
その言葉を最後に、リアラは右手の拳を力いっぱいシュベルゲンにぶつけた。
その衝撃は凄まじいもので、リアラの拳から発せられた風圧が観客席にまで届いていて、攻撃をストレートに食らったシュベルゲンは、ドレイニーが吹き飛ばした男の子以上にダメージを食らっていた。
シュベルゲンがピクリとも動かなくなったところで審判のジャッジが下った。
「勝者、リアラー!」
歓声が巻き起こる中、リアラは右拳を天高くつき上げ、ドレイニ―との再戦権一枚を獲得したのだった。
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