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『六宝剣』に選ばれなかった異端者  作者: うちよう
三章 ヘルバトス編
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九十五話 ドレグレアの子

 「よし、会場に着いたぞ!」

 「ここが、龍王戦の会場か・・・」

 

 龍王戦というぐらいなのだから、盛り上がる一大イベントだとは思っていたが、まさかここまでのものだとは思いもしなかった。

 会場周辺には屋台が並び、竜人達が祭り騒ぎをしていた。

 生前で奴隷生活を送ってきたバルカンにとってその光景は衝撃的なものだったのだ。


 「毎年すげー盛り上がりだな!」

 「ええ、そうですね。なんせ喧嘩祭りみたいな面がありますからね」

 「え、リアラは喧嘩をするのか?」


 龍王戦は試合だと聞いていたのに、まさかの喧嘩だということを耳にしたバルカンは思わずエナに聞き返してしまう。

 

 「そうですが、まあリアラなら大丈夫ですよ。バルカンが見ていないだけで、あの子の実力は相当なものだから」

 

 自分の娘を誇らしく言うエナにドレグレアは小馬鹿にするように、


 「ええ、そうですよ。寧ろ、龍王戦で負けてるようじゃ話にもなりませんからね。そうですよね?エナさん?」

 「全くですよ。まあ今回の大会こそリアラが優勝でしょうね?」

 「ええ!?何だって!?冗談はよしてくださいよー。今回もうちの子が優勝に決まっているでしょ!」

 「あらあら、これは足元すくわれる可能性大ですね」

 「できるのなら、足元をバンバンすくっちゃってくださいよ!まーあー?できればの話ですがね!」


 二人の間に火花が飛び交う。

 仲がいいけど不仲なように見せていた先ほどの違和感はまさにこれだろう。

 自分達の子の試合なのに、親の間で対立しあうというよくある話だ。

 まさに、エナとドルグレアが睨みつけ合うこの状況を説明するに、これ以上の説明はないと思われる。

 だが、親同士が睨み合ったところで勝敗を決することは絶対にない。

 試合をするのは子供達だ。

 そんな子供達の勝敗を目にするためにも、こんなところで対立している場合ではなかった。

 バルカンは二人より先へと歩き出しながら、


 「こんなところで言い合っても仕方がないだろ。早く見に行こうぜ?」

 「ああ、そうだな!娘が一位になる瞬間を目に焼き付けなくてはならないからな!」

 「ちょっと!一位になるのはリアラよ!」


 この二人は一旦黙ることを知らないのだろうか。

 バルカンは咎めることなく、この調子のまま三人は龍王戦が行われる会場内へと入っていった。

 そして闘技場へと続く一本道を抜けると、その先には観衆の声でかなり賑わっていて、その光景にバルカンは心奪われていた。


 これは・・・・すごいな・・・・


 見る限り、席は一つも空いていないと思われる。

 その証拠にあちらこちらに立っている観衆が伺えた。

 

 こんな凄いところでリアラは試合をするのか・・・・


 本当の娘ではないものの、なぜか誇りに思ってしまう。

 そんなバルカンの肩を叩くドレグレアは、ニッコリしながらある場所を指さしていた。


 「俺達はここでは見ないよ!俺達はVIP席、つまり特等席だ!」

 「え、そんな席に座れるのか?」

 「出場者の親は特等席で見ることが許されているんだ!」

 「なるほどな・・・」


 つまりここにいる竜人はただの観衆だということだ。

 そんな一般竜人がこんなにも見に来ているということは、とても大きな大会なのだろう。

 試合はすでに始まっているが、まだリアラの出番ではなさそうだった。

 その隙を突き、バルカン達はVIP席へと急いで移動を開始する。

 VIP席に繋がる入り口では、受付の竜人が出場者の保護者であるかの確認をしていて、バルカンはさっそく受付をする。


 「あの、今回出場のリアラの保護者のエナとバルカンです」

 

 エナが受付の女性に出場者の名前と保護者の名前を述べると、その女性は口を開けて完全にフリーズしていた。

 その彼女の視線はバルカンに向いていて、誰も口にしなくても彼女が固まっている理由は明白だった。

 そして、彼女は目を輝かせながら、


 「氷龍王バルカン様!?あ、やだ、今日すっぴんなのにどうしてこんな時に!」


 おろおろしている受付嬢にエナは仏の顔で、


 「早く通してもらえますか?」

 「あ、そうでした。さあ、どうぞ!」


 バルカンは自身が歩く進行方向に視線を感じた。

 受付嬢のもので間違いなかった。

 VIP席に通じる長い廊下を歩きながらエナは、


 「バルカンは女の人にモテすぎだよぉぉぉぉ!妻である私は許せません!!!」


 先ほどの入り口から闘技場までに距離があるため、暗くてエナの表情は読み取れない。

 だが、その口調から怒っているのは間違いなかった。

 

 「ご、ごめん?」

 「なんで疑問形なの?まあ格好いいからしょうがないけど、浮気したら殺すからね???」


 その口調は笑っているようだったが、心の底では全く笑っていなかった。

 絶対零度のように冷え切っていたエナの心は、氷龍王であるバルカンの心まで凍てつくした。

 そんなエナに逆らえることなく、その空気のまま長い廊下を抜けると、何も知らない顔のドレグレアが気持ちの良いほどの笑顔で手を振っていた。


 「おーい!こっちこっち!」

 「ああ、待たせて悪かったな」

 「ほんとだよ!逃げられたのかと」

 「ドレグレアさん、聞き捨てなりませんね?私が逃げるわけないでしょ?」

 「いやいや、何言ってんですか!去年負けたからって急に逃げ出したのエナさんですよね!?」


 リアラは確か龍王学級の二位と言っていた。

 そしてドレグレアが先ほど、今回も一位と言っていたことから、リアラはドレグレアの子供に負けてしまったのだろう。

 あのリアラの攻撃力をも防ぐ、ドレグレアの子供に興味が湧いてくる。

 そして、前の子達の試合が終わると、少女は姿を現した。

 その姿を見たドレグレアは、


 「おーーーーーい!ここだ!ちゃんと見てるぞーーーー!!!!」


 娘への全力アピールをやめない父親に対して、その少女は一度は目を合わせるもすぐに逸らしてしまう。

 バルカンはその少女の姿に見覚えがあった。

 肩までしかない金髪の髪にサファイアの瞳。

 そして額には小さな角が二本生えていて、未熟な羽も生えていた。

 その少女はあの日、ドラゴンの聖域でみた少女と瓜二つ。

 バルカンの目に狂いはなかった。

 その少女はまさしく、


 「ドレイニー!!!!頑張れーーーーー!!!!!!」


 ドレグレアは精一杯の声援を送るが、ドレイニーは見向きもしなくなった。

 そんな様子を見ていたエナは、


 「あら、嫌われているんですね・・・可哀そうに・・・」

 「ち、ちがう!あの子はツンデレさんだから、恥ずかしがってるだけだよ!今頃俺の懐に飛び込みたーいと思ってる頃だ!」

 「うわ、きも」

 「エナさん!」


 二人のやり取りなど全く耳にしていないバルカンは、ドレイニ―の様子に少し違和感を覚えていた。

 あの日、ドラゴンの聖域で出会った時のような活気が全くなかった。

 それどころか、覇気すらも感じない。


 どこか調子でも悪いのか・・・?


 だが、見るからに調子は悪そうではなかった。

 だとしたら、ドレイニーはどうしたというのか。

 ドレイニ―と相手の男の子の準備が整ったのを確認した、試合の審判と思われる男の声が試合開始の合図を出したと同時にドレイニ―は溜息をついた。

 バルカンはその一瞬を見逃さなかった。

 

 「おおおおおおお、りゃああああああああ!」


 男の子が威勢の良い声と共に、片手に持つ剣でドレイニーに斬りかかるが、彼女は何も武器を出そうとしない。

 それどころか微動だにしなかった。

 男の子も行けると思ったのか、その片手に持つ剣を素早く振り下ろした。

 それが過ちだということに気付きもしないで。

 いや、過ちに気が付かなかったのは男の子だけではない。

 バルカンとドレグレア以外の竜人は全員気が付かなかった。

 時間は一瞬だった。

 世界はいきなり止まり、闘技場内ではドレイニ―だけが動いている。

 彼女は大きく手を前に出し、呪文を唱え始めた。


 「ドレイニ―の名において、上級魔法をここに召喚する」


 すると彼女の手元には魔法陣のようなものが現れ、


 「上級魔法:ホワイト・ホール」


 手元から白い物質が現れ始めると、止まった世界はもとに戻り、上級魔法が男の子に直撃する。

 ホワイト・ホールは、ブラック・ホールの逆の性質を持っている。

 ブラック・ホールが吸い込む暗黒物質なら、ホワイト・ホールは吐き出す光明物質だ。

 彼女が魔法陣から召喚したのは光明物質の方。

 その吐き出す力は相当なもので、男の子が一瞬にして場外へと投げ出されてしまう。

 壁に打ち付けられた男の子はピクリとも動くことはない。

 そしてジャッジが下った。


 「勝者、ドレイニー!」

  

 彼女の名前が挙げられると、観衆は先ほどにも増して盛り上がりを見せていた。

 言うまでもなく、バルカンの隣で応援していたドレグレアも、もちろんその中に含まれていた。


 「おおおーーーーーー!!!!!!ドレイ二ーーーーーー!!!!!!よくやったーーーーーー!!!!」


 父からの褒めの言葉も聞かずに、ドレイニ―は闘技場から姿を消そうとする。

 そんな彼女の目はどこか寂し気な表情をしている気がした。

 ドレイニ―は一体何を抱え込んでいるのかわからないまま、次なる出場者が姿を現した。


 「あ、バルカン!リアラよ!おーい!リアラ―!」


 エナの声が届いたのか、リアラはお母さんに向けて手を振り返す。

 リアラはエナと同席するバルカンの姿を見てほっと胸を撫でおろしているのが目に見えてわかった。

 この試合は、リアラに見に来てと言われてるぐらい大事な試合だ。

 バルカンはその眼にしっかりと焼き付けようと目を大きく開けると、観衆からいきなり大声が上がった。


 「なんだ?」

 「そうか、一回戦の相手は奴なのか。正直厳しい戦いになりそうだな」

 「ドレグレア、一体どういうことだ?」

 「俺の口からだとエナさんに怒られそうだからエナさんに聞いてみたら?」

 

 確かに、ドレグレアがあれこれ言うとエナが言い返すのが目に見えてわかる。

 ドレグレアもエナとのやりとりに疲れたのだろうか。

 そんなことよりも、まずは対戦相手の情報入手が先だった。


 「エナ、リアラの対戦相手ってやばい奴なのか?」

 「やばく・・・・はないと思うけど、それなりの実力者ね」


 エナのその口ぶりから、厄介な敵だということは認識できた。

 そして闘技場に姿を現したのは、体に電気を纏う黒髪の男の子だった。

 男の子が腰につけている剣からは、かなりの魔法が蓄えられていることが分かる。

 そんな男の子を凝視している中、バルカンの後ろから肩を叩く観衆が一人。


 誰だ・・・?


 ゆっくり後ろを振り返ってみると、そこには闘技場と同じように電気を身に纏ったバルカンと同じくらいの歳の男が立っていた。

 その姿を見たドレグレアとエナは、すぐさまその男の方へと視線を向けた。

 すると、その男は笑いながらバルカンに、


 「やあ、バルカン。元気になったんだね。よかったよ」

 「あ、ああ・・・・」

 「ところで、今日の組み合わせは最高だね。まさか僕の弟とバルカンの娘が対戦することになるなんて。「氷龍王」対「雷龍王」。どっちが強いかみたいな感じだから燃えるよね!」


 え・・・・この男・・・・雷龍王って言ったのか・・・?

 

 その単語を聞き間違えるはずがない。

 ましては、龍王というその名を。

 バルカンは運命的にもこの龍王戦という会場で、雷龍王と出くわしたのだった。


 


本日も最後まで読んでいただきありがとうございます!

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