九十四話 龍王戦の前に・・・
龍王戦が行われる会場までの道のりは、リアラからもらった紙に書いてあった。
会場の近くに建てられた店をポイントにして道を進んでいけば良い話なのだが、どうやらバルカン達はやってしまったようだった。
正確には、隣で歩くエナなのだが。
「エナ、もしかして迷った・・・?」
エナの歩き方に疑問を抱いた。
方向がまるで定まっていないその歩き方に、バルカンはとうとう口出ししてしまった。
バルカンの声に過敏に反応を見せるエナは反省していないような笑顔で、
「ごめんね!迷子になっちゃった!」
「やっぱりか・・・」
逆に、ここまであっさり自白されると、釈然としない点が多々あるが、バルカンにエナを責める権利は一ミリたりともなかった。
氷龍王バルカンといえど、中身は別次元から来たヘルバトス。
そんな彼が、この土地柄を知っているはずがないからだ。
だから、この「迷子」という状況は少しばかり面倒だった。
さて・・・どうするか・・・
リアラの試合がいつから始まるかわからない。
早いかもしれないし、遅いかもしれない。
後者の場合には、時間をかけて「迷子」から脱することはできるかもしれないが、前者だった場合は、そんな時間をかけてはいられなかった。
「迷子」から脱しても、リアラの試合が終わってるようじゃ、全くもって意味がない。
リアラの試合を確実に見るためには、早めに「迷子」から脱すること。
それが、バルカン達に下された試練だった。
だが、その試練をクリアできる方法がなかなか見つからない。
町の住人に聞くことが一番の解決案なのだが、バルカン達がいる場所は森林の中。
人が通る気配すら感じなかった。
もっと早く、地図を確認しとくんだった・・・
どこに何があるかわからずとも、明らかに道を間違えていることだけは地図を見れば断言できたはずだ。
今更後悔するバルカンだったが、いくら過去を振り返ってても状況が変わることはない。
バルカンが考え込んでいる横で落ち着きがないようにエナが、
「どうしよう!早くしないとリアラの試合が見れなくなっちゃう!」
元はと言えばお前のせいだろうがーーーーー!!!!!今考えてるから静かにしてくれませんかね!?
とは言えずに、バルカンはおどおどしているエナを全力でシカトをする。
人というのはシカトされると、人の話を聞いてるのかと疑り深くなってしまう。
竜人も竜の人と書くぐらいだから、思考回路は人間に近い。
シカトされるエナはバルカンの肩をこれでもかと揺らしながら、
「ねえ?聞いてる?バルカンさーん?おーい」
話を聞いてもらえてるのかと心配そうな顔をするエナはとても可愛らしかったが、今はそんな可愛がってる場合ではない。
早くしないとリアラの試合に遅れてしまう・・・・
隣で尚、バルカンのことを呼びかけ続けるエナのせいでうまく思考がまとまらない。
そんなバルカンの背中から、彼を呼ぶ誰かの声がした。
声がする方へ振り返ってみると、そこには金色の髪にルビーの瞳をした男がこちらに手を振っていた。
どこかで見覚えがあるような・・・・
そんな衝動に駆られている中、エナがその男の名を呼び、手を振り返す。
「ドレグレアさーん!おーい!」
「ハハハ、やあ!エナさん!今日も良いお天気ですね!」
「ええ、とっても良いお天気ですね!」
「ハハハ!」
この二人は知り合いなのだろうか。
その仲睦まじい光景の間に正体不明の壁があった気がした。
そんなバルカンを物珍しそうに見るドレグレアは、
「いやはや、今日の龍王戦は氷・龍・王・様も拝見されるのですね!」
「は、はあ・・・・」
「これはこれはとても楽しみでありますよ!ハハハハ!」
何ともまあ、清々しい笑い方をする男だ。
そんな男が考えていることは、バルカンには皆目見当もつきそうにない。
しばらくはドレグレアの話に合わせておくことに。
「ところで、なぜ私どもの敷地内に?龍王戦の会場とは真反対ですよ!まさか龍王戦に恐れを成して逃げてきたとかでしょうか!ハハハハ!全く愉快ですね!」
「またまたー。そんな逃げた何て人聞きの悪いこと言わないでくださいよ~。ドレグレアさんが逃げないように迎えに来ただけですよ~」
「ハハハ!そういうことでしたか!でも私は逃げたりなんかしませんよ!この暑さからも逃げないようにね!」
「クスクス、うまいこと言えなんて言ってないですよ~」
「ハハハハハ!!!」
この二人は一体何の話をしてるんだ・・・・?それにエナはエナで嘘ついてるし・・・・
先ほどまで、迷子になって慌てていたエナとは思えないほど堂々としていた。
そして二人は一見笑っているように見えるが、心は全然笑っていない。
しかし、龍王戦というのはそんな観衆をも巻き込む試合なのだろうか。
二人のやり取りに数々の疑問が頭に浮かぶが、試合会場に行ってみないことにはわからない。
「なあ?これから龍王戦の会場に向かうんだよな?よかったら俺達と一緒に行かないか?」
試合会場が分かる竜人について行くのが、今この状況を打開できる最善の手だった。
そんな同行を提案するバルカンに対して、エナは何の前触れもなく罵倒を繰り出した。
それはもう酷い言われようで、
「ねえ!バルカン!それはバカだよ!それ言ったら負け!全部負け!バルカンってバカでしょ!そうだよね!?だって「ル」と「ン」と抜いたらバカだもんね!バカるんだもんね!ね!ね!」
なぜここまで言われなくてはいけないのかよくわからない。
罵倒されるバルカンに、ドレグレアは仏の顔で、
「そうだよ、君は正しい。そしてあの子は全て間違えてる。自分自身を責めてはいけませんよ?さあ、共に参りましょうぞ」
「あ、ああ」
バルカンの肩を掴み、連れ去ろうとするドレグレアに噛みつくような勢いでエナは叫びだした。
「バルカンは私の仲間!決してドレグレアさんの仲間じゃない!」
「おや?バルカン・・・って誰のことですか?」
「え・・・?」
自分の夫の名前を、しかも氷龍王の名前を忘れられていたら、冗談でも少し驚いてしまうのは当然だ。
エナが次に言葉を発するまでの時間は、おおよそ十秒。
その少しのタイムラグをドレグレアは見逃さなかった。
ドレグレアは、バルカンでもないエナでもない方向に指を指した。
「エナさん・・・君が探しているのはバカるんでしょ?だったら早く探していったらどうですか?」
仏顔を未だに続けるドレグレアに、エナはバルカンの強奪を図る。
「ちょ、ちょっと!何をしてるんですか!この方はバルカンさんですよ!?エナさんが探しているのはバカるんさんですよね!?人違いですから離してくださいって!」
「何を言ってるんですか!妻が夫を見間違えるはずないでしょ!?」
「いやいや、実際間違えてるじゃないですか!この方は氷龍王バルカンです!決してバカるんではありません!」
「ドルグレアさん、何を言ってるんですか?バカるんなんて竜人いるはずないでしょ?」
「うわ!きたねえ!」
「女性に対してその言葉はいただけませんね!」
二人がバルカンを取り合ってる中、バルカンは死にそうになっていた。
それもそのはず、アスファルトに蜃気楼ができるほどの猛暑日に、取り合いされているのだ。
暑苦しいこと、この上ない。
だが、バルカンが何かしらのアクションを起こさないと、この事態は解決されそうにない。
ドレグレアとの同行を提案したことがきっかけでめんどくさいことになってしまっていたのだから、同行しないのがベストな選択だと思うが、それでは「迷子」という状況は全く改善されない。
一体どうするか・・・・
バルカンが考えこんでいる間に、いつの間にかバルカンを取り合っていた手は離され、二人は苦笑いを浮かべながら睨み合っていた。
え、きも・・・・
誰もがこの光景を目にした時に、最初に出てくる感想がまさしくこれだろう。
そのぐらい気持ちが悪いほど苦笑いを浮かべていたのだ。
そんな不気味な空気から、先に口を動かしたのはエナだった。
「いいでしょう。この勝負は龍王戦で決着をつけましょう」
「まあ、それが妥当ですかね。そしたらさっさと向かいましょう!」
「おーい、バルカン。行くよー」
「お、おう・・・」
仲が悪そうでもない二人が、ここまで対立する理由がバルカンには分からなかった。
結局一緒に行くのなら、最初から一緒に行けばよかった話だ。
この無駄な時間は一体何だったのだろうか。
それに龍王戦で決着をつけるとは一体どういうことなのか。
この二人のやり取りに不快感が心に残る中、バルカンはエナとドルグレアと一緒に龍王戦の会場へと向かって行った。
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